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福岡高等裁判所 昭和55年(う)34号 判決 1980年3月26日

被告人 有限会社七田興産 外一名

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人水崎嘉人、同中島繁樹が連名で差し出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、これらに対する答弁は検察官が差し出した答弁書に記載されたとおりであるからこれらを引用し、これらに対し次のとおり判断する。

控訴趣意一について

所論は、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下、「出資等取締法」という。)五条五項が「金銭の貸付を行う者がその貸付に関し受ける金銭は、礼金、割引料、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなして第一項の規定を適用する。」と定めたのは、悪質な債権者が謝礼金、手数料等の名目で利息の実質を有する金銭を受けて同法五条一項の罰則の適用を潜脱しようとするのを規制する趣旨にすぎず民事法上は契約締結の費用及び債務弁済の費用は前記の「みなし利息」にはあたらず、民事法と出資等取締法は統一的に解釈されるべきであるから、同法五条五項にいわゆる「みなし利息」には金銭の貸付を行う者がその貸付に関して受ける金銭であっても、利息の実質を有しないものは含まれないと解すべきであるのに、原判決が、被告人七田良三において、及び被告人有限会社七田興産代表者七田良三において同被告人会社の業務に関し、金銭の貸付を行った際借主から預かった公正証書作成費用及び借主から受領した電話質権設定費用すなわち、貸付金に対する利息の実質を有しない金銭までをも右の「みなし利息」に含まれると解して、原判示の各所為にそれぞれ同法五条一項を適用したのは、同法五条一項、五項の解釈、適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかし、出資等取締法五条五項にいわゆる「みなし利息」には所論のような利息の実質を有しない金銭も含まれると解するのが相当である。けだし、同法は、不当に高い利息又は債務の不履行について予定される賠償額(以下、「損害金」という。)を契約し、又はこれを受領した者に対して刑罰を科することを主な内容とするものであつて、その制限に反すると否とを問わず、契約され、又は実際に支払われた利息あるいは損害金の私法上の効力については何らの規定もしていないのに対し、利息制限法は、元本の額ごとに許される利息あるいは損害金の限度額を定め(従つてそれをこえる利息あるいは損害金を契約し、又は受領すること自体既に同法によつて禁止されているのである。)、その制限をこえて利息又は損害金が契約された場合の私法上の効力及び実際にその支払がなされた場合の返還請求権の有無についての規定を内容とし、民法四八五条、五五九条、五五八条も、法律行為について私法上の解釈的作用を営むにすぎないものであつて、出資等取締法と利息制限法と民法の右各規定とは規定の目的及び性格を異にするものであり、右三者はそれぞれの規定の目的及び性格に従つて解釈されるべきものであるところ、出資等取締法五条五項は前示のとおり規定し、他にいわゆる「みなし利息」について定めた、利息制限法三条が但書をもつて契約の締結及び債務の弁済の費用をこれから除外しているのと異なり、何らの除外例をも認めていないのであり、それは、単に、悪質な、金銭の貸付を行う者が、これらの費用の名目で脱法行為を行なうことを防止することを目的とするものではなく、出資等取締法において処罰の対象とされている利息及び損害金は、日歩〇・三パーセント又は年百九・五パーセントをこえるという、既に利息制限法の制限する利息最高額については五倍をこえ、その損害金最高額については二・五倍をこえる、極めて高率なものであつて、契約締結及び債務弁済の費用のようなものも補つてなお余りがあるため、利息制限法におけるような除外例を設ける必要がないからである。原判決が所論の公正証書作成費用及び電話質権設定費用も出資等取締法五条五項にいわゆる「みなし利息」にあたると解して、原判示の各所為に同法五条一項を適用したのは相当であつて、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意二について。

所論は、要するに、被告人七田良三及び被告人有限会社七田興産代表者七田良三は、金銭の貸付を行うにあたり、公正証書作成費用として金三〇〇〇円又は金四〇〇〇円を預かり、借主から債務の完済を受けたときにこれを全額返済したのであり、また、右貸付の際電話質権設定費用として受領した金一〇〇〇円は現実にその費用に使用したものであって、借主から受領した、いわゆる「みなし利息」のうち利息の実質を有したものだけについて言えば、いずれも出資等取締法において処罰の対象とされている高率な額の金銭を受けてはおらず、また、同法を潜脱する方法で利息の実質を有するものを受領しようとしたものでもなかつたのであり、借主が債務を完済したときに同人に対し再度の貸付を行つた場合には旧債務の公正証書作成費用の預かり金を新債務のそれに転用したものであるから、原判示各所為はいずれも可罰的違法性がないのに、原判決がそのように解さなかつたのは、違法性に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら、仮に可罰的違法性論を肯定するとしても、出資等取締法五条一項は前示のように極めて高率な利息及び損害金の契約をし、又はこれを受領した行為について刑罰を科するものであるから、同項に該当する行為の違法性は重大であつて、所論のような事由により行為の違法性が極めて軽微になるとは到底解することができない。原判示の各所為はいずれも可罰的違法性を有しないものではなく、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意三について

所論は、要するに、被告人七田良三及び被告人有限会社七田興産代表者七田良三は、原判示の各所為について、いずれも、違法性を認識しておらず、また違法性を認識する可能性もなかつたのであるから、その故意を阻却されるにもかかわらず、原判決がそのように解さなかつたのは、責任性に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら、違法性の認識は故意の要件をなすものではないばかりでなく、そもそも利息制限法の定める限度をこえる利息及び損害金でさえ、これを契約し、又は受領することは禁止され、裁判所に訴えをもって請求し、国家権力による保護を受けることができないことは常識であり、出資等取締法五条一項は、本件各犯行当時の経済状勢からみても、前示のような、極めて高率な利息及び損害金の契約をし、又はこれを受領する行為を処罰の対象としているのであるから、被告人七田良三及び被告人会社代表者七田良三にも原判示各所為の違法性について認識する可能性はあつたといわなければならない。原判示の各所為はいずれも故意を欠くものではなく、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意四について

所論は、被告人らに対する原判決の量刑がいずれも不当に重いというのである。

そこで、記録および証拠物を精査し、かつ当審の事実取調べの結果をも検討し、これらに現われた本件各犯行の罪質、態様、動機、結果、被告人らの年令、性格、経歴、境遇、犯罪後における態度、本件各犯行の社会的影響など量刑の資料となるべき諸般の情状、殊に、本件各事案は、被告人七田良三が、金融業を営んでいた期間中の昭和五〇年七月一〇日から昭和五一年一月五日までの間、一二回にわたり、合計九名の金銭消費貸借契約の借主から一日あたり〇・三パーセントをこえる割合による利息を受領し(原判示第一)、被告人有限会社七田興産の代表者代表取締役である七田良三が、金融業を営む同被告人会社の業務に関し、昭和五一年一月二七日から昭和五二年三月八日までの間、二九回にわたり、合計一八名の金銭消費貸借契約の借主から一日あたり〇・三パーセントをこえる割合による利息を受領した(原判示第二)ものであつて、その受領した回数は多数回に達し、その受領した期間も長期間にわたること、以上の借主らの大多数は被告人らの厳罰を望んでいること、被告人有限会社七田興産の代表者であり、かつ被告人自身でもある被告人七田良三は、自己中心的で、改悛の情に乏しいことに徴すると、被告人らの刑責を軽視することはできず、前記各公正証書作成費用のうち、原判示第一の別紙貸付状況一覧表(一)の番号7の分についてだけ金二四六〇円が使用されて公正証書が作成され、その残金一五四〇円のうち一五〇〇円とその他の各借主から受領した右各費用とがいずれも使用されることなく右各借主に返還されたこと、被告人らにはいずれもこれまでに全く前科がないことなど被告人らに有利な情状を斟酌しても被告人らに対する原判決の各量刑はいずれも相当であつて、不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

それで、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝 池田憲義 寺坂博)

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