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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)257号 判決 1970年4月30日

主文

原判決中控訴人関係部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金四六八万二、四六四円及びこれに対する昭和四二年二月二四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。

この判決は前第二項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「一、原判決中控訴人関係部分を取消す。二、被控訴人の請求を棄却する。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「一、本件控訴を棄却する。二、控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は次に付加、訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

第一、被控訴代理人において、

一、損害のうち給料減額分とは本件事故により被控訴人が欠勤したことによる減額であり、休職減額分とは被控訴人が本件事故により勤務できないため昭和四一年四月一日付で休職発令がなされ、右発令日より休職期間中の減額分である。

二、原判決三枚目表一〇行目(三)以下同枚目裏三行目までを次のとおり改める。「(三)逸失利益金三〇七万四、九二〇円。被控訴人は明治四〇年二月一〇日生れで昭和二二年九月久留米市役所に勤務し、本件事故当時は同市教育委員会体育係長として給料月額金五万七、二一〇円を得ていたが、本件事故のため就労不能の状態となり、昭和四二年二月二八日退職するに至つた。厚生大臣官房統計調査部の昭和四〇年簡易生命表によれば六〇歳の男子の平均余命は一五年強であるところ、被控訴人は退職時六〇歳であるから本件事故にあわなかつたものとすればその後五年間は就労し得るものというべく、さすれば退職した日の翌日たる昭和四二年三月一日以降同四七年二月二八日までの五年間の逸失利益を計算すると、先ず昭和四二年三月一日以降同四三年二月二八日までの一年間の逸失利益は金七八万六、五二〇円となり、その後の四年間分につき中間利息年五分としてホフマン式で算出すると金二二八万八、四〇〇円となり右二口分合計金三〇七万四、九二〇円が逸失利益となる。」

三、原判決三枚目裏四行目及び同四枚目表八行目に「金一〇〇万円」とあるのを「金二〇〇万円」と各改める。

四、控訴人主張の過失相殺の抗弁事実は否認する。

五、結局被控訴人が本件事故により蒙つた損害は合計金五二一万七、四六四円となるが、その内金四八九万九、八五五円及びこれに対する昭和四二年二月二四日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

と述べ、

第二、控訴代理人において、

一、被控訴人主張の前記損害額については知らない。

二、被控訴人は本件事故当時相当量の飲酒をし、酩酊したまま自転車に乗つて本件事故現場を通りかかつたため、本件自動車のライトにも気付かず操縦も意の如くならず漫然と自動車の進路上に自転車を乗り入れた結果本件事故となつたものであり、被控訴人にも過失が存する。そこで右過失の限度で損害額が減額さるべきである。

と述べた。

第三、証拠関係〔略〕

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求を後記認容の限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加、訂正、削除するほか原判決理由説示と同一であるからこれをここに引用する。

一、原判決理由欄冒頭に「〔証拠略〕を総合すると、昭和四一年一月一七日午前零時四〇分頃近藤俊光が普通貨物自動車(福四さ三四四一号)を運転して時速四〇粁で久留米市より八女市方面に向い国道三号線を進行中久留米市諏訪野町六丁目一、六三二番地先十字路で前方左側を同一方向に自転車で進行していた被控訴人の自転車後部に前記自動車の左前部を衝突させて同人を転倒させ、よつて同人に対し頭部外傷及び打撲傷肋骨左八本右二本骨折右下腿挫滅の傷害を負わせたことが認められる。」を加える。

二、原判決五枚目表一二行目「自賠法」とあるのを「自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)」と改め、同枚目裏二行目「近藤の供述」の次に「当審における同人の証言(一回)」を加え、同枚目裏一一行目及同六枚目表七行目に「おばあちやん」とあるのを「家人」と改める。

三、原判決六枚目裏三行目「被告瀬口の」の次に「原審並びに当審における」を加える。

四、原判決六枚目裏五行目「以上の事実によつてみれば」より同九行目までを次のとおり改める。

「前記認定の本件事故車の所有関係並びに管理状況殊に車庫の設備や車の鍵の保管状況更に控訴人と近藤との身分関係やその住宅の距離関係から従来数回近藤が右車を私用のため借受け使用したが控訴人やその家族においてこれを許容していること、近藤の本件借出しも一時使用のためであり直ちに返還が予定されていたこと等からすれば本件事故車の運行についての事実上の支配はなお控訴人にあり、客観的にも自動車の運行が控訴人の利益のためになされていると認められるから控訴人は自己のため自動車を運行の用に供する者として自賠法第三条本文によつて本件事故による損害を賠償する責任があるといわなければならない。」

五、原判決七枚目表七行目より同一一行目までを次のとおり改める。

「被控訴人主張の(一)の給料減額分については原審証人楢原夙子の証言によつては減額されたことは窺えるが、その数額を確定し難く、他にこれを認めるに足る証拠は存しない。その主張の(二)の休職減額分については〔証拠略〕を総合すると、被控訴人は本件受傷のため勤務できなくなり、昭和四一年四月一日以降昭和四二年二月末日までの休職期間一一箇月分、月額二〇パーセントの給料減額で毎月金一万一、五〇四円宛一一箇月分計金一二万六、五四四円の減額分の損失を蒙つたことが認められる。」

六、原判決七枚目裏一〇行目「されば」より同末行目「となる。」までを次のとおり改める。

「そうだとすると、被控訴人の退職日の翌日たる昭和四二年三月一日以降同四七年二月二八日までの五年間分の逸失利益を被控訴人請求に係る一審訴状送達日たる昭和四二年二月二三日現在において法定利率年五分(日歩一銭三厘六毛九糸)のホフマン法による中間利息を差引いて算定すると、金三〇五万五、九二〇円(円以下四捨五入)となる。」

七、原判決八枚目表三行目「成立を認めることのできる」より同七行目「認めることができる。」までを「前掲甲第一〇号証の一、二に徴すると、被控訴人主張の本件受傷以来の病状及び後遺症が認められた右の認定を妨ぐべき証拠は存しない」と改め、同七行目「右認定に反する」より同八行目「証拠はない。」までを削り同一二行目「金二〇〇万円」とあるのを「金一五〇万円」と改める。

八、原判決同枚目表末行目並びに同枚目裏一行目全部を削る。

九、なお原判決の判断に次を加える。

「控訴人は被控訴人の過失を主張するので判断するになるほど〔証拠略〕によると本件事故当日被控訴人が飲酒していたことが一応窺われるけれども、飲酒して自転車に乗ること自体を直ちに過失とは認め難いのみならず、右の各証言によつても被控訴人の飲酒の程度や本件事故当時の具体的過失についてはこれを認めるに足りず他にこれを認めるに足る証拠は何ら存しない。そこで控訴人の右過失の主張は採用し難い。」

よつて被控訴人の本訴請求は前記休職減額分金一二万六、五四四円、退職後の逸失利益分については前記認定の金三〇五万五、九二〇円、慰藉料については前記認定の金一五〇万円の各限度で理由があるので、右合計金四六八万二、四六四円及びこれに対する一審訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和四二年二月二四日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よつて右の判断を一部異なる原判決を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎弥 弥富春吉 白川芳澄)

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