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福岡高等裁判所 昭和43年(う)306号 判決 1968年8月24日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

<前略>

所論は要するに、被告人上野同荒牧に対する原判決摘示の道路交通法違反罪による罰金刑の各確定裁判は、原判決が言い渡された後の昭和四三年五月二一日に公布され、同年六月一〇日から施行された同年法律第六一号刑法の一部を改正する法律により、従前の刑法第四五条後段にいう確定裁判に含まれなくなつた結果、同法律附則第二項により被告人上野の原判示第一ないし第六の各罪、同荒牧の原判示第一、第二、第四ないし六の各罪は、それぞれ一括し刑法第四五条前段の併合罪として、これに対し各一個の懲役刑を言い渡すべきこととなり、その執行、仮釈放の面などにも着目すれば、かくの如きは刑事訴訟法第三八三条第二号にいう判決があつた後刑が被告人に利益に変更された場合に該当することは明らかなので、結局原判決は法令の適用を誤つたことに帰し破棄を免れないというのである。

よつて所論に鑑み審按するに、

刑事訴訟法第三八三条第二号は、「判決があつた後に刑の変更があつたこと」を法令の違反に準ずる控訴理由と定めているが、そこに「刑の変更」というのは、刑法第六条が「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其軽キモノヲ適用ス」と定めた「刑ノ変更」と意義を同じくするもので特定の犯罪を処罰する刑そのものの種類又は量が、法律の改正により犯罪時又は原判決時とその後とにおいて差異を生じたことを意味するものと解すべく、これをゆるやかに、いやしくも刑に関し変更を生ずる場合や有利に法律が変更された場合をも包含するものと解することは、右規定の文言のみならず、ことに後者が罪刑法定主義にもとづく刑法不遡及の原則に対する例外規定であるところから、相当でないと思料される。これを本件について看るに、今次の刑法の改正により刑法第四五条後段の確定裁判を禁錮以上の刑に処する確定裁判として、罰金以下の刑に処する確定裁判をこれから除外するにいたつたのは、罰金や科料についていわゆる併科主義を原則とするところから、罰金以下の刑に処する確定裁判にまで数個の罪の間の併合罪関係を遮断する効力を認める実質的意義に乏しいことと、あわせて罰金以下の刑に処する裁判の激増化に伴い、刑事の審判ならびに執行手続の迅速円滑な運用に資せんがため、その遮断力を排除したにとどまり、これを以てさきに述べた刑そのものの変更があつたとは到底理解しがたい。もつともかかる遮断力排除の結果、罰金以下の刑に処する確定裁判の前後に行われた未だ裁判を経ない数罪が刑法第四五前段の規定にもどりその処断刑が一に帰することはなるが、これは右遮断力の排除に伴う反射的効果というべく、これを以て刑の加重減免に関する規定の改正があつたとまではいいきれない。さすれば刑の変更があつたことを前提として原判決の法令適用の違反を主張する論旨は採用できない。<後略>(厚地政信 渕上寿 伊東正七郎)

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