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福岡高等裁判所 昭和40年(行コ)3号 判決 1966年5月14日

控訴人(被告) 長崎県知事

被控訴人(原告) 福地新一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は次に付加、訂正するもののほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

一  控訴代理人は別紙一、準備書面のとおり述べ、なお被控訴人の別紙二、準備書面に対し別紙三、準備書面のとおり述べた。

二  被控訴代理人は別紙二、準備書面のとおり述べ、なお原判決一枚目裏末行に「三五五坪」とあるのを「三三五坪」と、原判決一枚目裏末行から同二枚目一行にかけ「同日」とあるのを「昭和三八年二月三日」と、原判決三枚目表二行目に「五、五間」とあるのを「五、〇五間」と、原判決三枚目裏二行目に「〇、七八七」とあるのを「〇、六七三」と夫々訂正した。

(証拠省略)

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきであると判断するのであつて、その理由は次に付加するもののほか原判決説示の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  当審証人田尾昇、福地正登、同佐々野利一郎、同吉川忠右エ門、同釘本伊勢松の各証言は右引用にかかる事実認定に副うものであり、当審証人田中武熊の証言中右認定に反する部分は直ちに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二  控訴人は、本件仮換地の指定は換地計画に基き換地処分を行う必要のためのものではなく、土地の区画の変更にかかる工事を行う必要のため、換地計画の決定前に将来の換地計画を予定してなされたもので、確定処分ではないから、その換地計画の決定を俟たずして指定された仮換地の不均衡、不適正を理由にその指定処分の取消を求めることは許されない旨主張する。

しかしながら仮換地指定処分は、土地区画整理法第九八条第一項前段の工事のため必要がある場合であると、同条同項後段の換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合であるとを問わず、権利者の従前の土地についての使用収益を禁止する一方、仮換地について従前の土地と同様の使用収益を許す行為であつて、国民の権利義務に直接の影響を及ぼすことは明かで、しかも仮換地指定処分はそのまま換地処分に移行するのが通常であるから法第九八条第一項前段、後段いずれの仮換地指定であつても取消訴訟の対象となる行政処分と解して差支えないものである。

商人にとつて換地の不適正、不均衡は清算金によつては償い得ない場合もあり得るし、また換地処分が整理地区全域にわたり整理目的の下に個々の土地についての従前の権利者の利害と公共の利益を綜合調整して策定された統合的換地計画に基き行われるものであるとしても、利害関係者が個々の換地の不均衡不適正を理由に各別に独立してその効力を争い得ないとすべき根拠には乏しいというべきである。

右の結論は換地計画が決定した後においても変りはなく、以上の点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。

三  控訴人は、本件仮換地は前項記載のとおり文字通り仮の換地指定にすぎないから、それが換地指定として公平であるか否かの問題を生ずる余地はなく、問題は専ら本件仮換地指定が土地の区画の変更工事を行うために必要であるか否か、又はそれがその必要の範囲を超えていないか、或いはその手続に瑕疵がないかといつた点にのみ限られるべきであるという。

しかしながら、法第九八条第二項は同条第一項前段、後段の仮換地指定を区別しておらず、いずれの場合においても仮換地は従前の宅地の位地、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならないのであつて、その間公平の原則が支配すべきことは当然の事理である。右控訴人の主張は採用することができない。

四  控訴人は、換地の適正均衡については専門的で微妙な価値判断にかかることで、問題の性質上裁判所の判断に適せず、事の性質上法の定める審議会の判断と監督官庁の裁定に任ずべく、裁判による判定の外に置かれたものとして、裁判所は手続違反以外の理由によつてみだりに換地処分に介入すべきではない旨主張する。

しかしながら仮換地の指定に関する土地区画整理法の規定からみても、その適正均衡の如何が裁判による判定の外に置かれたものとすべき根拠はなく、裁判所はその処分内容についての実質的審査権を有すると解するのが相当である。右控訴人の主張は採用することができない。

五  仮換地指定の基準として換地及び従前宅地の価格が重要な標準となることはいうまでもないが、その価格は単に施行地区内各土地について平等の計算方法によつたというだけでは足らずその公平な方法によつて算出された結果が客観的な取引価格に一致するものでなければならない。

さらに宅地価格を標準とするとしても、市街地商店街にあつては、その位置、間口、区画の大小長短、面積は営業の死命を制するともいうべきものであるから、宅地価格のみによつて仮換地指定の基準とすることはできず、右の諸点を考慮することが必要である。

叙上の見地に立つて本件仮換地の指定を考えるときは、成立に争いがない乙第三ないし第一〇号証はいずれも主として地区内仮換地、従前宅地の路線価式評価方法による価格算出を示すものであつて、これらを考慮しても、なお前記引用にかかる原判決事実認定を左右するに足らない。証人田中武熊の証言(原審および当審)中右に関する部分についても同様である。

なお昭和三八年度における福江市の固定資産税評価額の一坪当りの評価額は、一番山本、二番平川、三番山村、四番被控訴人の各所有地の順となつていることについて、当事者間に争いがないが、固定資産税評価額はこれが定められる趣旨からして必ずしも現況における客観的な取引価格に一致するものとはいい難いのみならず、右平川の土地に関する評価額のみを以てしては、商店街として酒屋町通りが新栄町通りより等級が劣るとの原判決認定を覆すに足らないというべきである。

よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却すべく、民事訴訟法第九五条、第八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判官 丹生義孝 木本楢雄 山口定男)

(別紙一)

準備書面(注 昭和四〇年七月二七日付控訴代理人提出)

(一) 本件仮換地指定は「土地の区画の変更に係る工事を行う必要」のためのもので、「換地計画に基き換地処分を行う必要」のためのものではない(土地区画整理法第九八条第一項参照)。本件区画整理は本件地区一帯が、昭和三七年九月二六日の大火災によつて焼失したところから火災復興土地区画整理事業として始められたものであるが、

地区内には、被災者が、火災直後の緊急対策として各自随時に仮設建物を建築居住しており、その数は日を追つて増加すると共に、既設の仮設建物についても漸次増築補強が加えらるる勢を増し、これを長く放任していたのでは、後日非常な混乱を生じ、区画整理に多大の障害を来すことが憂慮せらるる状態となつたので、控訴人は事業者として一日も早く仮換地の指定を行うことが必要と認められた。

かくて控訴人は、急拠地区内の街路の新設変更又は拡幅其他の市街地計画を定め、これを基幹として一応の換地計画を立案したのであるが、換地の公正を期するためには猶原案に周到綿密な検討を加えることが必要であるのみならず、進んでこれを確定するためには換地設計、土地各筆換地明細、土地各筆各権利別清算金明細、保留地その他特別の定めをする土地の明細等幾多の書類の作成を要し更にこれを縦覧に供する等複雑面倒な手続を経ねばならず、そのために要する相当の長時日を待つて仮換地指定をするということでは事態は収拾すべからざる状態に立至る心配があつた。

そこで、控訴人は、正規の手続に従つて換地計画が確定に至ることを俟つたことなく、これに先つて、予定せられた市街地計画による街路の開設及び拡幅の工事を施工し、これに関連して必要とせらるる地区の範囲においては一応準備せられた換地計画の原案に従つて仮に換地の指定を行うこととした。

本件仮換地指定は以上のような事情から行われたものである、従つてこれは一般普通の「換地計画に基く仮換地指定」ではなく、文字通り「仮りの換地指定」なのである。

(二) 本件仮換地の指定は、区画整理法第九八条第二項後段に規定するところに従う意味において、控訴人が原案として準備しているところの換地計画案に基づいて行なつたものであるから、後日、正規の換地がこの仮換地指定の通り確定する公算も強いということが考えられないこともないではないが、現在の換地計画は憎く迄原案に過ぎないので正規の換地計画が必ず原案通りに確定するとは限らないので、本件仮換地指定によつて被控人の換地が動かす可からざるものに決定するというわけのものではない。

若し被控訴人において、本件指定による仮換地が其まゝ本換地として換地せらるることに不服であるならば、その不服は後日行わるるところの正規の換地計画の確定手続の段階において、定められた方式に従つて申立らるべきであつて、それは本件仮換地指定によつて何等妨げらるるものではない。

(三) 本件仮換地指定は純粋に文字通りの仮の指定に過ぎないのであるから、それが換地指定として公平であるか否かといつたような問題が生ずる余地なく問題は専ら、本件仮換地指定が「土地の区画の変更工事を行うために必要であるか否か」又は「それがその必要の範囲を超えていないか」或は「その手続に瑕疵が無いか」といつた点にのみ限らるべきである。

而して本件仮換地の指定は「控訴人の区画整理事業として決定した街路の新設変更及び拡幅の工事施行のために必要とせられた」もので「その必要の範囲を超ゆることなく」且「適式の手続によつた」ものであるから、これを取消した原判決は破毀せらるべきである。

(四) 猶、本件仮換地指定が換地計画に基く仮換地指定でなく、土地区画変更工事施行の必要のための文字通りの意味の仮の仮換地指定であつても、それは「法律に定める換地計画の基準を考慮して」定められなければならない(法第九八条第二項)ので本件仮換地指定が果してその基準に反していないか否かゞ問題とせらるべきであるとの論が予想せらるるから、此点に言及する。

換地計画を不公平とする不服は、特殊の小数の例外を別にして地区内の大部分の所有者について存するのが普通であつて、現に本件においても被控訴人の意見としては不当に有利な換地を与えられたと主張しているところの山村チノから逆にその換地が不当であるとの不服の訴が提起された―この訴は其後取下げられたが―ような有様で、これ等の不服が無制限に取上げられ特に裁判において個別的に判断せられることとなつては換地計画の策定は殆んど不可能といわねばならない。

換地計画に対する利害関係人の不服とこれに因る計画の修正は多数の利害関係人の錯雑した利害を調整するために換地計画を一体不可分のものとして綜合的に行われることによつて始めて可能である。

此故に区画整理法は、換地計画確定の手続として、換地計画の内容として換地設計、各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細保留地その他の事項を定むる書類を作成し(法第八七条)、これを公衆の縦覧に供し、これに不服のある利害関係者は縦覧期間内に施行者にその不服を意見書によつて提出してその再考を求むべきものとしているが(第八八条)此意見書の不採択に対しては行政不服審査法による不服申立をすることができないと定めている(法第一二七条十号)のである。

右のように、換地計画の内容についての利害関係者の個々の不公平不公正を理由とする不服が、各別に独立して不服申立の対象となり得ないということであるならば、かくの如き不服は如何なる形式においても抗告訴訟の理由たり得ないと解せらるべきである。

然らば、換地計画に基づく仮換地指定でない仮の仮換地指定にすぎない、本件仮換地指定について裁判所が介入してそれが公正か否かを判断することは前記法条の趣旨から考えて明かに誤りである。

(別紙二)

準備書面(注 昭和四一年二月一日付被控訴代理人提出)

一 控訴人は本件仮換地指定処分は換地計画に基き換地処分を行う必要のためになされたものではなく、土地の区画の変更に係る工事を行うためになされたものであり、後者は換地処分の如く確定処分でないから抗告訴訟の対象とはならないと主張する。

しかし、抗告訴訟とは行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいい処分取消の訴とは行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為の取消をいう(行政事件訴訟法第三条第一、二項)。ここに行政庁の処分とは行政権が優越的地位において公権力の発動としてなす行為であつて、国民の権利義務に直接関係ある行為をいうのである。

仮換地指定処分は権利者の従前の土地についての使用収益を禁止する代りに仮換地について従前の土地と同様の使用収益を許す行政庁の行為であつて、国民の権利義務に直接影響を及ぼすことは明らかである。従つて、その処分が違法であればその取消の訴を提起できることは言うまでもない。

もちろん、控訴人主張の如く仮換地指定処分は換地処分の前段階的処分であつて確定不動のものではないが、仮換地指定処分が換地処分から独立した一個の行政処分である以上換地処分とは独立してその取消の訴を提起することができるのである。以上のことは仮換地指定処分が土地の区画の変更に係る工事を行う必要のためなされたものであると換地計画に基き換地処分を行う必要のためになされたものであるとを問わずその間になんらの差別はないのである。

二 さらに、控訴人は仮換地指定処分を受けた個々人は独立して行政処分の取消の訴は提起できず被処分者全員が訴を提起すべきであると主張する。

しかし、この主張は行政訴訟の当事者適格のなんたるかを知らない謬論である。仮換地指定処分を受けた者の中には、適法な処分を受けた者もあり、違法な処分を受けた者もある。行政処分取消の訴は行政庁の違法な処分によつて自己の権利を侵害されたと主張する者のみが訴を提起すれば足るのである。もし、控訴人主張の如くであれば適法な処分を受けた者は訴訟の当事者たることを欲しもしないのに一人の違法を主張する者のために訴訟の当事者とならなければならないことになるのであつて、その不合理たるや誠に明らかである。

三 控訴人は本件仮換地指定処分は適法な手続に則り、特に土地区画整理法第九八条第三項末段の規定に基き土地区画整理審議会の意見を聞いて行つたものであるからなんら違法の点はないと主張するが如くである。(答弁書第四項)

法が土地区画整理審議会の設置を要求する趣旨は公共団体や行政庁が土地区画整理事業を施行する場合は、個人又は組合施行の場合と異なり、該事業がその施行地域内に権利を有する者の発意によるものではなく、施行主体とこれら権利者との間に直接の関連性がないので、施行にあたり重要な事項について処分を行う場合に、その処分について、これら権利者の意見を反映させ、その権利保護に遺憾なきを期するにある。法は処分について審議会の同意を得なければならない場合と意見を聞くことを要件とする場合とを定めているが、共に施行主体はその同意、意見に拘束されないのであるからその本質は諮問機関であると言わなければならない。しかしながら審議会はこれら権利者の意見を整理事業に反映させるための唯一の機関であるから、法が審議会に諮問を命じている場合に諮問手続を採らないで行つた施行者の処分は明らかに重大な瑕疵として当然無効と解さなければならない。(田中二郎著行政行為論七九頁御参照)尤も最高裁昭和三一、一一、二七判決(最高裁民集一〇巻一一号一四六八頁)は無効となることを否定しておるが、最高裁判所判例解説二〇七頁及び酒井書店発行下出義明著仮換地処分の研究六三頁)は諮問手続を採つた場合でも審議会の構成又は審議の内容に違法な点があれば取消の主張原因になり得るものと解しておる。

法は地方公共団体又は行政庁が施行者である場合に仮換地指定をするときは土地区画審議会の意見を聞かなければならないと規定している。(土地区画整理法第九八条第三項)

ところが福江市の区画整理事業を遂行するために控訴人が仮換地指定処分をなすに当つては、土地区画審議会の意見を聞いてはいるが、審議会は県庁の職員が一方的に作つた仮換地地図だけを審議の資料とし、その職員の総括的な説明を聞き、土地価格は全く考慮に入れず、不公平な点は後で審議してやればよいとの県の意向によつて、六〇〇件の多数に上る審議件数を僅かに二日で審議して全仮換地指定を妥当であると答申しているのである。(原審証人田中武熊、当審証人佐々木伊勢松の各証言)右審議は全くずさんで、おざなりであると言わざるをえない。控訴人は法の要求する諮問手続を形式的に具備させるためにのみ、形式的に審議を求め、形式的に審議会の意見を聞いたように体裁を整えたに過ぎない。その審議には権利者の意見は全く反映しておらず、またその権利保護について全く考慮が払われておらず、前記審議会の設置を求める法の趣旨は完全に無視されている。

従って、右審議会の意見を聞いたとしてなされた仮換地指定処分は全体として違法であり、本件仮換地指定処分もまた当然違法であつて取消さるべきである。

四 仮に本件仮換地指定処分をなすための手続になんらの瑕疵がなかつたとしても、本件仮換地指定処分はその内容において著しく妥当を欠き違法である。

仮換地指定処分は換地計画が作成されているときはこれに定められた事項、これが作成されていないときは換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない(土地区画整理法第九八条第二項)。

換地計画が作成されていると否とを問わず、仮換地は従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない(同法第八九条第一項)。

控訴人は右法の趣旨に基き、福江都市計画事業火災復興土地区画整理事業施行規則(乙第一号証、以下規則と略称する)福江都市計画火災復興土地区画整理事業換地交付細則(乙第四号証、以下細則と略称する)等を定め、右規則、細則に則り従前の土地を評価し、これに照応するよう仮換地を指定しているので被処分者間になんら不公平はなく従つて、本件仮換地指定処分は適法であると主張するが如くである(当審ならびに原審証人田中武熊の証言並びに乙第八号証)。

しかし、被処分者である山本熊次、山村チノ、平川光丸、才津惣太郎は従前の土地に比し甚だ有利な仮換地の指定を受けたのに対し一人被控訴人のみは甚だ不利な仮換地を指定され著しく不公平な処分を受けており、その処分の違法であることは被控訴人が従前より主張するとおりである。

なお控訴人より新たな証拠が提出されたので此点につき以下詳述する。

(1) 控訴人は前記規則、細則に則り従前の土地を評価し、これに照応するよう仮換地を指定したと主張するが、従前の土地と仮換地の評価は規則細則を無視し、しかも全く住民の意見を聞かないで定めた独善的なものである。

(イ) 規則第一七条には従前の宅地及び換地の評価は評価員の意見を聞きその位置、地積、土質、水利、利用状況等総合的に勘案して行なうと定められている。

従前の宅地及び換地の評価について評価員の意見を聞く旨定めた趣旨は施行者の評価が独善的になることを防止し換地処分が公平妥当に行われることを期待するにある。

しかるにこれらの評価について評価員の意見を聞いた形跡は全くない。従つて、本件評価は施行者の独善的なものであつて全然信用するに足りない。

(ロ) 細則第一二条は整理後の宅地各筆の評価の算定は、路線価法により行うものとする。同則第一三条第一項は路線価は道路に直角に接する間口一間、標準奥行の宅地の平均坪当価格をいい、これを指数で表わしたものを路線価指数という云々と定め、同条第二項は街路係数、接近係数及び宅地係数は地区内及び地区隣接地の評価の標準に適当と認められる宅地を選び、この標準地の評価を市の固定資産評価額、登記所の最近の売買登記価額、一般の売買価額、銀行等の評定価額を調査して、原案を作成し、評価員の意見を聞いて評価標準地の評価額を定め、その評価額を基準として評価額を定めると規定している。

右標準地の評価額を定めるについて登記所の最近の売買価額等を調査したことも、評価員の意見を聞いたこともその形跡は全くない。

従つてその評価額は信用するに足りない。

(ハ) 次に細則の適用を誤つている点を指摘する。

細則第一八条第一項は宅地各筆の奥行はその長短によつて宅地の利用価値に影響を及ぼすのでその宅地の奥行長に応じ付表第一〇号表(その一、その二)の奥行価格逓減率を路線指数に乗じて修正するものとすると定めている。

ところが右規定の適用につき他の者は二筆の宅地を所有していても各筆毎に奥行逓減率を路線指数に乗じているに拘らず、被控訴人のみは、福江市北町(新栄町ともいう)六八〇番の二、同番の三の二筆の宅地を所有しているのに奥行を一筆の宅地の如く合算し奥行逓減率を適用し被控訴人の宅地のみを不当に低く評価している(乙第八号証)

(2) 以上の如く規則、細則の適用を誤り、またはそれらを無視して評価員の意見を聞くなど宅地の評価についての調査を怠つているその評価が妥当でないことをさらに例証する。

昭和三八年度の福江市の固定資産評価額をみると、山本熊次の北町六七九番一、七九、〇二坪の評価額は五五〇、四〇六円、その一坪の評価額は七、七五〇円、平川光丸の商人町(酒屋町ともいう)八〇一番五、三四、五〇坪のそれは二四〇、四五〇円、一坪当りのそれは六、九六九円、山村チノの北町六七九番三、一二一、一一坪のそれは八三一、七八三円一坪当りのそれは六、八六七円、被控訴人の北町六八〇番二、二四四、四坪のそれは一、二七九、八七六円、一坪当りのそれは五、二三六円である。これによれば、一坪当りの評価額は一番山本、二番平川、三番山村、四番被控訴人の順位となる。このとおりに仮換地を指定するとすれば平川は山本の向い側の角地に仮換地を指定されなければならない道理である。

しかるに、控訴人は一番山本、二番山村、三番平川、四番被控訴人の順位で評価したのである。このことは結局控訴人も酒屋町(商人町ともいう)通りよりも新栄町(北町ともいう)通りの宅地が高いことを認めていることになる。

また、控訴人は山本彦松の商人町七一二番一の従前の土地の坪当評価額を八七三、平川光丸の前記従前の土地の坪当評価額を八五六と評価し山本彦松の土地を高くみているのである。ところが山本彦松の宅地は酒屋町通りと新栄町通りの交差する地点であり平川の宅地は酒屋町通の中程の地点にある。

結局新栄町通りの方が地価は高いことを認めていることになる。しかも右両者の仮換地の坪当り評価を比較とすると山本彦松のそれは一、一二五、平川のそれもこれと同じである。

平川の仮換地は新栄町通りの角地から二軒目にあるのに山本彦松の仮換地は前記のごとく角地にあるのである。

このことからも新栄町通りの方が地価が高いことが明らかである。

しからば、被控訴人の従前の土地の評価が平川のそれより低く評価されていることが不可解である。当審証人佐々木伊勢吉、同虎島和夫を当審ならびに原審証人田中武熊を除いては全証人が平川の宅地より被控訴人の宅地が高価であることを認めておるのである。

さらに、被控訴人の従前の土地と山本熊次、山村チノのそれとを比較してみると、控訴人は従前の土地の路線価を山本熊次一、〇〇〇、山村チノ一、〇〇〇、被控訴人八七三と評価としている(乙第八号証)が、昭和四〇年の福岡国税庁の評価によると、被控訴人の従前の土地で現在山村チノの仮換地となつている土地が福江市の最高の路線価であると評価されている。(甲第六号証当審証人釘本伊勢松の証言)

福江市の大災後急に右宅地が高騰したとは考えられないので、大火当時も右宅地の路線価が最高であつたと思料されるしてみれば、被控訴人と山本、山村の従前の土地は甲乙つけ難いとみるのが至当である。

(原審証人川口一の証言)

控訴人の右評価は現地を充分に調査することを怠つたことと共に被控訴人の北町六八〇番の二、同番の三の二筆の土地を一筆づつ評価しなかつたこと、また一坪当りの評価についても前記指摘の如く二筆合算して奥行逓減率を適用したことの過ちに基くものである。

また、被控訴人と才津惣太郎の従前の土地とを比較すると被控訴人のそれが高価であつたことは控訴人も是認するところである。

才津惣太郎に対し被控訴人よりも優位の位置に仮換地を指定したことについては合理的な理由は全くないのである。

(3) 次に間口についてみると、細則第一九条は宅地の間口が狭少である場合はその利用価値を減殺されるので付表第一一号表の間口修正率を路線価数に乗じて修正すると規定している右規定の趣旨は間口の狭い宅地は換地及び仮換地を指定するに当つては間口を広くし宅地の利用価値を高めようとするにある。しかるに、控訴人は右規定を必要以上に山村、平川等に対しては間口を拡大し仮換地を指定したのに対し被控訴人のみに対しては何等合理的な理由なく間口を縮小して仮換地を指定し、著しく不公平な処分をしている。

五 要するに控訴人は被控訴人に対しては従前の宅地と位置、利用状況、環境に照応しない宅地に仮換地を指定し、なんら合理的な理由がないのに近隣の従前の土地所有者である山本熊次、山村チノ、才津惣太郎、平川光丸に比較し著しく不平等、不公平な処分をしているのであるから被控訴人に対する本件仮換地指定処分は当然取消さるべきである。

(別紙三)

準備書面(注 昭和四一年二月一日付控訴代理人提出)

控訴人は被控訴人の昭和四一年二月一日付準備書面における主張について次のように反対意見を主張する。

第一、準備書面中一、二の主張について

一 区画整理は広般な広地の全域にわたつて計画的に区画の形質の変更及び公共施設の新設又は変更を行うものである(区画整理法第二条第一項)から、その整理のために行わる換地処分は、整理地区全域にわたり整理計画の目的に、個々の土地についての従前の権利者の利害と公共の利益を綜合調整して策定せられた統合的換地計画に基き行わるるものである。

二 整理地区内の従前の土地の権利者は、この統合的換地計画の決定に至る迄に、自己の利益を主張して換地計画の策定或は策定せられた換地計画の変更を求むることができる(法第八六条以下)が法定の手続を経て換地計画が適法に決定した後において個個の換地についてその不均衡不適正を理由にその効力を争うことを得ない。

そのことは、統合的に定まつた換地計画の中の一、二のもののみが無効或は取消となつて他のものが有効として存続するということとなつては拾収することのできない結果となることを考えるならば当然の理というべきである。

三 仮換地指定は「換地処分を行う前において」「換地処分を前定」として行わるるものである(法第九八条)。

仮換地指定が適法に決定した換地計画に基き行われたものである場合はこれに対し換地の不適正不均衡を理由として不服を申立つることは許されない。

仮換地指定が換地計画の決定前に将来の換地計画を予定してなされたものである場合は、後に法定の手続に従つて、定められる換地計画において、仮に指定せられた換地が換地計画によつて変更せらるることもあり得特に換地そのものが変更せられなくとも換地の不適正不均衡が清算金によつて修正せらるることは屡々あり得る(法第九四条)のであるから、その換地計画の決定を俟たずして指定せられた仮換地の不均衡不適正を理由にその指定処分の取消を求むることは許さるべきでない。

四 本件においては既に換地計画の立案がなされ近く法第八八条第二項の縦覧手続を行う段階に達している。今本件の判決の確定前に此手続が進行し換地計画が決定しこれに基づいて本換地の指定が行わるるに至つたならば、本件はどうなるべきかを考えるならば前記三の議論が現実に即して容易に理解せらるるであろう。

五 仮換地指定が換地の不均衡を理由として独立して取消の対象となるとする二三の判例が出された結果仮換地指定に対する取消の訴が続出して区画整理の進行に重大な障害を与えている現状に鑑み、前記の点についての明確な法律上の判断を求める。

第二、準備書面三の主張について

本件区画整理は本件地区一帯が、昭和三七年九月二六日の大火災によつて焼失したところから火災復興土地区画整理事業として始められたものであるが、地区内には被災者が火災直後の緊急対策として各自随時に仮設建物を建築居住し、その数は日を追つて増加すると共に、既存の仮設建物についても漸次増築補強が加えられる状態になり、これを長く放置していたのでは、後日非常な混乱を生じ、区画整理に多大の障害をきたすことが憂慮せらるる状態となつたので、控訴人は施行者として一日も早く仮換地の指定を行うことが必要であると認めた。

かくて控訴人は急拠施行区域の決定並びに街路の新設、変更の決定を行い(いずれも建設大臣決定)これを基幹として土地の宅地としての利用増進を図るために必要な区画街路(八―四米)および公園等の配置(これを設計という。)を立案(土地区画整理法「以下(法)という。」第六六条参照)、事業計画および施行規程について二週間公衆の縦覧に供し(法第六九条第一項参照)この縦覧の結果利害関係者より提出された意見について、長崎都市計画地方審議会に諮問し(法第六九条第二項第三項)、意見の採否を決定して(法第六九条第四項参照)建設大臣の認可を受けた後(法第一二二条第一項)、長崎県知事は事業計画の認可を行つたものである(法第六六条参照)。この設計図により乙第四号証「換地交付細則」に基き綿密な計算を行い換地計画に準じた仮換地を立案したものである。

元来換地計画に基き仮換地処分を行うには、換地設計、土地の各筆換地明細、土地の各筆各権利別清算金明細、保留地その他特別の定めをする土地の明細等幾多の書類の作成を要し、又諮問機関の意見同意等を必要とし更にこれを公衆の縦覧に供する等複雑多岐な手続を経ねばならず、そのために要する相当の長期日を待つて仮換地指定をするということでは、当時の事態は収拾すべからざる状態に立ち至る事が必至の実状であつた。

そこで、控訴人は換地計画が確定に至ることを待つことなく、これに先立つて決定された事業計画の設計による街路の新設、改良工事並びに区画形質の変更のための整地工事等を施行するため換地計画に準じて作成した仮換地案により土地区画整理審議会の意見を聴取し、仮に換地の指定を行つたものである。

而してこの仮換地を決定するまでについて控訴人のとつた手続はつぎのとおりである。

仮換地の位置および地積については、前述のごとく換地計画の決定基準(換地交付細則)「乙第四号証」を考慮に入れ路線価方式により、街路係数、宅地係数、接近係数等綿密な計算を行い、「乙第六号証」「乙第七号証」(整理前後の路線価計算を作成した。この基準となる土地の評価資料として、市固定資産評価、登記所の当時における売買登記価格、銀行の評価、その周辺の地価等を入念に調査し、地区内の最高地および最低地を定めてこれを計算した。これをもとにし整理前後の各筆の計算を行い「乙第八号証」を作成し、換地照応の原則を尊重し現在の土地利用状況その他の要素等十分に考慮の上検討を重ね計算を行い公平な評価を定め仮換地指定の根拠としたものであり、審議会の諮問に当つても仮換地図および仮換地調書を各委員に渡し、まず一日目の午前中は総括的に区画整理事業の概要および評価の計算のやり方等について説明し、なお委員が権利者の代表として意見の反映、権利保護等について十分審査ができ得る状態に達するまで詳細に説明を行い、その上で各筆ごとに慎重審議を重ねその間数多くの意見の開陳訂正等に発言がなされている。従つて各筆の審議は二日半に亘り、しかも、午前九時より午後九時までという長時間に亘つて行われた。

従つて本件仮換地の決定が「全くすざんでなおざりで、またその権利保護について全く考慮が払らわれていない」ということは当らない。

第三、準備書面四の(1)の主張について

(イ) 一に述べたごとく本件仮換地指定は大火後の復興の緊急性を考え都市の整備を急いだためのもので、「換地計画に基く仮換地指定」ではなく、換地計画の決定の基準を考慮に入れて行つた事前の仮換地指定であつて、このような換地計画を定めないで行う仮換地を指定の場合は評価員の意見を開く必要はないのである(評価員は法第六五条第三項に規定する事項についてのみ意見を述べることになつている)。

(ロ) 整理前の評価について

前に述べたごとく標準地の評価については、仮換地案作成当時の法務局の評価額、市固定資産税評価額、十八銀行、親和銀行の評価額、その周辺の地価等調査し、整理検討した結果本件土地区画整理事業の路線価方式による土地評価を定めるための最高標準地を山村チノ所有の北町六七九―三と定め、その正面道路の路線価を一、〇〇〇とし、地区内の路線の路線価を定めたものである。

(ハ) 各筆が同一所有者でありその土地が連続的に位置しその一部が道路に面してこれ等数筆の土地が同一利用状況にある場合は、細則第三五条の規定により審議会にはかり同一宅地とみなし計算を行うこととなつていて、細則に各筆と表現しているのは一般的な土地の表現であつて、本件のように二筆が同一利用状況であるものには細則第三五条が適用されるものである。

このような土地について各筆ごとに仮換地の指定をすることは土地の総合的利用度を妨げその価値を低下せしむる憂れがあり従来の宅地利用状況から見ても適正な処分とは考えられない。

猶被控訴人の批難する才津惣太郎に係る仮換地指定については北町六九九番の二の土地所有者は才津惣吉であり、同町六八〇番の四の土地は才津惣太郎で、所有権者を異にしているので各筆に換地を指定したものである。

第四、準備書面四の(2)について

昭和三八年度の福江市の固定資産税評価額は「乙第五号証」で示している評価と順位が全く同じであつてこの評価によれば、一坪当りの評価額は、一番所有者山本、二番同平川、三番同山村、四番同被控訴人の土地の順位となつている。被控訴人は従来山本、平川、山村の所有地より自分の方が上順位であると主張していたが結局は前記三者より下位であることを認め施行者が定めた仮換地の順位は公平なものといわざるを得ないこととなつた。

そこで被控訴人は従前の主張を変えて、仮換地の位置について評価の順位からいくと平川は山本の向い側の角地に仮換地すべきものであると主張することとなつたようであるが「角地の交付順位は細則第四条第三項により原位の宅地に照応する宅地を換地する」ものとなつていて同条同項三号により「最短距離である従前の宅地の山本を角地に、向い側の角地には山村を換地する」のが順当である。

被控訴人は山本、平川、山村、被控訴人と順位を認めておりながら酒屋町(商人町とも言う。)通りよりも新栄町(北町とも言う。)通りに面した山本、山村と同様宅地が高いと主張しているが、山本、平川、山村の順位を認めていることは、整理前栄町通りの山本熊次の前より酒屋町通りの方が、新栄町従前の福地の宅地より東側の方より土地の評価が高くなつていることを自ら認めているものである。

又被控訴人は山本彦松の商人町七一二番の一の従前の土地の坪当り評価額を八七三、平川光丸の商人町八〇一番の五の従前の土地の坪当り評価額を八五六となつており、新栄町通りに面している山本彦松を高くみていることは新栄町の方が地価が高いことは明らかであるといつているが、それは新栄町通り従前被控訴人の地価が高いことではなく、山本彦松の土地の坪当り評価額が高いことを示しているだけのことにすぎず、それは路線面(標準地坪当り評価)は平川光丸八八五、山本彦松八七三であり、地価は各筆の土地の形状によりそれぞれの修正を受けるもので、平川の従前の土地の形状が間口が狭く奥行が長い等により修正が加わり逓減され八五六となつたのであつて、酒屋町通りが地価が低いと言うことではない。

なお、被控訴人側証人が平川光丸の所有地の側より被控訴人の所有地の側の方が宅地は高価であると証言しているが、これは火災後の復興した現時点における状態と従前のそれとを混同したものである。

土地区画整理により新栄町通りは五米を一六米に拡巾され歩道が設置され主要道路となり従前の巾員五米の道路とは格段の差を生じた。

昭和四〇年の福岡国税庁の評価によると被控訴人の従前の土地で現在山村チノの仮換地となつている土地が福江市の最高の路線価となつているが、この国税庁の評価は昭和四〇年度の復興となつた現時点のものである。これは復興土地区画整理事業の効果によるものであつてこのことによつて被控訴人の従前の宅地の評価が高かつたと主張することは誤りである。

また、才津惣太郎に対し被控訴人よりも優位の位置に仮換地を指定したことについて合理的理由は全くないといつているが、土地は形状的な凸凹が少い程土地利用上良いことは衆目の認めるところで、才津に対する仮換地を被控訴人に対する仮換地の中のどの位置に指定しても凸凹な形状となる、さりとて従前の位置より遠く離して換地することは不当となるところから双方の利害を総合勘案し、才津惣太郎に対する仮換地を現在の位置に指定したものでこれによつて被控訴人の換地は整然とした形状となり従前の土地の形状に比して多大の価値を増したということができる。そのことは西九州一流のデパート佐世保玉屋が此地方に店舗を開設することとなりその敷地を本件換地に選定し既にその建築許可もなされているという事実が実証する。

第五、準備書面四―(3)について

被控訴人は、間口に関し細則第一九条の「宅地の間口が狭少である場合はその利用価値を減殺されるので付表第一一表の間口修正率を路線価に乗じて修正する」との規定の解釈を誤り「間口の狭い宅地は仮換地を指定するに当つて間口を広くし宅地の利用価値を高めようとするにある」とし、あたかも本規定を仮換地の際の間口設定の基準であるかの如く解しているが、これは条文に明らかなとおり間口狭少の路線価修正率についての規定であつて、被控訴人の主張する如く解すべきものではない。

また、被控訴人は間口について不公平だといつているが、平川の従前の間口二、二間に対し仮換地の間口二、八間、一、二七倍山村の従前の間口四、八間に対し仮換地の間口一四、九間とし、三、一倍、山本の従前の間口三、六間に対し仮換地の間口一六、八七間とし、四、六八倍、被控訴人の従前の間口七、二間に対し仮換地の間口一八、〇六間、二、五倍となり、間口比率(従前間口対仮換地間口)では山本、山村、被控訴人、平川の順となるが四者の従前の土地と仮換地後の土地とを単に間口比率のみによつて比較するのは妥当でない、その形状、利用度等総合的に判断すべきもので、その点からみると本件仮換地の間口は、決して不公平でなく、被控訴人の主張は正当でない。

被控訴人はなぜに正面道路の従前の間口のみを主張し、新道(舗装道路巾員八米)に大きな間口ができたことをことさらに目を覆う主張をするのが解釈に苦しむものである。

以上被控訴人の仮換地指定に対しては、従前の宅地に照応した仮換地指定処分をしたもので、近隣の従前の土地の所有者である山本熊次、山村チノ、才津惣太郎、平川光丸と比較しても公正な処分であつて、これが適正を欠ぐという主張は該らない。

第六、最後に付言する。区画整理において頻発する前記第三乃至第五のような苦情は専門的で微妙な価値判断に係ることでその当否を判定する客観的基準を求めることの極めて困難な問題で、これについて一般知識を以て正確な判断を下すことは不能に近く、問題の性質上裁判所の判断に適しないものである。

区画整理法の換地処分に関する規定は此点を考慮して立法せられているもので、換地の適正均衡についての判断は、利権に重大な影響を及ぼすものではあるが、事の性質上法によつて定むる審議会の判断とこれについての監督官庁の裁定に任ぜられ、裁判による判定の外に置かれたものとして、裁判は手続違反以外の理由によつて濫りに換地処分に容喙すべきでない。

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