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福岡高等裁判所 昭和40年(う)300号 判決 1965年6月24日

主文

原判決を破棄する。

被告人を原判示第一の罪につき懲役二年に、原判示第二の罪につき懲役一年に各処する。

原審における未決勾留日数中二三〇日を原判示第一の罪の刑に、七〇日を原判示第二の罪の刑に、それぞれ算人する。

押収にかかる猟銃一丁、(原審押収番号昭和三九年押第一〇九号の一)日本刀一本、(同号の二)ライフル銃一丁、(同号の三)実包四発、(同号の四)薬莢二個、(同号の五)弾倉一個(同号の六)は、いずれもこれを没収する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

よつて記録を調査するに、原判決は、判示第一の(五)事実中、被告人が「昭和三七年四月一七年自動車運転免許試験に合格して、同年五月四日西福岡警察署係官をして、同署備付の免許台帳に吉田富勇が普通自動車運転免許を取得した旨不実の記載をさせた」との所為につき、刑法第一五七条第一項を適用処断していることが明らかである。そこで、自動車運転免許台帳が、刑法第一五七条第一項にいわゆる権利、義務に関する公正証書に該当するか否かについて考察するに、同条項にいう「権利、義務に関する公正証書」とは、公務員が職務上作成する文書であつて、権利、義務の得喪変更に関する一定の事実を証明する効力を有するものを指称し、(最高裁判所昭和三四年(あ)第六〇八号、同三六年六月二〇日第三小法廷判決参照)単に行政事務処理の便宜のために存し、権利、義務の得喪等の証明を目的とせず、法令上公示力を付与されたものといえない公簿は、これに当らないものと解するのを相当とする。そして、本件免許台帳は、所轄警察署において、運輸免許試験に合格した者につき、その写真を所定欄に貼付し、免許種別番号、免許証交付年月日、本籍住所、氏名及び生年月日等を、それぞれ該当欄に記載して保管する公簿であつて、その目的は運転免許に関する諸事実を明らかにし、免許証の更新、再交付等行政事務の適正処理の便益に資するためにあるものと解され、それ自体直接に権利、義務の得喪等を証明する効力を有するものでない(運転免許のあつたことを直接公に証明する効力を有するのは運転免許証そのものである)ので、これを刑法第一五七条第一項にいわゆる権利、義務に関する公正証書に該当しないものと認めるべきである。しかも、判示第一の(五)の事実に対応する昭和三九年一月三〇日附起訴状記載の公訴事実第二の訴因中には、被告人が公務員に対し虚偽の申立をなし、運転免許証に吉田富男が普通自動車運転免許を取得した旨不実の記載をさせた点も当然含まれるものと解され、この点について訴因の変更を要せずして審判可能であると認められるが、運転免許証は刑法第一五七条第二項にいわゆる免状又は鑑札の範ちゆうに属するものであることが明らかであるから、結局被告人の右所為は、同条第二項に問擬すべきもの、(なお所論中、被告人の右所為は単に旧道路交通法第一二〇条第一項第一五号に問擬すべきであるとの点については、前記起訴状において、被告人が偽りその他不正の手段により免許証の交付を受けたとの訴因を明示していないので、被告人の所為につき刑法第一五七条二項の免状等不実記載の罪の成立が認められる以上、単に右道路交通法違反罪に問擬すべきであるとの見解には到底賛同し難い)というべきである。してみると、原審が被告人の右所為を刑法第一五七条第一項に問擬したことは、畢竟同条項の解釈適用を誤つたものというのほかなく、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、この点において破棄を免れない。論旨は結局理由がある。<以下―省略>(岡村次郎 天野清治 山本茂)

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