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福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)974号 判決 1967年10月12日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人に関する部分を取消す。控訴人に対する被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴代理人において「仮に被控訴人と訴外久本間の本件油絵の売買契約が無効であるとしても右久本と控訴人間における右油絵の売買を無効ならしめる如き要素の錯誤は存しないので被控訴人が久本を代位して控訴人に対し油絵代金の返還を請求しうる理由はない。」と述べた。

証拠(省略)

理由

当裁判所の判断は事実認定の資料として成立に争いのない乙第二号証の一、二当審における証人久本常男の証言及び被控訴本人尋問の結果を加え、次の判断を附加する外は、原判決理由の説示判断と同一であるからこれを引用する。

(一)  原審における被告久本常男本人尋問の結果及び当審における証人久本常男の証言によれば、訴外久本は控訴人から藤島武二筆と称する油絵を買受けるに際し、右油絵が高価なものであるため控訴人に対し特にそれが真作に間違いないものかどうかを確かめたところ、控訴人は「自分も高く買つている」といつて暗に真作であることを保証し、贋作の場合には引取ることを約したこと、古賀春江筆と称する油絵については右久本においてそれが贋作ではないかとの疑いを抱いたが、控訴人が右油絵の持主について説明し、それが真作に間違いない旨を告げたので久本もその言を信じてこれを買受けたことが認められ、原審及び当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難い。

右の事実に前記引用にかゝる原審認定の諸事実を綜合すれば訴外久本と控訴人問の本件油絵二点の売買においては、右油絵がいずれも真作であることを売買契約の要素としたものと解するのが相当である。

(二)  控訴人は、右売買につき久本に重大な過失があると主張するが前記久本常男の供述によれば、久本は本件売買以前にも数回控訴人より絵画を買受けたが、これまでに贋作として問題になつたことはなかつたことが認められ、また成立に争いのない乙第三号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば地方においては絵画の真贋を鑑定しうる専門家を得難いことが認められるので、本件売買に際し久本が控訴人の言を信じたのみで他に専門家の鑑定を受けなかつたことをもつて同人に重大な過失があつたものということはできない。

してみれば原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条本文第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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