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福岡高等裁判所 昭和38年(ラ)178号 決定 1964年2月28日

抗告人

三池炭鉱労働組合

右代表者組合長

宮川睦男

右代理人弁護士

諫山博

三浦久

松本洋一

相手方

三井鉱山株式会社

右代表者代表取締役

栗木幹

右代理人弁護士

鎌田英次

松崎正躬

村田利雄

古川公威

橋本武人

青山義武

高島良一

渡辺修

竹内桃太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告申立の趣旨は、「原決定を取消す。抗告人と相手方との間において原決定別紙記載の労働協約の条項が有効に存在することを仮りに定める。抗告費用は相手方の負担とする」との裁判を求める。というのであり、その理由は別紙に記載したとおりである。原審は抗告人が昭和三五年一二月二労働協約に関して相手方と協定を締結した経過並にその協定内容に関する事実及びその後相手方より抗告人に対して抗告人主張の如く昭和三六年一月三一日昭和三七年一月三一日、昭和三八年一月三一日の三度に亘り前記協約の更新並に効力に関する条項に基いて協約改訂の意思表示がなされたが前二回のそれについては、同時又はその後に示された改訂案にも原決定別紙条項(以下本件協約条項と称す)に関するものはなく、最後のそれについて相手方は昭和三八年二月一六日及び同月一八日の両日、本件協約条項に関する改訂案を含める意思の下に抗告人に対して企業再建案を提示した事実を原決定理由第二の一の(一)乃至(三)のとおり一応認定し本件協約条項は、昭和三八年一月三一日付を以て相手方より改訂の意思表示がなされるまでは、協約第七六条による更新条項の適用により有効に存続しており、かつ、右意思表示は、同条付記の諒解事項の要件をみたすか否かの点は別として同条にいう協約改訂の意思表示に該当し、かつ、同条所定の協約改訂申入期間内になされたものと判断しているのであつて、記録中の疏明資料により原審が一応認定した右事実は疏明されるし、かつ、これに基く原審の右判断も正当である。

抗告理由第一点、協約改訂案の提示がなかつたとの主張について。

労働協約の当事者において協約条項の改訂をなすにつき改訂案を提示するには、協約において、とくにその方式を定めない限り、改訂すべき協約条項とその改訂内容を相手方が理解し得る程度に明示してこれを告知すれば足り、現存の協約条項の如く、とくに成文化されたものであると否と、また本件の如く会社の再建計画案に含めてなされると否とは問うところでない。と解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記の如く相手方は、昭和三八年一月三一日抗告人に対してなした協約改訂申入の改訂案として同年二月一六日及び同月一八日の両日に亘り本件協約条項に関するそれを含める意思の下に抗告人に対し企業再建案を提示したものであるが相手方提出の(疎明資料)を綜合すると、相手方は昭和三五年一二月いわゆる三池争議として全国に宣伝された長期争議が漸く終結して生産再開を見るに至り、一時生産は上昇したが、その後における石炭需要の減少、炭価切下、等に因り経営上の赤字が著しく増大し、一方政府においても石炭鉱業の近代化、合理化等に関する基本対策の必要を認め、石炭鉱業調査団の答申に基き、昭和三七年一一月閣議で石炭対策要綱を決定したことから、相手方においても、これに即応して一部閉山を伴なう企業再建に踏切ることとなり右再建計画の一環として本件協約条項の改訂を含む労働協約の一部改訂案を立案した上昭和三八年一月三一日の前記協約改訂申入に伴う改訂案を含める意思の下に前記の企業再建案を抗告人に提示したこと、右再建案中には、原決定五枚目裏(1)乃至(3)に説示する如く成文化されたものではないが、本件協約条項の各本条について協約改訂を望む意思とその改訂内容が書面上明らかにせられており、かつ、同年二月一八日相手方は抗告人に対して前記再建案を提示した後これに引続き右再建案について抗告人と団体交渉をなした際、企業再建のため再建計画の一環として本件協約条項を含む労働協約の改訂を必要とすること、及び該改訂案の内容について説明をなした為、抗告人においても会社側の本件協約条項改訂の意思並に改訂内容を知り得たことが窺える。原審における抗告人の代理人三浦久審尋の結果中これに反する供述部分は、信用し難い。してみると、右再建案が一面企業合理化のための計画案であるとしても、同時にその内に右労働協約改訂の意思を含むものである以上、同案の提示によつて労働協約第七六条の諒解事項にいう改訂案の提示がなされたものというに妨げなく、かつ、本件協約条項を含む協約全般の改訂内容が明かにされているのであるから、これを以て純然たる企業合理化のための提案であつて、労働協約の改訂案の趣旨を含むものでなく、改訂案は全体として明示されていなかつたとの抗告人の非難はあたらない。<中略>

抗告理由第二点、改訂案の提示が時期に遅れた、との主張について

昭和三八年一月三一日相手方より抗告人に対しなされた本件労働協約改訂の意思表示は、改訂案の提示を伴わず、同年二月一六日及び同月一八日の両日に同案の提示がなされたことは前記に認定したとおりであるから、右意思表示は、抗告人主張の如く「協約改訂の意思表示を行なう場合は、改訂案を同時に提示しなければならない」という本件労働協約第七六条の諒解事項に反することは明らかである。しかし右諒解事項は協約改訂の意思表示と改訂案の提示とを同時になさしめることによつて協約改訂の意思を確実ならしめ、一面改訂案の審議が期間満了に間に合わない為生ずる無協約状態をなるべく避けんとする意図の下に設けられたものと解するのが相当である。もとより同条がさらに改訂案の提示に併せて期間満了の二ケ月前に協約改訂の申入をなすべきことも要求しているのは、その間に改訂案につき研究調査し、これを審議するに必要な期間を見込んだものとみるべきであるが、二ケ月前というのはあくまでもいわば一応のめどであるに止まり、抗告人主張の如く右期間に絶対的な意味をもたせるのは相当でない。従つて以上説示した前記諒解事項の趣旨に照せば改訂案の提示を伴わない協約改訂の意思表示もこれを以て当然無効と解すべきではなく、原決定に説示するように改訂案提示の遅れた事情がやむをえないものであり、かつ、遅延期間も改訂案の審議に著しい影響を及ぼす程のものでない場合には改訂案の提示は必ずしも協約改訂の意思表示と同時でなくても足りると解すべきである。これと異る抗告人の所論は独自の見解であつて採るを得ない。この点の抗告理由はすべて理由なきに帰する。

抗告理由第三点、改訂案提示の遅延を正当づける合理的根拠なし、との主張について。

当裁判所が本件における改訂案提示の遅延についてはやむを得ない事情がある。とする理由は、この点に関する原決定の説示判断(原決定七枚目裏四行同以下八枚目表六行目まで)と同一であるからこれを引用する。抗告人は、原決定が右改訂案提示の遅延をやむをえないものとする事情は、すべて相手方の一方的な事情であり、相手方の準備不十分等に因る責任を抗告人に帰せしめるのは、不当である。と主張するけれども、遅延の事情がたとい協約当事者一方のそれに止るものであつても、真にやむを得ないものであり、とくに労使間の信義に反しない限り遅延につき合理的理由ありというに妨げないばかりでなく。本件疏明資料に徴すれば、抗告人は昭和三八年二月一六日及び同月一八日の両日に本件協約条項を含む協約改訂案の提示を受けた後、これについて同年七月まで一六回に亘つて相手方と団体交渉をなしたが、その間抗告人側は、相手方の右改訂案提示が遅れた事情につき、説明を受け結局これを諒解したことを窺知し得るので、抗告人が今日に至つて右改訂案提示の遅延をとり上げ、これを非難することは信義に反し許さるべきでない。これを要するに抗告理由は採ることができない。

してみると抗告人の抗告理由はすべて理由がなく、その他一件記録を精査するも、原決定にはこれを取消す何等のかしもないから、本件抗告を理由なしとして棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条本文、第八九条を適用して主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 高次三吉 裁判官 木本楢雄 裁判官 矢頭直哉)

≪抗告理由省略≫

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