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福岡高等裁判所 昭和30年(ネ)200号 判決 1955年7月19日

控訴人(原告) 黒木武義 外一名

被控訴人(被告) 国

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等は、適式の呼出を受けながら、昭和三十年六月二十五日午前十時の本件当審最初の口頭弁論期日に出頭しないので陳述したものとみなされた同人等提出の控訴状の記載、並びに被控訴指定代理人の陳述した原審口頭弁論の結果によれば、控訴人等において、「原判決を取消す。熊本地方法務局登記官吏が原判決添付目録記載の土地、建物につき、昭和二十六年六月二十二日訴外小川九八よりなされた所有権移転登記申請を受理し、同日同局受付第六六五一号を以てした所有権取得登記、並びに同登記官吏が同物件につき同年十一月十九日右小川九八、訴外宮本芳熊より為された所有権移転登記申請を受理し、同日同庁受付第一〇七三二号を以てした所有権取得登記の各受理、及び登記々入の処分は、いづれも無効であることを確認する。被控訴人は前項各所有権取得登記の抹消登記の処分行為をしなければならない。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴指定代理人において、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、認否は、

原判決摘示事実と同一であるから、ここに、これを引用する。

理由

当裁判所は、原判決と同一の理由を以つて、控訴人黒木武義の訴、並びに控訴人古屋雅美の訴中抹消登記の処分行為を求める部分を、いづれも不適法と判断するから、右理由をここに引用する。

控訴人古屋雅美の訴のうち登記申請受理の無効確認を求める部分については、登記申請の受理とは、右申請を受附けて、形式的な審査の結果はこれを不適法として却下しないということ、換言すれば登記すべきものだと登記官吏が認めたことをいうに過ぎないので、受理しただけでは何等の法律上の効果をもたらすものでなく、したがつて、行政訴訟の対象となる独立した行政処分とは言えないから、これが確認の利益のないものとして右請求を棄却した原判決は、結局相当である。

次に登記記入処分の無効確認を求める訴の適否について検討する。裁判所法第三条は「裁判所は日本国憲法に特別の定のある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する」と定めて我が裁判権の範囲を明かにし、行政事件訴訟特例法は、行政庁の違法な処分の取消または変更に係る訴訟のほかその他公法上の権利関係に関する訴訟の手続を定めているのであるのであるから、特に反対の規定のない限り、いかなる行政処分と雖も、公法上の権利関係の存否につき法律上の紛争が存在し、その紛争を解決する必要がある場合、すなわち確認の利益がある限り、裁判所は右権利関係の存否を確定し、当事者間の紛争を解決して司法上の救済を与える職責を有するものである。行政庁たる登記官吏の処分については、不動産登記法に異議の規定があるけれども、これ等はいわゆる行政上の救済制度であつて、これあるの故を以つて行政訴訟たる司法上の救済を拒む理由とはならない。又私権に基いて一般の民事訴訟において解決の途があることだけでは、行政訴訟を提起するの利益がないということはできない。裁判所のなす公権的判断によつて、関係行政庁を拘束するのは、行政事件訴訟特例法第十二条に基く効果であり、この結果関係行政庁がいろいろの制約を受けるに至るのは、已むを得ないことである。したがつて、右本訴は適法であるといわねばならない。

そこで、進んで右請求の当否につき判断すると、控訴人古屋の主張するように、委任の解除をしたからというて、登記官吏は登記申請について、形式的な審査権限を有するだけであるから、その解除の適否等の実質的な内容に立入つて審査をする権限はない。委任状と委任状に押捺してある印鑑の有効な印鑑証明書とを持参して登記を申請する限り、委任者が受任者に右の書類を交付した後登記申請迄の間に、解除の通知が登記所に到達しようと改印届があろうと、それにはかかわりなく、登記官吏としては、これを受理して登記しなければならないものであり、したがつて右形式的審査権限を犯さない限り、行政処分たる右登記行為は何等瑕疵のないものであり、有効なものである。(したがつて、実体上解除が有効で権利が移転せず、私法上の訴訟では右登記が抹消せられるべき運命にあつたからというて、そのことと、行政処分が有効に成立することとは別問題であり、それは形式的審査権限の窓を通してのみ登記という行政処分が有効であるかどうかを判断しなければならない制約に基づくものである。)だから、右控訴人の主張自体において本件登記々入なる行政処分が登記官吏の形式審査義務に違背したものということはできず、何等瑕疵のないものであるから、右行政処分の無効確認を求める請求は失当であり、右請求を棄却した原判決はその理由を異にするけれども結局相当である。

よつて、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第九十三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 泰亘)

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