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福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)110号 決定 1955年2月17日

抗告人(申立人) 亀甲証真

相手方(被申立人) 熊本国税局長

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告理由は、抗告人の提出に係る別紙準備書面に記載のとおりである。

国の徴税処分は、国が公権力で私人の財産をとり上げる手続であるから、対等の関係にある私人相互の不動産取引とはその本質を異にし、したがつて私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法第百七十七条の規定は公売処分の場合には適用されないとの、見解もありえようが、徴税処分として行われる不動産の差押、公売も、一般私法上の債務名義に基づく強制執行も、ただ差押の基本債権に公私の別があるだけで、その本質は異らないものと解するのが相当であるから、前者の場合にも、民法第百七十七条の規定を類推適用するのが相当である。けだし、租税債権を一般私法上の債権に比して特に不利益な取扱をしなければならぬ理由を見出し難いからである。しかして、抗告人が、本件差押前に債務者たる高柳健次から本件差押不動産の譲渡を受けていたとしても、その所有権取得登記を得ていないことは、抗告人の自認するところであるから、右所有権取得を以て、本件差押債権者に対抗できないこと明かである。次に、抗告人は、右譲渡の事実は、本件差押前既に差押債権者において知つていたし、又本件差押債権も時効等によつて消滅しているのであるから、国は最早民法第百七十七条にいわゆる登記欠缺を主張するに正当利益を有する第三者に該当しないというかのような主張をするけれども、それ等の事実は抗告人の疎明しないところであるばかりでなく、その余の主張事実と共に、主張自体失当を免れないし、その他本件記録を精査するも原決定に何等の違法はない。

しからば、原決定が、抗告人の本件申立を認容しなかつたのは相当であるから、本件抗告は理由がない。

よつて、民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)

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