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福岡高等裁判所 昭和25年(う)2475号 判決 1951年6月20日

控訴人 被告人 日高彌吉 外五名

弁護人 鶴田英夫 牟田真

検察官 長富久関与

主文

被告人日高彌吉、同小田直治の本件控訴を棄却する。

原判決中被告人山崎末次郎、同西島太助、同日高亀男、同西島三郎に関する部分を破棄する。

被告人山崎末次郎、同西島太助、同日高亀男、同西島三郎を各懲役三月及び罰金一万円に処する。

右被告人等に対してはいずれも本裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

右被告人等が右罰金を完納することができないときは金二百五十円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

押収に係るさばの換価金一万三千二円は被告人等からこれを没収する。

理由

被告人日高彌吉、山崎末次郎、西島太助、日高亀男、西岡三郎弁護人鶴田英夫及び 被告人小田直治弁護人牟田真の控訴の趣意は何れも各弁護人が提出した控訴趣意書記載の通りであるからここにこれを引用する。

鶴田弁護人控訴趣意第一点について。

原判決は司法警察官作成の現行犯人逮捕手続書のみによつて直ちに犯罪事実を認めたのではなく同手続書の記載によつて認められる「被告人等が他の被告人等と共に昭和二十五年四月二日上県郡峰村大字佐賀沖合海上で漁獲物を積載航行中漁業法違反の現行犯人として逮捕された事実」を他の原判決摘示の差押調書及び司法警察官、検察官の被告人等に対する訊問調書等と綜合して犯罪事実を認定しているものと解すべく、右認定事実を被告人等の自白の補強証拠とすることは何等妨げるところではないから原判決の採証の方法は何等違法ではなく、論旨は理由がない。

同上第二点について。

記録に編綴してある現行犯人逮捕手続書の記載内容を精査すれば、同書面は当事者に於て証拠とすることに同意したものであるから刑事訴訟法第三百二十六条により 犯罪事実そのものを証明する資料に供し得る証拠書類たり得るものと認められるのみならず 同書面四の部分も単なる意見の記述ではなく司法警察官が実況を見分した状況を記載したものであるから犯罪事実認定の資料とするに何等妨げのないものである。論旨は理由がない。

同上第三点について。

水産動植物の蕃殖保護をはかることは、水産業のために必要なことであるから、これを濫獲し又はこれが蕃殖を妨げるような手段でこれを採捕することは公共の福祉の要請として当然である。漁業法が爆発物又は有毒物を使用して水産動植物を採捕するのを禁止したのは右の趣に出たのである。そこで漁業法第六十八条は、水産動植物を採捕する目的で爆発物を使用し採捕の方法を講じた以上実際にこれを採捕したと否とを問わず同法違反の犯罪を構成するものと解する。そうしてこのような禁止の効果を確実にし取締を徹底させるためには右のような採捕の行為を禁止するのみならず、この禁止を犯して採捕した水産動植物を所持することをも禁止し処罰する必要がある。そこで漁業法第七十条は他人が水産動植物採捕の目的で爆発物を使用したため浮んできた魚類を採捕所持することをも禁止する趣旨と解すべきである。かかる場合は、本犯を利せず腐敗すべき資源の利用になるという見方もあるがこれを全体として高い立場から見ればかかる行為をも禁止することにより初めて完全に水産動植物の蕃殖保護という公共の福祉をはかることができるのである、原判決は漁業法第六十八条第七十条を叙上のように解釈し被告人等が判示日時場所に於て何人かが採捕の目的で爆発物を使用したため死んで浮んださば(数量省略)をその事情を知り乍ら採捕所持したものと判示したもので原判決挙示の証拠によれば右事実は優にこれを認め得るから論旨のような違法はない。

同上第四点及び牟田弁護人の控訴趣意について。

記録を精査し所論の事情を考慮するとき被告人日高彌吉同小田直治については 原判決の科刑は不当といえないから論旨は理由なく、刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却すべきであるが、被告人山崎末次郎、西島太助、日高亀男、西島三郎については原審の科刑は重きに過ぎ量刑不当と認められるので 同被告人等に関する部分については刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄すべきものとする。そして当裁判所は本件記録及び原裁判所に於て取調べた証拠により直ちに判決することができるものと認められるので刑事訴訟法第四百条但書により次のように自判する。

原判決の認定した事実に法律を適用すると 同被告人等の判示所為は漁業法第七十条第百三十八条第六号に該当し同法第百四十二条に則り懲役刑及び罰金刑を併科しその刑期並に罰金の範囲内で同被告人等を主文第三項の刑に処し 刑法第二十五条、第十八条、漁業法第百四十条に則り主文第四、五、六項の通り定める。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 筒井義彦 判事 安東勝 判事 池田惟一)

弁護人鶴田英夫の控訴趣意

第一点被告人等に対する原審第一回公判において、検察官は「証拠に依り証明すべき事実は、(一)被告人等が他の被告人等と共に昭和二十五年四月二日上県郡峰村大字佐賀沖合海上で漁獲物を積載航行中 漁業法違反の現行犯人として逮捕された事実、(二)(中略)であると述べ、前記(一)の事実につき、一、司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書一通(中略)の各取調を請求し」、被告人等及び弁護人は「右書面を証拠とすることに同意し証拠調には異議なし」と述べて居る。即ち検察官は右司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書によつて証明すべき事実は、被告人等が漁獲物を積載航行中漁業法違反の現行犯人として逮捕せられた事実であるとして証拠調の請求を為し、被告人等及び弁護人は、同趣旨において、その証拠調の請求に異議なくこれを証拠とすることに同意して居ることは明瞭である。然るに原判決は、右逮捕手続書を被告人等の犯罪事実即ち何人かが爆発物を使用した為死んでいたさば二百三十六貫四百匁を その情を知りながら拾いあげて不法に所持していたとの事実認定の証拠に供している。よつて原判決には第一、右逮捕手続書の記載を、要証事実として陳べられた事実以外の犯罪事実認定の証拠とした違法がある。第二、被告人等及び弁護人が、判示犯罪事実証明のための証拠とすることに同意していない書面を、法律上の根拠なくして犯罪事実認定の証拠に供した違法がある。而して右は、他の証拠と綜合して犯罪事実認定の証拠としたものであり、且犯罪事実に関する他の証拠は被告人等の自白のみであるから、いずれも判決に影響を及ぼすものであることは、明らかである。

第二点原判決は、「司法警察員の作成にかかる現行犯人逮捕手続書中一乃至五の記載」を、犯罪事実認定の証拠に供している。しかしながら逮捕手続書は、訴訟手続上の所謂報告文書に属するものと謂うべく、刑訴第三百二十一条乃至第三百二十七条において証拠とすることの許された書面でないから、これを犯罪事実認定の証拠とすることは、刑訴第三百二十条に違反するものと思料する。殊に右逮捕手続書中の四には作成者である司法警察員の、犯罪構成要件たる事実(特に本件魚が爆発物を使用して魚獲したものであるとの客観的事実)に関する意見判断が記載せられて居り、この記載内容の点だけから見ても、これを証拠として犯罪事実を認定したことは違法というべきである。

而して、右記載内容に徴し右の違法が判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。

第三点原判決は、被告人等が共謀の上「何人かが爆発物を使用した為死んで浮んでいたさば二百三十六貫四百匁をその情を知り乍らその時自己等が乗つていた漁船大洋丸に拾ひあげて同船内に蔵置し以て不法にこれを所持していた」との事実を認定して、漁業法第七十条、第百三十八条第六号を適用処断している。

ところで漁業法第六十八条には「爆発物を使用して水産動植物を採捕してはならない」と規定し、同第七十条には、「前二条の規定に違反して採捕した水産動植物は所持し又は販売してはならない」とあるから、第七十条は概念上所謂事後犯の規定であつて、本犯の成立を条件として成立する犯罪であることは明らかである。而して本件のさばは、右判決の認定によれば「何人かが爆発物を使用した為死んで浮んでいた」とあり、又被告人等が海から船に拾いあげたというのであるから、何人かが爆発物を使用した為め死んだものではあるが、その何人かが採捕したものでないことは明らかである。従つて、被告人等は、何人かが採捕したものを所持したことにはならないのである。又第六十八条の未遂犯はないので、仮に同条を広義に解して、採捕の目的で爆発物を使用して水産動植物を死なせただけで同条の犯罪が成立するものだと解しても原判決には、何人かが「採捕の目的で」爆発物を使用した為め死んでいたものであることの認定はないから、爆発物を使用した何人かが第六十八条の罪を犯したものと理解することもできないのである。いづれにしても原判決の認定説示では、被告人等が右のさばを所持したからとて、他人が第六十八条の規定に違反して採捕した水産動植物を所持したことには当らないわけである。

刑法所定の賍物罪では、被害法益は財産権だと解せられている。即ち賍物の回収を不能若しくは困難ならしめる罪であるというのが通説であるが、一部の学説は、本犯に便宜を与えないことを利とする社会の公益が被害法益だとしている。ところが漁業法第七十条の犯罪については、第六十八条及び第六十九条が無主物を対象とする犯罪である関係上、財産権を被害法益とする観念は容れる余地はなく、専ら本犯に便宜を与える犯罪であると解すべきであろう。即ち本犯の防止が第七十条の根本精神と謂はねばなるまい。だとすれば、一旦本犯の所持に属した上、本犯が占有を移転することに因つて始められた他人の所持や販売行為のみが、本犯に便宜を与え得るのであつて、未だ本犯の占有に帰せないで海上に浮んでいるものを、本犯と意を通ずることなくして取得した者の所持や販売は、本犯を益するどころか却つて本犯の目的を妨ぐる行為であるから、後者を処罰することは第七十条の意図するところでないことになる。又本犯が取得を断念したものや気が付かないものはこれを放任して置けば腐敗するだけで何等益する者はないに反し、人が拾い取れば多かれ少かれ社会に役立つのであるから、拾つて所持することを禁ずる利益はない点から観ても第七十条はこれをしも禁ずる趣旨だと解する必要はないであろう。

第七十条の法意を右のように解すれば、「前二条の規定に違反して採捕した水産動植物は」の前述文理解釈とも一致することになるのである。要するに原判決は、叙上の意味において、第七十条適用の根拠たる事実理由不備の違法か、若しくは、同条の解釈適用を誤つて無罪たるべきものを有罪とした違法があるものと思料する。

第四点被告人等が有罪であるとしても、原判決の量刑は、証拠によつて認められる左記事情に徴し甚だしく不当であると思料する。

一、被告人等は、いずれも居住地附近で漁業に従事する者であるが、近海で例年獲れるカナギがその漁期に入つても来游せぬため収入の途がないのに、対馬方面では鯖の盛漁期であり、又アズも相当獲れて居ると聞いて、慣れない海域ではあるが背に腹は代えられず、何とかなるだろうとの淡い期待を以て、鯖網とアズ網を準備して出漁したものである。

二、対馬で偶然小田直治と知り合い、同人が慣れない被告人等を誘導して呉れることになり、同人の勧告で畑前善六も乗込ましめ、出漁の日時はもとより漁場も漁法も一切同人等任せで行動する外致し方はなかつたのである。而して被告人等は同人等の指示する漁場に航行し、海面に死んで浮んでいる多数の鯖を、同人等の指図に従つて拾いあげたのである。被告人日高彌吉は小田直治に遇うた時、鯖やアズの漁場を尋ねたことから、小田が畑島と共に乗込むことになつて、同人等が漁場に案内した事実と、夥しい数の鯖が死んで浮いて居るのを網まで入れて曳きあげるような大胆なことが他処から来た漁師などで到底出来る芸当ではない事実とから、被告人等としては、全く右両名の指揮下にあり、謂わば同人等の不法目的のため利用せられたものであることが推測できるのである。

三、被告人等は違法行為によつて棲息魚類を捕獲したものではなく、既に死魚となつて浮いていたものを拾いあげたのである。このような現場に臨んだ場合、咎める人がなければ一尾でも多く拾いたいというのは人情の然らしめるところである。況んや放つて置けば腐敗して流れ去つて了うのは自明の理であり、拾つたからとて他人に何等の迷惑も損害も及ぼさないのである。結果から見ても、社会のため重要な蛋白資源を確保することができたのであつて、犯罪としての処罰価値は極めて少い。

四、被告人等は、いずれも格別の資産を有せず 且多数の家族を擁して漁村の不況に辛うじて生計を立てて居る純朴な人達であり、日高彌吉は本件の船や網を持つては居るが、その資金とした多額の負債を負うて居り、自由刑に服することは勿論三万円という罰金を科せらるることは、夫々一家の破滅に値する苛刑である。(日高彌吉の警察第一回供述調書七、八項、七三丁、同身上調書、山崎末次郎の警第一回供述調書六、七項、八八丁、目同身上調書、西島太助の警第一回供述調書六、七項、九八丁、同身上調書、日高亀男の警第一回供途調書七、八項、一〇七、七〇八丁、同身上調書、西島三郎の警第一回供述調書六、七項一一八丁、同身上調書等参照)

五、改悛顕著であることは、被告人等の各供述書に明らかであるが、検挙以来痛心、兢々として謹慎して居るのである。

違法漁獲物の所持、販売等を禁ずる法の精神は、違法漁獲の防止にあるのであるが、被告人等は違法漁獲をした者から所持を得たのではないから、実質上毫もそれ等の者に便宜を与えたものとは認められないのみならず被告人等を誘導して此処に到らしめた小田、畑島の両名と同刑若しくは重き刑を科することは甚だしく刑の権衡を失するものである。

(その他の控訴趣旨は省略する。)

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