大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1141号 判決 1950年8月31日

被告人

中村光義

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役五月に処する。

但しこの判決確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人堤牧太の控訴趣意第二点(虚無の証拠で事実の認定)について。

成る程所論のように原判決は被告人の行為により被害者堀池が被つた傷害の程度を顔面の右側に長さ十五糎深さ一粍傷と認定しその証拠として村山周吉作成の診断書その他参考人田中敏光外二名の司法警察員に対する供述書及び被告人の検察官に対する供述書を挙示しているが右村山医師の診断書によれば「右前頭より右頬部にかけ長さ十二糎深さ皮下に及ぶ切創」と記載されてあつて傷の長さが十二糎と十五糎とでは傷害の程度に於て相当の差異を生じ犯情に影響することが明らかなるところ、右診断書以外に傷害の程度が原判決認定の通りであると認むべき、証拠資料は存在しない。然らば原判決は証拠によらずして傷害罪における傷害の程度を被告人の不利益に認定したものと言わなければならぬ。従つて爾余の論点に対する判断を俟つまでもなく論旨は理由があるので刑事訴訟法第三九七条に則り原判決を破棄することにする。

(弁護人堤収太の控訴趣意第二点)

原判決は虚無の証拠により傷害の程度を認定した違法がある。即ち原判決は右第一点所論のように被告人の所為により被害者が被つた傷害の程度を「顔面の右側に長さ十五糎長さ一粍」の傷と認定し、その証拠として一、村山周吉作成の診断書二、云々と挙示して居るが、右村山医師の診断書によれば長さ十二糎深さ皮下に及ぶとなり居り、深さが皮下に及べば一粍になることは異論ないが長さ十二糎とは傷害の程度に於て相当の差を生じ直ちに犯情に影響するところ、右診断書以外に傷害の程度が原判決認定の通りであると認むべき資料は存在せないので、結局原判決は証拠によらずして傷害罪に於ける傷害の程度を被告人の不利益に認定したことゝなるので此点に於ても原判決は破棄を免かれないものと信ずる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例