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福岡高等裁判所 平成7年(ネ)583号 判決 1997年4月09日

第五五五号事件控訴人兼第五八三号事件被控訴人

西日本鉄道株式会社

(以下「一審被告」という。)

右代表者代表取締役

橋本尚行

右訴訟代理人弁護士

國府敏男

古賀和孝

第五五五号事件被控訴人(以下「一審原告」という。)

甲野太郎

第五八三号事件控訴人(以下「一審原告」という。)

乙山二郎

右二名訴訟代理人弁護士

横光幸雄

本田祐司

右横光訴訟復代理人弁護士

高木健康

中村博則

主文

一  一審被告及び一審原告乙山二郎の各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、一審被告と一審原告甲野太郎との間に生じた分は、一審被告の負担とし、一審原告乙山二郎と一審被告との間に生じた分は、同一審原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  第五五五号事件

1  審(ママ)被告の控訴の趣旨

(一) 原判決中、一審原告甲野太郎(以下「一審原告甲野」という。)の勝訴部分を取り消す。

(二) 同一審原告の請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも同一審原告の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する一審原告甲野の答弁

(一) 一審被告の控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は一審被告の負担とする。

二  第五八三号事件

1  一審原告乙山二郎(以下「一審原告乙山」という。)の控訴の趣旨

(一) 原判決中、一審原告乙山に関する部分を取り消す。

(二) 同一審原告が、一審被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

(三) 一審被告は、同一審原告に対し、平成二年一〇月二三日から本裁判確定に至るまで毎月二三日限り月額七四万一三七七円の割合による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

(五) 仮執行宣言

2  控訴の趣旨に対する一審被告の答弁

(一) 一審原告乙山の控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は同一審原告の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決「第二 事案の概要」(二枚目裏二行目(本誌本号<以下同じ>59頁1段4行目)から五枚目裏末行(59頁4段33行目)までに記載)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏七行目(59頁2段17行目)から八行目(59頁2段17行目)にかけての「営業部」を「業務部」と改める。

二  原判決五枚目裏初行(59頁4段14行目)「原告」を「一審原告ら」と改める。

三  原判決一五枚目裏末行末尾「時」を「とき」と改める。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の原審及び当審の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所の判断は、次のとおり補正するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」(六枚目表二行目(60頁1段2行目)から一二枚目表初行(61頁4段8行目)までに記載)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表三行目(60頁2段7行目)「<証拠略>」を「<証拠略>」と改め、同行目(60頁2段7行目)「<人証略>」の次に「<人証略>」を加え、同裏六行目(60頁2段32行目)「手許」から「保管したまま」までを「再度返却ボタンを押したが、百円硬貨が戻らなかったので、両替器が故障したものと判断し、手取りした九二〇円を後の降車客用の釣り銭として手許に保管しようと考え、右九二〇円を回数券袋に入れて」と改める。

2  原判決八枚目表二行目(60頁3段14行目)「故障が多く」を「故障することがあり」と、同五行目(60頁3段19行目)「営業部付係長柴藤隆司は、」を「業務部付係長柴藤隆司(以下「柴藤」という。)は、右テストで両替器に異常がなかったことなどから、両替器故障の事実はなかったとの前提に立って(右調査の過程で、Oら乗客から事情聴取をして、一審原告甲野が申し立てていた両替器故障の事実の裏付けの有無を確認することが可能であったにもかかわらず、柴藤は、両替器故障の事実はなかったとの先入観から、その必要性はないとして右確認をしていない。)、」とそれぞれ改める。

3  原判決九枚目裏二行目(61頁1段7行目)「得ない」から同三行目(61頁1段10行目)までを「得ない。本件手取行為の場合、原審(人証略)の各証言に照らし、乗客のOが両替をした際、両替器が故障し両替ができなくなったことは動かし難い事実であり、右指摘のような同一審原告の不自然な行動をもって直ちに同一審原告に運賃横領の意図があったものと推認するのは困難であるというべきである。」と改め、同行目(61頁1段10行目)の次に改行して次のとおり加える。

「一審被告は、一審原告甲野には、過去にも横領の意図で運賃を手取りした事実があり、これに照らせば、同一審原告の本件手取行為は、横領の意図でなされたものであることが明らかであると主張するので検討するに、証拠(<証拠・人証略>)によると、次のとおり認められる。

(1) 平成二年五月一五日、一審被告自動車局業務部事務員(巡回指導班所属)土生正章が乗務指導のため一審原告甲野乗務の天神一三時三〇分発飯塚行きバスに乗車していたところ、同一審原告が飯塚降車場で降車客の取扱中、千円札の両替を申し出た乗客に対し、両替金包をそのまま乗客に渡すべきであるのに、ビニール袋に入れていた両替金包を自ら破って両替金の一部のみを乗客に渡した(なお、運賃分の残りの両替金及び千円札がどのように処理されたかは確認されていない。)。また、続いて千円札の両替を申し出た土生に対しても、両替金包を自分で破り、釣り銭の三〇〇円のみを渡して運賃の端数二〇円を投入するよう指示し、運賃分の残りの両替金七〇〇円と千円札を右ビニール袋に入れて発車した。

(2) 平成三年五月一二日、一審被告自動車局業務部事務員(巡回指導班所属)田頭誠一は、後藤寺バスセンター待合所で乗務指導のため待機中、一三時三二分ころ到着した一審原告甲野乗務のバスにおいて、同一審原告が最後の乗客から運賃(硬貨)を手取りしたのを目撃したが、右手取運賃の行方は確認されていない。

(3) 同年六月一五日、一審被告自動車局業務部事務員(巡回指導班所属)島田正春は、勤務明けで帰宅のため、一審原告甲野乗務の博多駅交通センター一六時四七分発田川行きバスに乗り合わせたが、飯塚バスセンターで同一審原告が降車客の一人から硬貨を左手で取り、右手に移して手取りしたのを現認したが、同一審原告は、島田が降車するまで右硬貨を運賃箱に投入しなかった。(なお、右各手取行為については、現認した指導員から異状報告書が提出されており、柴藤は、一審原告甲野について再調査する必要があると考えて、平成三年六月二二日同一審原告乗務の三八五八号車に西原指導員を乗り込ませたものである。)

一審原告甲野の右各手取行為は、いずれも一審被告の定めた運賃収受手順に違反するものであり、同一審原告に横領の意図があったのではないかとの疑いはあるものの、その都度同一審原告からの事情聴取を含む調査がなされていないため、手取りした金員が最終的に運賃箱に投入されなかったのかどうか等の詳細な事実関係が明らかでなく、同一審原告に横領の意図があったものと断定することは躊躇される。

したがって、同一審原告が本件手取行為前に右のような手取行為に及んだ事実を考慮に入れた場合、本件手取行為が横領の意図でなされたのではないかとの疑念は残るものの、なお、横領意図の存在の証明は不十分であるといわざるを得ない。」

4  原判決一〇枚目裏三行目(61頁2段16行目)の次に改行して次のとおり加える。

「4 まとめ

以上によれば、一審原告甲野に対する懲戒解雇は無効であるから、同一審原告の本件請求は、同一審原告が一審被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、解雇の日の翌日である平成三年一〇月二六日から本裁判確定の日に至るまで毎月二三日限り月額六五万六二九七円の賃金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。」

5  原判決一二枚目表初行(61頁4段8行目)の次に改行して次のとおり加える。

「一審原告乙山は、一審被告の巡回指導班の摘発の手口は、横領目的のない乗務員に横領の濡れ衣を着せて懲戒解雇するという極めて不公正なものであるから、このような手口によって摘発された乗務員に懲戒処分を課するのは信義則上許されないと主張するが、右信義則違反を基礎付ける事実を認めるに足りず、右主張は採用の限りでない。

3 まとめ

以上によれば、一審原告乙山に対する懲戒解雇は有効であり、同一審原告の本件請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。」

二  以上によれば、原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 古賀寛 裁判官 吉田京子)

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