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福岡高等裁判所 平成6年(ネ)529号 判決 1996年10月23日

控訴人

清松茂

右訴訟代理人弁護士

江口保夫

江口美葆子

豊吉彬

山岡宏敏

被控訴人

藤本貴士

右訴訟代理人弁護士

西清次郎

被控訴人補助参加人

医療法人堀尾会

右代表者理事長

堀尾愼彌

右訴訟代理人弁護士

河津和明

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、金四八七万二〇四〇円及びこれに対する平成三年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用(補助参加費用を含む。)は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人及び同補助参加人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人及び同補助参加人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、原動機付自転車で進行中に控訴人運転の普通乗用自動車に衝突され負傷した被控訴人が、不法行為(民法七〇九条)による損害賠償及び事故日からの遅延損害金を請求したところ、控訴人が、被控訴人補助参加人の経営する病院の医師が被控訴人に施した治療の過剰性や、診療報酬の単価の不当性、過失相殺等を主張して、損害額を争った事案である。

一  争いのない事実

1  控訴人は、平成三年一月二七日午後四時五〇分ころ、普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)を熊本市上水前寺方面から神水本町方面へ向け進行させ、同市水前寺六丁目三七番二八号大銀東ビル先の交差点手前で一時停止標識に従い、一時停止した。このとき、右交差点では、控訴人の進行方向の左前方に車両が渋滞停止していたところ、その後方から来た車両が控訴人の通行可能な余地を残して停止し、控訴人に道を譲った。そこで、控訴人が時速約五ないし六キロメートルで交差点を直進したところ、交差道路を左方から直進してきた被控訴人運転の原動機付自転車の右前部に控訴人車の左前部が衝突し、被控訴人は転倒して、右脛骨腓骨開放骨折の傷害を負った(以下「本件事故」という。)。

2  控訴人は、信号機のない右交差点を横断するに際し、交差する道路が渋滞していたのであるから、左方からの車両の有無を確認すべきであったのにこれを怠った過失により右事故を発生させた。

3  被控訴人は、前記傷害の治療のため、被控訴人補助参加人経営の熊本託麻台病院(以下「訴外病院」という。)に、平成三年一月二七日から同年五月二日まで入院し、同月三日から平成四年三月二四日まで通院し(実日数三日)、同月二五日から同年四月七日まで入院した。

4  控訴人と被控訴人は、平成三年六月、被控訴人の物損について被控訴人に一割の過失相殺をすることで示談した。

二  争点

1  被控訴人が同補助参加人から受けた治療は過剰なものであったか。すなわち、担当医師の骨髄炎の診断の適否、抗生物質投与の期間及び量の適否、平成三年三月二五日から同年五月二日までの入院の必要性。

(控訴人の主張)

被控訴人は、平成三年一月二八日骨髄炎と診断されているが、骨髄炎との確定診断をなすに足りる検査結果は得られていない。したがって、同月二七日から同年二月一八日まで行われた被控訴人に対する抗生物質の投与は感染症の予防目的と把握されるところ、治療目的での使用量が投与されており、しかも一般的基準を超える量の投与がなされている。被控訴人は、同年三月一八日から三日間通学しており、そのころ通院可能な状態にまで回復していた。

(被控訴人及び同補助参加人の主張)

骨髄炎は、初期治療に当たった担当医の立場から総合的判断により付された診断名であり、確定診断ではない。抗生物質投与は予防的なものではなく、治療に対し有効であったし、投与量の一般的基準は、成人に対する標準的用量を示すにすぎず、患者の状況を総合的に判断した結果、増減した量を投与するのは当然である。被控訴人の実家は天草町にあり、被控訴人は熊本市内に下宿していたものであるが、下宿先からの通院には長時間を要するので、下肢障害者である被控訴人にとって通院は困難であった。なお、診療の程度、内容については、明らかに不要、不当な場合は別として、相当の範囲で医師に裁量権があるところ、本件で不要、不当な診療はない。

2  被控訴人の診療は、社会保険診療によりなされたものか、自由診療によりなされたものか。すなわち、被控訴人の同補助参加人に対する、社会保険による診療を受ける旨の意思表示の有無。

(控訴人の主張)

被控訴人の父である藤本恵三(以下「惠三」という。)が、被控訴人補助参加人に健康保険被保険者証(以下「被保険者証」という。)を提示して社会保険診療を申し出たことにより、診療開始時に遡って、被控訴人補助参加人には被控訴人に対する健康保険法上の医療の現物給付義務が発生し、被控訴人には給付を受けたときから同法に定める患者負担分(医療費全額の二〇パーセント)の支払義務が生じた。したがって、控訴人は、被控訴人の右支払義務と同じく、一点単価一〇円に対する一〇分の二である二円の支払義務を負うにすぎない。

(被控訴人及び同補助参加人の主張)

保険診療契約成立のためには、被保険者証の提出だけではなく、当事者間に右契約を成立させるとの意思の合致が必要であるところ、本件では右合致を欠いている。

3  自由診療の場合の診療報酬額は保険診療の単価によるべきか。

(控訴人の主張)

健康保険法の診療報酬体系は、一般の診療報酬を算定する基準としての合理性を有するから、自由診療における診療報酬についての合意を欠く場合の診療報酬額算定の基準とされるべきであって、本件においても一点単価を一〇円とすべきである。また、本件では、医学水準、医学常識により認められた独自の先進的療法等による修正すべき診療は行われていないから、健康保険法の診療報酬体系を基準とするのが相当である。なお、地域医療機関の医療費の一般水準を基準とすることは、独占禁止法違反の医師会決定の単価を基準とするものであるから、法令違反のそしりを免れない。

(被控訴人補助参加人の主張)

被控訴人と同補助参加人間には、自由診療における一点単価を二〇円とする合意が存した。また、当時、熊本県内での自由診療の一点単価は二〇円が一般的であった。

4  治療費以外の損害

交通費三万九一五〇円、下肢装具代六万六三七八円、文書代八〇〇円は当事者間に争いがなく、入院雑費、付添看護料、宿泊代、慰謝料、弁護士費用が争いとなっている。

5  過失相殺

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

証拠(<書証番号略>、被控訴人法定代理人惠三(原審)、証人青木了(当審))によれば、次の事実が認められる。

1  被控訴人(昭和四九年二月六日生。当時高校二年生。)は、平成三年一月二七日午後五時ころ訴外病院に搬入され、当直医であった鶴田医師の診察を受けた。同医師は、被控訴人の傷病を右脛骨腓骨開放骨折及び腰部打撲と診断し、デブリードマン(創の清浄化)、縫合、鋼線牽引、抗生物質(パンスポリン)投与等の治療を施し、被控訴人は訴外病院に入院した。同医師は、駆け付けた被控訴人の父に対し、感染の危険性があるのでその治療、検査を行うこと、感染が否定されたら骨接合術を行うこと等を説明した。訴外病院の当時の診療部長青木了医師(以下「青木医師」という。)は、翌二八日、被控訴人を診察し、その負傷の状態から感染を懸念して、骨髄炎に罹患した患者の予後が悲惨であった自己の経験に照らし、初期治療が重要であると考え、診断名に右下腿骨骨髄炎を追加し、炎症検査のためのCRP(C反応性蛋白)試験、ESR(赤血球沈降速度)検査、WBC(白血球数)検査、細菌顕微鏡検査、細菌培養同定検査等の検査を行い、抗生物質投与等の治療を施した。

2  同年二月七日、骨接合術が施行され、鋼線牽引は打ち切られた。同月二一日、骨髄炎の治療が中止された。被控訴人が入院した日から同日までの間の、前記検査の実施とその結果並びに投与された抗生物質名及びその投与量は、別紙経過表記載のとおりである。

3  同月二七日、被控訴人は、PTB(膝蓋腱支持装具)を装着し、松葉杖で歩行を開始したが、やや不安定であった。被控訴人は、三月一八日から三日間訴外病院から通学したが、疲労感、疼痛はなかった。青木医師は、同月二八日には、四月一〇日ころまでに退院可能と認識していた。被控訴人は、四月三日装具を除去し、同月一〇日から再び訴外病院からの通学を始めた。なお、被控訴人は、同年五月二日退院し、同月三日から平成四年三月二四日まで通院し(実日数三日)、同月二五日から同年四月七日までエンダーピン(髄内釘)抜去手術のため入院した(入通院の事実は争いがない。)。

4  一九八八年(昭和六三年)版日本医薬品集によれば、パンスポリンの投与量は、静脈注射及び筋肉注射の場合一日0.5ないし二グラム、点滴の場合一回0.25ないし二グラムであり、セファメジンの投与量は、静脈注射及び筋肉注射の場合一日一グラムであり、コスモシンの投与量は、静脈注射の場合一日一ないし二グラム、重症の場合一日四グラムまで増量とされており、ベクタシンの投与量は、筋肉注射の場合一日0.15ないし0.2グラムとされている。なお、<書証番号略>に添付されている一九九三年(平成五年)版日本医薬品集の記載内容も右と同様である。

ところで、医師の診療行為は、専門的な知識と経験に基づき、患者の個体差を考慮しつつ、刻々と変化する病状に応じて行われるものであるから、臨床現場における医師の個別的判断を尊重し、医師に診療についての一定の裁量を認めることが必要である。したがって、医師の施した診療行為が必要適切なものであったか否かを審査するに当たっては、事後的にいかなる診療行為が必要適切であったかを一義的に判断すべきではなく、当該診療行為が、当時の医療水準に照らし明らかに不合理なものであって、医師の有する裁量の範囲を超えたものと認められる場合に限り、過剰な診療行為であったとすべきものである。

本件についてこれを見るに、まず骨髄炎の診断及び抗生物質の投与については、証拠(<書証番号略>、証人青木了(当審))によれば、開放性骨折が骨髄炎を起こす蓋然性とその場合の危険性を案じた青木医師は、炎症についての検査結果が明確になるまで、骨髄炎の蓋然性を念頭に置き、標準使用量よりも多い抗生物質の投与を行ったことが認められるが、青木医師の右判断が医師の裁量の範囲を逸脱した不合理なものであることを認めるに足りる証拠はなく、診療録(<書証番号略>)に骨髄炎があたかも確定診断名であるかのごとき記載があるのは不適切であるとのそしりを免れないものの、青木医師の右診療行為に不必要、不適切な点があったということはできない。控訴人は、青木医師が、初期感染が明確でないのに、標準使用量を超える抗生物質を投与したのは過剰な治療であると主張するが、前記経緯に照らすと、青木医師の治療行為が医師の裁量を逸脱したものであるとは言い難い。

次に、被控訴人の入院期間の相当性については、証拠(<書証番号略>)によれば、被控訴人の平成三年三月末の回復状況は、骨癒合が不十分なため、不用意な荷重による離開の可能性があり、右大腿や下腿に筋萎縮や筋力低下が見られ、訴外病院内での日常生活動作は自立しているが、歩行は松葉杖で部分荷重の状態であったこと、被控訴人が熊本市内の下宿先から訴外病院に通院するには、バス利用(乗換え一回)に歩行を含めて約一時間一〇分を要し、退院直後の下肢障害者にはかなり困難な通院であること、被控訴人の自宅(肩書地)は学校から一〇〇キロメートル以上の距離があり、バス等を利用しても片道三時間以上を要するので現実的には不可能であったこと、青木医師は、整形外科的には四月一〇日までに被控訴人の退院が可能であると判断していたが、歩行能力、日常生活動作能力、居住環境、家族を含む介護人の存在の有無、通院の難易等を総合的に判断した結果、被控訴人を五月二日まで入院させたことが認められる。右事実によれば、被控訴人の入院は、実際に被控訴人の治療に当たっていた医師の総合的判断に基づくものであって、医師の裁量の範囲内の判断であると認めることができ、過剰な入院であったということはできない。

二  争点2について

証拠(<書証番号略>証人村川博昭、被控訴人法定代理人惠三(いずれも原審))によれば、次の事実が認められる。

1  被控訴人の父である惠三は、本件事故発生日である平成三年一月二七日夜、妻と共に訴外病院に駆け付け、翌日訴外病院の求めに応じて被保険者証を提示したが、控訴人から、任意保険に入っているから安心して治療してほしいと言われていたので、訴外病院事務員にその旨伝えた。惠三は、同年二月初めに再度訴外病院から被保険者証の提示を求められ、その際そのコピーがとられた。

2  控訴人が加入していた任意保険の保険会社である富士火災海上保険株式会社の従業員村川博昭(以下「村川」という。)は、保険金の支払額を抑えるため、同年二月初め訴外病院において、惠三に対し、被控訴人の訴外病院での治療を社会保険による診療として行うよう依頼していたところ、同月二二日現在惠三からの社会保険使用の申出がないとの訴外病院の回答に接し、同年三月四日及び同月一五日、惠三に対し、被害者である被控訴人にも過失があると社会保険を使用した方が被害者の負担が少なくなるからとの理由を挙げて、社会保険使用の申出を訴外病院にするよう依頼した。そこで、惠三は、同年四月になってから、訴外病院の事務員に対し、入院日に遡及して社会保険を使用するよう申し出たが、遡及使用はできないと言われた。

3  村川は、同年五月二二日、保険審査サービス会社に被控訴人の診療の社会保険への切替えの手続を依頼し、同会社の担当者は、同日被控訴人及び惠三に、本渡社会保険事務所長宛の損害賠償請求権の代位行使に異議がない旨の念書を作成してもらい、翌日控訴人に同所長宛の損害賠償金納付確約書を作成してもらった上で、これを同所長に提出した。

右事実が認められるところ、被保険者証が保険医に提出されることの意義は、保険者と保険医との間に成立した被保険者のための契約(保険医において被保険者のために療養給付を行い、保険者において保険医に対し右給付に関する費用を支払うことを内容とするもの)に対する被保険者からの受益の意思表示であるから、被保険者が被保険者証を保険医に提出する行為は、通常は右受益の意思表示であると解される。しかし、惠三は、本件事故の日の翌日、控訴人から任意保険に入っているので安心して治療してほしいと言われ、訴外病院事務員にその旨伝えたのであるから、惠三が被控訴人入院の翌日及び数日後に被保険者証を訴外病院の求めに応じて提示した行為をもって被控訴人に社会保険による診療を受けさせる意思表示であるとみることはできず、被控訴人入院の翌日、被控訴人の法定代理人である惠三及びその妻と訴外病院との間に自由診療契約が締結されたと認められる(被控訴人は前記のとおり昭和四九年二月六日生であり、当時未成年者であった。)。なお、前記2の事実によれば、惠三は村川の依頼に応じて平成三年四月初めからは社会保険による診療を受けることを検討していたようにうかがえないではない。そして、惠三は、入院日に遡及しての社会保険の使用を申し出ているが、いったん締結された自由診療契約を患者側の一方的意思表示により診療開始時に遡及して解除した上、社会保険診療受益の意思表示をして、当初に遡って社会保険診療契約に切り替えることはできないと解されるところ、訴外病院の事務員から入院日に遡及しての社会保険使用はできないと言われた惠三が、自由診療契約(準委任契約)解除の意思表示及び将来に向けて社会保険による診療を受ける旨の受益の意思表示を被控訴人のために訴外病院に対してしたことを認めるに足りる証拠はない。惠三が前記3のとおり社会保険使用を前提とする手続に協力していたことも、右判断を左右するものではない。

三  争点3について

1 控訴人が被控訴人に賠償すべき治療費は、本件事故と相当因果関係のある範囲に限られるから、被控訴人と同補助参加人との間の自由診療契約において一点単価が合意されたとしても、相当な範囲を超える部分については、控訴人は賠償義務を負わないものである。ところで、本件においては、右合意の事実を認めるに足りる証拠はなく、交通事故損害賠償の視点から、被控訴人と同補助参加人との間の自由診療契約における相当な診療報酬額が決定されなければならない。

2 健康保険法の診療報酬体系は、一点単価を一〇円とし、診療報酬点数表の点数にこれを乗じて診療報酬を算定するようになっているところ(同法四三条ノ九、平成六年厚生省告示第五四号による改正前の昭和三三年厚生省告示第一七七号「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」)、右体系は、利害関係を有する各界の代表委員と公益を代表する委員によって構成される中央社会保険医療協議会(厚生大臣の諮問機関)の答申に基づくものであり(健康保険法四三条ノ一四、平成四年法律第七号社会保険医療協議会法による改正前の社会保険審議会及び社会保険医療協議会法一三条、一五条)、その内容には公正妥当性が認められる。さらに、証拠(<書証番号略>)によれば、交通事故受傷の治療に社会保険診療を施す公的医療機関が相当数あること、健康保険を適用して治療できない病気はない旨述べる学識者も多いこと等の事実か認められることに照らすと、自由診療契約における相当な診療報酬額は、健康保険法の診療報酬体系を一応の基準とし、これに突発的な傷病に適切に対応しなければならない交通事故の特殊性や患者の症状、治療経過等のほか、労災診療費算定基準では、診療単価は一点一二円とされていること(<書証番号略>)、自由診療の場合、社会保険診療のような税法上の特別措置の適用が認められていないこと等の諸般の事情を勘案して決定されるべきである。

本件についてこれを見ると、被控訴人は本件事故により右脛骨腓骨開放骨折の傷害を負い、前記認定のとおり訴外病院の担当医師は炎症に対する措置をとりつつ骨接合手術を行い、被控訴人は三か月余の入院及び退院約一年後の抜釘のための再入院を余儀なくされたものであるから、右の各事情を勘案すると、被控訴人の治療に係る診療報酬額については、健康保険の単価の1.5倍(一点につき一五円)をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。

3  証拠(<書証番号略>)によれば、被控訴人の治療に必要であった診療報酬点数の合計は一七万六一四九点であったこと、診断書料等その他の費用の合計額は五万九七六〇円であったことが認められるから、控訴人が賠償義務を負う治療費は、右点数に一点単価一五円を乗じた二六四万二二三五円に右五万九七六〇円を加算した二七〇万一九九五円となる。

四  争点4(弁護士費用を除く。)について

1  入院雑費 一三万二〇〇〇円

被控訴人は、合計一一〇日間の入院中、一日当たり一二〇〇円の雑費を要したと推認できるから、入院雑費は右金額となる。

2  付添看護料 三万七五〇〇円

証拠(被控訴人法定代理人惠三(原審)、弁論の全趣旨)によれば、被控訴人の母及び祖母が平成三年二月七日に行われた手術の前後一五日間被控訴人に付き添って看護したこと、被控訴人は入院中いわゆる完全看護の下に置かれていたが、被控訴人の年齢及び傷害の部位、程度に照らすと右付添看護はやむをえないものであったことが認められるところ、一日当たりの付添看護料は二五〇〇円と認めるのが相当であるから、一五日間の合計は右金額となる。

3  交通費 三万九一五〇円(争いがない。)

4  宿泊代 一八万円

証拠(被控訴人法定代理人惠三(原審)、弁論の全趣旨)によれば、被控訴人の母は、被控訴人の肩書地に居住しているところ、前記2の付添看護の期間中ホテルに宿泊し、宿泊代として一日当たり一万二〇〇〇円合計一八万円を要したことが認められる。

5  下肢装具代 六万六三七八円(争いがない。)

6  文書代 八〇〇円(争いがない。)

7  慰謝料 一七〇万円

前記傷害の程度並びに入院及び通院の期間に照らし、被控訴人に対する慰謝料として、一七〇万円が相当である。

そこで、三記載の治療費に右1ないし7の金額を合計すると、四八五万七八二三円となる。

五  争点5について

証拠(<書証番号略>)によれば、被控訴人は原動機付自転車を運転して時速二〇ないし三〇キロメートルで交差点に進入したこと、被控訴人の進行道路の幅は交差道路の幅より明らかに広く、控訴人進行車線には一時停止の標識が設置されていたこと、被控訴人進行車線の反対車線は渋滞していたことが認められるところ、被控訴人には、右交差点を右方から横断進行してくる車両のあることを予見し、右方の安全を十分確認すべきであったのにこれを怠った過失があるというべきであり、一割の過失相殺がされるのが相当である。

そこで、前記損害の合計額に0.9を乗じると、四三七万二〇四〇円(円未満切り捨て)となる。

六  弁護士費用について

右認容額、本件訴訟の経緯その他の事情に照らすと、被控訴人が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用の内五〇万円は、本件事故と相当因果関係ある損害として控訴人が負担すべきである。

七  結論

以上によれば、被控訴人の請求は、不法行為による損害賠償金四八七万二〇四〇円及びこれに対する本件事故の日である平成三年一月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当であることに帰するところ、結論を一部異にする原判決は失当であるから、原判決中控訴人敗訴部分を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高升五十雄 裁判官古賀寛 裁判官吉田京子)

別紙<省略>

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