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福岡高等裁判所 平成4年(ネ)567号 判決 1993年6月29日

控訴人

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

糸山隆

外一〇名

被控訴人

馬場﨑一男

馬場﨑秀子

右両名訴訟代理人弁護士

八谷時彦

主文

一  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1ないし4についての当裁判所の認定及び判断は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりである(原判決一三枚目表九行目の冒頭から同一九枚目表五行目の末尾まで)から、これを引用する。

1  原判決一四枚目表四行目の「一ないし四」の次に「(いずれも撮影対象については争いがない。)」を、同表六行目の「各証言、」の次に「当審証人今村勝志、同大澤止津男の各証言」を各加える。

2  同一五枚目表四行目の「借り受けていた。」を「借り受け、本件機場の堀削土や表土を山積みしていた。」と訂正し、同表一〇行目の「流況調整河川」の前に「控訴人の直轄による」を加え、同表末行の「予定されていた。」を「予定されており、本件事故当時本件機場の周辺の田畑は休耕状態となっていた。」と訂正する。

3  同一六枚目裏三行目と五行目の各「1.2メートル」をいずれも「約1.2メートル」と訂正し、同裏七行目の末尾に「これらのフェンス及び門扉は、侵入防止と転落防止を目的として設けられたものである。」を、同裏八行目の「B門扉は、」の次に「これを閉じるときに鉄棒を渡して施錠するため、」を各加える。

4  同一七枚目五行目の「容易に通り抜けられる状態」を「通り抜けが可能な状態」と、同表一〇行目の「通り抜けは容易な状態であった。」を「これを上下に動かせば通り抜けは可能な状態であった。」と、同裏初行の「工事関係者らしき」を「工事関係者を示す」と各訂正する。

5  同一八枚目表九行目の「甲第六号証」を「甲第一号証、第六号証、乙第一五、一六号証、第一九号証」と、同表一〇行目の「証人福田の証言」を「原審証人福田、当審証人大澤止津男の各証言」と各訂正し、同表末行の「佐和子とともに、」の次に「バケツを持参して」を加える。

二本件機場の設置管理の瑕疵の有無及び控訴人の責任(請求原因5、6)について

1  国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうが、かかる瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである。

2  これを本件についてみるのに、前記認定事実(引用にかかる原判決理由二1ないし3)によれば、本件機場は、流況調整河川佐賀導水事業の目的の一つである内水排除を行うため、その東側を流れる馬場川の流水の一部を流況調整河川佐賀導水路へ導水し、本件機場西側約一〇〇メートルの所を流れる城原川へ吐出させるための施設であり、北側から順次、流入堰、土砂溜、導水路、沈砂池、スクリーン、機場本体(ポンプ場)、吐出槽が配置された施設であって(流入堰付近及びスクリーン付近の各上部には管理橋が、導水路西側は土砂の搬出路Aがそれぞれ設置されていた。)、本件事故当時、沈砂池には雨水が貯溜して水深約二メートルとなっており、しかも、右貯溜水は混濁していて、沈砂池の底が見通せず、幼児にとって水深を認識することは困難な状況であったし、導水路の水深が約三〇センチメートルであり、コンクリート堰上面から沈砂池底面までは勾配が約四五度の傾斜面となっていた上、沈砂池の周囲には手を掛けるところもないのであるから、幼児が沈砂池にはまった場合には独力で這い上がることが困難であり、本件機場は、沈砂池に幼児が立ち入った場合には人命に対する危険性が高い施設というべきである。

しかしながら、本件機場は、その構造及び用法からして、右導水事業の関係者が利用する施設であり、一般人の利用が予定されていないことは明らかであること、また、本件機場敷地内へは、本件機場北側を走る町道鶴線から本件機場管理道路を通ることあるいは馬場川に架けられた仮設木橋を渡ることにより、立入りが可能であるが、町道鶴線から本件機場管理道路への入口部分、Aフェンス北側部分、東側Bフェンス北端部分、南側管理橋から機場本体部分の計四か所には安全ロープが張られ、Aフェンス北側部分、南側管理橋の東西両端部分、機場本体の東西両面部分の計五か所には、「関係者以外立入禁止」の文言及び工事関係者を示す人物が両手を広げた絵の記載のある看板が各一枚ずつ設置されていたのであり、また、本件機場内で危険性があるといえる沈砂池を含む水路部分(土砂溜、導水路等)の周囲は、西側は流入堰付近から南側管理橋までの間に、侵入防止及び転落防止のため、A、Bフェンス及びA、B門扉が、東側は北側管理橋から南側管理橋にかけてBフェンスが、それぞれ設置されており(Aフェンス及びA門扉の高さは二メートル、Bフェンス及びB門扉の高さは約1.2メートル)、A、B門扉はいずれも施錠されていたこと、B門扉東側支柱とその東側のBフェンス支柱との間の間隔が一五センチメートル強にすぎないことからすれば、本件機場(水路部分)が危険な施設であって、そこへの立入りが禁止されることは、これらの安全ロープ、立入禁止看板、フェンス及び門扉により、幼児に対しても、明瞭に表示されていたというべきであり、右各フェンス及び門扉の高さやB門扉とBフェンス支柱との間の間隔の程度からすれば、これらは、人(幼児を含め)が通常の形態で沈砂池を含む水路部分に容易に侵入し、又は転落することを防止するに足りる設備といえるから、本件機場は通常有すべき安全性を備えていたものというべきである。

もっとも、前記管理道路入口部分の上下二本の安全ロープは緩く張られて垂れ下がっていて、通り抜けが可能な状態であり、原審証人福田及び同志岐、当審証人大澤止津男の各証言によれば、本件機場東側の馬場川では、日頃、魚釣りをする人や魚採り等をして遊ぶ子供もいて、時折、散歩や馬場川での魚釣り等のために付近住民らが右安全ロープを越えて前記管理道路から本件機場敷地内に立ち入ったり、仮設木橋を渡って本件機場敷地内に立ち入ったりしていたことが認められる(右認定に反する原審証人久胡、当審証人今村勝志の各証言は採用しない。)けれども、本件機場においては、右管理道路入口部分の安全ロープのみではなく、前記のとおり、本件機場内への侵入経路にあたる道筋には他にも立入禁止看板や安全ロープを設けているところ、右立入禁止看板では、工事関係者を示す人物が両手を広げた絵が記載されているのであるから、文字を判読できない幼児であっても、本件機場が危険であって立入りが禁止される場所であることは容易に認識できるものというべきである(右立入禁止看板は、前記管理道路の入口部分やB門扉部分には設置されていないけれども、その設置場所からして、本件機場内に侵入しようとする者には目につく場所に設置されているといえるし、前記原審証人福田及び同志岐、当審証人大澤止津男の各証言によっても、かつて、立入禁止看板や、前記管理道路入口部分の安全ロープ以外の安全ロープを無視して本件機場内に侵入した者があったことまでを認めるには至らない。)。また、本件機場内で危険性があるといえる沈砂池を含む水路部分の周囲には前記認定の構造のフェンスや門扉を設置し、この面からも本件機場(水路部分)が危険であって立入りが禁止される場所であることを表示していること及び右フェンスや門扉が通常予想される侵入防止及び転落防止設備としての機能としては十分であるといえることからすれば、本件機場の設置管理者である控訴人において、亡佳織らが立入禁止看板や安全ロープを無視した上、亡佳織がB門扉を乗り越え、また、亡匠がB門扉東側支柱とBフェンス支柱との隙間を通り抜けて本件機場の搬出路Aを下って導水路に入るというような行動を取ることまでは通常予測することはできないものというほかはない。

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、平成元年度における六歳児の平均身長は一一六センチメートルであったこと、昭和五九年九月当時の三歳九月男児の標準頭囲は50.2センチメートル、標準胸囲は53.0センチメートルであったことが認められるし、引用にかかる原判決理由二3(三)の事実に照らすと、本件事故当時六歳である亡佳織において、高さ約1.2メートルで上下の中間部に横板の入ったB門扉を乗り越えることが可能であり、また、B門扉東側支柱とBフェンス支柱との間に一五センチメートル強の隙間があったことから、本件事故当時三歳九月であった亡匠において、右隙間を通り抜けることが可能であったといえることは被控訴人主張のとおりであるけれども、そもそも、六歳児が身の丈を超えるB門扉を乗り越えるとか、三歳児が僅か一五センチメートル強の隙間をすり抜けるといった行動をとることは、本件機場の構造、利用状況等に照らし、また、当審証人今村勝志の証言によって認められる、本件機場と同様な構造の施設において本件事故に類した事故が起きた例はないことからすると、本件機場の設置管理者において通常予測し得る行動とは到底いえないものであって、これらはその予測を超えた異常な行動というほかはない(前示のとおり、散歩や馬場川での魚釣りのため本件機場の敷地内に立ち入る者はあったが、それは各フェンス及び門扉で囲まれた以外の部分であり、本件事故前、子供がフェンスや門扉を越えて本件機場の水路部分内に侵入したようなことはなかったことが認められる―<書証番号略>、弁論の全趣旨)。

そうすると、本件機場は、前記管理道路入口部分の安全ロープが垂れ下がっていたからといって、その設備を全体としてみれば、通常有すべき安全性を備えていたというに妨げないから、B門扉の乗り越えやB門扉とBフェンス支柱との間の通り抜けが客観的に可能であるからといって、そのような異常な行動に備えてまで、控訴人が本件機場において被控訴人主張のように導水路から沈砂池への転落防止設備を設けたり、監視員を置く等の措置を講じる必要があったとはいえず、控訴人がかかる設備や措置をとらなかったことをもって本件機場の設置又は管理に瑕疵があったとはいえないというべきである。

3  したがって、本件において、本件機場の設置又は管理に瑕疵があったとはいえない以上、控訴人に本件事故についての責任があるということはできず、被控訴人の本訴請求は理由がないといわなければならない。

三よって、これと結論を異にし、被控訴人の請求を一部認容した原判決は不当であるから、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消して右部分にかかる被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柴田和夫 裁判官有吉一郎 裁判官山口幸雄)

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