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福岡高等裁判所 平成2年(ネ)393号 判決 1990年10月29日

控訴人(原告)

武藤百合子

被控訴人(被告)

西日本鉄道株式会社

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「1原判決を取り消す。2被控訴人は控訴人に対し金四四三四万四四〇三円及びこれに対する昭和五四年八月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人補助参加人は適式の呼出しを受けながら当審口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされる答弁書によれば、「1本件控訴を棄却する。2訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めるというのである。

二  当事者双方の主張の関係は、原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の原審における書証目録、証人等目録及び当審における書証目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目表一〇行目の「一応」を削り、同六枚目裏五行目の「事故にあい、」の次に「むちうち症により」を加え、同裏八行目の「昭和四九年一月」を「昭和四九年一〇月」と、同裏一〇行目の「一二月六日」を「一二月五日」と、同七枚目裏六行目の「第四号症」を「第四号証」とそれぞれ改める。)。

本件の争点である控訴人の傷害と本件事故との因果関係について、前記引用の認定判断に基づきその理由を要約すると次のとおりである。

1  控訴人は、本件事故により、頸髄不全損傷、膀胱直腸障害等の傷害を負い、頸髄不全損傷の後遺症は昭和五八年九月二〇日症状固定し、右後遺症によつて控訴人は全身麻痺の状態に陥つたと主張している。

2  これに対し、控訴人の主張に副うが如き控訴人を治療した次の<1>ないし<3>の医師の診断がある。すなわち、

<1>  東外科医院の東医師は、本件事故当日、むちうち症、腰部挫傷により約二〇日間の加療を要すると診断し、それは昭和五八年九月三〇日に症状固定したと診断し、

<2>  昭和五八年八月二五日になつて控訴人が入通院した高橋整形外科医院の高橋医師は、本件事故による受傷として頸髄不全損傷、膀胱直腸障害をあげ、それは昭和五八年九月二〇日に症状固定したと診断し、

<3>  昭和五九年一〇月ころから控訴人が入院した米の山病院の塩塚医師は、控訴人を脊髄損傷による下半身麻痺であると診断し、その原因は外傷によるものと考えられると診断している。

3  しかし

(一)  控訴人は(1)本件事故前の昭和四六年二月九日から昭和五三年三月一七日までの間に一〇回にわたり種々の傷病名で入通院を繰り返しており、(2)昭和五三年三月二五日から本件事故当日(昭和五四年八月二二日)まで全身衰弱、低血圧、心悸亢進等のため東外科医院に入院中であつたこと、昭和五四年七月には既に、腰痛症、化膿性膀胱炎という診断も受けていること、(3)その後、昭和五七年一月一七日に大牟田市立病院において子宮筋腫の手術を受け、更に同年八月九日に腰痛、しびれ感、脱力感、歩行困難を主訴とし同病院に入院したこと等の本件事故前後の病魔が存在すること、

(二)  また、一方では、東医師は、控訴人のむちうち症、腰部挫傷については昭和五四年一一月一日に治癒し、後遺障害は「無し」、控訴人の四肢の筋萎縮は右むちうち症、腰部挫傷とは無関係と思われると診断していること、

(三)  本件事故の捜査に当たつた荒尾警察署の司法巡査も、控訴人が本件事故で受傷したかどうか不明であると判断していること、

(四)  昭和五四年一一月七日、本件事故に関し、光永関与のもとで控訴人と被控訴人との間に示談が成立していること、

(五)  本件事故の態様が低速走行中の接触事故であること、

以上(一)ないし(五)の事情が存在するのであつて、これらの事情に照らすと、2の<1>ないし<3>の各医師の診断はそのまま採用することはできない。

4  そうすると、結局、控訴人が主張する頸髄不全損傷、膀胱直腸障害等の傷害が本件事故によつて生じたことを認めるに足りる的確な証拠はないことになるのである。

なお、控訴人が当審において提出した本件事故現場の写真(甲第一〇号証の一ないし六)は、前記引用の認定判断を左右するものではない。

二  よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒賀恒雄 田中貞和 木下順太郎)

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