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福岡高等裁判所 平成2年(く)21号 決定 1990年4月19日

少年 N・H(昭46.5.30生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福岡家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年及び少年の法定代理人親権者母N・S子がそれぞれ差し出した各抗告申立書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

各所論は、いずれも要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であるから、その取消を求める、というものと解せられる。

そこで、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を検討し、以下のとおり判断する。

本件虞犯事実は、少年は、昭和62年4月に高等学校に入学したものの、バイク盗、無免許運転、無断バイク通学、校舎の窓ガラス割り、怠学などを重ねた挙げ句、平成元年1月末退学し、以来親の監護に服さず、夜遊び、パチンコ、暴走行為などを繰り返していたが、平成2年1月初めころからは、シンナー仲間と交際を深め、昼夜の別なく何人もの男女が少年方を溜まり場にして、シンナーを吸引し、母親や警察の注意・指導を聞き入れず、かえって母親が警察に相談に赴いたのを察知したのか外泊するなどしているものであって、このまま放置すれば、毒物及び劇物取締法違反や道路交通法違反、更には金銭に窮して窃盗、恐喝等の罪を犯すおそれが多分にある、というものであるところ、原決定は、少年の資質、生活環境、殊に少年が幼少時から養護施設に預けられ、父母の愛に恵まれずに育ち、中学校卒業後母親に引き取られたが、感情の円滑な交流のできないまま、欲求不満的に非行に傾斜し、前記のような非行を重ねてきたことに照らすと、少年の再非行の危険性は大きく、また少年の自己統制力の乏しさをも考え併せると、その要保護性は高いとして、この際少年には、規則正しい生活訓練の中で、基本的な社会生活慣習を習得させるとともに、素直な社会観や健全な価値観を養い、規範意識を高めて、堅実な目標をもった生活を辛抱強く維持することができるように、専門的で徹底した矯正教育を施すことなどが必要かつ相当であるとし、少年を中等少年院に送致した(調査官の意見も同旨。なお、鑑別所の意見は在宅保護。)ものであるが、なるほど原決定の指摘する諸点のほか、少年の母親に対する感情や母親の監護能力等をも考慮すると、少年の要保護性には高いものがあるといわざるをえないので、原決定の処分もあながち首肯できないものではない(なお、原決定が少年院法2条2項を適用するとしているのは、同法2条3項を適用するの誤記であると認める。)。

しかしながら、少年には、情緒面が未熟で周囲の状況に流されて軽はずみに行動し易く、困難な場面に遭遇すると、不満を爆発させたり、逃避的な行動に走ったりする傾向があり、また規範意識の内面化は不十分で、規制されない場面では自己本位的な行動をし易い傾向があるなどの、性格上の問題点は認められるものの、これまでの非行歴としては、昭和62年9月と平成2年1月に、それぞれ道路交通法違反保護事件により不処分となったものがあるだけであり、本件虞犯事実をみても非行そのものはあまり深化していないこと、少年の母親に対する感情は複雑であり、母子間の円滑な感情の交流は容易には築かれ難く、また母親の監護能力は低いけれども、母親は少年を2歳時から中学校卒業時まで養護施設に預けていたとはいえ、この十数年自分の手で生活の道を切り開いていくため、看護婦と助産婦の資格を取るなど努力を積んできたものであり、少年にもそのような母親を許し、あるいは理解するような気持ちが芽生えてくれば、肉親としての情愛の上に立った母子関係の修復も可能と思われ、そのことが少年の欲求不満的に非行に傾斜する性向をも改善する契機になると考えられること、少年のこれまでの施設収容歴からは、少年の少年院での適合性は高いと思われるが、今必要とされているのは、家庭内において右のような肉親としての情愛を素直に表せるような母子関係を築くことであると思料されること、本件が家庭裁判所に送致された経緯からみると、このまま少年を少年院に送致するときには、少年の母親に対する感情は修復不可能な状態にもなりかねず、予後もあまり良いとは思われないこと、少年もこれまでの行動や生活態度について反省の姿勢を示し始めていることなどを考慮すると、現段階で直ちに少年を中等少年院に送致することは、必ずしも妥当な措置であるとは認められず、試験観察などの方途により少年を社会内で処遇しながら、少年の性格等の問題点の矯正と母子関係の改善や環境調整を図るのが相当というべきである。

以上のとおりであって、少年を直ちに中等少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当であるといわざるをえず、各論旨はいずれも理由がある。

よって、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である福岡家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 丸山明 裁判官 森岡安廣 林秀文)

抗告申立書

少年 N・H

右少年に対する福岡家庭裁判所平成2年少第436号ぐ犯保護事件について、平成2年3月20日福岡家庭裁判所がなした中等少年院送致決定は、不服につき抗告する。

平成2年3月30日

住所 福岡県甘木市○○××

右少年法定代理人親権者母 N・S子

福岡高等裁判所御中

抗告の趣意

子の生育の中で大切な愛情を十分に注いでやれなかった事が今、私に返って、来ている様に思います。

問題点の多い中でのこの子のこれから・・・・・・

少年院の枠の中でしっかり1年余り育てていってもらうのは以前の園での延長の様な気がしてなりません。枠の中での監根ではなく、この子のいい面が伸びるような(育つ)人間味のある人と接しながら、心の成長が出来るものならと思います。

つきましては、試験観察的な処分を切にお願い致したいと思います。

〔参考1〕 原審決定(福岡家 平2(少)436号 平2.9.28決定)<省略>

〔参考2〕 受差戻審(福岡家 平2(少)1187号 平2.9.28決定)<省略>

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