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福岡高等裁判所 平成11年(行コ)5号 判決 1999年10月21日

控訴人

長尾泉

右訴訟代理人弁護士

矢野博邦

加藤修

被控訴人

熊本東税務署長 緒方茂三

右指定代理人

山之内紀行

和多範明

今村久幸

田川博

鈴木吉夫

福浦大丈夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し、所得税につき、平成四年一二月一八日付けでした次の各処分(いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

(一)  昭和六三年分の更正処分のうち、所得金額一〇二万七三三七円、納付すべき税額一万七三〇〇円を超える部分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(二)  平成元年分の更正処分のうち、所得金額一〇五六万三八二八円、納付すべき税額六四一万九〇〇〇円を超える部分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(三)  平成二年分の更正処分のうち、所得金額三九五万三二九四円、納付すべき税額九〇三万八二〇〇円を超える部分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(四)  平成三年分の更正処分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

3  被控訴人が、控訴人に対し、消費税につき、平成四年一二月一八日付けでした次の各処分(いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

(一)  平成元年課税期間(平成元年四月一日から同年一二月三一日まで)の更正処分のうち、課税標準額一億〇六九九万四〇〇〇円、納付すべき税額六四万一九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分

(二)  平成二年の課税期間(平成二年一月一日から同年一二月三一日まで)の更正処分のうち、課税標準額八三二三万五〇〇〇円、納付すべき税額四九万九四〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分

(三)  平成三年の課税期間(平成三年一月一日から同年一二月三一日まで)の更正処分のうち、課税標準額六五五五万七〇〇〇円、納付すべき税額三九万三三〇〇円を超える部分

4  訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決九頁四行目の「決定」を「裁決」と改める。

二  同二八頁五行目の「七二七万七七一七」から七行目末尾までを「九一二万四一一八円を売上原価から減算することとなるが、土地等の事業所得金額に係る売上原価として計上されるべき一八四万六四〇一円が総合課税の事業所得金額計算上の売上原価に計上されていたので、これを土地等の事業所得金額に係る売上原価として認容することとし、平成元年分の土地等の事業所得金額は、一八四四万二四五五円となる。」と改める。

三  同三三頁五行目から同三四頁五行目までを、次のとおり改める。

「(一) 本件ホテルの施設は、シングル室が一五室、ツイン室が二五室、和室(シングル)が二室であるところ、宿泊者のうちの九割はシングルとしての利用客であることから、ツイン室についてもシングル客が利用することが常態化しているところ、シングル客がツイン室を利用した場合、一つのベッドを使用するだけでなく、他のベッドに座ったり、また、物を置いたりして使用することが多く、この場合、他のベッドに髪の毛が落ちていたり、ベッドがわずかでも乱れていると、客との紛争の原因となるので、従業員は、本件調査以前は、原則として、他のベッドの分も含めて四枚ともシーツを取り替えていたのであり、シーツの使用枚数の二分の一を宿泊者数と認定して行った本件推計には合理性がない。

(二) また、平成三年一〇月から同年一二月までの三か月間の使用シーツ枚数と宿泊者数を対比しても、同年一二月の宿泊者数は六三三人であるところ、使用シーツ枚数は七九〇枚で、使用シーツ枚数により推計した場合、宿泊者数は三九五人となるところ、その差は二三八人であり、しかも、同年一〇月は、使用シーツ枚数による推計の方が五二名増加しており、これらをみても、右推計は近似値とはかけ離れたものであり、右三か月分の資料をもとにした本件推計には合理性がない。

(三) 控訴人は、本件調査が入った後、ツイン室をシングルの宿泊者が利用した場合に、両方のベッドのシーツを取り替えなくて済むように、一方のベッドにカバーを敷くように改善したため、それ以降は、ツイン室のシングル利用客については、二枚のシーツを取り替えることで済むようになったのであり、平成三年一〇月から同年一二月までの三か月間のシーツ使用枚数の二分の一が宿泊者数と近似しているからといって、右推計の合理性をうかがわせるものではない。」

第三争点に対する判断

当裁判所も、本件各更正及び各賦課決定に違法はなく、控訴人の請求は理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四二頁八行目の「予約カードや部屋割表は」の前に「同年九月三〇日以前のものは全て破棄した、」を、また、同頁末行の「それ以外の帳簿類は」の前に「旅館業法六条一項により備付けを義務付けられている宿泊者数名簿を含め、」をそれぞれ加える。

二  同四七頁四、五行目の間に、次のとおり付加する。

「控訴人は、平成三年一〇月一日から同月五日までの間に連絡のないキャンセル客の数が異常に多かったことをあげて、税務当局による作為があった旨主張するようであるが、右主張は何ら具体性のないものであり、また、右事実をうかがわせる証拠もない。

また、控訴人は、同月一日から七日ころにかけては、ホテルのフロントが忙しかったため、収入日報に客の記載漏れがあった旨供述するが、他方、控訴人提出の収入日報(甲六)上、宿泊者数については、同月一日は一七名、同月二日は三六名、同月三日は四〇名、同月四日は一九名、同月五日は一七名が記載されていることが、また、同年一一月二日は五五名、同月三日は五八名、同月一一日は六四名、同月一二日は五四名、同月一三日は五三名、同月一六日は四七名、同月二三日は六三名、同月二六日は四八名、同月二七日は四九名、同月二八日は五一名が記載されていることがそれぞれ認められ、右事実を前提とすれば、同年一〇月一日から同月七日までの間が、他と比較してとりわけ、フロントが前記のとおりの記載漏れをする程の忙しさであったとは到底いえないのであり、控訴人の供述は採用できない。」

三  同五〇頁七行目から末行までを、次のとおり改める。

「このように、右推計によった宿泊者数は、右期間中において、収入日報に記載された宿泊者数を超えず、かつ、これに近似したものとなっている。

ところで、控訴人は、本件ホテルの施設は、シングル一五室、ツイン二五室、和室(シングル)二室であるところ、宿泊者のうち九割はシングルの利用者であるので、これらの宿泊者にもツイン室を使用させることになるが、その場合、他のベッドに座ったり、物を置いたりして使用することが多く、この場合、ホテルとしては、四枚ともシーツを交換する必要があるのであり、使用シーツ枚数の二分の一を宿泊者数として推計することには合理性がない旨主張するが、シングル客がツイン室を使用した場合、右客が他のベッドを使用することが常態であるとは容易に首肯し難いことである。仮に、ツイン室使用のシングル客が他のベッドに座ったり、物を置いたりしたとしても、そのことから直ちにそのベッドのシーツを取り替えるということは、ホテルの経営の観点からしても、通常考え難いことであるし、現に、甲第二〇号証によれば、平成三年一二月における宿泊者数が六三三人であるのに、同月の使用シーツ枚数が七九〇枚となっており、宿泊者数の二倍よりもはるかに少ないことが認められる事実に照らしても、控訴人の主張は採用できない。

なお、控訴人は、本件調査が入った後に、ツイン室のシングル客利用の場合に、四枚ともシーツを取り替えなくて済むように、一方のベッドにカバーを掛けるように改善したため、その後はシングルの客には二枚のシーツで済むようになった旨主張し、控訴人本人も当審においてその旨供述するが、本件ホテルの経営者として当然経費の節約を考慮するはずの控訴人が、それまでシングル利用の宿泊者についても、ツイン室の四枚のシーツを取り替えていたところ、本件調査後に至って突如他方のベッドにカバーを掛けるようになり、その後は使用シーツの枚数が二枚になったというのも不自然であり、右主張は採用できない。

また、控訴人は、本件調査以降、使用シーツの枚数の二分の一とする推計方法による宿泊者数は、帳簿による実際の宿泊者数よりも少なくなり、これは、連泊の客の中には、シーツを取り替えないように注文する客がいるからであり、この点からも本件推計に合理性がないことが明らかである旨主張するが、連泊の客のうち、シーツの取り替えをしないよう注文する宿泊者は、皆無とはいえないまでも、相当数いるとは通常考えられず、また、右推計方法によれば、連泊により使用シーツの枚数が減る場合は、推計による宿泊者数がそれに応じて減少することになり、これは、右推計が控訴人に不利益に働かないことを示すものであるから、右推計の合理性を否定することにはならないのであり、控訴人の右主張は採用できない。

以上によれば、使用シーツの枚数から本件ホテルの宿泊者数を推計する方法は、十分合理性を有するということができる。

なお加えるに、控訴人は、仮に、使用シーツの枚数によって宿泊者数を推計するとしても、これに〇・八若しくは〇・九等の修正率を乗じることにより、右推計による宿泊者数を修正する必要があるのであり、そのような修正をしない推計課税は違法である旨主張するが、右修正率は何ら根拠があるものではなく、また、右主張のような修正をしなければならない事情もうかがえず、右主張は採用できない。」

第四結論

以上の次第で、本件各更正及び各賦課決定は適法であるから、控訴人の請求は理由がなく、原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成一一年七月二九日)

(裁判官 兒嶋雅昭 裁判官 木村元昭 裁判長裁判官川本隆は転補につき署名押印することができない。裁判官 兒嶋雅昭)

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