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福岡高等裁判所 平成10年(ネ)4号 判決 1999年10月01日

控訴人

亡金順吉訴訟承継人

金鍾文

右訴訟代理人弁護士

龍田紘一郎

小林清隆

魚住昭三

被控訴人

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

田川直之

外一名

被控訴人

三菱重工業株式会社

右代表者代表取締役

増田信行

右訴訟代理人弁護士

木村憲正

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは、控訴人に対し、各自、一〇〇〇万〇〇七〇円を支払え。

三  被控訴人三菱重工業株式会社は、控訴人に対し、一二四円二八銭及びこれに対する昭和二〇年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決九頁九、一〇行目の間に、「金順吉は、平成一〇年二月二〇日に死亡し、控訴人金鍾文が、亡金順吉の被控訴人らに対する請求権を単独で相続した。」を加える。

二  同三一頁一二行目の「欠いているから、」を「欠き、債務減免を国家補償なしに法的に強制する点において、」と改める。

三  同四〇頁二行目末尾に「同条項の適用に当たって、商号の続用が連続的である場合に限定して解釈する合理性はなく、一時期別商号を使用した後に、譲渡人の商号を使用するに至った場合を除外するものではない。」を加える。

四  同頁三行目の「(被告会社の責任)」を「(被控訴人会社の主張)」と改める。

五  同頁五、六行目の間に、次のとおり付加する。

「商法二六条は、営業譲渡に伴って商号が続用される場合を、同法二八条は、続用されなかった場合を、それぞれ定めており、いずれも営業譲渡と一緒にされる商号の処理を問題とするものである。本件において、新会社の設立に当たり、仮に営業譲渡がされたとしても、それは新会社設立の昭和二五年一月一一日であり、控訴人主張の商号続用が開始されたのは、それから一四年以上経過した昭和三九年六月一日であって、営業譲渡と商号の承継とは別個にされており、このような場合にまで同法二六条一項が適用されるものではない。」

六  同四五頁末行の「趣旨である。」の次に「すなわち、同項は、同法の遡及不適用を宣明した経過規定にすぎず、国家無答責論が法解釈論であることに照らせば、同項によって、現時の解釈論が拘束されることはない。」を加える。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の各請求、ひいては本件控訴は、いずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四九頁九行目の「徴用令書」の前に「日本国官吏である釜山府尹(府長のこと)が発した」を加え、また、同頁末行、同五〇頁初行の「日本人巡査(以下、この日本人巡査を単に「巡査」という。)」を「日本国官吏である警察官(以下「巡査」という。)と改める。

二  同五〇頁九、一〇行目の「巡査から原告を引き取った人物から殴る、蹴るの暴行を受けた上、」を削除し、同五一頁二行目の「その翌朝、」の前に「その船内は、船室から外に出られないように常時監視されている状態であり、」を加える。

三  同五一頁一二行目の「原告本人尋問の結果」の後に「、弁論の全趣旨」を加え、同頁末行から同五二頁一二行目までを、次のとおり改める。

「平戸小屋寮は、市内を一望することができる小高い丘にあり、周囲を太い丸竹で作られた竹垣で囲まれていた。寮長の他、三棟の各宿舎には日本人の中隊長が置かれるという管理体制がとられ、正門には詰所があって、海軍の兵員が二四時間体制で監視を続け、裏にあった通用門も監視されていた(もっとも、同寮には、海軍兵員宿舎が併設されていたため、監視の主たる目的は、同宿舎のためのものであった。)。昭和二〇年五月ころから、逃亡する徴用工が出始めたが、逃亡した徴用工については捜索が行われることもあり、発見された場合は連れ戻された。同寮からの外出は許可制がとられているものの、私用での外出が全面的に禁止されていたわけではなく、寮生全員で枇杷狩りに行ったほか、金順吉は、繁華街に出かけたり、写真館で写真を撮ったり、時計店で時計の修理を依頼したり、買物をしたり、神社に参拝したほか、映画館で映画を見ることもあった。」

四  同五三頁一一行目の「日本人」を削る。

五  同六一頁五行目から六二頁三行目までを、次のとおり改める。

「(3) そして、前記(1)及び(2)で認定した事実によれば、金順吉の昭和二〇年一、二月分の賃金、加給金、精勤手当、家族手当及び皆勤賞与の合計は一一六円三二銭であったこと、右期間の健康保険、退職積立金、下宿寮費及び国体会費の合計額は一四円四銭であり、前記賃金等の合計額から右健康保険等の合計額を控除すると一〇二円二八銭であること、同年三月分の総収入金額は七七円三〇銭であったことが認められ、右事実によれば、同年七月二八日に金順吉が受け取るべきであった俸給(諸手当を含み、健康保険、退職積立金、下宿寮費及び国体会費を控除した後の額)及び同日以降の労働の対価として受け取るべき俸給(右同)は、五〇円(控訴人主張の額)を下らないことが認められる。

また、前記のとおり、金順吉の同年一、二月分の賃金等から国民貯蓄の名目で七一円二八銭を控除され、その後同年七月二五日には、国民貯蓄の中から二〇円の払下げを受けたことに照らせば、金順吉は、旧三菱重工業株式会社から、その差額である五一円二八銭の支払若しくは返還を受けていないことになる。」

六  同六五頁九行目から同六六頁四行目までを、次のとおり改める。

「被承継人金順吉本人尋問の結果によれば、金順吉らは、釜山の旅館で、巡査から民間人に引き渡され、その後下関に連行されたこと、さらに、長崎の駅には三菱のマークのついた帽子をかぶった人が待っており、金順吉らが引き渡されたことが認められ、また、甲第三二号証の2によれば、造船統制会は、同会の会員に対し、昭和一九年一二月一七日付けの「朝鮮人移入取扱要領」を送付しているが、その要領には、「朝鮮人釜山駅着ト同時ニ朝鮮人側ヨリ之ガ引受ヲ了シ、以後工場側ノ責任ニ於テ内地ニ連行スルコト」と記載されていることが認められるのであり、以上の事実に照らせば、釜山で金順吉らの引受を受け、長崎に連行した人達の中に旧三菱重工業株式会社の職員も含まれていたことが推認できる。

そして、前記のとおり、金順吉は、釜山の旅館に到着するや、右職員らから、髪をバリカンで丸坊主刈りにされ、その夜は逃走防止のために監視が置かれ、翌朝は、船で、船室からの出入りを監視された状態で下関まで連行され、さらに、行き先も教えられないまま汽車に乗せられ、車両の両方の出入口には監視役が立ち、窓のカーテンは全部おろされた状態で長崎まで連行されたのであるが、旧三菱重工業株式会社によるこれらの行為は、国民徴用令に基づく徴用としても到底許容されるものではなく、違法なものであったといわなければならない。」

七  同六六頁一一行目冒頭から同六七頁三行目までを「。さらに、前記一1(二)認定のとおり、寮長等以下、寮の管理体制を敷き、寮からの外出は許可制とし、また、逃亡して発見された場合は連れ戻すなどして、金順吉らを労働に従事させた事実もあった。これらの行為は、戦時下であり、多数の寮居住者をかかえた集団体制で、かつ、言語も十分に通じない人達を多数右居住者に持つ寮の管理、統制の実施において、やむを得ない側面があることも理解できなくはないが、国家総動員法においても、同法四条の徴用に応せず、業務に従事せざる者については、一年以下の懲役又は一〇〇〇円以下の罰金に処するとの罰則(同法三六条一号)しか規定しておらず、間接的に強制するにとどまり、直接的な強制を認めていない趣旨からしても、同法及び国民徴用令に基づく徴用として許容される程度を超え、違法性を帯びる行為であったといわざるを得ない。」と改める。

八  同六七頁一一行目の「したがって、」を「かえって、証拠(乙イ二〇号証の2)及び弁論の全趣旨によれば、旧三菱重工業株式会社は、原爆投下後、寮に残った徴用工に対しては、食事をさせ、賃金を清算し、集団で帰国させたことがうかがわれるところであり、右寮長の指示に従わずに独断で帰国した金順吉の」と、同頁一二行目の「不法行為責任」を「少なくとも不法行為としての責任」とそれぞれ改める。

九  同六七頁一二、一三行目の間に、「(三)の二 前記(二)に記載した点、すなわち、旧三菱重工業株式会社が、金順吉を、その意思に反して長崎に連行した行為に加担したこと、及び平戸小屋寮において、監視体制による不自由な状況の下で労働に従事させたことを併せ考慮すれば、これらの点について旧三菱重工業株式会社の不法行為責任は免れず、これによって金順吉が被った精神的損害について、同社には、不法行為による損害賠償責任があるといわなければならない。」を、同頁末行の末尾に続けて、「及び国民貯蓄の未返済金五一円二八銭」をそれぞれ加える。

一〇  同六八頁七、八行目の「会社経理応急措置法上の特別経理会社」から同九行目の「午前零時を指す。)」までを「会社経理応急措置法における特別経理会社(昭和二一年八月一一日午前零時(以下「指定時」という。)において、戦時補償金、戦争保険等の交付を受け、若しくはその交付を受ける権利を有し、又は在外資産を有する資本金二〇万円以上の会社、また、一定の要件のもとに主務大臣の指定を受けたもの。同法一条一号、二号)に該当したが、このような特別経理会社は、指定時」と改める。

一一  同七六頁六行目から同七九頁七行目までを、次のとおり改める。

「サンフランシスコ講和条約では、朝鮮等一定地域住民の日本国及びその国民に対する請求権の処理は、日本国とこれらの地域当局との間の特別取極の主題とされた(同条約四条(a))。

一方、会社経理応急措置法及び企業再建整備法は、特別経理会社に対し、前記指定時以前の原因に基づく債務を旧勘定として区分し、一旦その弁済を禁止して債務を凍結した後、一定の基準に従って特別損失額を算定し、更に一定の経理上の操作をした上で、これを株主、債権者に負担させて債務を整理することとし、企業の再建を図った。

しかし、これは、日本国及びその国民に対し、第二次世界大戦等において、諸外国及びその国民に与えた損害の賠償債務を免責させることを目的としたものでないことはもとより、朝鮮等一定地域住民の日本国及び日本国民に対する請求権の消滅を目的としたものでないことはいうまでもない。現に、旧勘定の債務であっても、賃金や預り金等の一部の債務については、例外的に弁済が可能とされているところである(会社経理応急措置法一四条一項ただし書、同項二号、三号)。したがって、これにより、朝鮮等一定地域の住民の請求権が事実上制限を受け、消滅することがあったとしても、このことをもって直ちにサンフランシスコ講和条約に違反するということはできない。」

一二  同八一頁一一、一二行目の間に、次のとおり付加する。

「また、控訴人は、被控訴人会社は、一時期別商号を使用した後に旧三菱重工業株式会社の商号を使用するに至ったのであるから、商法二六条一項の適用がある旨主張する。

しかしながら、同項は、営業譲渡の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合には、譲渡人に対する債権者は、譲受人による債務の引受があったものと考えるのが通常であり、譲受人に対して請求し得るものと信じることが多いのみならず、営業上の債務については営業財産がその担保となっていると認められることなどから、譲受人の弁済義務を認めたものであるところ、前記のとおり、旧三菱重工業株式会社は、昭和二五年一月一一日に解散し、第二会社三社が設立されたが、右時点で営業譲渡があったとしても、いずれの会社も旧三菱重工業株式会社の商号を続用せず、それから一四年以上経過した昭和三九年六月三〇日に、右第二会社三社のうちの一つである中日本重工業株式会社(昭和二七年五月二九日に新三菱重工業株式会社に、さらに、昭和三九年六月一日に三菱重工業株式会社に商号変更。)が、他の二社を合併して被控訴人会社となったのであり、右経緯に照らせば、到底営業譲渡に伴い商号の続用があったと解することはできない。

なお、被控訴人会社が、譲渡人の債務を引き受ける広告をしたことを認める証拠はなく、被控訴人会社が商法二八条の責任を負わないこともいうまでもない。」

一三  同八三頁八行目の「得ず、」から一〇行目末尾までを「得ない。」と、同八七頁四、五行目の「権力的要素の強いものであって、正に権力作用の中核に該当する。」を「権力的要素の強いものであった。」とそれぞれ改め、さらに、その後に改行の上、次のとおり付加する。

「そして、国民徴用令に基づく徴用は、規制行政における命令であって、それによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する行為(命令)であり、被控訴人国の官吏である巡査が金順吉を連行し、監視した行為は、まさに右国民徴用令に基づく徴用の実行行為に当たるから、右行為は、公権力の行使又は国家の権力作用に当たるというべきものである。」

一四  同八八頁初行の「権力作用の中核に該当する」を「公権力の行使又は国家の権力作用に該当する」と改める。

第四  結論

以上によれば、控訴人の請求は理由がなく、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川本隆 裁判官兒嶋雅昭 裁判官木村元昭)

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