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福岡家庭裁判所甘木支部 昭和41年(家)3号 審判 1966年11月08日

申立人 桐生能子(仮名)

相手方 桐生忠行(仮名)

主文

相手方は、申立人に対し、婚姻費用の分担として、金三万三、〇〇〇円を即時に、昭和四一年一一月以降毎月末日限り金一万円を、いずれも福岡家庭裁判所甘木支部に寄託して支払え。

理由

(本件申立の要旨及び経過)

申立人は「相手方は、申立人に対して、婚姻費用の分担として毎月一万円を福岡家庭裁判所甘木支部(以下当裁判所という)に寄託して支払え。」との審判を求め、その実情として、

一、申立人と相手方は、昭和三六年一〇月二四日婚姻し、昭和三七年八月五日長男信雄、昭和三九年一二月二一日次男武敏を儲けた。

二、申立人と相手方は、昭和三八年五月ごろから夫婦仲が悪くなり、相手方は昭和三九年九月一六日大川昌子と同棲をはじめた。

三、相手方は、昭和四〇年九月一七日申立人に無断で協議離婚の届出をしたので、申立人は同年一〇月一四日当裁判所に離婚無効確認の調停を申立て、同年一一月二二日その無効が確認(同年一二月一〇日確定)された。

四、申立人と相手方は、現在別居中であるが、相手方は申立人及び前記二人の子供の生活費と養育費の支払をしないので、申立人は相手方に対して婚姻費用の分担として毎月一万円の限度でその支払を求める。

と述べた。

当裁判所は、調停を試みたが昭和四一年一月一九日不調に終つた。

(当裁判所の判断)

本件記録にある戸籍謄本二通、家庭裁判所調査官作成の調査報告書、申立人及び相手方各本人審問の結果、昭和四〇年(家イ)第四五号離婚無効確認請求事件、同年(家)第二二号夫婦同居等請求事件、昭和四一年(家イ)第三号夫婦関係調整請求事件の各記録を総合すると、次のような事実が認められる。

一  申立人と相手方は、昭和三六年七月挙式のうえ結婚して同年一〇月二一四日婚姻の届出をし、昭和三七年八月五日長男信雄、昭和三九年一二月二一日次男武敏を儲けたが、相手方は右婚姻の際同時に申立人の祖父山田為作、継祖母山田トヨと養子縁組をし、その届出をした。

二  申立人は、右婚姻当時、同人の父山田吾作及び右祖父母と同居していた。相手方は、婚姻と同時に申立人方で同棲することとなり、申立人方は一家五名となつた。

三  相手方は、婚姻前から福岡県朝倉郡○○町役場に勤務する地方公務員で、婚姻後毎月七、〇〇〇円から一万円を家庭に入れていたが、婚姻後二ヶ月位してから毎晩のように飲酒し、夜遅く帰宅して大声をあげ申立人に暴力を振うこともあつたが、長男出生後は一時治つた。ところが相手方は、昭和三七年一〇月末ごろ、かつて申立人の祖父母の養子として約一年間(申立人が中学三年生のころ)引取られていた養子の義兄から呼出を受け、同人から「相手方と養母トヨが一諸になつて養子を追い出した」とやかましく言われたことに憤慨し、実家に帰つたが、媒介人になだめられて申立人のもとに戻つた。その後相手方は、再び飲酒し、申立人が妊娠するやその中絶を要求するなど身勝手な行動が多くなり、こうした相手方の言動から同人と養母トヨとの折合が悪くなり、相手方と養母トヨ間で口論が絶えなかつた。

四  このような状態が続いたので昭和三九年五月ごろ、申立人側から申立人と相手方夫婦は申立人の父及び祖父母と別居するという案が出され、これについて双方間で話合がなされたが、相手方は別居したのでは養子縁組の意味がないとしてこれを拒否し、実家に帰つた。その後話合の結果、相手方は再び申立人のもとに戻つたが、相手方の生活態度は変らなかつたため、前記トヨとの口論が絶えず、遂に相手方は同年九月一六日同人の家財道具一切を持つて実家に帰つた。

五  相手方は、昭和四〇年六月ごろ、かつての恋人大川昌子(三一歳位)及びその子進(四歳)と同棲するに至つた。

六  相手方は、同年九月一七日申立人に無断で協議離婚の届出(同時に協議離縁の届出もなされた。)をしたが、申立人から離婚無効確認請求(昭和四〇年(家イ)第四五号)がなされ、同年一二月一〇日その無効が確定した。

七  双方が別居した後、申立人側から夫婦同居等(昭和四〇年(家)第二二号)の、相手方から夫婦関係調整(昭和四一年(家イ)第三号)の各調停の申立があつたが、相手方は強く離婚を主張して譲らなかつたためいずれも不成立に終つた。

以上の事実その他本件に現われた一切の事情に基づいて考えてみるに、双方が別居生活をするに至つた直接の原因は相手方と養母トヨとの不仲によるものであるが、これに至つた責任は申立人にもあるけれども主として相手方にあり、かつ本件婚姻の共同生活関係を著しく回復困難ならしめたのは相手方の前記五記載の不貞行為にあるというべきである。しかし本件婚姻が破綻しているとはいえ申立人と相手方は法律上の夫婦であり、しかも申立人ら母子は、一日も早く相手方が申立人のもとに復帰して水入らずの親子四人で円満かつ堅実な家庭生活を営むことを待ち望んでいるのであるから、夫たる相手方は妻たる申立人及び前記二人の子に対し、自己の収入、社会的地位に相応しい程度の生活を保障する義務を負うことは明らかである。

次に、双方の資産、収入及び生活状態について判断する。申立人の昭和四一年一月から同年五月分の給与支給明細票、相手方の同年一月から同年五月分の給与証明書、前記調査報告書、申立人及び相手方各本人審問の結果によると、

一  申立人及びその子は別に資産はないが、申立人は相手方と別居後収入を得るため○○産業の女工として勤務しており、昭和四一年一月から五月まで社会保険料等を控除した給与の総額は五万八、四四七円で月平均一万一、六八九円の収入を得ていること、申立人ら母子三名は、申立人の祖父所有の家屋に申立人の父(六一歳、精神薄弱者)及び祖父(八一歳)祖母(七五歳)と同居して一つの世帯を構成し、家賃の支払をしていないこと、前記長男は保育園に通園しているが保育料一切を免除されていること、

二  相手方は、別に資産はないが、地方公務員として○○町役場厚生課に勤務しており、昭和四一年一月から五月まで税金、社会保険及び生命保険料、職員互助会費を控除した給与(賞与を除く)の総額は一六万三、七三七円で月平均三万二、七四七円の収入を得ていること、相手方は肩書住所に間借りし賃料四、〇〇〇円、電灯料七一〇円を支払い、前記大川昌子及びその子進と同棲し、右収入により同人らの生活を賄つていること

等の事実が認められる。

そこで、相手方はいかなる限度において婚姻費用を負担すべきかについて検討する。申立人提出の昭和四一年五月分の支出明細表には申立人ら母子の生活費、養育費の外前記同居人らの生活費が含まれていてこれを明確に区別することが困難であり、他方相手方提出の同年三月から同年五月分までの月別家計支出表には、相手方の生活費の外前記同棲者の生活費養育費等が含まれていてこれを明確に区別することこれまた困難である。このような場合、双方の生活費等は生活保護法による保護の基準額を基礎として算出し相手方の負担額を定めるのが相当である。双方の居住する○○町の生活保護法による保護基準は四級地で、これによる双方の保護の基準額(昭和四一年度)は次のとおりである。

申立人(三人世帯)

相手方(一人世帯)

第一類

七、三〇五円(申立人 三、〇六〇円 長男 二、二九五円 次男 一、九五〇円)

三、六二五円

第二類

基準額

二、三〇五円(光熱費 五四〇円 その他 一、七六五円)

一、八九〇円(光熱費 四二〇円 その他 一、四七〇円)

地区別冬季加算額(一一月から三月まで)

三一五円

一九五円

九、九二五円

五、七一〇円

電灯料

前記のとおり同居しているので除外

七一〇円(実費)

住宅費

支出なし

四、〇〇〇(実家賃)

合計

九、九二五円

一〇、四二〇円

ところで、相手方が地方公務員として現実に必要とする一ヶ月の生活費は右第一第二類の計五、七一〇円の少くとも三倍にあたる一万七、一三〇円を要すると認められ、これに右電灯料及び住宅費を加算すると二万一、八四〇円となり、同人の前記一ヶ月の平均収入三万二、七四七円から右生活費二万一、八四〇円を控除すると相手方の負担能力は一万九〇七円となる。他方申立人が相手方と同程度の生活を営むための生活費、養育費は少くとも右第一第二類の計九、九二五円の三倍にあたる二万九、七七五円を必要とすると認められ、これから申立人の前記収入一万一、六八九円を控除すると申立人の生活費等の不足額は一万八、〇八六円となる。

以上の事実によれば、相手方は、申立人に対して、婚姻費用(生活費、養育費)の分担として少くとも一ヶ月一万円を負担すべき義務のあることが明らかであり、(なお家事審判は申立の額に拘束されないのであるが、本件は申立人において相手方の現実の生活の実態を考慮し、特に強制履行を求める婚姻費用を一ヶ月一万円に限定しているので、その判断を申立の範囲にとどめることにする。)既に履行期の到来した審理期間中の婚姻費用(昭和四〇年一二月から昭和四一年一〇月まで)については申立人において特に負債のないこと相手方に特別多額の貯えとてないことその他本件に現われた一切の事情を考慮すると一ヶ月三、〇〇〇円合計三万三、〇〇〇円とするのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 山口茂一)

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