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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和49年(家)2096号 審判 1977年2月28日

申立人 松本タエ子(仮名)

相手方 渡辺浩一(仮名)

主文

別紙目録<省略>記載3の物件を申立人に取得させる。

相手方は申立人に対し金二〇〇〇、〇〇〇円及びこの審判確定の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

別紙目録記載1、2の物件につき申立人は相手方に対し所有権移転登記手続をせよ。

本件手続費用中鑑定人池田祥文に支給した鑑定費用金二四万五、〇〇〇円は当事者双方の折半負担とし、その余の費用は当事者各自の負担とする。

理由

第一本件申立の要旨は「申立人は時折相手方の○○○○店の手伝いなどで相手方に出入していたが、昭和二五年頃から相手方と内縁関係をもつようになつた。当時相手方の妻まさ代が結核で入院療養中であつたため、その子女の育児家事まですべて申立人が代つて行い、まさ代も事実上申立人が妻の座にあることを認め、親族や近所の住民出入の取引先からも申立人は妻として認められ、社会生活上夫婦としての実体を備えていた。申立人は相手方と協力して家業に励み、昭和三三年頃一度は倒産したが、夫婦協力して○○○をしたりして苦労して再建した。

相手方は昭和四〇年五月まさ代と協議離婚した。

申立人は入籍はしなかつたが、実質的には妻としての地位を認められてきた。

相手方は性頑固で嫉妬深く、申立人が問屋関係と商談しているのにも嫉妬して申立人にあたりちらし、暴力を振つたり、罵倒することが続き、遂に昭和四八年二月末申立人は相手方から家を追われ、現在申立人の借店舗に相手方間の子ら二人と居住している。

以上のような事情なので、申立人は相手方との内縁関係を継続できなくなり内縁関係は解消した。よつて、申立人は相手方に対し適当な財産分与を求める。」というのである。

第二

I  本件記録及び当事者審問の結果によれば次の事実が認められる。

1  相手方は北九州市○○○区△△に衣料雑貨の店を開いていたが昭和一二年九月一二日水野まさ代と婚姻し、翌年には長女和子が出生した。昭和一八年に徴兵、終戦後昭和二一年に○○○から復員し、昭和二二年一一月二五日長男昇二が出生した。

2  まさ代は昇二誕生後間もなく結核のため入院療養を余儀なくされ、相手方は幼児の世話や店番のため女店員を雇つた。その頃女子商業学校を中退していた申立人は二人目の女店員として相手方に雇われ、昭和二五年初め頃から当初は通勤で間もなく住込みで働くようになり、主婦不在の相手方の家事や他に里子に出していた昇二は別として小学低学年の和子の世話にあけくれ同じ年には事実上の夫婦として同棲生活をするに至つた。

3  申立人は相手方との同居後積極的に相手方の営業に協力し、昭和二九年相手方の△△の店が倒産したあとも○○区××に住居をかまえ外部販売に努力した。その間相手方の意向で妊娠中絶をくりかえし、相手方の思いやりのなさに失望し、昭和三〇年頃一時は家を出て下関市×××に仲居として働くこともあつたが、間もなく所在をつきとめた相手方の懇望により再び相手方の許にもどり、双方は北九州市○○○区××町に一間を借り、山口県萩市に借店舗を構えて共に協力して営業にあたつた。

4  そのうち申立人は懐胎し相手方も出産を希望し、昭和三二年七月二二日正吾が、また昭和四一年八月二一日には由美が出生した。(相手方はいずれも自己の子であることを認め認知手続をとつたが、不備のため受理されず、当事者間の紛糾している現在においては、相手方は自己の子でないと争うに至つている。)

5  申立人は正吾をあやしながら出張販売を手伝い、金策はほとんど申立人が受持ち、相手方と共同して仕入販売を行つていた。そして昭和三六年には北九州市△△△区○○×丁目×の××に平家建を借家して○○○の店舗を設けた。これには六畳間がついていて便所簡単な板間などをつけて居住して営業をした。

6  昭和四〇年五月一九日相手方はまさ代と協議離婚をした。申立人はまさ代の心情を思い、相手方も和子にはばかつて双方とも婚姻届をしないまま共同生活を続けた。なおまさ代は昭和四五年一月二九日死亡した。

7  昭和四二年には北九州市△△△区××にも支店を出し、相手方が○○から通つてこれが経営に当り、申立人は専ら○○の店での営業にあたつていた。

8  申立人は投資目的で別紙目録3の土地を昭和四四年六月二七日買い受け、また、昭和四五年七月には同目録1、2、4の不動産を買い求めた。これら所有名義は1ないし3を申立人4を相手方としたがその頭金の支払、残金支払いのための金融機関からのローンの支払いは一切夫婦共働の営業からの利益をもつてあてられており、これら不動産は夫婦の共同して作り出した財産と認められる。そして一家は上記1、2の住宅に住み○○店には申立人が○○店には相手方が、それぞれ出向き営業をし、会計は両店共に申立人が担当していた。

9  昭和四六年申立人が相手方の反対にもかかわらず○○○○○○から金員を借り入れて○○店の改装をしたことから、かねて出入問屋筋の店員らと親しく口をきく申立人に心よからず思つていた矢先のこととて、相手方と申立人間には風波が立つようになつた。相手方は申立人が気さくで開放的で愛嬌がよく商売人としては女性の中でも極めて優秀な人物であることを認めながらも、他の若い男性に対する申立人の応待態度に強い不満をもち果てはその仲を疑うまでに至つた。

10  申立人は初めて契つた人ではあるし、年を加えるうちに申立人は相手方のためにいなくてはならない事態に立ち至つてもいることで、嫉妬深い相手方との共同生活をともかくも続けていた。しかし、間もなく申立人が度重なる妊娠中絶と生活上営業上の労苦から子宮筋腫の病をえて入院手術することになつたが、相手方は何らその用意手伝いをすることなく手術前後にも病院を訪れることなく、いたわりの言葉もなかつた。そのため申立人は急速に相手方に対する信頼を失い両者間の破綻は深まることになる。

11  昭和四八年になると相手方は○○の店が不用心だといつて申立人をこの店に寝泊りさせるようになり、申立人は食事の準備に別紙目録<省略>2の家に帰るという生活となつた。そして相手方は間もなく近所にも申立人の男関係を言いふらし○○の店の商品を引揚げ縁切りを宣言するに至り、別居状態となり申立人は○○店兼住居へ正吾、由美の二人の子も引取つた。

12  相手方は申立人を疑うようになると××店の売上げを申立人に交付しなくなり、問屋筋等へ支払うにも○○店の売上げだけでは支払うことができなくなつたので、双方各自の負担につき協議し、申立人は問屋××商店に対する一六〇万円、○○○○○○に対する二〇〇万円、相手方は問屋△△商店に対する九〇万円、○○商店に対する六〇万円を、それぞれ内部的に負担することにし、爾後は各営業所毎にそれぞれが独立した。

13  申立人は現在六五〇万円以上もの買掛、借入金があり、荒利月額六〇万円から七〇万円程度のものをもつてしても、ようやく生計を維持しているほどである。正吾は高校卒業して△△関係の会社で×××として働いているが、申立人の生計にはそれほどの助けとはならず、由美は小学校四年生である。一方相手方の営業収益も振わず、独り生活ができる程度の利益だけである。和子は昭和三六年一月一九日水上豊と婚姻し昇二も東京都において就職していている。当事者双方とも所得税申告はしていない。

14  鑑定人池田祥文の鑑定によれば昭和五一年一二月二〇日の時点で別紙目録<省略>1の土地及び2の建物合計して金八四四万九、〇〇〇円、3の土地は金五二九万三、〇〇〇円であり、すでに相手方が昭和四八年七月一七日佐藤雅美に売却した同目録4の土地は金六五二万五、〇〇〇円である。

15  上記4の土地については昭和四五年七月二〇日株式会社○○○○○○小倉支店との取引契約による債権元本極度額一五六万円の根抵当権が設定されていたが、上記売買による売得金から弁済され上記売買の日これが抹消登記手続がとられている。

16  申立人は上記売買代金残金で相手方は他に土地を求めていると申立てているが確認すべき資料はない。

II

1  以上認定の事実関係に現われた申立人と相手方双方の事情を考えると、申立人と相手方との内縁関係は相手方とまさ代との離婚までの間は、その動機理由まさ代の感情如何にかかわらず社会通念上許されざる関係であり、法律的に申立人相手方双方にとつて法律上保護さるべき利益を肯定することはできないとするのが原則であろう。しかし、ともかくも申立人の相手方とその子らに対する献身的努力と財産形成に対する大きな寄与の事実は否定することはできず、病気のためほとんど妻としてまた母親として相手方とその子らの面倒をみることができず同居もかなわなかつたまさ代にしても申立人に一切を任せざるをえないやむをえない事情から申立人と相手方との関係を黙認していたばかりか、その状態に甘え相手方との夫婦としての正常な状態維持に積極的態度を示さなかつたことが申立人をして相手方との関係を抜きさしならぬものへと進めてしまつたものともいえる。

相手方もまさ代との関係を維持しながら一方では申立人と夫婦関係を続け対外的にはまさ代よりも申立人の方が妻と認められる状態を作出したにもかかわらず些細なことから長年にわたる申立人との関係を断ち申立人を放置してかえりみない。社会の許さない内縁関係であつたにしてもまさ代との離婚によつて申立人との内縁関係はともかくも形式的にも許される状態になつていたし、相手方が申立人を相手方との内縁関係を続行することができないようにさせるについての合理的理由を肯認できない。かくて現在申立人と相手方とが内縁関係を解消していることは明らかであり、その責任は相手方にあるものと認められる。

2  そして上記各事情を斟酌するときは、財産分与として別紙目録<省略>1、2の物件は相手方に帰属させたうえ申立人に対しては同目録3の土地を取得させるほか、相手方から申立人に対し金二〇〇万円をこの審判確定の日の翌日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付して支払うを相当と認める。

なお附随的必要な措置として上記1、2の物件について申立人から相手方への所有権移転登記手続を命ずるを相当とする。

3  よつて、手続費用の負担について家事審判法第七条、非訟事件手続法第二六条、第二七条、第二八条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 生田謙二)

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