大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和41年(ワ)844号 判決 1968年4月08日

原告 元山定

被告 国

訴訟代理人 島村芳見 外七名

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

第一、争のない事実

被告国が原告主張の戸畑バイパス工事を計画施行したこと、及び右工事のうち中央地区改築工事(本件工事)は、被告奥村組が同国よりこれを請負い、昭和三八年八月頃着工して翌三九年三月末頃完成したことは、当事者間に争がない。

第二、本件工事における被告らの不法行為の存否

<証拠省略>を綜合すると次の事実を認めることができる。

一、被告国が設計し、同奥村組が主として施行した本件工事は、中央地区改良工事、中央橋下部工外一廉工事、中央高架橋上部工架設工事、中央地区舗装工事、中央高架橋床板工事、中央橋上部工架設工事、中央橋床版工事に分類され、そのうち中央地区改良工事の対象となつた道路沿いに原告の居住家屋が存在している。

二、被告奥村組は本件工事に当たり、D80ブルドーザー、デルマツク杭打機、ドラグシヨベル、バイブレーター、マカダムローラー、トラツクレーン、削岩機、コンプレツサー、ドーザーシヨベル、日立U一〇六ブルシヨベル等を使用したが、これら動力機械が或程度の騒音、震動を伴うことは避け難いところとはいえ、通常使用する場合に発する音響、震動は、人の生理機能に障害を生ぜしめる程のものではなく、また被告らが右機械の音響、震動を殊更不必要に高めたような形蹟はない。

次に被告らは、本件工事のうち、中央橋下部工一廉工事に当り、岩を砕くため黒色火薬を使用したが、右火薬使用については、事前に北九州市、西日本鉄道株式会社、日本国有鉄道等関係機関と協議し、更に附近の中央中学及び地元関係者の承諾を得たうえ、発破作業を行つたもので、右作業に際しては橋台の全面に防護柵を設け、発破用火薬を装填した穴の上部には畳を置いて岩石の飛散を防いだうえ、監督員を要所に配置し、サイレンを鳴らして通行中の人や車輌に警報を与え、危険防止の描置をとつていた。そして右発破作業は、一日一回一三時二〇分から四〇分までの二〇分間のうちに行われていたもので、これによる騒音、震動も爆発の瞬間だけのものに過ぎないから、人の生理機能に障害を及ぼす程のものではなかつた。

もつとも発破の際に砕かれた岩石が防護柵の外に飛び出したことが二、三回あり、そのうち一回は右岩石によつて原告方の窓ガラスが割れたが、被告奥村組において割れたガラスを入れ替えた。

三、次に本件工事における堀削土の処理及び使用器材の取扱いについても、被告国は本件工事を被告奥村組に請負わせるに当り、特記仕様書によつて「堀削土、材料及び機械等は、これを仮置といえども交通連絡のさまたげとなる場所に置いてはならない」旨及び「側溝床堀土砂剰余土は堀削と同時に処分し、堀戻土はあらかじめ板囲を設け、路面排水及び交通の阻害とならぬよう処理すること」「監督員の承認を受けた場合を除き、切土はもとより側溝の床堀といえどもその堀削土の搬出がその日には出来ないものについては作業を実施してはならない」等の定めをし、現実の工事に当つては、被告国の技官、設計者各三名が監督に当り、右定めのとおり被告奥村組は、堀削土は直ぐダンプトラツクに積み込んで運び去り、一部仮置きした土も交通の支障にならない箇所に置いたもので、原告方の出入口前附近に仮置きしたようなことはなかつた。

そしてまた、原告がその所有家屋前の道路を、同家屋に近接するまで堀返したと主張する工事は、本件工事の一部ではなく、北九州市水道局の発注により被告奥村組が施行した下水道移設工事、及び配水管移設替工事(以下、単に上、下水道工事という)であつて、本件工事とは別個のものであつた。<証拠省略>のうち、右設定に反する部分は容易に信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

もつとも、<証拠省略>によると、一見被告らが本件工事に使用した資材、工具を作業終了後そのまま放置していたかのように見受けられなくもないが、右写真だけでは、それが作業中のものか、作業終了後のものか、将また本件工事中常にそのような状況であつたものか、或いは一日のしかも限られた時間だけの状況であつたものかが明らかでないので、右写真のみをもつて前記認定を覆えすことはできない。

また<証拠省略>は、被告奥村組が原告方前で石を砕く作業中飛散した石によつて、原告方のガラスが四回位割れたと述べているけれども、仮りにそのような事実があつととしても、原告本人の供述によると右ガラス破損による損害は、総て被告奥村組において現物または金銭により補償していることが明らかである。

前認定の事実によれば、本件工事に当り被告国はその設計監督者として、被告奥村組はその請負人として、いずれも相当の注意を払つて工事を施行したものであつて、原告主張のように通常人の受忍すべき限度を超えた騒音、震動を発し、或いは路面を原告所有家屋に近接するまで堀返して長期間放置した事実はなかつたものと認められ、他に原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

第三、上、下水道工事に伴う被告奥村組の責任について

北九州市水道局の注文により被告奥村組の施工した、原告方前の上、下水道工事が本件工事とは別個のものであることは前認定のとおりであつて、被告国は右上、下水道工事とは何の関係もないか、同奥村組に右工事の直接の施工者であり、同被告に対する原告の主張は要するに原告方前の路面を堀削した同被告の工事、即ち右上、下水道工事による同被告の不法行為責任を追求する趣旨をも含むものと解されるので、以下この点につき検討する。

<証拠省略>によると、被告奥村組は前記上、下水道工事において、原告所有家屋前の道路を堀削し、そのため同家屋えの出入りに不自由を感ずる期間のあつたことが認められその堀削部分と、原告所有家屋との距離及び資材の置き方につき、右各証人は、殆んど家の柱に接近したところまで堀つていたし、道具や材料は乱雑に置いてあつた(野崎証人)、とか或いは軒下一杯位堀つた箇所や、一米内外位の箇所もあり、材料の置き方に邪魔になるなと思うようなことがあつた(清口証人)とか、また堀つた箇所は家の入口のコンクリートで固めた靴抜ぎより三〇糎位で、壁からは約一米の距離であつて、材料の置き方とか片付け方は、やりつ放しみたいなことであつた(小野証人)とか、軒下ちよつと近く、一米位のところを堀つていた(莞牟田証人)と証言しており、原告本人も、建物すれすれに埋めてあつた水道管を堀り起したし、工事用資材は<証拠省略>の写真のような状態で野放しに置いていたと供述し、<証拠省略>によれば、一見原告方に接近して堀りあげた土砂を堆積している感があり、或いは工事用資材を原告方出入口前に置いていることが認められる。

しかしながら、<証拠省略>を綜合すると、前掲<証拠省略>の各写真はいづれも原告方に面した方向から撮影しているので、堆積土等が原告所有家屋に接着したように見受けられるのであつて、実際は人の通行にさしたる支障はない程度の距離をとつて置いてあつたものと認められるし、工事用資材を原告方前に置いていた時間も、数時間程度であつたものと認められるから、堀削部分と原告所有家屋との距離及び工事用資材の置き方に関する前掲<証拠省略>は、た易く信用し難い。仮りに被告奥村組が原告方の軒先を堀つたとしても、それは原告本人自身、原告所有の建物すれすれに埋めてあつた水道管を堀り起して、他に多設するためなされた旨、及び堀り起していた期間は半月位であつた旨供述しているのであつて、この点につき前掲岸原証人は、穴を堀つて埋めるまでの期間は三日位であつたと証言しているが、右の期間が原告本人の供述どおり半月位を要したとしても、この種工事においては、やむを得ないものというべきであり、被告奥村組が不必要に原告方前路面を堀り起し、その堆積土を慢然と長期間放置していたような形蹟はない。

そうだとすると、前記上、下水道工事によつて原告方の出入が不自由になつたのは、右工事に伴う一時的なやむを得ない影響に過ぎないものといわざるを得ず、他に被告奥村組が原告をはじめ附近住民に故意又は過失により損害を及ぼすような方法で、右工事を施行したことを認めるべき証拠はない。

もつとも、右工事が北九州市水道局の行う行政作用として、適法に行われたとしても、これによつて原告が何らかの損害を蒙り、それが右工事の結果受ける利益をもつて蔽い得ないような場合は、事業主体である北九州市水道局に対し、これが補償を求め得る余地はあるけれども、請負人である被告奥村組に対しては、かかる意味での適法行為に基く補償を求めることはできないものというべきである。

第四、結論

以上の次第で、原告が被告らに対し、本件不法行為に基く損害の賠償を求める本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないので、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森永龍彦)

見取図、別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例