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福岡地方裁判所小倉支部 昭和36年(わ)260号 判決 1962年4月25日

被告人 山田克己

昭一〇・三・一〇生 店員

山田弘美

昭一三・一・一〇生 既決囚

主文

被告人山田弘美を死刑に、被告人山田克己を無期懲役に、被告人大西一二三を懲役壱年に、各処する。

被告人山田克己に対し、未決勾留日数中百八拾日を右本刑に算入する。

被告人大西一二三に対し、本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人大西一二三を保護観察に付する。

押収してあるプライヤー一個(昭和三十六年押第百三十六号の十九)は、これを被告人山田克己から没収する。

理由

(罪となる事実)

被告人山田克己、同山田弘美は兄弟であつて、克己は父山田芳太郎母ユキエの長男として、弘美はその次男として出生し、共に両親に養育されて成長したが、昭和二十九年頃には父と、同三十三年頃には母と死別してからは幼い弟妹四人と共に苦しい生活を送つていたものであるところ、両名共に仕事に長続きせず、昭和三十五年一月頃にはいずれも定職にもつかず、妹の僅かな収入に頼り、弟妹三人と共に生活していたもので、生活費にも窮し、小使銭にも不自由していたもの、被告人大西一二三は、被告人山田弘美と中学時代の同級生であり、家も近かつた関係からその後も交際を続けるうち、被告人山田克己とも知り合い、昭和三十五年一月頃は屡々被告人山田方に出入していたものであるが、

第一、被告人山田克己、同弘美は共謀の上、

一、昭和三十五年一月十二日頃の午前零時頃、窃盗の目的で福岡県行橋市大字崎野福岡県立豊前農業高等学校(校長小山彪)職員室に故なく侵入し、同所において金田富美子外三名所有の現金合計約六百円及び煙草約三個、ジヤツクナイフ一本(合計時価約五百四十円相当)を窃取し、

二、引続き同日午前二時頃、同市大字大正町映画館「行橋日活」において瓜生友弘の管理する現金千三百円及び入場前売券十枚菓子類約二十四点(合計時価約千四百七十円相当)を窃取し、

三、同月十三日頃の午後十一時頃、窃盗の目的をもつて同市上津熊百四十五番地延永小学校(校長家原雍宣)職員室南側硝子窓より同室内に故なく侵入し、同所において同校校長家原雍宣の管理するナシヨナルテレビの真空管一個及び畑野猛所有の煙草約十四本(合計時価約五百三十五円相当)を窃取し、

四、引続き窃盗の目的をもつて同月十四日午前零時頃、同市大字今井所在行橋市立今川小学校(校長末永一郎)職員室北側硝子窓より同室内に故なく侵入し、同所の机の抽斗を物色したが、現金が見当らなかつたので、その目的を遂げず、

五、更に同日午前一時頃、窃盗の目的をもつて同市大字天生田五百四十五番地行橋市立中京中学校(校長井上信之)職員室に、南側硝子窓より同室内に故なく侵入し、同所の机抽斗を物色したが現金が見当らなかつたのでその目的を遂げず、

第二、被告人山田克己、同山田弘美の両名は窃盗の目的で、同月十九日午前零時頃、同県築上郡荘田町大字白田福岡県立築上西高等学校(校長友庇弘)職員室東側の硝子窓より、その施錠を外して同室内に侵入し、同所において有田寛所有の皮ケース入り補聴器付眼鏡一個(時価約六万五千円相当)及び馬場愿外三名所有の現金合計約七百八十円、煙草一箱(約十七本入)を窃取し、引続き物色中、物音に不審を抱き同校宿直室より木刀をもつて起き出して来た同校用務員印丸辰夫(当時三十一年)及び同校警備員渡辺逸作(当時六十年)の両名と、同校玄関附近廊下で出合うや、逮捕を免れる為被告人山田弘美において所携のジヤツクナイフを振りかざす等して右両名を同校宿直室内に追いつめた上、右両名の反抗を抑圧して金品を強取すべく、被告人両名相互に意思を相通じ被告人山田克己において所携のブライヤー(昭和三十六年押第百三十六号の十九)をもつて切断した同室内のビニール製電気コード(同号の十七の一乃至五)をもつて、右印丸、渡辺両名の両手をそれぞれ後手に緊縛し、被告人山田弘美において同室内にあつた布団襟カバー(同号の一、十六)をもつてそれぞれ右両名に猿轡を施してその反抗を抑圧した上、被告人両名のうち一名は監視の為に残り、交互に物色を続け同校事務室内より末延正雄の管理する単車の鍵一個を、宿直室内より前記渡辺逸作所有の現金約千円を強取したが、右宿直室内において、後手に緊縛され猿轡をはめられたまゝ、布団の上に俯伏せになつている右両名の枕元に腰を下し帰宅の方法等につき思案している内、前記渡辺より「最近放火事件の為夜警が廻つており、間もなく此処に来るから早く逃げなさい、警察には連絡しないから」と聞かされるや、右両名に長時間顔を見られているし、被告人両名共前科或いは非行歴があり、警察には写真も保存されていることでもあり、又逃亡後直ちに警察に連絡されるおそれもあると考え、犯行の発覚、逮捕を免れる為には両名を殺害する外はないと考えるに至り、こゝに被告人山田克己、同山田弘美の両名は意思相通じ、被告人山田弘美において先ず前記の姿勢で俯伏せになつている右印丸辰夫に跨りその背後から頸部に前記電気コードをひつかけ、その頭部を土足のまゝ踏みつけ、電気コードを強く上方に引き締め、その間被告人山田克己において暴れる右印丸の両足を押えつけ、よつて即時同所において右印丸を窒息死させ、引続き同じく被告人山田弘美において右渡辺逸作の背後からその頸部に電気コードを巻きつけて強く引き締め、よつて即時同所において右渡辺逸作を窒息死させ、以つて右両名をそれぞれ殺害し、

第三、被告人大西一二三は、同十九日頃の夜、行橋市大字大橋三百三十九番地の右山田克己、同弘美方に遊びに行つた際、右両名が第二記載の強盗殺人事件の犯人であることを聞き知つたが、同家より帰ろうとした際右両名より前記犯行に使用した前記プライヤー一個及び同犯行中右山田弘美が履いていたゴム半長靴一足の処分方を依頼されるや、それが右両名の判示第二の強盗殺人事件の証憑となるものであることを知りながら、その処分を承諾してこれを受取り、同日夜同市大字大橋神田町船路川内に右プライヤー一個を投棄し、更に同月下旬頃同市田町朝日パチンコ店において右ゴム半長靴を、情を知らない北代一利に譲り渡し、もつて他人である右山田克己、同弘美の前記強盗殺人事件に関する証憑を湮滅し、

第四、被告人山田弘美は単独で、

一、同年二月九日頃の午前零時頃、行橋市大正町映画館「行橋日活」内売店において、山地まさえ所有の現金約四十円及び菓子類約四十三点(時価合計約千百九十円相当)を窃取し、

二、同年三月十日頃の午前零時頃、前同所「行橋日活」内売店において前記山地まさえ外二名所有の現金百円及び菓子類等約百十二点(時価合計約千五百九十円相当)を窃取し、

第五、被告人山田克己は単独で、同年二月十四日頃の午前零時頃前記映画館「行橋日活」内売店において、前記山地まさえ所有の菓子類約四十一点(時価合計約六百四十円相当)を窃取し、

第六、被告人山田克己、同大西一二三の両名は共謀の上、同年七月二十三日頃の午前零時頃、同市国鉄行橋機関区車庫附近において、安東守一管理にかゝる鋼管等合計三十五個(時価合計約七千三百三十五円相当)を窃取し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(確定判決)

被告人山田弘美は昭和三十五年五月六日行橋簡易裁判所において窃盗罪で懲役一年六月に処せられ、右判決は同年同月九日確定したもので、右事実は被告人山田弘美の当公判廷における供述及び行橋区検察庁検察事務官作成の前科調書により認める。

(法令の適用)

法律に照らすと被告人山田弘美の判示所為中、第一の一、三、四、五、第二の各住居侵入の点はいずれも刑法第百三十条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号に、判示第一の一乃至三の各窃盗の点はいずれも刑法第二百三十五条、第六十条に、第一の四、五の各窃盗未遂の点はいずれも同法第二百四十三条、第二百三十五条、第六十条に、判示第二の印丸辰夫、渡辺逸作両名に対する各強盗殺人の点はいずれも同法第二百四十条後段第六十条に、判示第四の一、二の各窃盗の点はいずれも同法第二百三十五条に各該当するところ、判示第一の一、三、四、五、の各住居侵入と各窃盗(第一の四、五については窃盗未遂)及び判示第二の住居侵入と各強盗殺人とは、それぞれ手段結果の関係にあるので同法第五十四条第一項後段、第十条に従い判示第一の一、三についてはいずれも重い窃盗罪の判示第一の四、五についてはいずれも重い窃盗未遂罪の、判示第二については最も重いものと認める渡辺逸作に対する強盗殺人罪の刑にそれぞれ従うこととなるが、強盗殺人罪については所定刑中いずれの刑を選択すべきか考慮するに、被告人山田弘美がその父母と死別して後、幼い弟妹と共に精神的支柱を失い、経済的にも恵まれていなかつた生育環境及び、被告人はなお春秋に富む青年で思慮も十分でない点、その兄弟を思う心情等を考えると若干同情の余地なしとしないが、ひるがえつて本件犯行について考えると、両名殺害の動機は自己の犯行の発覚を防ぐと言うだけのもので、本件被害者等には殺害を誘発する何等の事由もなく、その態様は、猿轡をはめ、後手に縛つて俯伏せにし、全く無抵抗な両名の首にコードをかけて引張り、被害者の身体が弓なりになるや、その頸部を土足で踏みつけて首を締める等全く残忍なものであり、しかも一時的な激情の結果でなく、終始比較的冷静に行動している状況等その犯行には酌量の余地はなく、又被告人山田弘美は本件犯行前数回非行歴前科があり、本件直前に受けた執行猶予の判決等からしても、被告人としても生活を立直すべき機会は屡々あつたにも拘らず、そのような努力の跡は少しもうかがわれず本件犯行後も引き続き犯行を重ね、法廷における態度等に徴して改悛の情は顕著なものとは認められず、又本件が同高校の生徒を始め社会に与えた衝撃も軽視することはできない。これ等の点を考慮すると前記被告人山田弘美にとつて有利と認められる点を斟酌してもなお被告人に対しては極刑を選択することもやむを得ないものと言わねばならない。よつて死刑を選択するが以上は、前示確定裁判を受けた罪と刑法第四十五条後段の併合罪であるから、同法第五十条により、未だ裁判を経ない判示第一の一乃至五、第二、第四の一、二の罪について処断することとなるが、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十六条第一項を適用し、渡辺逸作に対する強盗殺人の罪の刑に従い処断することとして他の刑を科せず、被告人山田弘美を死刑に処し、被告人山田克己の判示所為中、第一の一、三、四、五、第二の各住居侵入の点はいずれも刑法第百三十条、第六十条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に、判示第一の一乃至三の各窃盗の点はいずれも刑法第二百三十五条、第六十条に、第一の四、五の各窃盗未遂の点は、いずれも同法第二百四十三条、第二百三十五条、第六十条に、判示第二の印丸辰夫渡辺逸作両名に対する各強盗殺人の点はいずれも同法第二百四十条後段第六十条に、判示第五、第六の各窃盗の所為はいずれも同法第二百三十五条(判示第六の窃盗の所為については更に同法第六十条)に、各該当するところ、判示第一の一、三、四、五の各住居侵入と各窃盗(第一の四、五については窃盗未遂)及び判示第二の住居侵入と各強盗殺人とはそれぞれ手段結果の関係にあるので同法第五十四条第一項後段、第十条に従い、判示第一の一、三についてはいずれも重い窃盗罪の、判示第一の四、五についてはいずれも重い窃盗未遂罪の、判示第二については最も重いと認める渡辺逸作に対する強盗殺人罪の刑にそれぞれ従うこととなるが、強盗殺人罪については所定刑中いずれの刑を選択すべきか考慮するに、被告人山田克己は、父母なき後は弟妹五人の長兄として一家の中心であり、被告人山田弘美に対しても兄として適切な指導監督をなすべき立場にあるにも拘らず、弘美と共に本件犯行に出たことは非難すべく、又当公判廷においては弟弘美の本件殺害行為には加功しなかつた旨強く主張したが、前掲各証拠に照らし、右主張は直ちに措信できず被告人山田克己も直接本件殺害行為を共謀し、加功したものと認めるのが相当であつて、この点からすれば被告人山田克己も被告人山田弘美と同程度の責任を負うべきものと言わねばならないのであるが、しかし一方被告人山田克己の加功の程度は軽く、又終始消極的で、本件の様な結果に至つたのは被告人山田弘美に引きずられたものと認められる点が多分にあり、又被告人山田弘美に比較して改悛の情も認められ、生育環境等前記弘美についてと同様の事情等を併せ考えると被告人山田克己に対し、極刑を選択することは幾分重きに失すると認められるので所定刑中無期懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十六条第二項を適用して被告人山田克己を無期懲役に処し、同法第二十一条を適用して、未決勾留日数中百八十日を右本刑に算入することとし、被告人大西一二三の判示第三の所為は同法第百四条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に、判示第六の所為は刑法第二百三十五条、第六十条に各該当するので、証憑湮滅罪については所定刑中懲役刑を選択するが、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文但書を適用し、重い窃盗罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人大西一二三を懲役壱年に処し、情状特に憫諒すべきものがあるので同法第二十五条第二項を適用し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予し、同法第二十五条の二、条一項後段により右猶予の期間中保護観察に付し、押収してあるプライヤー一個(昭和三十六年押第百三十六号の十九)は被告人山田克己において判示第二の犯行の用に供したものであり犯人以外の者に属しないので同法第十九条第一項第二号第二項を適用してこれを被告人山田克己から没収することとし、訴訟費用については被告人山田克己、同山田弘美、同大西一二三の三名共貧困のため納付できないと認め刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用してこれを負担させない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安仁屋賢精 富山修 近藤道夫)

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