大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和62年(ワ)1433号 判決 1988年2月26日

主文

一  原告(反訴被告)が、福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円の還付請求権の取立権を有することを確認する。

二  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は被告(反訴原告、以下「被告」という。)の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告(反訴被告、以下「原告」という。)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  請求の趣旨

1 被告が、福岡法務局昭和六一年度金第一三一三号の供託金六二万円の還付請求権を有することを確認する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第二項と同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 原告は、株式会社藤前ウンユーシステム(債権差押時の商号は太進運送株式会社。以下「債務者会社」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在で、次のとおり、二四四万五三〇四円の租税債権を有していた。

<省略>

2 債務者会社は、九州運輸センター協同組合(以下「第三債務者組合」という。)に対し、昭和六〇年九月二四日現在において、同年八月一日から同月三一日までの間の運送代金支払請求権六二万円(以下「本件債権」という。)を有していた。

3 原告の香椎税務署徴収職員は、前期租税債権を徴収するため、債務者会社が第三債務者組合に対して有する本件債権を、昭和六〇年九月二四日、国税徴収法四七条及び六二条の規定に基づき、履行期限を同年九月三〇日と定めて差し押さえ、右債権差押通知は、即日第三債務者組合に交付送達された。

4 第三債務者組合は、本件債権につき被告が債権譲渡を受けた旨の確定日付のある債権譲渡通知が、昭和六〇年九月二四日、第三債務者組合の北九州営業所(北九州市小倉北区所在)に到達しており、右債権差押通知と債権譲渡通知のいずれが早く到達したか判明しないとして、債権者不確知を理由に、昭和六一年六月一七日、民法四九四条の規定により、請求の趣旨一項記載のとおり、六二万円を供託した。

原告(福岡国税局長)は、念のため、昭和六二年三月二三日、右供託金につき債務者会社が取得した供託金還付請求権を差し押さえるとともに、同月二五日、債権差押通知を福岡法務局供託官に送付した。

5 よって、原告は、被告との間で、本件供託金六二万円の還付請求権の取立権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は不知。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は不知。

4 同4のうち、供託の事実はみとめるが、その余の事実は不知。

三  抗弁(仮定抗弁)

仮に請求原因1及び3の各事実が認められるとしても、被告は、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもって右債権譲渡の通知をし、右通知は、同月二四日、第三債務者組合に到達した。

しかして、債権差押通知と債権譲渡通知が第三債務者に同時に到達した場合には、その優劣を決することができないから、差押債権者及び債権譲受人は、互いに、債権者の地位にあることを主張し得ないというべきであり、仮に、互いに、債権者の地位にあることを主張し得るとしても、それぞれが、右債権を平等の割合をもって分割取得するものと解される。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

しかし、本件のように、債権差押通知と債権譲渡通知が第三債務者に同日に到達し、一定の幅の中で到達の先後関係が不明の場合には、同時に到達したものとして評価すべきであり、この場合には、差押債権者及び債権譲受人は、互いに、債権者の地位にあることを主張することができ、かつ、それぞれが全額について債権を有することになる(平等の割合をもって分割取得することにはならない)と解されるから、被告の抗弁は主張自体理由がない。

(反訴について)

一  請求原因

1 債務者会社は、第三債務者組み白に対し、昭和六〇年九月二四日現在において、本件債権を有していた。

2 被告は、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から、本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもって右債権譲渡の通知をし、右通知は、同月二四日、第三債務者組合に到達した。

3 第三債務者組合は、本件債権につき原告を差押債権者とする債権差押通知が、昭和六〇年九月二四日、第三債務者組合に到達しており、右債権譲渡通知と債権差押通知のいずれが早く到達したか判明しないとして、債権者不確知を理由に、昭和六一年六月一七日、民法四九四条の規定により、請求の趣旨一項記載のとおり、六二万円を供託した。

4 よって、被告は、原告との間で、本件供託金六二万円の還付請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は、すべて認める。

三  抗弁

本訴請求原因1及び3に同じ。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は不知。

第三  証拠(省略)

理由

第一  本訴について

一  請求原因について

原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証によれば、請求原因1(租税債権)の事実が認められ、同2(債務者会社の第三債務者組合に対する本件債権)の事実は当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証及び証人有川秀雄の証言を総合すると、同3(原告による本件債権の差押及び右債権差押通知が昭和六〇年九月二四日に第三債務者組合に交付送達されたこと)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。したがって、原告は、国税徴収法六七条一項の規定により、本件債権の取立権を取得したものと認められる。

同4のうち、第三債務者組合が原告主張のとおり供託をしたことは当事者間に争いがない。

二  抗弁について

被告が、昭和六〇年九月一八日、債務者会社から、本件債権を譲り受け、債務者会社は第三債務者組合に対し、同年九月一九日の確定日付のある内容証明郵便をもって右債権譲渡の通知をし、右通知が、同月二四日、第三債務者組合に到達したことは、当事者間に争いがない。

そこで、いずれも同月二四日に第三債務者組合に到達した右債権差押通知と右債権譲渡通知の各到達時の先後関係についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証によると、第三債務者組合北九州支店の職員は、同月二四日、被告による右債権差押通知を受領したので、すぐにその旨第三債務者組合の本部(福岡市東区所在)に電話連絡したところ、本部から、「つい先程、本件債権につき原告による債権差押通知書を受領したところである。」との返事を受けたことが認められるものの、他に右先後関係を確定するに足りる的確な証拠はない。右認定事実によれば、右先後関係は不明といわざるを得ないけれども、右各通知が、きわめて近接した時間の幅の中で第三債務者組合に到達したものであることは明らかであるから、このような場合においては、右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当と解される。

そこで、指名債権の譲渡にかかる確定日付のある譲渡通知と右債権に対する債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合における、債権譲受人と差押債権者との優劣関係について検討するに、債権差押の効力は、債権差押通知が第三債務者に到達したときに発生するのであって、かつ、この効力を第三者に対抗するために一定の用件を要する旨の規定はないから、債権差押通知と同時に債権譲渡通知が到達した場合であっても、右債権差押の効力は債権譲受人に及ぶと解さざるを得ないところ、一方、債権譲渡については、第三債務者に対する確定日付のある証書による通知または承諾がない限り、第三者に対抗し得ない旨規定されている(民法四六七条二項)のであるから、債権差押通知により先に債権譲渡通知が第三債務者に到達したのでなければ、債権譲受人は第三者たる差押債権者に対抗し得ず、右各通知が同時に第三債務者に到達した場合においては、債権譲渡の効力は差押債権者に及ばないものと解される。したがって、右各通知が同時に第三債務者に到達した場合における差押債権者と債権譲受人との関係は、指名債権が二重に譲渡され、各債権譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における各譲受人のように、相互に優先的地位を主張し得ないため、その優劣を決定し得ないという関係とは異なり、債権譲受人のみが一方的に債権差押の効力を受ける、すなわち、差押債権者が債権譲受人に優先する関係にあるものということができる。

被告は、原告と被告の優劣を決定し得ないことを前提として、両者の法律関係につき種々主張するけれども、以上によれば、被告の右主張はその前提を欠くものであって、結局、被告としては、その債権譲渡通知が原告による債権差押通知よりも先に第三債務者組合に到達したことを主張立証しない限り、原告による債権差押が無効であるということができないと解されるから、抗弁は採用することができない。

三  よって、原告の本訴請求は理由がある。

第二  反訴請求について

一  請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  抗弁事実が認められることは前記第一の一でみたとおりであり、原告が対抗要件の有無を問題としていることは明らかである。

三  そうすると、民法四六七条二項の規定により、被告としては、その債権譲渡通知が原告による債権差押通知よりも先に第三債務者組合に到達したことを主張立証しない限り、原告に対抗し得ない(前記第一の二でみたとおり、右各通知が同時に到達したことをいうのみでは原告による債権差押の効力を否定することができない)ところ、そのような事実が認められず、かえって、右各通知は第三債務者組合に同時に到達したものとみるべきことは、前記の一の二で説示したとおりであるから、結局、被告の反訴請求は理由がない。

第三  結論

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例