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福岡地方裁判所 昭和59年(行ウ)13号 判決 1987年4月28日

原告

あけぼのタクシー有限会社

右代表者代表取締役

瓜生哲也

右訴訟代理人弁護士

古川卓次

被告

福岡県地方労働委員会

右代表者会長

三苫夏雄

右指定代理人

青柳栄一

植田茂實

中富倫彦

高瀬秀平

被告補助参加人

あけぼのタクシー労働組合

右代表者執行委員長

横田重信

右訴訟代理人弁護士

田中久敏

小沢清實

諫山博

小泉幸雄

小島肇

井手豊継

内田省司

林田賢一

椛島敏雅

田中利美

山本一行

幸田雅弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告補助参加人を申立人、原告を被申立人とする福岡労委昭和五八年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について、被告が昭和五九年五月二四日付でなした別紙命令書(略)記載の命令のうち、主文第1項を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)は、昭和五八年三月二日、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立(以下「本件救済の申立」という。)をしたところ、被告は、昭和五九年五月二四日付をもって別紙命令書記載のとおりの救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書写は同年六月一二日原告に交付された。

(二)  しかしながら、本件命令の主文第1項は、前提とした事実の認定及び法律上の判断に誤りがあり、違法である。

よって、原告は、本件命令主文第1項の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。但し、命令書写しが原告に交付されたのは昭和五九年六月一三日である。

(二)  請求原因(二)は争う。

三  抗弁

被告は、別紙命令書理由中「第1 認定した事実」記載の事実に基づき、同「第2 判断及び法律上の根拠」記載のとおり判断したものであって、本件命令に違法はない。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

(一)  別紙命令書中、「第1 認定した事実」に関する認否

1 「1 当事者等」について

同項(1)(2)記載の各事実は認める。

2 「2 本件発生に至る労使関係」について

(1) 同項中(1)の事実は認める。但し、組合脱退者が続出したのは、中島、横田らの過激な組合活動についていけなかったからである。

(2) 同(2)(3)の各事実は認める。

(3) 同(4)の事実については、組合の宣伝活動を行うに至った経緯、目的等は不知。その余は認める。

但し、宣伝活動を開始したのは、四月二〇日頃からで、当初は横田、中島両名のみで、米田は、同年六月上旬から参加したものである。

(4) 同(5)の事実は認める。

3 「3 団体交渉の経緯」について

(1) 同項中(1)の事実については、春闘要求書が提出されたこと、横田、中島、坂本が同年六月九日に宣伝カーで会社に乗りつけたため、原告が三名の立ち入りを拒絶したことは認め、その余は否認する。

組合の宣伝活動について、あけぼの会より原告に対し、中止の要望書が提出されたため、同年六月八日、原告は乗務中の米田を会社に呼出し、あけぼの会の要望を伝え、組合の意向を求めた。これに対し、翌九日に、前記横田らが、「乗務中の組合員を呼び出すな、そのことで団交しよう。」と、宣伝カーで会社に乗りつけて来たものである。したがって、組合の春闘要求事項とは無関係である。

(2) 同(2)については、乗務中に呼出したという点および「処分中であるので団交はできない。」、「別の日にやりましょう。」との発言は否認し、その余は認める。

前日の横田らの団体交渉の申出に対し、「横田、中島は処分中だから会社(構内)に入れない、あんたと団交しよう。」と述べたところ、米田は「いいですよ。」と答えた。そこで、米田と交渉をしたのであるが、横田らの宣伝カーに関し意見が対立したものである。

(3) 同(3)については、就労のため出社したという点は否認し、その余は認める。

横田、中島は、米田、坂本(別件の一審判決において同人に対する懲戒解雇は有効と判断された)を同道し、午後二時頃、賃金仮払いの仮処分決定により、「金を取りに来た」ため、計算(社会保険の控除等の)して送金することにしたものである。

(4) 同(4)については、昭和五七年の賃金等につき、あけぼの会との間で合意が成立し、同会員には夏期一時金が支給されたこと、三島部長が横田に対し、電話で「あけぼの会との妥結内容どおりに応ずるならば、同意書を送れ。」と話したことは認め、その余は争う。なお、日にちは五日である。

右電話は、当初、原告より横田にかけたもので、横田より「(あけぼの会の妥結)内容がよく分らんから、団交しよう。」と申出があったため、近日中に団体交渉することを約束したのである。

(5) 同(5)については、スペア条項が明らかに組合対策であるとして早急に団体交渉を要求し、原告は、処分中の者とは団体交渉しないと述べたという点は否認し、その余は認める。

同日、三島部長は横田に対し、レストラン「オー」で団体交渉したい旨電話連絡したところ、横田はこれに応じ、米田を同行して来たのである。原告側のあけぼの会との妥結内容についての説明に対し、横田らは「応じられるものと応じられんものがある。」と答えていたし、更に、給料について「暫定的に払ってくれ。」との申し出がなされた。これに対し原告側は、仮払は出来ないと答える等、実質的な話合が約一時間にわたりなされた。同レストランから退去する際、横田らは「これ(オーでの話)は団交ですね。」と確認までしている。

(6) 同(6)については、終始要求したとの点は否認し、その余は認める。

なお九月二日、原告側より横田に対し、夏期一時金等の支給についてどうするのかとの問い合わせの電話をしており、同月二五日は、横田らの宣伝に対し、原告の顧客等に対する釈明の宣伝文句を横田に聞かせるため電話したのが主目的であった。

(7) 同(7)については、あっせんの申立があったこと、それが打ち切られたことは不知、原告が出頭しなかったためという点は争い、その余は認める。

(8) 同(8)については、団体交渉に応じないとして申出書を突き返したという点を否認し、その余は認める。

一三日は、賞与の支給日であったため、翌一四日を提案したところ、組合はこれを拒否した。

(9) 同(9)について。

あけぼの会との妥結内容に応ずることを強く要求したという点および団体交渉を拒否したという点は否認し、その余は認める。

組合側は、あけぼの会との妥結内容について、賃金、夏期、年末一時金の金額については応ずる意向で、唯、前出スペア条項について団体交渉したい、と言っていたに過ぎない。

4 「4 本件審査手続について」について

同項(1)(2)の各事実は認める。

(二)  原告の主張

1 原告は、補助参加人からの団体交渉申入を不当に拒否したことはなく、現に昭和五七年の賃上げ及び一時金について、二度にわたり交渉し、不足分については電話によって交渉した。

2 被告は、原告が、横田、中島及び米田が処分中であることを理由に、同人らとの団体交渉を拒否した旨の認定をしているが、原告は、就業規則上、処分中の者は会社構内に入れないことから構内での団体交渉に応じなかったに過ぎない。

3 被告は、原告が、上部団体役員の出席する団体交渉には応じないとして団体交渉を拒否した旨認定した上、これを不当としているが、原告は、単に上部団体役員を同席させることのみを理由に団体交渉に応じなかったのではない。すなわち、原告は、昭和五七年一一月一六日、処分期間が満了した横田らから、上部団体役員の出席が明記された団体交渉申入書の提出を受けたが、その当時、補助参加人は、当該上部団体である全自交の指導のもと全自交の名において、宣伝カーによって原告及び原告代表者個人を誹謗中傷する街頭宣伝活動を繰り広げるとともに、右宣伝活動を理由として原告がなした懲戒処分に対して、処分の無効確認を求める訴えを提起しており、原告もこの宣伝活動に対する損害賠償請求訴訟を提起することを検討している状況であった。このような状況下において、当の上部団体役員が同席することは、いたずらに双方の感情を害するだけで、冷静、沈着な話合いは不可能と判断した為め、団体交渉に応じなかったものであり、団体交渉を拒否する正当な理由があった。

4 また、被告は、本件命令(別紙命令書一〇頁一一行目以下)において「その後、本件結審に至るまでの間、組合の上部団体役員を交えての団交申し入れに対し、会社は、依然、これを拒否している状況を併せ勘案すれば云々」として、本件以後の交渉経過をも、その判断根拠にしているけれども、原告が本件以後団体交渉に応じなかったのは、本件救済申立の調査、審問過程においては、被告の要請により、上部団体役員が出席せずに、また、テープレコーダーを持ち込まずに団体交渉を試みることが確認されたにもかかわらず、補助参加人側が右確認事項に反して上部団体役員を同行し、あるいはテープレコーダーを持ち込むなど団体交渉がなされないよう仕向けてきたことによるものであり、被告自身、補助参加人が前記確認事項を遵守するよう指導することを怠ったそしりを免れない。したがって、被告の要請に従い上部団体役員及びテープレコーダー抜きでの団体交渉を求めた原告の態度をもって、これを原告の一方的責任によって団体交渉を拒否したかのごとく判断し、不当労働行為意思を推認している本件命令は失当である。

第三証拠(略)

理由

一  補助参加人が、昭和五八年三月二日、被告に対し、原告を被申立人として本件救済の申立をし、被告が昭和五九年五月二四日付で別紙命令書のとおり本件命令を発し、その命令書写しがその後原告に交付されたこと(請求原因(一)の事実)は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が被告の認定したような不当労働行為に該当する行為をなしたか否かについて検討するに、まず、本件で問題となっている交渉過程に至る背景事情として、以下の事実は当事者間に争いがない。

(一)  当事者等

原告は、一般乗用旅客自動車運送を業とする有限会社として昭和三六年に設立され、肩書地に本社及び車庫を置き、福岡市博多区にあかつき営業所を有し、従業員約七〇名を擁している。

補助参加人は、原告のもとで働く運転手によって、昭和四四年四月に結成され、同年七月に全国自動車交通労働組合総連合会福岡地方連合会及び福岡地区労働組合協議会に加盟した。組合員数は、かつて二九名であったが、現在三名である(現在の組合員数については<人証略>の証言によりこれを認める。)。

補助参加人の組合結成から昭和五七年三月までは、中島が執行委員長、横田が書記長の、その後現在までは、横田が執行委員長、中島が副執行委員長、米田が書記長の各組合役職にある(昭和五八年三月以降現在までの分については弁論の全趣旨によりこれを認める。)。

原告においては、補助参加人所属の組合員以外の従業員で構成された「あけぼの会」と称する組織(以下「あけぼの会」という。)があり、会員の親睦と、社会的・経済的地位の向上、福祉の増進を図ることを目的とし、この目的を達成するための諸行事を行うほか、労働条件についての団体交渉等を行っている。

(二)  これまでの労使関係

1  原告と補助参加人の間では、昭和五〇年ころから賃金、時間内組合活動等の問題をめぐり対立が激化し、昭和五一年八月二一日、原告は、組合の中心的活動家であった中島及び横田を、博多駅におけるビラ配付等を理由に懲戒解雇したが、補助参加人は、右解雇処分について不当労働行為救済の申立をなし、被告は、昭和五二年一二月五日付で右両名の原職復帰を命ずる救済命令を発した。これに対し、原告は、当裁判所に右救済命令取消訴訟を提起したが、当裁判所は昭和五六年三月三一日にこれを棄却し、控訴審たる福岡高等裁判所も昭和五九年三月八日に原告の控訴を棄却した。原告は、これに対し、更に上告し、同事件は現在最高裁判所に係属中である。

2  中島及び横田は、昭和五三年三月一四日、前記1の救済命令に係る緊急命令に基づき職場に復帰したが、その後の約一年間に、原告と補助参加人との間に種々のトルブルが生じ、原告は、中島、横田及び当時の補助参加人所属の組合員坂本に対し数回の出勤停止等の処分をなした。補助参加人は、これらの処分について、再び不当労働行為救済の申立をなし、被告は、昭和五六年六月二三日付で右三名に対する右出勤停止処分の撤回等を命ずる救済命令を発した。これに対し、原告は、当裁判所に右救済命令取消訴訟を提起し、当裁判所は、昭和五八年一二月二七日、中島及び横田に関する原告の請求を棄却し、控訴審たる福岡高等裁判所も、昭和六一年三月二六日に原告の控訴を棄却した(控訴が棄却された事実は当裁判所に顕著である。)。

三  本件で団交拒否が問題となっている、昭和五七年以降の原告と補助参加人との労使関係について判断するに、当事者間に争いがない事実(原告の「四 抗弁に対する認否及び原告の主張」中、(一)の3において認めている各事実)に加え、(証拠略)並びに検証の結果を総合すると以下の事実が認められ、同認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  補助参加人は、昭和五七年三月の組合の定期大会で決定したとして、同月二〇日、原告に春闘要求書を提出するとともに、同年四月中旬から、宣伝カーによって、原告代表者が不当労働行為をしている旨の街頭宣伝活動を開始した。原告は、同月下旬、右宣伝活動が不当に原告を誹謗中傷するものであるとして、これを契機に横田及び中島をそれぞれ一か月の懲戒休職処分に付し、更にその後、原告が補助参加人に対して宣伝活動中止を要求したにもかかわらず同人らがこれを継続したとして、右両名を引き続き三か月の懲戒休職処分に付した。

(二)  その後も、右両名は、街頭宣伝活動を続けていたところ、あけぼの会は、同年五月三一日、原告に対し、右宣伝活動を止めさせるよう求める要望書を提出した。そこで、原告の取締役総務部長である三島隆二郎(以下「三島」という。)は、同年六月八日(当時、横田及び中島は休職処分中)、タクシーに乗務中の米田を会社に呼び出し、右要望書の件を当時補助参加人の執行委員長であった横田に伝えて何らかの返答をするよう求めた。ところが、これに対し補助参加人側は、翌九日に横田、中島及び坂本の三名で原告を訪れ、同日三島が米田を呼び出したことが就労妨害になるとして、そのことについて直ちに団体交渉をするよう申し入れた。原告は、そもそも就労妨害が無いと考えたこと、直ちに団体交渉を求められてもすぐに応じられるものではなく、その申し入れ自体ルールを無視した嫌がらせであると感じたことから、右団体交渉の申入れを拒否し、更に、就業規則上懲戒処分休職中のものは原告会社構内に立ち入れないとして右三名に退去を求めた(原告の就業規則一七条には「次の各号の1に該当する従業員は職場へ入ることを禁止し又退場させることがある。」と定められ、同条八号に「法令又はこの規則で就業を禁止又は差止められたとき。」との条項がある。)。右三名は容易にはこれに応じなかったが、原告側の要請により来社した福岡東警察署の警察官が「今日団交を求めて今日団交しろというのは無理だろう。」と説得したこともあり、原告からの団体交渉日時の指定を待つということでその日は引き上げた。しかし、原告側から団体交渉の日時を指定することはなかった。

(三)  原告側は、同月一一日、米田を会社課長室に呼び出し、三島、取締役営業部長北崎定彦(以下「北崎」という。)及び黒岩課長の三名が列席のうえ、米田に対し、横田と中島は出勤停止中なので今から直ちに米田と団体交渉したい旨申し入れたが、米田は、執行委員長(横田)も副執行委員長(中島)も参加するから日にちを指定して欲しいと答えたため、その場では賃上げ等に関する実質的な話し合いはなされず、むしろ、原告側は、その前日に米田が前記宣伝活動に加わったことを取り上げて宣伝活動に参加しないよう求め、これを拒否した同人を一週間の出勤停止処分に付した。原告は、同月一八日、更に米田が右宣伝活動を継続する旨言明したことを理由として一か月の、その後、宣伝活動に参加し続けたことを理由に引き続き二か月の、各懲戒休職処分に付した。

(四)  横田及び中島は、同年六月九日、前記三か月の懲戒休職処分の効力を争って、米田は、同年七月三一日、前記一か月及び二か月の各懲戒休職処分の効力を争って、いずれも当裁判所に地位保全等の仮処分を申請し、当裁判所は、前二者については同年七月二七日、米田については同年一〇月四日、賃金の仮払のみを認める決定をした。これらについては、横田、中島及び米田の三名とも、同年九月二一日、懲戒処分無効確認等を請求する本案訴訟を提起した。

(五)  横田及び中島は、右仮処分決定の翌日の同年七月二八日、米田及び坂本とともに原告を訪れ、右決定に基づく賃金の仮払を求めたが、社会保険料の精算等についてトラブルがあり、結局、原告側が翌朝送金して支払うということになった。その際、原告側は、横田及び中島に対し、同人らが休職処分中であることを理由に会社構内からの退去を求めた。

(六)  同年八月二日、横田らは、不当処分その他を議題とする団体交渉申入書を提出するため、来社したところ、原告側は、右来社の趣旨を知りながら、同人らに対して、前同様休職処分中であることを理由に会社構内からの退去を求めた。

(七)  同月七日、三島は、横田に電話で連絡をとり、補助参加人の賃上げ及び一時金に対する意向を打診しつつ、例年どおり、原告とあけぼの会との妥結内容と同一の条件で承諾するよう求めたが、横田は、あくまで団体交渉で決めたいと主張した。三島は、あけぼの会どの妥結内容を電話で説明し、補助参加人組合員がこれを承諾する内容の書面を原告に対して送ればその分の賃金及び一時金を渡すが、補助参加人がこれと異なる内容を要求する団体交渉を求めるのであれば、横田らの処分(前記三か月の懲戒休職処分等)が解けてからでなければ応じられないと主張したため、話し合いは決裂した。

(八)  昭和五七年八月一〇日(給料日)、三島は、自宅にいた横田に電話をかけ、再び補助参加人の賃上げ及び一時金に対する意向を尋ねたところ、横田から再度団体交渉を要求されたため、多少のやりとりの後、同人とレストランOHでコーヒーを飲みながら話をすることとなった。横田が、米田を連れて同所に赴いたところ、原告側は三島のほか、北崎及び黒岩も同席しており、横田らに対し、あけぼの会との妥結内容の説明をするとともに、これに従うよう要求した。横田らは、その内容のうち、金額についても問題にしたが、特にスペア条項を問題にした。スペア条項とは、原告とあけぼの会との合意条項のうち「理由の如何にかかわらず、二か月以上の欠勤者が復職した場合その者はスペア(専用の担当車の割当がなく公休等により運転手のいない車に乗車するもの)となる。」という条項であり、タクシー運転手にとってスペアになるか否かは労働条件に大きな違いがある。横田らは、このスペア条項が補助参加人所属の組合員に対する嫌がらせだとして、これらの点につき団体交渉を求めたところ、原告側は、処分が解けてからでなければ団体交渉に応じられない旨答えた。

(九)  同年八月二六日、懲戒休職処分期間が満了した横田が出社したところ、三島は横田に対し前記スペア条項を承認するよう要求した。これに対して横田は、原告の要求に直ちに応ずることはできないとした上、とりあえず、本日乗車すべき車両を指定するよう申し入れたが、三島は、あくまでスペア条項を承認しない限り乗務させることはできないとして、車両の指定をしなかったため、横田は、当日以降就労できなかった。

更に、中島及び米田は、それぞれ懲戒休職処分が満了した翌日である同年八月二七日及び同年九月一九日に出社したところ、横田と同様の理由で車両の指定がなかったため、両名とも同日以降就労できなかった。

そこで、横田及び中島は同年九月二四日、米田は同年一〇月八日に、それぞれ原告の前記各就労拒否について当裁判所に仮処分申請をし、当裁判所は、同年一〇月二一日、原告に対し、右三名の就労申出以降原告が乗務すべき担当車両を指定するに至るまでの間賃金を仮に支払うよう命じる決定をした。原告は、同月二六日、右三名に対する就労拒否を解いた。

この就労拒否中の同年九月二五日、三島は再び横田に電話し、補助参加人の宣伝活動に対し原告も宣伝カーによつて釈明する旨伝えるとともに、前に説明したあけぼの会との妥結内容についての補助参加人側の返答を求めたところ、横田は、団体交渉の席で話し合うとして答えず、これまでと同様団体交渉を要求した。

(一〇)  右三名が乗務を開始した後、補助参加人は、処分中の者とは団体交渉しないという原告の団体交渉拒否理由がなくなったとして、昭和五七年一一月一〇日には口頭で、又、同月一六日及び二〇日には文書で、昭和五七年の賃金及び一時金その他について団体交渉を申し入れたが、原告は、その団体交渉に補助参加人の上部団体役員が出席することになっていたことを理由に、これを拒否した。

そこで補助参加人は、同月二二日、被告に対し原告との団体交渉開催のあっせんを申請したが、原告側が出頭しなかったため、同月三〇日、あっせんは打ち切られた。

(一一)  補助参加人は、同年一二月一〇日、原告に対し同月一三日に団体交渉を開くよう求めたが、原告は、補助参加人の上部団体役員が同席することに難色を示したほか、同日が従業員に対する賞与の支払日で忙しいことを理由に右申出を拒否した。

(一二)  原告は、昭和五八年一月二二日、横田を会社に呼び出し、賃金及び一時金等につきあけぼの会との妥結内容と同一の条件で承諾するよう求めたが、横田は前記スペア条項等の問題につき更に団体交渉で話し合うべきだとし、話し合いはつかなかった。そこで、原告は、同月二五日、補助参加人所属の組合員横田、中島及び米田に対し、あけぼの会との妥結内容に基づいて算出した金員を一方的に現金書留で送金したが、補助参加人は、まだこの問題が解決していないことを前提に、原告に対し、これを内金として受領すること及び昭和五七年の賃金及び一時金に関して早急に誠意ある団交を求めることを内容とする仮受領書を送付した。

四  以上の事実関係によれば、原告が、補助参加人の昭和五七年六月九日の就労妨害を議題とする団体交渉申入を拒否したことについては、これが即時の団体交渉を求めるものであったこと等前認定の状況からすれば、原告が右申入をルールを無視したものだとして拒否することも全く根拠のないこととは言えないが(使用者は、労働組合の指定した団体交渉の日時に無条件に応じなければならないものではなく、その業務の都合や交渉準備のため等適当な期日を新たに提示することは当然許される。)、この点はともかく、その後の団体交渉申入については、原告は正当の理由なく団体交渉を拒否したものと言わざるを得ず、この行為は労働組合法第七条二号の不当労働行為に該当する。すなわち、

(一)  原告は、昭和五七年六月から同年九月にかけてその補助参加人の団体交渉申入を、主として横田、中島及び米田が休職処分中であることを理由として拒否しているものというべきところ、労働組合の役員が休職処分中であるといっても、その役員たる地位に変わりはなく、団体交渉に出席できなくなるものではないことは明らかであるから、団体交渉拒否の正当な理由とはなり得ない。原告は、処分中の者とは団体交渉しないというのは、就業規則上、処分中の者は会社構内に入れないから構内では団体交渉に応じられないというだけの趣旨である旨主張するけれども、そこで立入禁止の根拠とする就業規則一七条は、その規定自体「……職場へ入ることを禁止し又は退場させることがある。」という任意的な定め方になっており、原告がこれを適用しないことに何らの不都合がないばかりでなく、そもそもこの規定の趣旨は被処分者が濫りに会社を訪れることによる企業秩序の紊乱を防止することにあると解されるところ、組合役員が団体交渉のために会社構内に立ち入ることが右規定で想定されているような企業秩序の紊乱になるとは到底考えられないから、原告の右主張は理由がない。また、原告は、一方においてレストランOHでの横田との交渉及び数回にわたる電話での交渉をもって、補助参加人との団体交渉義務を尽したかのような主張もしているが、このような交渉が労使間において意味のない事ではないにしても、レストランOHでの交渉は他の一般客も出入りする普通の席でなした一時間足らずの交渉であって、到底双方が意を十分に尽した議論をなし得る状況ではなかったものと考えられ、電話での交渉もそれ自体が団体交渉となり得ないことは明らかであり、補助参加人はその後も更に団体交渉を求めているのであるから、右交渉のみで原告が誠実に団体交渉義務を果たしたものということはできない。

(二)  また、原告は、処分期間満了後である昭和五七年一一月に補助参加人組合員らが申し入れた団体交渉を、主として上部団体の役員が出席することを理由に拒んでいるが、労働組合の上部団体も、それがその構成員に対して実質的な統制力をもった労働組合の実体を備えているかぎり、独立に団体交渉権を有しているのであるから、原告としては補助参加人とともに上部団体役員が出席することを拒むことは原則としてできないというべきであって、正当な団体交渉拒否理由とはなり得ない。原告は、補助参加人が上部団体の名で宣伝活動をしていたことから、上部団体役員が団体交渉の席に同席しても双方の感情を害するだけで話合いは不可能と判断したということを特段の事情として主張するけれども、右宣伝活動の当否はさておき、むしろ、原告が団体交渉に応ずることでその宣伝活動の今後の取扱についても双方で検討する余地もあると解されるところであって、原告主張のように話合さえも不可能であるとの客観的状況を認めるに足る証拠はなく、交渉不可能というのは原告の一方的判断にすぎないから、これをもって団体交渉拒否の正当性を基礎づけることはできない。

(三)  その他、原告が被告の審問手続における、昭和五七年の賃金引上げ及び一時金については解決済みであるとの主張及び裁判係属中の問題について団体交渉の議題とすべきではないという主張がいずれも採用し難く、その理由については、被告が別紙命令書一〇頁一五行目以下において述べているとおりである。

五  以上のとおり、原告が補助参加人の団体交渉申入を拒否した理由は、いずれも正当なものとは認め難く、したがって、被告が認定した本件救済申立事件の手続過程における原告の補助参加人に対する対応の当否について論ずるまでもなく、原告の団体交渉拒否は、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当するものであるから、被告の本件命令に違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤浦照生 裁判官 倉吉敬 裁判官鹿野伸二は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 藤浦照生)

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