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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)2909号 判決 1984年10月18日

原告

荒砂幸子

原告

堀悦雄

原告

渡辺満

右三名訴訟代理人

前田豊

被告

株式会社大日本ビジネス

右代表者

牧野和征

右訴訟代理人

樋高学

右訴訟復代理人

大神周一

向和典

主文

一  被告は、原告らに対し、各金三三万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年一〇月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告の各負担とする。

四  本判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  原告ら

(一)  被告は、原告らに対し、各一一五万円及びこれに対する昭和五七年一〇月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告は、各種出版物及び教育器材等の販売、英会話及び学習塾の運営等を業とする会社であるが、昭和五一年夏頃から福岡市にも進出して、英語学習塾の経営、教育器材の販売を企図してきた。

(二)  原告らは、いずれも昭和五七年五月二七日被告に入社したが、同年七月五日解雇されたものである。

(三)  被告は、原告らに対し、以下に述べるとおり、民法七〇九条の不法行為責任を免れない。

(1) 違法な募集方法

イ 被告は、昭和五七年五月二三日、福岡市において、新聞などの広告により社員の募集をしたが、右広告によると、被告は、株式会社大沢商会が九〇年の伝統をふまえて設立した新事業部で、男女正社員を募集するというもので、そこでは、キャッチフレーズとして「現在の仕事に不安と不満を覚え近代的な職を得たい方、将来を真剣に考えている方、女性としてしつかりとした定職を得たい方、今あなたに安定した生活設計と高収入をお約束します。価値ある仕事、価値ある企業であなたの能力を最大限に発揮して下さい。」というのが語られ、広告を見た者に対し、被告は歴史と実績のある大沢商会が作つた子会社で、安定した企業だと信じさせるのに充分であつた。

ロ 被告は、同月二五日、西日本新聞会館国際ホールで入社説明会を開催し、被告代表取締役牧野和征、同福岡支店長徳竹昊らが出席して、前記広告によつて応募した約二〇〇名の入社希望者に対し会社の概要を説明したが、この説明会では、「株式会社大沢商会―直販部概要」というパンフレットを全員に配布し、これに基づいて被告が大沢商会の直販部であるという説明に終始した。同時に、被告の従業員の給与は平均月三〇万円であり、少ない人でも月二〇万円、多い人は月七〇万円になると説明し、説明を受けた者に安定した会社だと信じこませた。そして、この説明会のあと、簡単な面接を行い、同日夜、原告らを含む合格者に電報を打つて合格を通知した。

ハ 翌二六日、被告は、ハニービルで右合格者に対する第二次説明会を開催し、前記牧野、徳竹らが出席して合格者約七〇名が参加したが、このとき大沢商会の社員と称する者が挨拶をした。

次いで牧野が、取扱商品はベルハウエル社製作のカードプレイヤーで、学習研究社が大沢商会に売らせてくれと頼んだが、大沢商会がこれを断わつて直販するものであること、業務内容としては、このプレイヤーを販売することもあるが、むしろ英語学習塾の生徒を募集することがメインの仕事であつて、戸別訪問という形態の営業によらず、いわゆるノルマはないこと、社員の地位については、正社員で、基本固定給が月一五万円であるほか歩合給があり、社会保険も完備していること、などの説明をした。

ニ 被告は、最終的に社員として確定した原告らを含む六名に対し、同年五月二七日から六月一日までに五日間の講習会を催し、「被告の本店は鹿児島市にあり、支店は福岡市、長崎市、熊本市にある。会社設立は昭和五一年一月八日で、資本金は四八〇〇万円、そのうち五五%を大沢商会が持ち、残りの四五%を牧野個人が持つている。会長は大沢善朗、社長は牧野、社員は七〇名で、英会話教育経営事業を行なつている。英会話教室の生徒は現在約六〇〇〇名である。主要な業務は英会話教室の生徒募集である。」旨の説明をしたうえ、具体的な業務の講習にはいり、英会話器材と資料に基づき戸別訪問の形態による営業方法の訓練をした。

ホ 原告らは、右講習を終えたのち、同年六月二日から七月五日まで、被告の正社員として勤務に従事した。

ヘ ところが、被告がこれまで説明してきた会社概要等の中身には、重要な部分に虚偽のことが多くて、原告らは欺されて入社したことが明らかになつた。すなわち、

① 前記広告では、被告は大沢商会が設立した新事業部であると記されており、大沢商会は歴史と実績のある一流企業であるから、右設立の事実は被告の安定性、将来性を判断するうえで極めて重要な事項であるところ、実は、大沢商会の直販部は別にあつて、同商会と被告との直接の関係はなかつた。

② 被告の資本金は四八〇〇万円で、その五五%を大沢商会が持つているという説明があつたが、事実は、資本金が一二〇〇万円でしかなく、且つ、資本金の五五%を大沢商会が持つているかどうか疑わしい。

③ 前記広告では、「しつかりとした定職」が得られるなどとされていたが、事実は、被告の福岡支店に入社した原告ら全員が一か月後に解雇され、支店長だけが残つたことからもわかるように、そもそも定職などとはいえない極めて不安定な身分しか与えられず、「各種社会保険完備」との広告記載にも拘らず、社会保険への加入も実現しなかつた。

④ 前記説明会では、英会話教室の生徒募集が主要な仕事であると説明されたが、実際は、英会話教育器材(カードプレイヤー)の戸別販売が主要な仕事であつた。

⑤ 仮に、被告が初めから原告らと販売委託契約をするつもりであつたとすれば、前記「正社員募集」の広告及びその後の説明は、原告らを欺くものでしかない。

ト 以上のとおり、被告の本件募集方法は、誇大広告の域を超えて、人を欺く結果となつている。これは、職業安定法一八条、四二条の精神に反し、公序良俗に反する違法な行為ともいうべきである。

(2) 違法な解雇

被告は、昭和五七年七月五日、突然、福岡支店の支店長を除く全社員五名を即時解雇したが、これは何ら正当な理由のない違法解雇である。

(四)  以上の被告の不法行為により、原告らは次のとおりの損害を被つた。すなわち、

被告に雇用される前、原告荒砂は約一〇年間にわたつて自宅で料理教室を経営し、月収約二〇万円を得ており、原告堀は昭和五七年四月インターフィールドコーポレーションを退職し、原告渡辺は同年二月河崎電気工業株式会社を退職していたが、いずれも、被告の前記魅力あるキャッチフレーズに踊らされて、原告荒砂は右料理教室を廃業し、原告堀と同渡辺は失業保険も貰わないまま、働きがいのある職場と信じて入社した。そして、入社後は、午前九時に出勤して朝礼をすませたあと、一日約一五〇軒の戸別訪問をして商品を売り歩き、午後七時三〇分頃会社に戻つて退社するというハードスケジュールを一生懸命にこなしてきたのである。

しかるに、前記のとおり、被告は、突然、入社後僅か一か月を経過したばかりの原告ら全員を解雇したものであり、これは、被告に騙され、その朝令暮改式の経営に翻弄されたとしかいいようがなく、原告らにとつて、一生の仕事と思つて賭けた会社に裏切られた精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも各一〇〇万円が必要である。

(五)  更に、被告は、昭和五七年七月五日、予告なしに原告らを解雇したのであるから、労働基準法二〇条一項により、解雇予告手当として、原告ら名自に対し、一か月分の給与一五万円を支払う義務がある。

仮に、原告らと被告との間の関係が販売委託契約であるとしても、「販売委託契約書」第九条により、右と同額の予告手当相当額の支払義務がある。

(六)  よつて、原告らは、それぞれ被告に対し、慰藉料及び予告手当の合計一一五万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である昭和五七年一〇月二日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は否認する。

(三)  同(三)(1)イのうち、被告が新聞広告をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(三)(1)ロのうち、被告が原告ら主張の日時・場所において説明会を開催し、「株式会社大沢商会―直販部概要」というパンフレットを配布したことは認めるが、その余の事実は争う。

被告は、右説明会において、集つた約九〇名に対し、被告が大沢商会直販部に所属する販売代理店であること、被告の従業員の給与や営業員の販売手数料が最低月一五万円位、最高月七〇万円位、平均三〇万円位であること、などを明確に説明し、約四〇名に対し、翌日再度来社を求める趣旨の電報を打つたものである。

同三(1)ハのうち、被告が原告ら主張の日時・場所において第二次説明会を開催したことは認めるが、その余の事実は争う。

当日の説明会では、大沢商会福岡支店直販部常光恭彰係長が挨拶をし、大沢商会と被告との関係を説明したのち、被告において、取扱商品はベルハウエル社製作カードプレイヤーと大沢商会製作の磁気カードのセットによる子供用英会話教材であること、同教材は既存教育産業や他の販売会社・小売店には一切卸されておらず、被告が大沢商会直販部から独占的に販売を委託された九州地区唯一の専売代理店であること、被告の営業目的は、子供英会話教室(大日本ランゲージクラブ)の生徒募集をすると同時に、右教材を販売することであるが、販売量に対するノルマは一切なく、被告の全営業員は、営業成績に関係なく月一五万円の固定給(基本給一二万円、通勤交通費八〇〇〇円、営業交通費一万円、皆勤手当一万二〇〇〇円)が保証されること、しかし右は雇用契約ではなく、販売委託契約であること、などを明確に説明した。

同三(1)ニのうち、被告が原告ら主張のとおり五日間の講習会を催し、原告らに対し戸別訪問販売の訓練をしたことは認めるが、その余の事実は争う。被告は、この講習会において、原告らに対し、販売委託契約書及び誓約保証書(左右一枚の用紙)を手渡し、身元保証を要求すると同時に、右販売委託契約書の読み合わせをしたものであるから、原告らは、本件が雇用契約でなく販売委託契約であることを知つていたというべきである。

同三(1)ホのうち、原告らの地位は否認する。

同三(1)ヘの事実は否認する。

① 原告ら主張の新聞広告に多少不正確な表現があつたとしても、被告は、前記二回の説明会及びこれに次ぐ五日間の講習会において、原告らに対し、被告が大沢商会直販部に所属する販売代理店であることを明確に説明したし、入社書類(販売委託契約書、誓約保証書等)、当社パンフレット、教材パンフレット、大沢商会直販部概要、販売手数料規程その他の文書により、入社前に完全に説明を施しており、何ら不審を受ける点はない。

② 被告の資本金は四八〇〇万円、発行済株式は一万二〇〇〇株(一二〇〇万円)である。大沢商会が被告に資本参加する話は、当時から現在まで進行している。

③ 被告は、大沢商会直販部に所属する立派な販売代理店(特約代理店)であるし、現在在籍している全営業員は、前記のとおり最低月一五万円の収入を保証され、しつかりとした定職として安定した生活設計を営み、真面目に仕事をする人は皆高収入が約束されている。原告らは真面目に仕事をしなかつたため、解約のやむなきに至つたものである。また、被告は、営業員に対し、各種社会保険を完備しており、営業員の定着をみて(普通入社後二、三か月)保険に加入させている。

④ 被告においては、販売委託契約により入社手続を終了した者を社員、定着して保険手続が完了した者を正社員と呼んでいる。また、通常どこの会社でも、販売委託契約による営業員(又は歩合給外交員)を新聞広告では「正社員」として募集しているものである。

同三(2)の事実は争う。原告らは、毎日朝出勤し出勤簿に押印して朝礼に参加するのみで、殆ど営業活動をしていなかつた。被告は、かような事実を探知したので、昭和五七年七月五日、販売委託契約七条(6)、(7)により、原告らに対し、販売委託契約を解除する旨の意思表示をしたものである。

(四)  同(四)の事実は争う。

(五)  同(五)の事実は争う。仮に、被告が原告らと雇用契約を結んでいたとしても、一、二か月の試用期間は許されるはずであり、試用期間中の解雇は予告なしで認められるものである。

(六)  以上のような経緯の下に販売委託契約を解除され、しかも解除の際に固定給相当額を受領した原告らが、なお且つ本訴請求に及んだことは、著しく信義に反するもので、権利の濫用というべきである。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因(一)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、

(一)  被告代表取締役牧野和征は、昭和五七年五月、その福岡支店で子供用英会話教育器材の販売委託員を募集することを企画したが、販売委託員募集の名目では応募者が極めて少なくなることを危惧し、同月二三日の西日本新聞紙上などに、「男女正社員募集」と題する広告を掲載した。右広告には、二〇才基本給一五万円プラス諸手当、昇給年一賞与二回、各種社保完、勤務九時―一七時日祭休などと、募集対象が正社員であることを裏付ける事項が記載されていたほか、被告は株式会社大沢商会が設立した子会社であるかのような表現がみられたが、実際は大沢商会直販部の特約代理店に過ぎなかつた。

(二)  被告は、同月二五日、西日本新聞会館国際ホールで入社説明会を開催し、被告代表取締役牧野和征、同福岡支店長徳竹昊らが出席して、専ら牧野が前記広告によつて応募した約一〇〇名の入社希望者に対し会社の概要を説明したが、この説明会で「株式会社大沢商会―直販部概要」というパンフレットを全員に配布し、被告が大沢商会の子会社であるかのような印象を与えた。同時に、被告の従業員の給与は平均月三〇万円であり、少ない人でも月二〇万円、多い人は月七〇万円になると説明し、説明を受けた者に安定した職種であると信じこませた。そして、この説明会のあと、簡単な面接を行い、同日夜、原告らを含む合格者に電報を打つて合格を通知した。

(三)  翌二六日、被告は、ハニービルで右合格者に対する第二次説明会を開催し、前記牧野、徳竹らが出席して合格者約三〇名が参加したが、この席上大沢商会福岡支店の社員が挨拶をした。

次いで牧野が、取扱商品はベルハウエル社製作のカードプレイヤーと大沢商会製作の磁気カードセットによる子供用英会話教材で、これを大沢商会が直販するものであり、業務内容としては、この教材を販売することもあるが、むしろ英語学習塾の生徒を募集することが主な仕事であつて、戸別訪問という形態の営業にはよらず、いわゆるノルマはないこと、待遇については基本固定給が月一五万円であるほか歩合給があり、社会保険も完備していること、などの説明をした。しかし、以上二回の説明会を通じ、被告と大沢商会との関係はあいまいのまま終始した。

(四)  かような二回にわたる説明会と選考の結果、応募者として最後まで残つた者は原告らを含む一〇名足らずとなつたが、被告は、これらの者に対し、同年五月二七日から六月一日までに五日間(五月三〇日の日曜日を除く)の講習会を催し、その間一日三〇〇〇円の手当を支給した。

前記牧野らは、右講習会において、具体的な業務の講習にはいり、英会話器材と資料に基づき戸別訪問の形態による営業方法の訓練をしたので、前記説明会での説明と異なる業務形態に不満の者は途中で講習を辞退し、講習最終日である六月一日まで受講したのは原告らのほか数名に過ぎなかつた。そして、この講習最終日に至つて、牧野は、原告らほか数名に対し、販売委託契約書及び誓約保証書用紙(左右一枚のもの)を手渡し、ここにおいて初めて、被告と原告らとの契約は前記教材等の販売委託契約であることを明らかにし、原告らに対し、右契約書への署名押印と身元保証人を立てるよう要求した。

原告らは、右講習を受けたのち、同年六月二日から被告福岡支店の営業員として勤務するようになつたが、身元保証人の署名押印が早急に得られないことなどの事情から、同年七月五日まで右契約書を被告に提出しないままであつた。

以上の各事実が認められ<る。>

以上認定の事実によれば、原告らは、昭和五七年六月二日、被告との間で少なくとも黙示的に教材等の販売委託契約を締結したものと認めざるを得ないけれども、被告が掲載した前記新聞広告は、応募の意思決定に重要な影響を及ぼす諸事項(社員としての身分、大沢商会との関連等)について、故意に虚偽若しくは誤解を招く表現を採つていることが明らかであるのみならず、真実大沢商会が設立した子会社の正社員募集であると誤信して応募してきた原告ら多数の者に対し、被告代表者牧野和征らは、前後二回にわたる説明会及びこれに続く講習会でも、右重要な諸事項についてはあいまいな説明に終始し、漸くその講習最終日に至つて、初めて、原告ら外数名に対し、被告と原告らとの契約は教材等の販売委託契約であることを明らかにしたものであるが、この段階に至れば、過去五日間にわたる講習において払つた相当な努力、労苦を無にしたくないと考えるのが人情であろうから、原告らとしても、右の努力や労苦を生かすために、やむなく右契約の締結に踏み切つたものと推認されるし(原告荒砂、同渡辺各本人尋問の結果中には、あくまで雇用契約を結んだという供述がみられるが、これらはたやすく採用できない)、他方、前記牧野としては、当初よりかような成行きを予見していたものと認めるべきである。

これを要するに、被告代表者牧野和征は、被告が大沢商会の設立した子会社であるかのような表現を含む「男女正社員募集」と題する虚偽の広告を掲載し、これを信用して応募してきた原告らに対し、被告と大沢商会との関係についてあいまいな状態にしたまま、五日間の講習を受けさせ、いわば後に退けない状態にまで引き入れたうえで、初めて教材の販売委託員の募集であることを明らかにし、原告らをしてやむなく販売委託契約の締結に踏み切らせたものというべきであつて、かような募集方法は、原告らを愚弄するもので著しく信義に反し違法であり、被告は、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、原告らに対し不法行為による損害賠償義務を免れないと解するのが相当である(なお、原告らは、その余の点についても被告の募集方法に違法事由がある旨主張するが、ある程度の誇大広告・宣伝は事柄によつては社会的に許容される場合もあり、本件証拠上は右の主張を肯認するに足りない。また、原告らは、右不法行為の根拠法条を民法七〇九条とするが、その全主張に照らせば、以上に挙示した各法条の適用を否定する趣旨であるとは解されない。)。

二次に<証拠>によれば、原告らは、外数名と共に、昭和五七年六月二日から被告福岡支店の営業員として、前記教材の戸別販売に従事したが、同業者との競合もあつて思うように業績が上がらないでいるうち、同年七月五日に至り、被告から右支店の全営業員との販売委託契約を即時解除する旨の意思表示を受け、その後は右支店も休業状態にあることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

被告は、原告らが誠実に営業活動をしないので、販売委託契約七条(6)、(7)により即時解除をした旨主張し、証人徳竹昊の証言及び被告代表者本人尋問の結果中には右主張に副う部分があるけれども、原告荒砂及び同渡辺各本人尋問の結果中反対趣旨の部分に比照し到底措信し難い。結局、右解除の意思表示は即時解除としてはその効力を生じないといわざるを得ないが、弁論の全趣旨によれば、原、被告双方共、右解除を右契約九条による一か月以上の予告解約の意思表示と解するについて特段の異議はないものと認められるから、右解除の意思表示は少なくとも一か月経過後に解約の効力を生じたものということができる。

そして、右は被告の責に帰すべき解約とみるのが相当であるから、被告は、原告らに対し、右一か月分の推定販売手数料を支払うべき義務を免れないところ、<証拠>によれば、被告の販売手数料規程三条で保証給が月額一五万円(基本給一二万円、通勤手当八〇〇〇円、営業交通費一万円、皆勤手当一万二〇〇〇円)と定められているから、被告は、原告らに対し、少なくとも、右保証給のうち実費弁償の性質を有する通勤手当及び営業交通費を除く残額一三万二〇〇〇円をそれぞれ支払わなければならない。

三進んで被告の前記不法行為による原告らの損害について判断するに、以上認定の諸事実並びに<証拠>を総合すれば、被告の募集広告により応募した当時、原告荒砂は約一〇年前から自宅で料理教室を経営し相当な収入を得ていたが、原告堀は昭和五七年四月頃以降、原告渡辺は同年二月頃以降いずれも失職中であつたこと、原告らは、いずれも被告の前記魅力ある広告を信用し、正社員として採用されるつもりで応募したが、結局は販売委託員として採用されるにとどまつたこと、採用後は、約一か月間、午前九時に出勤して朝礼をすませたあと、一日約一五〇軒の戸別訪問をして教材の販売に努め、午後七時過ぎに会社に戻つて退社するというハードスケジュールを懸命にこなしてきたが、同業者の競合等の事情により思うように業績をあげられないまま、被告から前記のとおり解約されるに至つたこと、その間原告らが被告から得た収入は各一五万円程度であつたこと、原告らは、その後いずれも他に就職してはいるが、右解約後数か月から一年半位の間無職であつたことが認められる。

その他、本件証拠上認められる諸事情を参酌して判断すれば、原告らが被告の不法行為により受けた精神的苦痛を慰藉するには、各二〇万円が相当であると認められる。

四被告の権利濫用の主張は到底採用することができない。

五以上の理由により、被告は、原告ら各自に対し、前記保証給のうち一三万二〇〇〇円と慰藉料二〇万円計三三万二〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日であること記録上明白な昭和五七年一〇月二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、原告らの本訴各請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(谷水央)

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