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福岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)8号 判決 1986年12月25日

原告

春田篤

原告

福井孝良

原告

松尾次雄

原告

立川重高

原告

木部義昭

原告ら訴訟代理人弁護士

谷川宮太郎

吉田雄策

立木豊地

尾山宏

吉川基道

槇枝一臣

被告

北九州市教育委員会

右代表者委員長

栗林範治

訴訟代理人弁護士

俵正市

苑田美穀

山口定男

立川康彦

大久保重信

指定代理人

後藤晟休

清水一郎

高野利昭

村尾稔

丸山野美次

上村一臣

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四五年八月二二日付で原告らに対してした別表「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告らは、昭和四五年六月当時、それぞれ別表「勤務学校」欄記載の学校に勤務する地方公務員たる教諭であり、かつ、福岡県教職員組合(以下「福教組」という。)北九州支部(以下「北九州支部」という。)に所属していたものである。

被告は、原告らの任命権者である。

2  懲戒処分の存在

被告は、原告らに対し、昭和四五年八月二二日付で別表「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分(以下「本件各処分」という。)をした。

3  本件各処分の違法

しかしながら、本件各処分は違法であるから、その取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び同2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

《以下事実略》

理由

一  請求の原因1(当事者)及び同2(懲戒処分の存在)の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件研究部会を組織編成するまでの経緯

昭和四五年六月一日、六・一通知が各学校長宛に発せられたこと、本件研究部会の日程が同年六月一一日から土、日曜を除き一二日間というものであったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(証拠略)、弁論の全趣旨を総合すれば次の事項を認めることができ、(人証略)の各証言中右認定に反する部分は、これに供した証拠と対比して措信し難く他に右認定を左右するのに足りる証拠はない。

1  北九州市は、昭和三八年二月一〇日、門司・小倉・若松・八幡及び戸畑の旧五市が対等合併して誕生したものであるところ、右合併後の北九州市の教育の施設及び運営の内容についてみると、旧五市間には著しい格差が存在しており、これがそのまま引き継がれたため、施設面では、校舎の鉄筋化の遅れなど、他都市に比べて全体として著しく遅れており、また、教育活動面でも、各区独自のカリキュラムで授業が行われるなど、各区間の格差には著しいものがあった。そこで、北九州市は、合併による経過措置期間である五年間が満了した昭和四三年度以降、校舎の新・増・改築をはじめ、屋内運動場やプールの全校設置など学校及び社会教育施設の整備を図り、また、障害児教育の充実・整備を行うなど、積極的にその充実・振興を図り、学校教育の正常化についても、努力を重ねていた。ところが、同市が教育環境整備に努力していたころ、学校では自習が多く、争議行為に参加する教員も多数に上り、また、教職員組合の役員及び組合員らが校長をつるし上げたり、教職員組合に加入していない教職員や争議行為に参加しない教職員に対するいやがらせやつるし上げをするなど、学校内での混乱が多く、更に、福岡県全体として学習指導要領の改訂に伴う講習会が教職員組合の妨害で全く実施できないというような状況にあった。

2  前記合併当時、各区には小・中・養護学校の教職員による教科や教科外領域に関する種々の教育研究組織が存在していたところ、被告は、これら教育研究組織の整理統合を行い、各区ごとの教科・領域別組織(○○区小(中)学校○○(教育)研究部会)と、それらを統合した全市的な協議会組織(北九州市小(中)学校○○(教育)研究協議会)を編成した。

被告は、この研究組織の運営に当たって、昭和四二年度までは北九教組の要求を容れ、国語や理科など教科別の各部会を始め進路指導、生徒指導など同教組の教育研究組織と研究領域がほぼ合致する教科外の各部会については、同教組と共催するという形態をとったが、道徳、特別活動、学校行事等の各部会については、同教組側がこれらの領域を生活指導という領域で包括することを主張したため、被告のみの主催とし、また、同教組の分科会である「学校行財政」「職場の民主化」等の問題別領域については、組合活動の一環として同教組が行う内容であり、教員の本来の研修になじまないとして同教組の単独主催とした。右各部会は、職務研修として勤務時間中に開催され、各区ごとに一学期半日一回、二学期全日一回(研究授業を含む。)及び半日一回、三学期半日一回と年間数回程度行われ、開催当日は、各学校の実態に応じて授業打切り又は短縮という措置がとられており、この点は、被告の単独主催とした各部会のみならず、北九教組の単独主催の分科会についても同様であった。なお、この研究成果は、被告の小・中・養護学校基底教育課程編成の資料として活用されたほか、北九教組の行う教組教研の県集会や全国集会の発表、討議の資料としても利用されていた。また、この教育研究部会には、校長は一応部長の名目で参加はするが、実質的な運営は北九教組の教研推進委員長がその中心となって日教組の闘争方針にそって討議が行われるなど、内容的にも教組教研としての色合いの濃いものとなっていた。このように、昭和四二年度までの北九州市における教育研究部会の運営は、北九教組と被告が共催するという形で、目的や趣旨を全く異にする、勤務時間内における職務研修と同教組が組合活動の一環として行う教組教研活動がけじめがつかないまま、共同して、しかも児童生徒の授業を打ち切る措置をとるなど勤務そのものとして行われていた。

このようなことから、被告内部や校長会などから、教組教研と公務研修である教育研究部会とを同時に共催するという形で行うことに対する厳しい批判と反省が生まれるに至った。

3  被告は、前述のような問題を抱えた北九州市発足以来の教育研究活動の総括的反省に基づき、昭和四三年度に至り、被告の行う教育研究部会と北九教組の行う教組教研活動とは、その目的、性格、趣旨を異にするものであり、明確に分離すべきであるという基本方針を打ち出し、同教組との共催を取り止めることとした。これに対し、北九教組は、独自に教育研究集会を実施し、組合員に対して被告の主催する教育研究部会には参加しないよう指示したため、この年度の研究部会は全く開催することが出来なかった。

4  被告は、昭和四四年度当初、前年度実施できなかった教育研究部会の活動を再興し、教職員の研究活動を促進するには、北九教組の妨害を排除する必要があることから、教育研究部会の運営について北九州支部(北九教組は、昭和四三年一一月から福教組北九州支部と改組された。)と折衝を開始した。

しかしながら、両者の意見は相容れないところが多く、特に部長問題について、部長は校長をもって充てるとする被告と、部長は結果的に校長になっても、一応は部員の互選によるとすべきだとする北九州支部の主張とが対立したまま一学期を終わった。このため、被告としても事態を早急に打開する必要に迫られ、このような状況を憂慮した校長会の斡旋もあって、同支部との話合いを再開し、部長は一応校長、教頭又は教組教研の推進委員長の中から選ぶこととするが、結果的には校長が部長となることにし、校長が部長となった場合は右推進委員長が副部長となること及び部会への所属は教員の希望を優先し、校務分掌を勘案して調整することの二点を譲歩して提案し、同支部との了解点に達した。

右のような経緯で、同年度の教育研究部会は、一〇月に至って漸く開催されたが、実際は副部長である教組教研の推進委員長が教組教研ペースで運営するなどの問題が生じ、特に、戸畑区にあっては部長選出の方法にからんで遂に年度末まで教育研究部会が開催されないまま経過した部会も生じた。

5  被告は、昭和四五年度当初、過去の教育研究部会の組織及び運営上の問題点を分析検討するとともに、前年度の経緯と反省に基づき、同部会の組織、運営を、教育公務員がその職責を遂行するための職務研修として行うにふさわしいものに改善する必要性を痛感し、従来の経緯も考慮して北九州支部との話合いを開始した。右話合いは、同年四月二〇日過ぎころから約七回にわたって行われたが、「<1>部長は校長をもって充てる。<2>教職員の部会への所属は、各学校における校務分掌に基づく校内研修組織の担当教科又は領域と同一の教科又は領域の部会とする。」という二点について、同支部が絶対反対の態度を固執し、校長会による仲裁、説得にも従わず、話合いは平行線をたどったため、被告は、昭和四五年五月二五日に至り、これ以上話合いを長引かせることによって前年同様教育研究部会の開催が遅れ、教員の研究意欲を削ぐ結果となることを憂慮し、また、解決の見通しも全く立たないと判断して同支部との話合いを打ち切り、当初の方針に従って本件研究部会を組織編成し、同年六月一一日から一二日間にわたって、各部会を開催することとし、各校長宛六・一通知を発した。なお、同通知によれば、本件研究部会開催までの手順としては、

<1>  校長は、部会編成の趣旨・目的・組織・運営について、教職員に説明し、校内研究組織(校務分掌)に基づき、所属部会を確認する。

<2>  校長は、教職員の所属する各部会の名簿を作成し、校長会研究組織による部長に送付する。

<3>  部長は、各校長から送付された名簿により、部会員名簿を作成する。

<4>  部長会を開き、各部会開催日時等を協議調整する。

<5>  部長は、各学校長を通して、部会開催の日時等を通知し、部会を開催し、運営の大綱等必要事項を協議する。なお、開催日時は、事前に、被告に連絡し、協議事項や内容を事後に連絡する。

ことが予定されていた。

6  本件研究部会の目的、基本的構想及び組織運営は、次のとおりであった。

本件研究部会は、北九州市の地域性や学校の実態に即した教育を振興するため、学校や区の枠を超えた共同研究を促進し、更に教員の自主性、自発性を尊重して研修を推進することを目的としており、その基本的構想は、次のようなものである。

(1)  適切な教育課程を編成、実施するための研究を促進する。

(2)  市立義務教育諸学校に全国的な一定の教育水準を確保させる。

(3)  共同研究の機会を提供し、併せて教育委員会との意志の疎通を図る。

(4)  研究意欲を育成し、望ましい研究態度を育成する。

次に、組織運営についてみると、

(1)  各教科及び教科外領域の間に偏りのないものとするため、北九州市立小中学校等管理規則に基づき、毎年度当初、各学校長が策定し教育委員会に報告することとされている当該年度の教育計画に示された校内研究組織即ち校務分掌に基づく校内研究組織によることとし、各区ごとに校内研究組織の担当研究分野別(国語、社会、理科等の教科に関するもの二四、生徒指導、安全教育等の教科外領域に関するもの一〇)に組織編成し、これらを○○区小(中)学校○○(教育)研究部会と称することとした。

(2)  各研究部会には、部会を主宰するために部長一名を置き、校長をもって充てることとし、その他に副部長若干名を置いた。(但し、部長は、校長会研究組織の分掌によるものとする。)

(3)  各教員は、それぞれの勤務する学校の校内研究組織(校務分掌)に従って、当該校内研究組織の担当研究分野と同一分野の研究部会に、校内研究組織の一員としての立場で出席すべきものとされた。

7  福教組本部は、昭和四五年五月二五日の交渉打切りに対し、校長交渉や校長会の斡旋を求めるよう、また、被告との協議も再度開催するよう要求せよと、北九州支部へ指導していたところ、同支部は、六・一通知が出されるや、福教組本部へ報告し、その了解のもとに、同月二日、支部長田中勝美名で、組合員に対し、本件研究部会への参加をしないよう指令した。その後、北九州支部は、本部と基本的な方針を協議の上、更に同月八日、同支部長名で再度部会に参加しないよう指令した。しかし校長会の斡旋等の余地もないと判断した福教組本部は、その後日教組と対応を検討し、同月八日、部会参加拒否はせず、出席して研修のあり方を追及していく方法をとることとし、北九州支部へその旨指示した。

本件研究部会での原告らの行為は、このように日教組、福教組本部の指示のもとに闘争の一環として行われたものである。

なお、被告は、部会が開催された後にも、数回にわたり北九州支部との話合いを行ったが、合意に達するところとはならなかった。

三  原告らの違法行為及び本件各処分の根拠法条

1  原告春田について

昭和四五年六月(以下、本項においては、特に断らない限り昭和四五年を指す。)当時、同原告が北九州市公立学校教諭として同市立浅生中学校に勤務していたことは当事者間に争いがなく、(証拠略)、原告春田本人尋問の結果によれば、右当時、同原告が北九州支部副支部長の組合役職に在ったことを認め得る。

(一)  被告の主張4(一)の(1)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が開会を宣し、出席していた指導主事が新教育課程の説明をしたこと、同原告が岩佐とともに部長に対し、「部会を認めない。」「部長を認めない。」「研修をなぜ命令でやらせるのか。」と発言したことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一五日午後三時四〇分ころ、北九州市立天籟寺小学校図書室において行われた本研究部会の戸畑区小学校国語部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず岩佐則夫とともに無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長佐野亘)が開会を宣したところ、「部会を認めない。」「部長を認めない。」などと大声で野次を飛ばし、部長が再三にわたって退場するよう命じたにもかかわらずこれを無視して退場せず、「我々は部会を認めていない。」「部員とか部員外とかの区別はありようがない。」などと大声を上げ、更に同部会に出席していた江口指導主事が新教育課程の説明をしようとした際、右岩佐と交互に、「部会の編成を延ばせ。」「研修をなぜ命令でやらせるか。」「この会を話合いに切り替えろ。」などと大声で勝手な発言を繰り返し、室内を騒然とさせ、もって同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(二)  被告の主張4(一)の(2)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が開会を宣したこと、同原告が「なぜ職務命令を出して研修するのか。」などという発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一六日午後三時三五分ころ、北九州市立戸畑中学校家庭科準備室において行われた本件研究部会の戸畑区中学校技術・家庭(女)部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同市立浅生中学校教諭吉田花子)が開会を宣し、同部会を始めようとした際、「なぜ職務命令を出して研修するのか。」などと大声で発言し、部長の退場命令にも応じず次々に発言や質問を繰り返して同部会の運営を著しく妨害した。

(三)  被告の主張4(一)の(3)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、同原告が部員らに対し、被告主張の内容の呼びかけを行ったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言、原告春田本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一七日午後四時二〇分ころ、北九州市立三六小学校理科室において行われた本件研究部会の戸畑区小学校学校行事等部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず無断で入室し、在室の同部会部員らに対し、「職務命令での研究部会は望ましくないので、自主研究という権利を守るためにがんばって下さい。」などと勝手に呼びかけ、もって同部会の運営を著しく妨害した。

(四)  被告の主張4(一)の(4)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に手嶋とともに入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、同原告が部長に対し、被告主張の通告書を提出するとともに被告主張の内容の発言をしたこと、指導主事が部会の趣旨を説明し、これに対し同原告が質問、発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一八日午後三時三五分ころ、北九州市立一枝小学校校長室において行われた本件研究部会の戸畑区幼年教育部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず手嶋隆志とともに無断で入室し、部員らが部会に反対である趣旨の「通告書」を提出した際、同部会の主宰者である部長(同小学校長斉藤義明)に対し、部員らとともに、「この部会には疑問がある。」「職務命令まで出して研修させるのか。」「教委にどれだけの権限があるのか。」などと発言して室内を騒然とさせ、また同部会に出席していた山内指導主事が部会の趣旨を説明した際にも、質問や発言を繰り返し、更に、右手嶋とともに、同部会の記録係をしていた同市立鞘ケ谷小学校の水之江教頭に対し、「その記録を見せろ。」「記録を出して焼け。」などと激しく詰め寄って記録を削除させ、部長の退場命令にも従わず、依然会場内に居すわって勝手に発言や野次を繰り返し、もって同部分の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

2  原告福井について

昭和四五年六月当時、同原告が北九州市公立学校教諭として同市立富野中学校に勤務していたことは当事者間に争いがなく、同原告本人尋問の結果によれば、右当時、同原告が北九州支部執行委員(組織部長)の組合役職に在ったことを認め得る。

(一)  被告の主張4(二)の(1)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告が同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言、訴え取下前の原告吉田禎三及び原告福井各本人尋問の結果(但し、いずれも後記認定に反する部分は除く。)によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一二日午後三時三〇分ころ、北九州市立中原中学校図書室において同五時までの予定で行われた本件研究部会の戸畑区中学校数学部会の会場に、同部会の部員ら約二〇名が同会場に入室した際、同部員でないにもかかわらず吉田禎三とともに無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同市立中原中学校長中島俊夫)に対し、部員らとともに口々に「部長を認めない。」「部会を認めない。」などと発言し、同日午後四時ころ、同部会に出席していた船津指導主事が本件研究部会の組織上の話を始めるや、つかつかと前に出て同指導主事の発言を遮り、部長の前の椅子に座って、所持していた書類のようなもので部長の机を叩きながら激しい口調で部会反対の趣旨の発言を執拗に繰り返して同部会を中断させ、更に部長の再三にわたる退場命令にも一向に従わず、会場内に居すわって、同部会を紛糾させ、その運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(二)  被告の主張4(二)の(2)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言、原告福井本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分は除く。)によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一八日午後四時ころ、北九州市立小倉小学校体育館において同五時までの予定で行われた本件研究部会の小倉区小学校家庭部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず無断で入室し、既に無断入室していた同部会の部員でない高崎務が議事進行妨害の発言を激しく繰り返しているのに同調して、「そうだそうだ。」「校長の態度は組織の切り崩しだ。」などと大声で発言し、同部会に出席していた斉藤指導主事の説明に対しては、「それは違うぞ。」と野次を飛ばし、同部会の主宰者である部長(同市立市丸小学校長村田秀夫)が、再三にわたって退場命令を発したのにこれを無視し、右高崎とともに部長席にかけ寄り、「この用紙に退場命令の理由を書け。」などと怒号して部長に激しく詰め寄るなど、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(三)  被告の主張4(二)の(3)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがないところ、右争いのない事実、(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二二日午後三時四〇分ころ、北九州市立花尾中学校図書室において行われた本件研究部会の八幡区中学校道徳部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず無断で入室し、同じく無断入室した原告立川及び石坂俊雄らとともに、部員の着席位置を明確にするため校名を書いた紙を押ピンで机に留めていたことに文句をつけ、「机の校名札は誰が貼ったか。」「すぐ取れ。」「他の会場では全くなかった。」などと怒号して同部会の主宰者である部長(同中学校長中尾邦雄)に食ってかかり、更に、「部長は認めない。」などと大声で怒鳴り、再三にわたる部長の退場命令をも全く無視し、部長の前に立ちはだかって、「退去命令の法的根拠を示せ。」などと言って部長に詰め寄り、また、「部会を直ちにやめるつもりはないか。」などの質問や発言を繰り返して終始同部会を混乱させ、その運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(四)  被告の主張4(二)の(4)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室し、最前列に着席していたこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二三日午後三時四〇分ころ、同市立深町小学校校長室において行われた本件研究部会の若松区幼年教育部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず谷口弘らとともに無断で入室して座席の最前列に着席し、同部会の主宰者である部長(同小学校長宮下清蔵)に向かって、「これが正常な研修会か。」と詰問したうえ、部長が開会を宣し同部会を始めようとしたところ、他の部員以外の者とともに「そんな一方的なことがあるか。」「部長は誰が決めたか。」などと大声をあげて会場内を騒然とさせ、再三にわたる部長の退場命令をも無視して退場せず、右谷口とともに「我々が認めていない部長に命令が出せるか。」「命令なら命令書を書け。」などと語気荒く部長に詰め寄り、更に、「部会の組織等について若干問い質したい。」などと次々に発言を続けて、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(五)  被告の主張4(二)の(5)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二三日午後四時五〇分ころ、北九州市立浜町小学校理科室で行われた本件研究部会の若松区小学校理科部会の会場において、同部会の部員でないにもかかわらず無断で同会場に入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長重田勲)が名前を問い質したところ、「お前こそ誰か。」「おれは北九州の教員の福井だ。」などと暴言を吐き、部長の退場命令を無視して退場せず、同部会の運営を妨害し、更に同日午後五時ころ、同部会に出席していた田部及び岩岡各指導主事が同部会を閉会して退室しようとするのを桜河内正明らとともに妨害した。

(六)  被告の主張4(二)の(6)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二四日午後三時二〇分ころ、北九州市立熊西小学校講堂兼体育館において同三時三〇分開催予定の本件研究部会八幡区学校保健部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず谷石豊喜とともに無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長高倉孟)、同部会に出席した田部、柴田及び小川各指導主事に向かって、「現在の実態でなぜ強行するのか。」「本当の研修が出来るのか。」などと詰問して同部会の中止を要求し、開会予定時刻を経過しても退場せず、同部会の開会を妨害し、同日午後三時四五分ころ同部会が開会されるや、右谷石らとともに部長及び前記三名の指導主事に対し、「部長を認めない。」「部会をどうして強行するのか。」などと怒号して激しく詰め寄り、部長の退場命令をも無視し、勝手な発言を繰り返して場内を騒然とさせ、約二〇分間にわたってアジ演説を続けるなどして同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(七)  被告の主張4(二)の(7)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二五日、北九州市立尾倉中学校会議室において行われた本件研究部会の八幡区進路指導部会の開会に先立ち、碓田良夫及び同部会の部員らとともに同校図書室に勝手に集まり、開会予定時刻を経過しても同部員らを会場に入室させず、同部会の主宰者である部長(同中学校長末延福丸)が、同日午後三時三五分ころ及び同三時五五分ころの二度にわたって会場への入室を指示したが応じず、碓田とともに、「みんなここに居るのだからここでやろう。」「命令と言わねば入室しない。」などと言いがかりをつけて約三〇分間にわたって開会を遅らせ、同日午後四時ころ、ようやく同部会が開会されるや、同部会の部員でないにもかかわらず村尾隆及び右碓田らとともに会場に無断で入室し、部長に対して、「部長と認めない。」などと繰り返し、再三にわたる部長の退場命令をも無視して会場に居すわり、同部会の運営を著しく妨害した。

3  原告松尾について

昭和四五年六月当時、同原告が北九州市公立学校教諭として同市立石峯中学校に勤務していたことは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右当時、同原告が北九州支部執行委員(書記次長)の組合役職に在ったことを認めることができる。

(一)  被告の主張4(三)の(1)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、机・椅子を並べ変えたこと、プリントを部員らとともに音読したこと、部長らが音読を制止し、部員以外の者に退場を命じたこと、部長の退場命令に従わなかったこと、「研修は自主的なものでなければならん。」「命令でやるのは不当ではないか。」「我々の権利を無視するのか。」という趣旨を含む発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一六日午後三時三〇分ころ、北九州市立修多羅小学校家庭科室において行われた本件研究部会若松区小学校社会部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず同部会の主宰者である部長(同小学校長真矢博之)の部外者立入禁止の注意にも耳を藉さず、部員の先頭に立って入室し、部長及び同部会に出席していた岩岡指導主事の度重なる制止に従わず、予め配置されていた机や椅子を勝手に室内後方に移動して並べ変え、部員らとともに着席して、勝手に持ち込んだプリントを大声で音読し、同部会の進行を妨害し、更に部長が再三にわたって音読を制止し、部員以外の者の退場を命じたのに従わず、「研修は自主的なものでなければならん。」「命令でやるのは不当ではないか。」などと大声を張り上げて激しく部長に詰寄り、また、部員とともに、「今日は休憩時間をとって来てないがどうしてくれるか。」「我々の権利を無視するのか。」などと執拗に抗議して、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(二)  被告の主張4(三)の(2)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に桜河内及び谷口らとともに入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、同原告が「これで本当の研修が出来るか。」という趣旨を含む発言をしたこと、右二名らとともに質問をしたこと、部長が退場を命じたこと、同原告が「この会は認めない。」という趣旨を含む発言をし、退場しなかったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(証拠略)によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一八日午後三時四五分ころ、同市立古前小学校校長室において行われた本件研究部会の若松区特殊教育部会の会場に、同部会の部員が入室するに際し、同部員でないにもかかわらず、桜河内正明及び谷口弘らとともに部員たちの先頭に立って無断で入室し、同部会に出席していた野杉指導主事が特殊教育について話を始めようとしたところ、「研修は、本来民主的であるべきだ。」「これで本当の研修ができるか。」「我々の今日の集合は権力に対する闘いである。」などと発言し、右桜河内及び谷口らとともに交互に質問などを繰り返し、同部会の主宰者である部長(同小学校長柴田義蔭)が再三にわたり退場を命じたにもかかわらず、右桜河内とともに「出て行けとは何事か。」「この会は認めない。」などと発言して従わず、また、指導主事の講話を聞きたい旨の部員からの希望も抑え、なおもアジ演説や質問を繰り返し、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。また、部会閉会後も、部長に対して、同部会の不成立を認め、その確認書を書け、と威圧的な態度で要求した。

(三)  被告の主張4(三)の(3)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において行われた本件研究部会の開会前、部員とともに美術準備室に入室したこと、部長が部員に会場への入室を指示したこと、同原告が部長に会場変更を求め、部長がこれを断ったこと、被告主張の時刻に部員とともに会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、「教育委員会に尋ねたいことがある。」「部長を校長に決めてしまうのは問題だ。」という趣旨の発言をしたこと(後者は指導主事に対して)、退場命令に従わなかったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二二日、北九州市立石峯中学校美術室において同五時までの予定で行われた本件研究部会の若松区中学校美術部会の開会に先立ち、同部会の部員とともに同校美術準備室に無断で入室し、同部会の開会予定時刻に至り、主宰者である部長(同中学校長葉山正次郎)が同部員に対して会場への入室を指示したところ、部長に対して会場を右美術準備室に変更するよう迫り、部長がこれを断ると、同日午後三時五〇分ころ、同部会の部員でないにもかかわらず無断で部員とともに会場に入室し、「美術部会がどんなに進められているか知りたい。」「教育委員会に尋ねたいことがある。」などと発言し、同部会に出席していた時本指導主事に対しても、「部長を校長に決めてしまうのは問題だ。」と発言し、部長の再三にわたる退場命令をも無視して従わず、執拗にアジ演説を繰り返すなどして、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(四)  被告の主張4(三)の(4)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に桜河内とともに入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、退場命令に応じなかったこと、「勝手に部員にするのは人権無視だ。」「権力でものを言うな。」「部会として認めていない。」「帰ってもよいか。」という趣旨の発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二三日午後三時五〇分ころ、北九州市立浜町小学校理科室において行われた本件研究部会の若松区小学校理科部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず桜河内正明とともに、部員の先頭に立って無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長重田勲)の制止を無視して、予め配置してあった机を勝手に会場内の後方に移動して、椅子だけを前面に押し出して着席し、部長が、再三部員以外の者の退場を命じたが、これを無視して退場しないばかりか、右桜河内とともに「勝手に部員にするのは人権無視だ。」「権力でものを言うな」「部会として認めていない。」「みんな帰ろう、帰ってもよいか。」などと大声で言いながら激しく部長に詰め寄って部会を混乱させ、また、同部会に出席していた田部指導主事の部会の趣旨説明に対しても、「お前のは詭弁だ。」「研修費として五、〇〇〇円出せ。」などと大声で怒号して、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(五)  被告の主張4(三)の(5)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと、部長が開会を宣言した際、「部会を認めない。」という趣旨の発言をしたこと、退場命令があったこと、再度会場内に入室したことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二五日午後三時五〇分ころ、北九州市立槻田小学校講堂(兼体育館)において行われた本件研究部会の八幡区視聴覚教育部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長柳井新)の開会宣言の際、「部長を認めない。」「そこに座ってるのは誰だ。」などといきなり大声を張上げて会場内を騒然とさせ、更に同部会に出席していた船津指導主事が部会の趣旨説明をしようとすると、部員らとともに口々に「座れ。」「お前に聞いているのではない。」などと言ってその説明を妨害し、会場内を混乱状態に陥れ、また、部長及び同指導主事が同部会の部員以外の者の退場を命じたところ、「我々は部員ではない。」「出よう出よう。」と会場内の部員達に呼びかけ、同日午後四時三〇分ころ、ほぼ全員を引きつれて退場し、同部会を中断させた。その後、部長の説得により、部員が会場内に入室するや、またも無断で入室し、部長や同指導主事及び南指導主事らに対して大声で野次を繰り返して、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(六)  被告の主張4(三)の(6)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同原告は同部会の部員でなかったこと「研究部会の法的根拠を示せ。」という趣旨の発言をしたこと、退場命令に応じなかったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二六日午後三時四五分ころ、北九州市立筒井小学校家庭科室で行われた本件研究部会の八幡区小学校家庭部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず原告立川及び糸永喜代子らとともに無断で入室し、「研究部会の法的根拠を示せ。」などと言って同部会の主宰者である部長(同小学校長島田喜蔵)に詰め寄り、右原告立川及び糸永らと交互に立ち上がっては、激しく意見や質問を繰り返し、部長の再三にわたる退場命令に対しても同人らとともに、「この会を認めていない。」「部員とか部員以外とかいうのはいない。」などの発言を繰り返して退場せず、同部会の運営を著しく妨害した。

4  原告立川について

昭和四五年六月当時、同原告が北九州市公立学校教諭として同市立大原小学校に勤務していたことは当事者間に争いがなく、原告立川本人尋問の結果によれば、右当時、同原告が北九州支部八幡支部副支部長組合役職に在ったことを認め得る。

(一)  被告の主張4(四)の(1)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において碓田らとともに部長に対し、研究部会の中止を求めたこと、研修室を出ようとした部長に「まだ話がついていない。」と発言したこと、被告主張の時刻ころ、右碓田らと会場に入室したこと、同部会の部員でなかったこと、「この部会は認めていないから中止せよ。」「指導主事は会場から出ろ。」という趣旨を含む発言をしたこと、記録係をしていた教頭に対して被告主張のような発言をしたこと、部長の退場命令に対し、「退去命令とは何だ。」「法的根拠を言え。」という趣旨の発言をしたこと、部長に休憩を要求したこと、その後も退場命令があったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一八日午後三時ころから同市立八幡小学校研修室において、碓田良夫、村尾隆、谷石豊喜、糸永喜代子及び市江達らとともに、同校講堂において同日午後三時三〇分開催予定の本件研究部会の八幡区小学校国語部会を中止するよう同部会の主宰者である部長(同小学校長谷口廣保)に要求して、約三〇分間にわたって執拗に抗議し、更に開会予定時刻に至り同研修室を出て会場へ向おうとする部長に対し「まだ話がついていない。」などと言ってその前に立ちはだかり、会場への進路を妨害した。

また、同日午後三時三五分ころ、同校講堂において部長が同部会を始めようとした際、同部会の部員でないにもかかわらず右五名の者らとともに、会場内に乱入し、部長や同部会に出席していた藤崎、江口各指導主事を取り囲み、口々に「部会研修反対。」「この部会は認めていないから中止せよ。」「指導主事は会場から出ろ。」などと抗議し、更に記録係を担当していた同市立槻田小学校の大田教頭に対しても、前記碓田とともに「何を記録しているか。」「見せろ。」などと大声をあげて威嚇した。このため、部長が、「静かにして下さい。」「部員以外の人は会場外に出て下さい。」と再三退場を命じたにもかかわらず、これに応じないばかりか、逆に「退去命令とは何だ。」「法的根拠を言え。」などと激しく詰め寄り、会場を混乱させた。次いで同日午後三時五〇分過ぎころから藤崎指導主事が教育課程改訂についての説明を始めると、再び部長に近づき、「休憩を要求する。」などと叫んでこれを妨害し、その後も、部長の再三にわたる退去命令に従わず、「それは命令か。」などと語気荒く部長に詰め寄り、他の者とともに部長を取り囲んで激しく抗議するなどし、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(二)  被告の主張4(四)の(2)の事実についで

同原告が、被告主張の日時、場所において図書室に入室したこと、部長らに部会の中止を要求したこと、退室の指示に従わなかったこと、同部会の部員でなかったこと、原告福井らとともに机の校名札や部長及び部会について被告主張のような発言をしたこと、退場命令に従わなかったこと、「本日の部会を中止するつもりはないか。」との発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の各証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二二日、午後三時五分ころ、北九州市立花尾中学校図書室に無断で入室し、本件研究部会の八幡区中学校道徳部会を開催するため同室に待機していた同部会の主宰者である部長(同中学校長中尾邦雄)及び安倍指導主事に対し、同部会を中止するよう約三〇分間にわたって執拗に要求し、部長の退室指示にも従わず、更に同日午後三時四〇分ころ同部会が開会されるや、同部会の部員でないにもかかわらず入室し、部員の着席位置を明確にするため校名を書いた紙を押しピンで机に留めてあるのを認め、原告福井及び石坂俊雄らとともに、「机の校名は誰が貼ったか。」「こんなものは取り除け。」「こんなもの貼った部会はひとつもない。」などと怒号して部長に食ってかかり、また、「部長は認めない。」などと大声で怒鳴り、部長の再三にわたる退場命令もこれを無視して従わず、その前に立ちはだかって、「退去命令の法的根拠を示せ。」などと言って部長に詰め寄り、また、「本日の部会を中止するつもりはないか。」などの質問や発言を繰り返し、終始同部会を混乱させてその運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(三)  被告の主張4(四)の(3)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に谷石らとともに入室したこと、同部会の部員でなかったこと、退場命令に従わなかったことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二三日午後三時四五分ころ、北九州市立穴生中学校会議室において行われた本件研究部会の八幡区中学校技術・家庭(男)部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず谷石豊喜及び村上安正らとともに無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同中学校長大久保三郎)が同部員の開会を宣した際、部員らとともに「部長は認めない。」「命令研修反対。」などと大声で叫んで室内を騒然とさせ、部長の再三にわたる退場命令にも従わず、本件研究部会問題についてのアジ演説等を大声でながながと繰り返し、同部会の運営を著しく妨害した。

(四)  被告の主張4(四)の(4)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に村尾とともに入室し、最前列に座ったこと、同部会の部員でなかったこと、「開会を認めない。」「部会を取り消せ。」との趣旨の発言をしたこと、退場命令に従わなかったこと、指導主事の説明の際、「委員会に聞いているのではない。」「部長に言っているのだ。」「命令研修には従わない。」との趣旨の発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二四日午後三時四〇分ころ、北九州市立山ノ口小学校講堂において行われた本件研究部会の八幡区小学校算数部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず村尾隆とともに無断で入室して用意されていた椅子の最前列に座り、同部会の主宰者である部長(同小学校長谷口積)が開会を宣すると、口々に「開会を認めない。」「開会を取り消せ。」などと大声で叫んで部長に詰め寄り、部長の退場命令にも従わず、なおも「開会を取り消せ。」と執拗に部長に迫り、更に同部会に出席していた船津指導主事が部会の趣旨を説明しようとすると、右村尾らとともに、「委員会に聞いているのではない。」「お前は黙れ。」「部長に言っているのだ。」などの暴言を吐いて同指導主事の発言を封じたうえ、部長に対し「命令研修には従わない。」などと執拗に発言を繰り返し、部長の再三にわたる退場命令を全く無視して退場せず、同指導主事が再度部会組織についての説明をしようとすると、「皆さん指導主事の話を聞きたくないでしょう。」などと大声で部員に呼びかけて場内を騒然とさせ、更に、部員に向かって大声で、「抗議文を皆さん持っているでしょう。一人ずつ出しなさい。」などと呼びかけて部員の多くを離席せしめて同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(五)  被告の主張4(四)の(5)の事実について

同原告が、被告主張の日、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同部会の部員でなかったこと、研究部会に反対であるとの趣旨の発言をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二六日午後三時四五分ころ北九州市立筒井小学校家庭科室において行われた本件研究部会の八幡区小学校家庭部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず原告松尾及び糸永喜代子らとともに無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長島田喜蔵)が開会を宣すると、「部会を認めない。」「部長を認めない。」などと口々に野次り、部長の再三にわたる退場命令にも応ぜず、本件研究部会に反対であるという趣旨の演説や質問を次々に繰り返して、同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

5  原告木部について

昭和四五年六月当時、同原告が北九州市公立学校教諭として同市立大里南学校に勤務していたことは当事者間に争いがなく、原告木部本人尋問の結果によれば、右当時、同原告が北九州支部門司地区調給部長の組合役職に在ったことを認め得る。

(一)  被告の主張4(五)の(1)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の部員として同部会に出席していたこと、出席簿に署名をしなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と(人証略)の各証言、原告木部本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分は除く。)によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一六日午後三時三〇分ころ、北九州市立西門司小学校講堂において行われた本件研究部会の門司区視聴覚教育部会において、同部会の主宰者である部長(同小学校長住田茂)が出席簿への署名を指示した際、同部会の部員であるにもかかわらず、これに応ぜず、「命令を受けてやって来ただけだ。」「趣旨がはっきりしないから着席しない。」などと大声を上げ、他の部員に呼びかけて同会場後方にあった長椅子を勝手に入口付近に並べて着席させ、部会に反対である趣旨の「通告書」を読み上げたうえ、勝手な発言や質問を繰り返し、部員に対し、通告書を提出するよう呼びかけ、終始同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(二)  被告主張4(五)の(2)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同部会の部員でなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の各証言、原告木部本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一八日午後三時四五分ころ、北九州市立大里小学校講堂において行われた本件研究部会の門司区小学校理科部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず部員の先頭に立って無断で入室し、予め準備された席の後方に他の椅子を勝手に持ち出して円形に並べ、同部会の部員とともに着席し、同部会が開会されるや、「あんたは誰か。」「何しに来たか。」などと言って同部会に出席していた木本指導主事を揶揄し、更に、同部会の主宰者である部長(同小学校長武谷薫)らに対し、「我々は認めん。」などと発言を繰り返し、部長が退場を命じたにもかかわらず、「この会は理科の部会と認めていない。」「退場の必要はない。」と反抗して従わず、右二名の指導主事が部会の趣旨を説明しようとすると、その言葉尻をとらえ、語気荒く詰め寄るなど、終始会場に居すわって同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(三)  被告の主張4(五)の(3)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に部員の先頭になって入室したこと、同部会の部員でなかったこと、部長が退場を命じたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月一九日午後三時四〇分ころ、北九州市立小森江東小学校図書室において行われた本件研究会の門司区小学校音楽部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず部員の先頭に立って無断で入室し、予め準備された椅子を部員とともに勝手に動かして会場後方に並べ変えて各自これに着席し、同部会の主宰者である部長(同小学校長加治繁雄)が開会を宣すると、「みんな部員と思っていない。」などと発言を繰り返し、部長が部員以外の者の退場を命じたにもかかわらずこれに従わず、「部員とは誰か。」「部員以外の者というのなら全員退場するぞ。」と語気鋭く詰め寄り、「部長を誰が命じたか。」などと勝手な発言を繰り返し、また、同部会に出席していた末次及び藤崎各指導主事を揶揄するなど終始同部会を混乱させてその運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

(四)  被告主張4(五)の(4)の事実について

同原告が、被告主張の日時、場所において本件研究部会の会場に入室したこと、同部会の部員でなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、(人証略)の証言によれば、次の事実を認めることができ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

同原告は、六月二二日午後三時四五分ころ、北九州市立小森江東小学校図書室において行われた本件研究部会の門司区幼年教育部会の会場に、同部会の部員でないにもかかわらず天野靖久とともに部員の先頭に立って無断で入室し、同部会の主宰者である部長(同小学校長加治繁雄)が開会を宣すると同時に、「誰が部会を認めているか。」などと大声を発して室内を騒然とさせ、部長が部員名簿の確認をしようとすると、「部会を認めない。」「部員はいない。」などと大声で野次を飛ばしてこれを妨害し、再三にわたる部長の退場命令にも応ぜず、更に、「命令による研修は福岡県では始めてだ。」「北九州市では命令研修を押しつけている。」などの発言を大声で繰り返して同部会の運営を著しく妨害し、当日予定されていた同部会の年間研究計画策定等の実質審議を不能ならしめた。

6  以上1ないし5で認定したとおり、原告らは、いずれも本件研究部会の各会場に、校内研究組織(校務分掌)に従って出席することとなっていた各部会の部員でないにもかかわらず(但し、原告木部にかかる(一)の事実を除く。)無断で入室し、当該各部会の主宰者である部長の再三の退場命令に従わず、大声を張上げ激しい口調で部長らに詰め寄るなどして、著しく同部会の運営を妨害し、その実質審議を不能ならしめたものであり、かかる行為は、教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員として、甚だふさわしくない非行であり、その職の信用を著しく傷つけるものというべきである。

したがって、原告らの行為はいずれも地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号及び三号の懲戒事由に該当する。

五  原告らの主張に対する判断

1  本件研究部会開催の適法性について

原告らは本件研究部会の開催が法令等の根拠に基づかない違法なものである旨主張する。しかし、それが適法であることは以下に述べるとおりである。

(1)  地公法は、一般公務員の研修について三九条一項で「職員には、その勤務能率の発揮及び増進のために、研修を受ける機会が与えられなければならない。」とし、同条二項でこの研修は「任命権者が行うものとする。」として研修の根拠を定めているが、教育公務員の研修に関しては、教育を通じて国民全体に奉仕し、児童・生徒との人格的触れ合いを通して教育効果を高めるという教育公務員の重要な使命と教職の特殊性に鑑み、教特法は、特別の規定を置き、「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」(同法一九条一項)として教育公務員の研修がその職責遂行に不可欠であることを前提に、一般公務員には規定していない研修義務を明定し、そのためにも「教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。」(同法二〇条一項)としている。そして、同条二項は、「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる。」とし、更に、同条三項は、「教育公務員は、任命権者の定めるところにより、現職のままで、長期にわたる研修を受けることができる。」と規定し、また、同法一九条二項は、「教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない。」とも規定している。

他方、市町村立学校の県費負担教職員の研修については、地公法三九条及び地教行法三七条の規定により、任命権者である都道府県教育委員会がこれを行うが、研修を受けることを命ずるのは服務監督権者である市町村の教育委員会であるため、地教行法四五条二項は、市町村の教育委員会は都道府県教育委員会の行う研修に協力しなければならないものとしている。また、同法五八条二項は、地方自治法二五二条の一九第一項の指定都市については、任命権者である指定都市の教育委員会が研修を行うものとし、更に、同法四五条一項は、他の市町村教育委員会も服務の監督権者としての立場から県費負担教職員の研修を行うことができることとしている。そして、同法二三条八号は、校長、教員その他の教育関係職員の研修に関する事項を教育委員会の職務権限としているのである。

(2)  本件研究部会は、被告が、北九州市におけるすべての教員に研修の機会を与えるため、教特法一九条、二〇条の趣旨に則り、地教行法二三条八号、四五条及び五八条二項の規定に基づいて組織編成したものと解され、その目的、基本的構想及び組織運営については前記認定のとおりであるから、その開催は、適法なものというべきである。

(3)  因みに原告らは、本件研究部会の設置自体、地教行法三〇条の規定に違反し、条例上の根拠を欠いているから違法である旨主張するが、同条にいう「教育機関」とは、法律で定めるところによるものとして例示されている学校、図書館、博物館及び公民館のほか、必要に応じて、「条例で設置することのできる」教育に関する専門的、技術的事項の研究又は教育関係職員の研修、保健若しくは福利厚生等に関する物的、人的施設の総合体としての「施設」をいうものと解すべきであり、従って本件研究部会は、同条にいう「教育機関」ではないというべきであるから、原告らの右主張は理由がない。

2  職務命令としての本件研修命令の適法性について

原告らは、本件研究部会への参加を命じる職務命令じたい違法であり、原告らの行為はこの違法な職務命令に対する正当な抗議行動として行われたものである旨主張する。

(1)  地公法三二条は地方公務員に対し、職務の遂行に当り上司の職務上の命令に忠実に従う義務を課している。従って当該命令を受けた公務員が正当な理由もなくこれを拒否し得ないのはもとより、他の公務員も濫りに右命令の執行を妨害することは許されないというべきである。もっとも、同条は上司の違法な命令についてまで、これに服従することを要請しているものとは解されないが、ただ右命令を拒否し得るのは、その違法性が客観的に重大かつ明白な場合に限られ、単に当該命令の法的根拠等についての主観的な見解の相違があるに止まる場合はこれを拒否したり、その執行を妨害することは許されないと解するのが相当である。そして教育公務員も地方公務員である以上、右規定の適用除外となるいわれはない。

本件についてこれを見るに、本件研究部会への参加を命じる職務命令としての本件研修命令が右に述べた客観的に重大かつ明白な違法性を帯びていると認むべき事情は見当らず、むしろ前記1で詳述したように、本件研究部会の開催は、法律の規定に基づいて行われる適法なものであり、従って本件研修命令も職務命令として適法性を有するというべきである。

(2)  この点に関し原告らは公教育たる普通教育において、行政権がこれに関与し得るのは教育施設の設置管理等のいわゆる教育の外的事項に限られ、教育課程、内容等いわゆる教育の内的事項については、一切の干渉を許さないとの前提に立って教育公務員の研修について職務命令を以てこれを強制することは、教育の内的事項に対する不当な支配、介入に当り、憲法、教育基本法等の精神に反し、違法である旨の主張をする。

公教育たる普通教育制度において教育の内的事項に属する事柄について行政(国、地方公共団体を問わず)が不当な支配、介入をしてはならないことはもとよりいうまでもないところであるが、しかし、だからと言って原告らが主張するように教育の内的事項については、一切行政の介入を許さないものであるとの見解は採用し難く、行政も右の制約の下に教育の内的事項に関与することは憲法、教育基本法上も許容されており、寧ろ教育内容、教育課程等の改善のため積極的に努力すべき責務があると解すべきことは、夙に最高裁判決の示するところである(昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号六一五頁以下。)。

本件においては、前記二に認定のように五市合併による北九州市の発足後、教育施設の面のみならず、教育活動の面においても、旧態依然として各区(旧市)独自のカリキュラムで授業が行われるなど区間の格差が著しく、また教師の争議行為、組合員と非組合員による学内紛争のしわ寄せが児童、生徒に及び殆んど自習という学校も多く、全市的にみて、教育水準が全国平均を下廻る等著しい立遅れを示していたことや、右合併当時の教育研究組織も各区各学校毎にまちまちの状況に在ったことなどから、市ないし被告において右教育水準の立遅れの解消、教員の資質の改善、向上と各種研究組織の整備統合を図る必要性を痛感し、前記二2ないし5に認定の迂余曲折を経た後、北九州市の地域性や学校の実態に即した教育の振興を目指し教師の自主性、自発性を尊重し乍ら、各学校、区の枠を超えた共同研究組織を推進することを目的として前記二6に認定の基本構想と組織運営に基づく本件研究部会の設置、開催を行ったものである。従って本件研究部会、本件研修命令はそれなりに十分合理的意義を有し、正当性を有するということができる。

叙上のとおり職務命令としての本件職務命令が適法である以上、これに対する原告らの行為が抗議行動として正当性を有するとは到底認め難い。

3  原告らの行為が地公法五六条に該当しないことについて

原告らは、本件においてとった原告らの一連の行動は当局側の違法な職務命令による研修に対する正当な抗議行動であって、通常の労使の対立による紛争の域を出でず、その目的、態様等の点からみても、公務の公正な運用に困難を来す程のものではない旨あるいはまた本件研究部会に臨んで原告らのとった行為は、職員団体としての正当なものであり、地公法五六条の「正当な組合活動」に該当するから、何ら不利益な取扱いを受けるべきものではない旨主張する。しかしながら、研修そのものは勤務条件ではなく、当局と職員団体との間の交渉の対象となるべき事項ではないし、他方、前記説示のとおり、本件研究部会は、被告がその職務権限に基づいて適法に組織編成し、開催したものであり、各教員に対し、その服務監督権に基づく適法な職務命令によって研修を受けることを命じたものであって、結局本件研究部会に際しての原告らの前記認定の行為は、その目的、態様、手段、方法においていずれも社会的相当性の範囲を著しく逸脱するものというほかはなく、現に公務たる本件研究部会の円滑な運用を甚だしく阻害しているのであって到底職員団体としての正当な行為とは言えず、従って本件処分が地公法五六条に反しないことは明らかというべきである。

4  本件処分が裁量権の濫用に当らないことについて

原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用に該当する旨主張するので、この点につき判断する。

地方公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる懲戒処分を選択すべきかを決するについては、公正でなければならない(地公法二七条)ことはもちろんであるが、懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定できるのであって、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、右の裁量は恣意にわたることをえないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

これを本件についてみるに、原告らは、前記四で認定したとおり、昭和四五年六月一一日から二六日までの間の土、日曜を除く一二日間にわたって北九州市の各区において開催された本件研究部会の会場に押しかけて、管理者である部長の指示・警告を無視して、部長に対して大声で抗議したり野次ったりするなどの各種妨害行為を行い、部会の正常な運営を不可能にしたものであって、原告らの各行為の目的、性質、態様及び情状に照らすと、原告らに対する本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとは思われないし、他にこれを認めるに足りる事情も見当たらないから、本件各処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え、これを濫用したものと判断することはできない。

したがって、原告らの右主張も採用することができない。

六  よって、被告のした本件各処分には結局違法な点がなく、右各処分の取消しを求める原告らの本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤浦照生 裁判官草野芳郎は転任のため、裁判官奥田正昭は海外出張中のため、いずれも署名捺印することができない。裁判長裁判官 藤浦照生)

別表

<省略>

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