大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)230号 判決 1971年2月08日

原告 互商株式会社破産管財人 松尾翼

右代理人弁護士 古谷明一

同 糠谷秀剛

右復代理人弁護士 竹内康二

被告 有限会社西日本パーツ商会

右代表者代表取締役 樫野寿弘

右訴訟代理人弁護士 西辻孝吉

主文

一、被告は原告に対し別紙物件目録記載の物件を引渡せ。

二、右物件の引渡しができないときは、被告は原告に対し、金一四三万二、九六一円を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告(請求の趣旨)

1  主文第一ないし三項同旨。

2  仮執行宣言。

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、請求原因

1  訴外互商株式会社(以下破産会社という)は、昭和四四年一一月一八日自己振出の約束手形の決済ができず一般の支払を停止し、同年一二月一〇日自己破産の申立をなし東京地方裁判所において同日午後三時破産宣告を受け、同時に原告が破産管財人に選任された。

2  右破産会社は別紙物件目録記載の物件(以下本件物件という)を所有している。

3  被告は同年一一月一八日破産会社福岡営業所から本件物件を持去り権原なくこれを所持している。

4  本件物件の価額は別紙物件目録記載のとおりであり、総額金一四三万二、九六一円である。

5  よって、破産財団の所有権に基き返還を求めるとともに、引渡不能のときの代償請求として、右価額相当の損害金の支払を求めるため、本訴に及ぶ。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1中、原告主張の日時に破産会社が破産宣告を受けた事実は認めるが、その余の事実は不知。

2  本件物件がもと破産会社の所有であったことは認める。

3  請求原因3のうち、原告主張の日に主張の場所で被告が本件物件の占有を取得した事実は認めるが、任意に引渡を受けたのである。

4  同4の事実は否認する。価額は総額一二九万二、六七八円である。

三、被告の抗弁

1  被告は破産会社福岡営業所との取引により、昭和四四年一一月一八日当時破産会社に対し、商品売掛代金金三四三万三、二九九円の債権を有していた。

2  被告は同日破産会社との間において、本件物件を右債権の一部金一二九万二、六七八円の代物弁済として譲受ける約束のもとに即日引渡しを受けたものである。

四、抗弁に対する原告の認否

何れも否認する。

被告は、破産会社福岡営業所長柿本房之の拒絶にもかかわらず、深夜強引に本件物件を奪取したものである。

五、原告の再抗弁

1  破産会社と被告との取引については、破産会社の買掛金は毎月二〇日締切り、翌月一〇日清算でその清算日より三月後の毎月一三日を支払日とする約束であり、約束手形を振出交付して決済してきたものであるから、昭和四四年一一月一八日当時破産会社が負担していた債務の弁済期は何れも未だ到来していなかった。

そこで、被告主張の代物弁済は、その債務消滅行為の方法においてのみならず、その時期においても破産者の義務に属しないものである。

2  よって、仮に被告主張の代物弁済の事実があるならば、原告は本訴において、破産法七二条四号により、破産財団のため右代物弁済を否認する。

3  仮に、被告は破産会社に対する債務の担保として本件物件の引渡を受けたものであるとしても、破産会社の右担保供与行為についても、これを原告は本訴において、同条同号により破産財団のため否認するものである。

六、被告の再々抗弁

1  被告は破産会社福岡営業所に対し、昭和四四年一一月中に代金合計金一一二万七五五円相当の商品を売渡していたものであり、そのうち五四万五、六五五円相当の商品は同月一六、七日頃同営業所に到着したものと推定され、そのため、被告は同月中売渡商品の大部分が同営業所の在庫品として存在するものと思料していた。

ところが、実際は金額的にも僅少な一部分しか存在しなかったのである。

2  本件物件中には、右被告売渡商品が一部含まれているので、その部分については、動産売買の先取特権の目的となり、右代物弁済は破産債権者を害するものではない。

3  その他の商品についても、被告は代物弁済を受けるに当り、破産会社の支払停止の事実も破産債権者を害する事実も知らなかったものである。

すなわち、被告の破産会社との取引は、破産会社の東京本社を通ずることなく福岡営業所との間にしていたものであり、同営業所の営業状態も正常であったし、当然存在するものと思料していた被告売渡商品が存在しなかったため、その代りに他の商品を返品として受領したのである。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、破産会社が原告主張の日時に破産宣告を受けた事実は当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によると、破産会社は振出手形の不渡りを出して昭和四四年一一月一八日一般の支払を停止した事実、及び破産会社の自己破産の申立による同年一二月一〇日破産宣告と同時に原告が同会社の破産管財人に選任された事実がそれぞれ認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

二、本件物件がもと原告所有であったこと及び同年一一月一八日被告が破産会社福岡営業所で本件物件の占有を取得したことは、被告の認めるところである。

三、被告主張の代物弁済の抗弁につき判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告は、破産会社との間に同年一一月半頃まで継続した取引の結果同月一八日当時破産会社に対し三〇〇万円を超える売掛代金債権を有するに至ったことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

被告は、破産会社より本件物件を右債権に対する代物弁済として引渡を受けた旨主張するけれども、右代物弁済契約の事実を認めるに足る証拠はない。

被告が本件物件を所持するに至った経緯については、≪証拠省略≫を綜合すると、次の各事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(1)  破産会社は、東京都に本店を有し、九州における営業活動を、大阪支店の指揮監督の下に福岡営業所に担当させていたが、同営業所の商品仕入れ代金支払の方法として、住友銀行福岡支店に当座預金口座を設け、同営業所において破産会社代表者名義の同銀行支店を支払場所とする約束手形を振出しその決済のための資金繰りを東京本店において行っていた。

破産会社の福岡営業所長は訴外柿本房之であった。

(2)  破産会社福岡営業所の被告からの商品仕入れの取引については、その代金は、毎月一〇日締切り計算し、三ヵ月後の月の一三日を満期とする約束手形を振出交付し、これを決済することとされていた。

(3)  破産会社福岡営業所は、被告から買受けた商品の大部分を東京支店または大阪支店に送付するのを常としていた。

(4)  破産会社は従前より資金繰りに苦労していたが、昭和四四年一一月一六日に至ってそれまで受けていた第三者からの資金援助を打切られたため、振出手形の決済ができなくなり、遂に同月一八日東京手形交換所において決済すべき振出手形の不渡りが確定し、倒産するに至った。

(5)  これより先、被告は破産会社から振出交付を受けた約束手形の割引を銀行に依頼して拒否されたため、被告会社代表者樫野寿弘は同月一六、七日頃破産会社福岡営業所に柿本を訪ね、右被告振出手形と同営業所が売掛代金回収のため他から受領する商業手形とを交換するよう柿本に強く要請した。

(6)  右当日は、同営業所の売掛代金締切計算日が毎月二〇日のため受取手形が手許になかったこともあって、柿本は右要請を拒絶したが、同月一八日に売掛金回収のため鹿児島県内の取引先を訪れる旨を樫野に話した。

(7)  柿本は同月一八日売掛代金回収のため鹿児島に出張し、鹿児島から大阪支店に電話した結果、同日前示手形不渡り確定の事実を聞いて破産会社の倒産を知り、飛行機で福岡へ帰った。

同日夕刻柿本が帰着した板付空港には、樫野が柿本を待ち受けており、福岡営業所に同行した。

(8)  同日破産会社福岡営業所に戻った柿本は同行した樫野に対し、同営業所事務所において、鹿児島における代金回収が不調で受取手形を持帰ることができなかったこと、及び同日破産会社の振出手形が不渡りとなったことを告げた。

これに対し、樫野は、手形や現金の代りに同営業所の在庫商品を引渡すよう申し入れ、柿本はこれを拒絶したが、樫野は、翌日には他の債権者が来て混乱が予想されるので、これに対処するため二、三日預かりたいなどと述べて、なおも約三時間にわたり執拗に柿本に迫り、最後には、二日後に迫った同営業所売掛代金締切計算日である同月二〇日以降において、同営業所が取引先より支払のための手形を受取りこれを前記破産会社振出手形と交換するまでの数日間、同営業所の在庫商品を預りたい旨要求した。

結局、柿本は、樫野の強硬な右要求に抗しきれず、その趣旨に沿い数日間被告会社に預ける趣旨で在庫商品を引渡すことを承諾するに至った。

(9)  柿本が右引渡を承諾したときは、すでに夜遅くなっていたが、直ちに樫野は、知人の応援を得て深夜にわたり、同営業所から在庫商品であった本件物件を搬出し、柿本からその引渡を受けた。

四、右認定の事実によると、被告は、破産会社に対して有する債権の担保とする趣旨で、柿本から本件物件の引渡しを受けたものと認めるのが相当である。

右認定の債権担保の趣旨であるにしても、被告主張のように代物弁済としてであるにしても、通常の商品売買取引の過程における処理ではなく、破産会社が振出手形の不渡りを出して一般の支払を停止し、倒産が明確となった時期において、在庫品全部を一債権者に引渡す職務上の権限を、福岡営業所長たる柿本が有していたものとは証拠上とうてい認め難いところであるから、この点においても、被告主張の代物弁済契約の成立を認め得ないものであり、また、右認定の担保提供が破産会社と被告との間の法律行為として有効と認めることはできない。(のみならず、叙上の事実を綜合すれば、前認定の債権担保のための本件物件引渡行為は、その時期及び方法において破産者の義務に属しない行為として破産法七二条四号による破産管財人たる原告の否認権行使の対象となることは免れず、支払停止の事実を知ってその引渡を受けた被告はこれを受忍しなければならないものである。もっとも、≪証拠省略≫中には、本件物件のうち一部を特定指摘して、これが被告より破産会社に売渡した商品である旨供述する部分があるが、直ちに措信できない。)

そうすると、被告の抗弁は理由がなく、被告は権原なく本件物件を占有しているものということができるから、原告は、破産財団の所有権に基き、その返還を請求しうるものというべく、本件物件の引渡を求める原告の本訴請求は理由がある。

五、そこで、本件物件引渡不能のときの損害賠償請求につき判断する。

≪証拠省略≫を綜合すると、本件物件につき前記引渡のなされた昭和四四年一一月当時におけるその商品仕入価額は別紙物件目録記載のとおり合計金一四三万二、九六一円であることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

本件の場合、本件物件引渡不能により破産財団の被る損害を算定する基準となるべき本件物件の価額は、右仕入価格と同額と認めるのが相当である。

もっとも、前認定の被告の占有取得の後、時日の経過により多少の自然の価額低減があるものと窺われないでもないが、その減価の有無、数額を確認するに足る証拠はないから、本件口頭弁論終結の昭和四五年一一月九日当時においても、右同額の価額を有するものと認むべきである。(もっとも、未だ三ヵ月余を経過したにすぎず価額低減も生じなかったものと認められる本件訴状送達の同年二月二五日当時以降において、自然の価額低減を生じたとしても、右減価相当額は被告において引渡義務を履行しなかったことにより発生した損害として、原告はこれについても賠償を求め得るものであるから、原告の主張自体は必しも明確ではないが、右損害を含めて賠償請求をなすものと解し得られないでもないから、減価の如何は判決の結論を左右するものではない。)

従って、被告に対し、将来の代償請求として右認定の物件価額相当の損害賠償を求める原告の請求もまた理由がある。

六、よって、原告の本訴各請求は、いずれも正当としてこれを認容すべきものとし、民訴法八九条、一九六条に則り、主文のとおり判決する。原告申立に係る主文第二項についての仮執行宣言は、不相当であるから、これを付さない。

(裁判官 渡辺惺)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例