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福岡地方裁判所 昭和43年(モ)2143号 判決 1969年3月10日

申請人 村山三男

右訴訟代理人弁護士 村田利雄

同 真鍋秀海

被申請人 村山忠男

右訴訟代理人弁護士 小野山裕治

主文

本件仮処分異議申立を却下する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一申立

申請訴訟代理人は、「福岡地方裁判所が、同庁昭和四三年(ヨ)第八五三号仮処分申請事件について、同年一〇月二五日にした仮処分決定はこれを認可する。訴訟費用は被申請人の負担とする」との判決を求め、被申請訴訟代理人は、「福岡地方裁判所が同庁昭和四三年(ヨ)第八五三号仮処分申請事件について、同年一〇月二五日にした仮処分決定を取消す。右仮処分申請を却下する。訴訟費用は申請人の負担とする。」との判決を求めた。

第二主張

当事者双方の事実および法律上の主張は別紙のとおりである。

理由

一、申請人が福岡地方裁判所に、「本案判決確定に至るまで、被申請人は同人名義の別紙目録記載の株式について昭和四三年一〇月三一日午後三時に招集された申請外村山水産株式会社の株主総会において、その議決権を行使してはならない。右申請外会社は被申請人が右株式につき、右株主総会において議決権を行使することを認容してはならない。」旨の仮処分申請(同庁昭和四三年(ヨ)第八五三号)をし、同庁が同月二五日右申請どおりの仮処分決定をしたこと、被申請人が同月三〇日に右仮処分につき異議の申立をしたことは記録上明らかである。

二、そこで本件異議申立の適否について考察する。

(一)  民訴法七四四条の異議については、その申立の時期につき法律上別段制限規定がなく、従って保全処分命令の成立後の存続中ならば、異議申立の利益の存する限りは何時でも適法に申立ができるのであるが、右にいう異議申立の利益とは保全処分の効力除却につきるのであるから、保全処分命令が失効した場合は、たとえ同命令が形式上存在していても異議申立の利益はここに消滅するに至るものと解すべきである。そして、本件のような仮の地位を定める仮処分命令においてその内容に一定の時期的制限があれば、該命令は、右時期を経過した場合、形式上存在していてもその内容を強制することはあり得ず、仮処分命令としての拘束はなくなると考えられ、従って仮処分命令自体が失効しているに等しいというべきであるから、このような場合は、右仮処分命令に対する異議の申立は、異議による取消の利益を欠くものとして却下すべきものと解される。

本件についてみるに、本件仮処分決定が、昭和四三年一〇月三一日開催の、申請外株式会社の株主総会において、被申請人が議決権を行使することを禁止したものであることは前記のとおりであり、既に右開催日時を経過した現在(右株主総会が延期または続行されなかったことは弁論の全趣旨から明白である)においては、前説示のとおり右仮処分決定は失効しているというべく、従って、その効力の除却を求める本件異議申立は異議の利益を欠くといわざるを得ない。

そうすると、本件仮処分決定自体が効力を失っていないことを前提とする被申請人の主張部分は失当である。

(二)  被申請人は、本件仮処分決定によって被申請人が蒙った損害の賠償請求ができるか否かは、右仮処分決定の当否の審判がその前提となるから、本件異議申立は利益があると主張するのでこの点を考える。

現行法上、異議訴訟で保全処分が不当として取消されることは不当保全処分による損害賠償訴訟の前提要件でもなくまた異議判決の既判力は損害賠償訴訟における保全処分の違法性に関する認定に及ばない。そして、債権者に対する不当保全処分による損害賠償訴訟を有利に展開せしめる利益とかまたはその他の訴訟において異議判決を被保全権利や保全の必要などの存在の証拠となし得る利益とかの事実上の利益はあっても、これは保全処分の効力とは直接の関連はなく、単に異議による間接的反射的利益に過ぎないのであるから、このような利益は、独立して国家の訴訟制度を利用し得る利益とは云い難いのである。従って被申請人の右主張も失当である。

三、以上みてくると、被申請人の本件異議申立はその利益を欠き不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 平田勝美 門田多喜子)

<以下省略>

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