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福岡地方裁判所 昭和34年(ワ)296号 判決 1961年3月30日

原告 国

被告 福田エレクトロ総販売株式会社

訴訟代理人 小林定人 外二名

主文

被告が昭和三三年一〇月一一日別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産につき訴外九州エレクトロ販売株式会社との間に締結した代物弁済契約はこれを取り消す。

被告は原告に対し別紙第一目録記載の動産を引渡せ。

被告は原告に対して金四、三六〇、五〇〇円およびこれに対する昭和三四年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

「訴外九州エレクトロ販売株式会社は、昭和三三年一〇月二五日昭和三三年度源泉徴収加算税金一、〇〇〇円、同源泉所得税金一九、六九二円、同源泉徴収加算税金四、七五〇円、同利子税金七〇〇円、同法人税金六六五、九四〇円、同重加算税金三〇六、五〇〇円、同利子税金九九、三五〇円、同法人税金二、七七四、七二〇円、同重加算税金一、二三一、五〇〇円、同過少申告加算税金一五、五〇〇円、同利子税金一一〇、六八〇円、同法人税金一、三一二、七八〇円、同滞納処分費金一、六一五円合計金六、五四四、七二七円の租税を課する旨の決定を受けながら納期限を徒過して右の納付をしない。

ところが右訴外会社は、右租税債務を担保するに十分な資産を有しないにもかかわらず、被告と共謀のうえ昭和三三年一〇月一一日右租税の賦課されることを十分予見しながら、右租税債権のため将来滞納処分による財産の差押を免れようとして故意に、被告との間にその所有もしくは帰属の別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産を含む全財産について代物弁済契約を締結したものである。

しかして本訴提起後、前記租税債務の中、法人税金一、三一二、七八〇円は昭和三四年一〇月三一日その取消処分により消滅し、又昭和三四年九月二五日滞納処分による差押によつて訴外会社所有のスクーター一台を公売してその代金四、一五〇円を滞納処分費一、六一五円と法人税六六五、九四〇円中二、五三五円とに各充当したから本件口頭弁論終結時の滞納税額は金五、二二七、七九七円である。

よつて、原告は被告に対し右租税債権の範囲内において右第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産について前示代物弁済契約の取消を求めるとともに第一目録記載の動産についてはその引渡を、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産については既に取立済または処分済なのでその返還に代えて価額相当の損害賠償として金四、三六〇、五〇〇円ならびに右金員に対する本訴状送達の翌日である昭和三四年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を各求める。」と述べ、

被告の抗弁事実を否認すると述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「被告が訴外九州エレクトロ販売株式会社に対して有する金一一、〇一四、二四三円の債権の代物弁済として原告主張の頃右訴外会社より原告主張の別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産を譲り受けた事実は認めるが、右訴外会社が原告主張のような租税債務を負担していたことは不知、同訴外会社が被告と共謀して租税債務の賦課されることを予見しながら右債務を担保するに十分な財産を有しないのに滞納処分による差押を免れるため故意に代物弁済契約を締結したとの点は否認する。別紙第一目録記載の動産中(3) 机(作業用)五、(5) 回転椅子二中一、(7) 応接四点セツト一、(15)器械棚一、(17)器械台金(RS-一三)二は現存しないし、同第二目録記載の二の売掛金債権中(7) ないし(10)の各債権および同目録三の動産の各代償額は原告主張のような価額ではない。

本件は被告が前記訴外会社に対し前記のような債権を有していたところ、右訴外会社が別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産をもつて右債務を任意に弁済したものであるから詐害行為となるものではない。

仮りに、右訴外会社が差押を免れるため故意に別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産を被告に代物弁済として譲渡したとしても、被告は右代物弁済契約当時その情を全く知らなかつたものである」と述べた。

立証として、原告指定代理人は、甲一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第一三号証を提出し、証人木村昭夫、同中島賢一郎の各証言を援用し、乙第一七、第一八号証の成立を認めその他の乙号各証の成立は不知と述べ、被告訴訟代理人は、乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一、二、第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし三六、第一七、第一八号証を提出し、証人沢井正智、同熱海栄一郎、同永井尚英の各証言を援用し、甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の成立を認めその他の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

被告が昭和三三年一〇月一一日訴外九州エレクトロ販売株式会社に対する債権の代物弁済として同訴外会社から同会社所有もしくは帰属の別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産を譲り受けたことは当事者間に争がない。

そこで先ず、右訴外会社に原告主張のような租税債務滞納の事実が存したか否かについてみるに、成立に争のない甲第一号証および証人熱海栄一郎、同木村昭夫の証言によれば、訴外会社は昭和三三年一〇月二五日、昭和三三年度源泉徴収加算税金一、〇〇〇円、同源泉所得税金一九、六九二円、同源泉徴収加算税金四、七五〇円、同利子税金七〇〇円、同法人税金六六五、九四〇円、同重加算税金三〇六、五〇〇円、同利子税金九九、三五〇円、同法人税金二、七七四、七二〇円、同重加算税金一、二三一、五〇〇円、同過少申告加算税金一五、五〇〇円、同利子税金一一〇、六八〇円、同法人税金一、三一二、七八〇円、同滞納処分費金一、六一五円、以上合計金六、五四四、七二七円の課税処分を受けたことが認められる。そして右租税債務の中法人税金一、三一二、七八〇円が昭和三四年一〇月三一日取消処分により消滅したことおよび昭和三四年九月二五日滞納処分による差押によつて訴外会社所有のスクーター一台を公売してその代金金四、一五〇円を滞納処分費金一、六一五円と法人税金六六五、九四〇円中金二、五三五円とに各充当して弁済されたことは原告の自陳するところである。しかして、右租税債務の残額金五、二二七、七九七円について訴外会社が納期限に納付したことについては何等の主張も立証もないから、訴外会社は右租税債務の残額金五、二二七、七九七円につき、未だに滞納しているものと認めざるを得ない。

ところで、前段認定のように本件租税債権が課税処分により具体的に確定したのは昭和三三年一〇月二五日であるところ、詐害行為と主張される代物弁済契約は右日時以前である同年同月一一日に締結されているので前記租税債権が詐害行為取消権行使の基礎となり得るかについて考察する。

租税債権は、当該年度開始の後は租税法の定める課税要件を充足することによつて自動的に発生するものであるから、国としては、租税法所定の課税要件の充足と同時に、納税義務者の一般財産を租税徴収の担保として保全すべき法律上の利益を有する地位を取得するものと解せられる。本件の場合前示代物弁済契約前既に租税債権が課税要件充足の上発生していたことは前叙認定の事実によつて認められるから、本件租税債権は詐害行為取消権行使の基礎となるものといわなければならない。

よつて次に、訴外九州エレクトロ販売株式会社および被告が本件代物弁済契約締結当時その行為により租税債権を害する結果となるであろうことを予知しながら共謀して本件代物弁済契約を締結したか否かについて判断する。

成立に争のない甲第二号証、証人熱海栄一郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証および乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一ないし五、第一六号証の一ないし三六に証人永井尚英、同熱海栄一郎(以上の証人の証言中後記措信しない部分を除く)同木村昭夫の証言を綜合すると次のような事実が認められる。

すなわち、訴外福田エレクトロ製作株式会社福岡営業所の責任者熱海栄一郎が、福田エレクトロ製作株式会社の製品を販売するために右会社とは独立の新会社の設立を企画し、昭和三一年一一月二四日福田エレクトロ九州販売株式会社の商号を以て設立し、その後商号を現在の如く変更したものが本件訴外の九州エレクトロ販売株式会社であり、他方被告(福田エレクトロ総販売株式会社)は訴外福田エレクトロ製作株式会社の販売部門を独立させ昭和三三年三月二九日設立登記がなされた会社である。被告会社と訴外九州エレクトロ販売株式会社とは上記のような関係にあるため右訴外会社設立当時の代表取締役としては福田エレクトロ製作株式会社の代表取締役である福田孝が就任し、他に取締役として同会社の取締役である永井尚英、同福田僚が就任した。その後昭和三三年五月一一日訴外九州エレクトロ販売株式会社の代表取締役として熱海栄一郎が就任し、福田孝は同訴外会社の代表取締役を退任し取締役となつた(当時福田孝は被告会社の代表取締役でもあつた)。そして福田エレクトロ製作株式会社あるいは右会社の販売部門が独立した被告会社と訴外九州エレクトロ販売株式会社との間には継続して取引が行われたが、右訴外会社(以下九州エレクトロと略称する)と福田エレクトロ製作株式会社との間には、九州エレクトロの運営は福田エレクトロ製作株式会社の方針に従うこと、九州エレクトロは営業状況一切に関しての推移および結末を福田エレクトロ製作株式会社に遂次報告し、同製作株式会社は三ケ月に一回の割合で、九州エレクトロの帳簿監査を行うが、九州エレクトロは福田エレクトロ製作株式会社の指定した業務上の書類一切に関し遂一洩れなく記帳、記載し何時監査を受けても閲覧しうるようにし、右監査の際には一切の書類の閲覧を拒むことができないこと、福田エレクトロ製作株式会社は九州エレクトロに対してあらゆる部面にわたり運営上の援助指導をなし両会社は相互間に緊密な連絡により運営を司さどることという内容の契約が存在し、福田孝と熱海栄一郎との間には、熱海栄一郎が九州エレクトロの経営上重大な事項に当面した場合には同人が独断で決定しないで福田エレクトロ製作株式会社代表取締役福田孝と協議の上決定すること、熱海栄一郎は福田エレクトロ製作株式会社の本社勤務に転勤することを拒みえないことという内容の契約が存在したこと、熱海栄一郎が右契約の趣旨に従つて福田エレクトロ製作株式会社の方針に従つて九州エレクトロの運営をなし福田孝の意に添うように努力していたことが認められ、被告会社と九州エレクトロとは緊密の間柄にあつたものと認められる。

そして、九州エレクトロは昭和三二年末頃より不渡手形を出し始め、同三三年九月頃には多額の債務を負担するようになり、昭和三三年九月末頃より被告会社との間に同会社に対する債務の支払方法につき折衝を始め、同年一〇月一一日公正証書を作成して本件代物弁済契約を締結したこと、右代物弁済契約の目的物は九州エレクトロの殆ど全財産を包含するものであることが認められ、又一方、博多税務署法人課第四係大蔵事務官木村昭夫は右代物弁済契約の交渉が九州エレクトロと被告会社との間で開始される時期より少し前の昭和三三年九月八日より九州エレクトロに対し法人税等逋脱の疑で調査を始め、翌九日には九州エレクトロの営業所に赴いて調査していること、同年一〇月一〇には九州エレクトロの代表取締役熱海栄一郎に対し調査の結果法人税の逋脱が判明したから法人税および加算税として多額の租税が賦課される旨を告知していることが認められる。

以上認定の事実を綜合考案すると、訴外九州エレクトロ販売株式会社は前記租税が課せられるであろうことを予見しながら右租税債権を害せんがために被告と共謀して同訴外会社の有する全財産を被告に対する債務の代物弁済としたものであつて、被告もまた右訴外会社と共謀して害意をもつて本件代物弁済契約を締結したものと認めるべく、訴外会社と被告との間に右のような共謀による害意がある本件代物弁済契約は詐害行為を組成するものといわざるを得ない。証人永井尚英、同熱海栄一郎の証言中前記認定に反する部分はたやすく信用することができないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして、成立に争のない甲第四号証および前示の如く真正に成立したものと認められる同第六号証によれば訴外会社は本件代物弁済契約の目的物以外に資産は無いものと認めることができる。

よつて、被告が昭和三三年一〇月一一日別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産について訴外会社との間に締結した代物弁済契約は、原告の租税債権を詐害するものであるから、この取消を求める原告の請求は理由がある。

従つて、被告は原告に対し、右代物弁済契約に基いて取得した別紙第一目録記載の動産第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産を返還する義務がある。

なお被告は右動産中(3) 机(作業用)五、(5) 回転椅子二中一、(7) 応接四点セツト一、(15)器械棚一、(17)器械台金(RS-一三)二は現存しないと主張する。しかし成立に争のない甲第二号証によれば右動産はいずれも本件代物弁済契約締結当時存在し、右契約によつて被告にその所有権が移転したものと認められるところ、その後右動産が滅失したことを認めるに足りる証拠はないから依然として存在するものというべく、被告の右主張は理由がない。

次に、原告は別紙第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産についてはそれらが既に取立済または処分済であるからその物自体の返還に代えてその価額相当の損害賠償を請求すると主張するのでこの点についてみるに、右目録中一の約束手形債権および同二の売掛金債権がいずれも取立済であることは被告において明らかにこれを争わないからこれを自白したものとみなすべく、また同三の動産が滅失して現存しないことは証人中村賢一郎の証言および同人の証言により真正に成立したと認められる甲第七号証の記載内容により明らかであり、且つ右動産の総計額が金三〇〇、〇〇〇円であることは前記甲第二号証によつてこれを認めることができる。従つて右各債権ならびに動産はいずれも返還不能であるから、被告は原告に対し右返還不能による損害賠償として右各債権額と同額の金四、〇六〇、五〇〇円、ならびに右動産の総額金三〇〇、〇〇〇円の合計金四、三六〇、五〇〇円及びこれに対する、本訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和三四年四月七日より右金員完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。なお、被告は同目録二の売掛金債権中(7) ないし(10)の各債権の填補賠償額を争うか、右各債権の各債権額が原告主張のとおりであることは当事者間に争ないところ、債権においてはその債権額を以つて填補賠償額と解すべきであるから被告のこの点の主張も採用できない。

よつて被告に対し、被告が昭和三三年一〇月一一日別紙第一目録記載の動産、第二目録記載の約束手形債権、売掛金債権、動産につき、訴外九州エレクトロ販売株式会社との間に締結した代物弁済契約の取消、同第一目録記載の動産の引渡ならびに金四三六〇、五〇〇円およびこれに対する昭和三四年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍正三 宇野栄一郎 土川孝二)

第一目録<省略>

第二目録<省略>

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