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福井地方裁判所 昭和63年(ワ)128号 判決 1988年12月14日

原告

市岡久美子

ほか一名

被告

永平寺町

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告市岡久美子に対し金一四八万〇六五二円、原告市岡宏己に対し金三一二万四五七三円及び右各金員に対する昭和六一年九月八日から支払ずみまで年五分の割台による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告市岡久美子、同市岡宏己に対しそれぞれ金八七七万円及び右各金員に対する昭和六一年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告永平寺上志比環境衛生組合(以下「被告組合」という。)は、永平寺町、上志比村により設立された行政事務組合であり、ごみ収集等の事業をなし、被告永平寺町は、被告組合に対し補助金を交付し、同町固有の事務である地域の清掃美化を同組合に行わせている。

原告市岡久美子の夫であり、原告市岡宏己の父である亡市岡博司(以下「博司」という。)は、被告組合でごみ収集等の作業に従事していた。

2  本件事故の発生

(一) 発生日時 昭和六一年九月八日午後一時一五分ころ

(二) 発生場所 福井県吉田郡永平寺町法寺岡の町道上

(三) 事故態様 博司(当時三六歳)が、被告組合所有のごみ収集車後部のステツプ台に乗車中、同収集車の運転手澤村新一が、対向車とすれちがいのため一旦後退するに際し、後方の安全確認を怠り同車を道路右側端に建つていた電柱に衝突し、博司を同車と電柱の間に狭み即死させたもの。

3  責任原因

被告組合は、その従業員澤村が同組合の業務であるごみ収集を行うに際して、過失により博司を死亡させたことから、被告永平寺町は同町の固有の事務であるごみ収集を被告組合として行わせるに際し、右死亡事故を惹起させたことから、いずれも民法七〇九条、七一五条により右事故によつて生じた損害の賠償責任を負う。

4  損害

(一) 博司には左記のとおりの損害が発生した。

(1) 逸失利益

<1>年間収入(但し通勤手当は除く) 金二六二九万四一二八円

二一四万一〇五三円(年収)に一八・四二一四(六七歳までのホフマン係数)を乗じ、生活費控除割合を三分の一として計算したもの。

(計算式)214万1053円×18.4214×2/3=2629万4128円

<2>平均余命分(その後九年分) 金三四四万九二三六円

(計算式)214万1053円×(21.643-18.421)×1/2=344万9236円

(2) 慰謝料 金二〇〇〇万円が相当

合計 金四九七四万三三六四円

(二) 右損害賠償請求権について、原告らは各二分の一の割合で相続した。

5  原告らは以下の金員を受領し、損益相殺に供されている。

(一) 自賠責保険金 金二四二〇万円

(二) 被告組合の損害賠償(内金)金 五〇〇万円

合計 金二九二〇万円

6  よつて、原告らは被告らに対し、前記不法行為による損害賠償残金の内金として原告らそれぞれにつき金八七七万円及び右各金員に対する昭和六一年九月八日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3、4の(二)及び5の各事実は認める。同4の(一)の各事実は争う。

なお、博司の逸失利益は、年収金二〇四万二五四五円に六七歳までのホフマン係数(一八・四二一四)を乗じ、生活費控除割合を四割として算出した金二二五七万五九二三円のみであり、また慰謝料は金一六〇〇万円と解するのが相当であるから、その合計金三八五七万五九二三円が全損害である。

三  抗弁

1  (過失相殺)

博司は、本件事故車両の運転者澤村新一と共に本件事故車両を共同運行していた関係にあり、本件事故発生当時は、狭い道路で対向車との離合のために後退運転中であつたのであるから、下車して安全な後退運行に協力し、自らの危険についても相当程度自己の責任で回避しなければならない立場にあつたものである。このような場合は、被害者に四割の過失相殺が認められてしかるべきである。

2  (損害の填補―弁済及び損害相殺)

被告らは、昭和六三年二月二二日現在、以下の金員を受領しているので、当該分を損益相殺すべきである。

<省略>

四  抗弁に対する認否

抗弁1の過失相殺は争う。

同2の(1)(2)(4)の全額及び(3)の一部金二六万九八六六円の各金員を受領していることは認めるが、損益相殺は争う。

第三証拠

一  原告

乙号証の成立は全て認める。

二  被告

乙第一号証の一ないし二七、第二号証の一ないし七、第三、第四号証

理由

一  請求原因について

請求原因1ないし3及び4の(二)の各事実は当事者間に争いがないので、被告らは連帯して本件事故により原告らの被つた損害を賠償する責任があるというべきである。そこで4の(一)(損害の発生)につき以下検討する。

(1)  逸失利益

成立に争いのない乙第一号証の一七、一八、同第四号証及び弁論の全趣旨によると、博司は事故当時被告組合に勤務する地方公務員で、給与は一級九号俸(基本給金一〇万九〇〇〇円)であり、年間給料、期末手当、勤勉手当、寒冷地手当を含む年間収入見込額は金二〇六万四五九五円であつたことが認められる。

その計算式は次のとおりである。

145万8000円(給料)+43万1300円(期末手当)+11万9900円(勤勉手当)+5万5395円(寒冷地手当)=206万4595円

そして、同人の生活費の割合は、一家の大黒柱であることや家族構成等の諸事情に鑑み収入の三五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、就労可能年数を六七歳までとして、年別ホフマン式計算法により右得べかりし給与の現価を計算すると、二〇六万四五九五円×一八・四二一四×〇・六五=二四七二万一二七四円と算定されるので、これをもつて同人の得べかりし右給与を喪失したことによる損害と認めるのが相当である。

なお、同人が六七歳を超えて原告主張の平均余命(九年間)に至る間も収入の存在を肯定しうるに足る証拠資料はないので、右平均余命分の逸失利益は認められない。

(2)  慰謝料

博司の死亡による慰謝料の額は、同人の死亡時の年齢、職業等諸般の事情に鑑み、金一八〇〇万円をもつて相当と認める。

二  抗弁1(過失相殺)について

成立に争いのない乙第一号証の九ないし二二によれば、博司は、本件事故の発生について、当時、四トン車を運転中の澤村及び外二名の作業員と共同してごみ収集作業に従事中、ごみ収集車が狭い道路で対向車との離合のために後退運転中であつたのであるから、下車するなどして安全な後退運行に協力し、自らの危険についても相当程度自己の責任で回避しなければならない立場にあつたものであるのに漫然と同車の後部のステツプ台に乗車し、かかる注意を怠つた過失があつたものというべきである。しかしながら、本件事故は右ごみ収集車の運転手澤村が、自車を後退するに際し、後方道路右側端にあつた電柱に車の後部を衝突させるという基本的な注意義務を怠つた過失によるものであることに対比し、博司の過失の割合は一割とするのが相当である。

従つて、前記認定の逸失利益及び慰謝料額から右過失相殺による減額をなした後の損害額は金三八四四万九一四六円となる。

三  損益相殺について

(一)  原告らが自賠責保険金二四二〇万円、被告組合の損害賠償金五〇〇万円、以上合計金二九二〇万円を受領し、これを本件の原告らの損害につき損益相殺に供したことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、さらに被告主張の損益相殺(抗弁2)につき検討する。

1  町村有自動車損害共済からの賠償金三〇〇万円

右金員を原告らが受領していることについては当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、右共済は、社団法人全国自治協会が取り扱つている共済制度で一般の任意保険と同様のものであり、その費用は被告永平寺町が負担したものであると認められるから、これを原告らの損害額から控除するのが相当である。

2  全国町村会からの公務員災害給付金一〇〇万円、付加給付金一〇〇万円

右各金員を原告らが受領していることについては当事者間に争いがない。

しかしながら、これらの給付金の性格がその給付の趣旨に照らし、純粋に損害填補を目的とするものではなく、生活補償ないし見舞金的色彩が濃いものと考えられるので、これを損害額から控除しないものとするのが妥当である。

3  社会保険庁からの遺族基礎年金六七万七〇六六円、福井県市町村共済組合からの遺族共済年金九六万六八五五円

成立に争いのない乙第二号証の五、六及び弁論の全趣旨によると、原告市岡久美子が右各金員を受領したこと(右遺族基礎年金のうち金二六万九八六六円についてはこれを受領していることは当事者間に争いがない。)が認められる。

ところで、遺族に支給される右各給付は、博司の収入によつて生計を維持していた遺族に対して、損失補償及び生活保障を与えることを目的とし、かつその機能を営むものであつて、遺族にとつて右各給付によつて受ける利益は死亡した者の得べかりし収入によつて受けることのできた利益と実質的に同一のものといえるから、死亡した者からその得べかりし収入の喪失について損害賠償債権を相続した遺族が右各給付の支給を受ける権利を取得したときは、同人の加害者に対する損害賠償債権額の算定にあたつては、相続した前記損害賠償債権額から右各給付金相当額を控除しなければならないと解するのが相当である。

ところで、遺族年金の受給権者は、法律上受給資格がある者と定められており、死亡した者の妻と子が遺族である場合には、右各給付についての受給権者は死亡した者の収入により生計を維持していた妻のみと定められているから、遺族の加害者に対する損害賠償債権額の算定にあたつては、右給付相当額は、妻の損害賠償債権額からだけ控除すべきものと考える。

四  結論

以上より、原告らの過失相殺後の損害額はそれぞれ金一九二二万四五七三円(前記金三八四四万九一四六円の二分の一)であり、さらに損益相殺に供されるべき金員は原告市岡久美子が金一七七四万三九二一円、原告市岡宏己が一六一〇万円である。したがつて、被告らは各自、原告市岡久美子に対し金一四八万〇六五二円、原告市岡宏己に対し金三一二万四五七三円及び右各金員に対する昭和六一年九月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告らの本訴請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山義夫)

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