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福井地方裁判所 昭和49年(わ)193号 判決 1975年2月25日

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金五万円に処する。

この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

被告人が、右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

押収してある運転免許証一通(免許証番号五二六七〇九一四八五〇号)を没収する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は、

第一  昭和四九年四月二五日ごろ、福井県遠敷郡上中町長江第六号三番地の自宅において行使の目的で、福井県公安委員会作成の同委員会の記名押印のある被告人に対する普通自動車及び自動二輪運転免許証一通(昭和四八年一〇月三一日交付、免許証番号五二六七〇九一四八五〇号)の免許条件等の欄に記載されていた「審査(普一)未済」の文字をタバコの火で焼いて抹消し、あたかも右条件が付されていない免許証であるかのように改ざんし、もって右条件のない右公安委員会作成名義の普通自動車運転免許証一通を変造し、同年七月二二日午前一一時三〇分ごろ、敦賀市三島一丁目六番六〇号市立敦賀病院救急室において、敦賀警察署勤務司法巡査山村達夫から業務上過失傷害の被疑者として取調べを受け、運転免許証の提示を求められた際、右変造にかかる運転免許証を右条件のないもののように装い、同巡査に呈示して行使した。

第二  福井県公安委員会から第一種普通免許審査未済の条件付の普通免許を有するものであるが、公安委員会の審査を受けないで、同日午前一〇時ごろ、福井県三方郡三方町世久見字松尾口大平五〇号一番地先路上において普通乗用自動車を運転した。

第三  自動車運転の業務に従事しているものであるが、前記日時ごろ、前記車両を運転し前記路上を同町世久見部落方面から同町世久津方面に向け、時速約二〇キロメートルで進行中、同所付近はカーブが多く見通しが悪いうえ、幅員約四メートルの未舗装の道路であるから自動車運転者としては前方左右を注視し、その道路状況に応じた的確な運転操作をなすべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同車助手席で泣いていた甥の武田信幸(当二年)に気を奪われハンドル操作をおろそかにしたまま漫然前記速度で進行した過失により、自車を道路右側路外に逸脱させて道路下約四六メートルの堰堤に転落させ、よって同人に対し加療約二週間を要する頭部挫創傷の傷害を負わせた。

(証拠の標目)≪省略≫

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「判示第一の免許証の免許条件等欄に記載されていた『審査(普一)未済』なる文字は、昭和四〇年法律第九六号道路交通法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)附則第二条第三項による公安委員会が行なう審査に合格していないことを注意的に記載したものにすぎず、公安委員会が道路交通法第九一条により付しうる車種の限定又は条件ではなく、したがって同法第九三条の免許証の記載事項にも当らないから、これを抹消しても公文書変造罪は成立しない」旨主張する。なるほど、改正法により従前の自動三輪免許が普通自動車免許に統合された結果、改正法附則第二条第三項により同法施行の際現に旧法の規定による自動三輪車運転免許を受けている者が運転しうる普通自動車は、政令の定めるところにより公安委員会が行なう審査に合格するまでの間は、旧法の規定による自動三輪車に限るものとされたものであるが、運転できる自動車の種類の限定が、具体的な行政処分をまたず、法律上当然に限定されるという点において、道路交通法第九一条により付しうる車種の限定又は条件の場合と記載の根拠を異にすることは明らかである。しかしながら、運転免許は、一定の資格を有する者に限り一般的な禁止を解除して適法に自動車の運転を行なわせる制度であるが、現実には多数の車両が、高速度で疾走している道路上において、個々の運転者が果して右の資格を有する者であるかどうかを判別することが至難であるから、免許を受けたことを公証する文書を運転者に交付(道路交通法第九二条)し、それを常時携帯させ、及び一定の場合に警察官に提示させることにより、運転者をして運転資格を証明すべき義務を負わせ(同法第九五条)、さらにこれを罰則により担保(同法第一二一条、第一二〇条)している運転免許証制度の趣旨にかんがみると、改正法附則第二条第三項による審査に合格しておらず、したがって運転することができる自動車の種類が限定されていることを運転免許証に明示することは、単に注意的記載に止まらず、個々の行政処分をまたずに法律上当然に記載すべき事項とみるのが相当である。したがって、本件運転免許証の「審査(普一)未済」なる文字を抹消し、あたかも前記審査に合格し、運転することができる車種に限定のない免許証であるかのように改ざんした行為が公文書変造に該当することは明白である。よって、弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為中、第一の有印公文書変造の点は刑法第一五五条第二項、同行使の点は、同法第一五八条第一項に、第二の所為は道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号昭和四〇年法律第九六号道路交通法の一部を改正する法律附則第五条に、第三の所為は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に各該当するところ、判示第一の有印公文書変造と同行使は、手段結果の関係にあるので刑法第五四条第一項後段、第一〇条により犯情の重い変造有印公文書行使罪の刑により処断し、判示第二の罪につき懲役刑、判示第三の罪につき罰金刑を各選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第一項により懲役及び罰金を併科することとし、懲役刑につき同法第四七条但書、第一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内、罰金刑につき判示第三の罪の所定罰金額の範囲内において、被告人を懲役一年二月及び罰金五万円に処し、諸般の情状を考慮し、同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予し、同法第一八条を適用して、被告人が右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してある運転免許証一通(免許証番号五六七〇九一四八五〇号)は、判示第一の罪の組成物件で、かつ何人の所有をも許さないものであるから同法第一九条第一項第一号、第二項によりこれを没収することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本享典 裁判官 山脇正道 櫻井登美雄)

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