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福井地方裁判所 平成8年(ワ)56号 判決 1997年9月24日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告は、原告に対し、五二九〇万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告又は被告が承継等した会社との間で、自動車携帯電話サービス契約を締結したが、右契約締結に際して支払った新規加入料は、その後、五回にわたって値下げされたため、原告は実際に支払った新規加入料の八割相当額の損害を受けたと主張して、自動車携帯電話利用契約又は不法行為に基づく損害賠償請求六九二五万四四〇〇円の内金五二九〇万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨から認められる事実

1 被告は、日本電信電話株式会社から自動車携帯電話サービスの営業譲渡を受けて、平成四年七月一日から営業を開始した株式会社である。

2 原告は、現在、被告との間で、別紙表AからEのとおり、合計一九六一回線の自動車携帯電話サービス契約を締結している。

なお、右自動車携帯電話利用契約の承継関係は、原告との契約締結時期が日本電信電話株式会社の時代であったか、被告が日本で一社体制の時代であったか、又は分割された時代であったかによって、別紙「契約関係の承継状況一覧表」のとおりとなる。

3 自動車携帯電話サービス契約の新規加入料(工事負担金)は、昭和六三年当時、七万二〇〇〇円であったが、平成三年三月一日には四万五八〇〇円に値下げされ、さらに平成六年四月一日には新規加入料を三万六〇〇〇円に、同年一二月一日には二万一〇〇〇円に、平成七年六月一日には九〇〇〇円に、同年一二月一日には六〇〇〇円に順次値下げされ、平成八年一二月一日以降は廃止された。

二  争点

1 自動車携帯電話サービス契約の新規加入料の各値下げは、被告の不法行為又は債務不履行となるのか。

2 原告の損害額。

三  争点に関する当事者の主張

(原告)

1 被告の不法行為責任

自動車携帯電話利用契約の新規加入料は、携帯電話を利用することのできる権利を取得するための代金であって、最近まで税法上減価償却が認められない無形固定資産として扱われていた、一方的かつ安易な値下げをすることのできないいわば絶対的資産である。さらに、自動車携帯電話利用権は譲渡性があり、権利変動については対抗要件制度が採られ、排他的・専属的に回線を利用できる権利であるから物権的権利である。

しかるに、被告は、自動車携帯電話サービス契約の新規加入料を値下げした。

このため原告は不当な損失を被った。

2 被告の債務不履行責任

新規加入料は前項記載の性格のものであり、また、一般固定電話については施設設置負担金は郵政大臣の許可に委ねられていたもので、それゆえ電話加入権は安定した資産として信頼されていたものである。

さらに自動車携帯電話サービス契約締結者は、契約締結に際し、自動車携帯電話サービスを利用享受できることを期待するとともに、自動車携滞電話サービスを利用享受できる地位を、自らが支払った新規加入料金ないしそれに近い金額で第三者に譲渡することによって投下資本の回収が可能であるとの信頼も併せ持つものである。

したがって、被告には、新規加入料を値下げする場合、既加入者に対し、補償措置を講じて同意を得るか、新規加入料を据え置いて基本料金又は通話料を値下げする等、既加入者の信頼を保護すべき信義則上の義務がある。

しかし、被告は、平成三年三月以降、施設設置負担金を新規加入料と名称変更した上、急激な値下げを行った。

3 損害

(一) 七万二〇〇〇円の新規加入料で契約したもの 二四五三万七六〇〇円

これらは四二六回線あり、少なくともその八割の価格である五万七六〇〇円で換価することが可能であった。

よって、原告の損害額は、以下のとおりとなる。

七万二〇〇〇円×〇・八×四二六=二四五三万七六〇〇円

(二) 四万五〇〇〇円の新規加入料で契約したもの 三四七四万円

これらは九六五回線ある。

よって、原告の損害額は、以下のとおりとなる。

四万五〇〇〇円×〇・八×九六五=三四七四万円

(三) 三万六〇〇〇円の新規加入料で契約したもの 三七七万二八〇〇円

これらは一三一回線ある。

よって、原告の損害額は、以下のとおりとなる。

三万六〇〇〇円×〇・八×一三一=三七七万二八〇〇円

(四) 二万一〇〇〇円の新規加入料で契約したもの 五三二万五六〇〇円

これらは三一七回線ある。

よって、原告の損害額は、以下のとおりとなる。

二万一〇〇〇円×〇・八×三一七=五三二万五六〇〇円

(五) 九〇〇〇円の新規加入料で契約したもの 八七万八四〇〇円

これらは一二二回線ある。

よって、原告の損害額は、以下のとおりとなる。

九〇〇〇円×〇・八×一二二=八七万八四〇〇円

以上のとおり、合計一九六一回線分の損害額は右(一)ないし(五)記載のとおり合計金額六九二五万四四〇〇円となる。

したがって、原告は、自動車携帯電話サービス契約又は不法行為に基づく損害賠償請求権六九二五万四四〇〇円の内金五二九〇万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告)

1(一) 自動車携帯電話サービスが開始された昭和五四年一二月当時、新規加入料に相当する料金は八万円であり、昭和六〇年四月一日には七万二〇〇〇円に値下げされた。

したがって、原告は、既に新規加入料金が値下げされる可能性があることを知っていたというべきであり、自動車携帯電話利用権の価額が下がらないという信頼はない。

(二) 第一種電気通信事業の役務提供は約款に基づいて画一的に行われるべきものである。

したがって、原告の主張に係る「新規加入料を値下げする場合、既加入者に対し、補償措置を講じて同意を得るか、新規加入料を据え置いて基本料金又は通話料を値下げする等、既加入者の信頼を保護すべき信義則上の義務」が電気通信事業者に課されることはない。

(三) 自動車携帯電話契約の契約者は、自動車携帯電話サービスを利用できることを信頼するのであり、例えば自動車携帯電話利用権が七万二〇〇〇円であるということを信頼するのではない。

2(一) 原告は新規加入権(料)について、「物権的権利」、「絶対的資産」なる概念を用いて主張するが、その内容は不明であり、原告が権利であると考えるものが権利であると主張するに等しい。

(二) 税法の規定から、その財産権の私法上の性質を論じること自体誤りであることに加えて、国税庁は、近時、携帯・自動車電話の提供を受ける権利につき、電気通信施設利用権として減価償却を認めることとし(償却期間二〇年)、法人が資産計上している携帯・自動車電話の新規加入料等については法人税法施行令一三三条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)を適用して損金の額に算入することを認める旨通知し、税上の扱いを変更した。

したがって、この点に関する原告の主張はその前提を欠くものである。

3 自動車携帯電話契約には、原告が主張する投下資本回収を窺わせる規定はなく、投下資本回収は契約内容になっていない。

4 原告は、契約の承継状況について会社名を主張するのみで、承継の時期を特定していない。

第三  判断

一  被告の違法性について

1 原告は、自動車携帯電話契約締結者は、契約締結に際し、自動車携帯電話サービスを利用享受できることを期待するとともに、その地位を自らが支払った新規加入料又はそれに近い金額で第三者に譲渡することによって投下資本の回収が可能であるとの信頼を持つものであると主張する。

しかし、自動車携帯電話サービス契約約款には、自動車携帯電話契約締結者が、自動車携帯電話利用権を他に譲渡する場合、自己が出捐した金額若しくはそれに近い金額で譲渡できることを約した規定はなく、出捐した新規加入料の回収を窺わせる旨の規定も存しない。

また、本件全証拠を検討するも、自動車携帯電話利用権の譲渡等にあたって、その価額が一定不変のものとして認識され、世上取引されていたものと認めることはできない。

かえって、弁論の全趣旨によれば、新規加入料は昭和六〇年三月末まで八万円であったものが、同年四月一日から七万二〇〇〇円に値下げされたことが認められ、当事者である原告がこの事実を知っていたことは容易に推測し得るものである。

してみると、原告の主張する自動車携帯電話利用権価額不変の信頼は否定せざるを得ない。

したがって、信義則違反に関する原告の主張は採用することができない。

2 原告は、携帯電話の新規加入料は一方的かつ安易な値下げのできない絶対的資産である旨主張し、税法上新規加入料が減価償却が認められていないことを根拠とする。

原告の主張する「絶対的資産」なる概念は、その内容が不明であるし、新規加入料が値下げできないものであることの合理的理由を見い出すことはできない。

原告は税法上の取扱いをその根拠の一つとするが、税法上の規定から直ちにその財産の私法上の性質を論じ得るものではない。しかも平成九年一月一六日付国税速報第四九一〇号によれば、国税庁は自動車携帯電話の新規加入料が廃止された平成八年一二月一日を含む事業年度において、携帯・自動車電話の提供を受ける権利につき、電気通信施設利用権として減価償却を認めることとし、法人が同日を含む事業年度において資産計上している携帯・自動車電話の新規加入料等については法人税法施行令一三三条を適用して損金の額に算入することを認める旨通知したことが認められる。

右事実によれば、自動車携帯電話の新規加入料に対する税法上の取扱いは変更されているのであるから、原告の右主張は理由がないことに帰する。

したがって、新規加入料の値下げは権利侵害ないし違法であって、不法行為を構成するものであるとする原告の主張は採用し得ない。

二  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 岩田嘉彦 裁判官 岸本一男 裁判官 安達 玄)

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