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神戸地方裁判所竜野支部 昭和35年(ワ)30号 判決 1962年9月13日

理由

甲第二号証によれば、原告(立正信用組合)は、訴外三木きよ子の作成(振出)名義にかかる、「約束手形」と題し、「金額・金二五〇、〇〇〇円満期・昭和三三年一二月六日、支払地・(兵庫県)宍粟郡山崎町、受取人・原告、振出日同年一一月一二日、振出地、同町」と表示され、かつ、「右金員は昭和三三年六月七日貴組合へ差入れている約定書に基づく借用金であるから期日には此の手形と引換に貴組合又は貴組合の指図人に支払致します」との文言が記載された証券一通を、現に所持していることが認められる。

(省略)

まず、前記の証券は、その記載自体に徴し、約束手形たるの効力を否定すべきものである。

第一に、本件証券の記載内容は、前述のとおりであり、ひつきよう、右証券表示の一定の金額は、振出人、受取人間の取引約定に基づく貸金であるから、これを支払うことを約するというに帰着する。しかるに、手形法第七五条第二号によれば、約束手形には、「一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束」を記載すべきであり、いうところの「単純」とは、支払約束の効力を手形外の事実にかからしめぬことを意味する。それ故、約束手形には、原因関係を記載することを必要とせず、かえつて、本件の証券のように、手形金の支払を金銭貸借という原因関係にかからせるところの記載を有するものは、約束手形たるの効力を有しないものである。

第二に、本件の証券には、前述のとおり、その本文中に、「この手形と引換に」一定の金額を支払うべき旨記載されているけれども「約束手形」たることを示す文字は、これを認めるを得ず、この文字は、標題として記載されているにすぎない。しかし、手形法第七五条第一号によれば、約束手形には「証券ノ文言中ニ其ノ証券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル約束手形ナルコトヲ示ス文字」を記載すべきであり、いうところの「証券ノ文言中ニ」とは異説もあるが、「証券の本文自体の中に」との趣旨に解するのが相当である。それ故、本件の証券のように、本文中に「手形」と記載されているにすぎないものは、約束手形としての効力を否定すべきであり、標題の「約束手形」の文字をもつて、本文中の「手形」の意味を補充解釈することにより、その効力を肯認することも許されないであろう。

かような次第で、訴外三木きよ子が原告に対しその主張の約束手形金債務を負担していることは、まず、これを否定せざるを得ない。

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