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神戸地方裁判所洲本支部 昭和54年(ワ)17号 判決 1981年7月07日

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  訴外吉田種一と被告間において、昭和五一年一二月二〇日左記の土地についてなした代物弁済契約及び昭和五二年一一月なした左記建物についてなした譲渡契約は、原告と被告との間において、いずれもこれを取消す。

1 兵庫県津名郡北淡町室津字橋詰一七四番二

宅地 一二六・三八平方米

2 同所一七四番三

宅地 一四八・五六平方米

3 同所一七二番五、一七四番三

家屋番号 一七二番五

鉄筋コンクリート造陸屋根二階建

居宅 店舗 倉庫

床面積 一階 九八・三五平方米

二階 八四・三五平方米

(二)  被告は、原告のため、別紙(一)目録(一)の宅地についてなされている、神戸地方法務局津名出張所昭和五一年一二月二二日受付第八五五八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  被告は、原告のため、別紙(一)目録(三)の家屋について、兵庫県津名郡北淡町室津一七四番地の三訴外吉田種一に対し、所有権移転登記手続をせよ。

(四)  (主位的請求の趣旨)

被告は、原告に対し、金三六〇万二、六七七円及びこれに対する昭和五三年五月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(五)  (前項主位的請求の趣旨に対する予備的請求の趣旨)

被告は、原告のため、別紙(一)目録の(二)の宅地について、前記吉田種一に対し、所有権移転登記手続をせよ。

(六)  被告は、原告に対し、金三四五万四、一一〇円及びこれに対する昭和五四年六月二〇日より年五分の割合による金員を支払え。

(七)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、訴外吉田種一(以下、種一という。)に対し、別紙(二)の手形判決による債権額表の通り合計金一億二、四二八万三、九四〇円の手形元本債権を有している。

(二)  詐害行為

1、種一と被告の身分関係と業務

種一は、被告と昭和二二年七月二五日婚姻し、昭和五一年一二月二二日協議離婚をした。

種一は、もとクリーニング業を営んでいたが、昭和四九年九月一七日原告との間に与信取引が始つた頃からは不動産売買業を営むと共に金融業を兼営していた。ところが石油シヨツクの影響を受けてわが国経済界も不況に見舞われるに至つて、昭和五一年一一月一〇日頃からは手形の不渡を出すなどして不動産業並びに金融業とも行詰つて倒産した。

2、詐害の対象となる法律行為

種一は、前記の債権の追及を回避する目的を以て、被告と諮つて、以下の法律行為をした。即ち、

種一は、昭和五一年一二月二〇日当時左記(1)(2)の二筆の土地(以下、二筆を併せ本件土地という。)を所有していた処、被告と離婚した日である昭和五一年一二月二二日、本件土地について、被告に対し所有権移転登記をした。その登記原因は、同月二〇日被告に対して代物弁済として所有権を移転したというのである。

(1)津名郡北淡町室津字橋詰一七四番二(以下、単に、一七四番二という。)

宅地 一二六・三八平方米

(2)同所 一七四番三(以下、単に、一七四番三という。)

宅地 一四八・五六平方米

然るところ、被告は、右(1)(2)の土地について、「別表(1)・土地分筆経過表」の通り分筆を行い、その結果一七四番二の土地は左記(イ)(ロ)の二筆の土地に、一七四番三は左記(ハ)(ニ)(ホ)の三筆の土地となつた。

分筆後の土地

一七四番二

(イ)津名郡北淡町室津字橋詰一七四番二

宅地 九四・五七平方米

(以下、分筆後の一七四番二という。)

(ロ)同所 一七四番一〇

宅地 三一・〇〇平方米

(以下、一七四番一〇という。)

一七四番三

(ハ)同所 一七四番三

宅地 七七・〇七平方米

(以下、分筆後の一七四番三という。)

(ニ)同所 一七四番一一

宅地 六五・〇〇平方米

(以下、一七四番一一という。)

(ホ)同所 一七四番一二

宅地 五・五六平方米

(以下、一七四番一二という。)

(三)  被告の土地処分

(土地の交換)

被告は「別表(2)・土地交換明細表」記載の如く、分筆後の一七四番二と一七四番一二の二筆の土地について、昭和五三年五月二六日訴外中村茂治と同人所有の左記土地と交換を行い、分筆後の一七四番二と一七四番一二の土地については、昭和五三年五月二六日受付第四二一五号を以て右中村へ所有権移転登記をし、交換によつて取得した左記土地については、同日受付第四二一六号を以て中村から所有権移転登記を受けた。

津名郡北淡町室津字橋詰一七二番五

宅地 一二八・九二平方米

(以下一七二番五という。)

(土地の売却処分)

被告は、「別表(3)・土地売却明細表」記載の如く、一七四番一〇と一七四番一一の二筆の土地を、昭和五二年三月一日国へ金三四五万四、一一〇円で売却し、昭和五三年一月七日受付第一〇一号を以て、国へ所有権移転登記をして右売買代金を受領した。

(四)  種一の被告に対する家屋の譲渡

種一は、被告と離婚後である昭和五二年三月一七日前記分筆後の一七四番三の土地に、左記家屋を建築することの建築確認を得て右家屋を建築し、同年一一月竣工後右家屋を被告へ譲渡し、被告は津名郡北淡町役場へ建物所有名義を被告として届出で、同町所管固定資産税台帳には、左記の通り登録を受け、次いで、昭和五三年一二月一日神戸地方法務局津名出張所において右家屋について、左記表示の所有権保存登記をした。

固定資産税台帳の建物登録の表示

家屋の所在 一七四番地三

家屋番号 一七二番五

家屋の種類 住家

床面積 一八二・七〇平方米

登記簿上の表示

津名郡北淡町室津字橋詰 一七二番地五 一七四番地三

家屋番号 一七二番五

鉄骨コンクリート造陸屋根二階建居宅店舗倉庫

床面積 一階 九八・三五平方米

二階 八四・三五平方米

(以下、本件家屋という。)

(五)  種一と被告の両名は、本件土地について、代物弁済を原因とせる所有権移転登記を経由した昭和五一年一二月二二日までは、夫婦であり、家屋の譲渡は離婚後行われたもので、種一は、本件土地の譲渡をした日の約一ヶ月前には既に手形の不渡りを出し、原告に対する多額の債務を負担して倒産していたもので、右各譲渡は種一が詐害の意思を有して行つたもので、被告もまたその認識を有していたものであるから詐害行為を構成するものである。即ち、種一は、他に見るべき財産はなく、右不動産こそは総債権者の為の共同担保であるのにこれを被告へ移転せられるにおいては、原告への弁済は遂に不可能となるものである。

(六)  よつて、原告は民法四二四条にもとづき、債務者種一が被告に対して、本件土地についてなした代物弁済契約及び本件建物についてなした譲渡契約の取消、並びに別紙(一)目録(一)の宅地につきなされた所有権移転登記手続の抹消登記手続、本件家屋について種一に対する所有権移転登記手続を求め、別紙(一)目録(二)の土地については、主位的に金三六〇万二、六七七円とこれに対する前記被告土地との交換登記のした日である昭和五三年五月二六日から支払ずみまで民事法所定年五分の割合による損害金の支払を求め、予備的に同土地について種一に対する所有権移転手続を求め、別表(3)記載の国への売却土地一七四番一〇、一七四番一一については、売却代金三四五万四、一一〇円とこれに対する昭和五四年六月一九日付請求の趣旨並びに請求原因追加更正申立書の到達の翌日である同月二〇日から民事法所定年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  原告の主張と反論

(一)  債務者種一は、現在の被告の肩書住所で、古くからクリーニング業を営んできたものであるが、昭和四九年頃から不動産業と金融業に手を染めだすに至つて営業資金の需要が高まつたところから、昭和四九年九月一七日に原告と同日付取引約定書に基いて信用組合取引契約を結び、原告においては同日以降手形貸付、手形割引を実施してきたもので、被告に対する本件土地を代物弁済を原因として土地の所有権を移転した当時、また本件家屋を被告へ贈与した当時においては、種一は原告に対し既に金一億二千万円を超える債務と約五、〇〇〇万円に達する利息債務を負担していたものである。

而して種一は本件譲渡が行われたときから二、三ヶ月前である昭和五一年九月から一〇月にかけて倒産し、同年一一月一〇日に種一振出の原告宛の甲第二号証の額面金一、五〇〇万円の約束手形の支払をせず、その頃から居所を秘匿して原告からの債権の追及を回避してきたものである。

従つて、種一が昭和五一年一二月二二日被告と協議離婚の手続をとり、同人の所有不動産全部を、右離婚の二日前である昭和五一年一二月二〇日代物弁済として移転したことを原因として、右離婚手続をした同日である同月二二日に所有権移転登記を経由しており、これによつて種一自身は無一物となつて債権者の追及の手をかわしたものでその早手廻しのよいことには驚くべきものがある。然かも右離婚後である昭和五二年三月一七日には、種一において甲第一二号証の家屋建築の確認申請書を北淡町役場へ提出して確認を得て建築した建物は、「鉄筋コンクリート造陸屋根二階建の住居へ店舗、倉庫併用家屋で、鄙には珍しい豪華な建物で、右建築工事中も種一は建物現場にしばしば顔を出していたもので、原告の理事兼営業部長谷田豊澄が、昭和五二年四月本件債権の督促に赴き、右建築現場において種一に会つて督促した事実もあり、またその際種一から右建物の建築竣工後は原告に対する債務の担保に入れる約束も取付けていたものであるのに、右建物が竣工した同年一一月被告へ右建物を贈与し、被告は北淡町役場へ被告名義で建物竣工届をして固定資産税台帳へ被告の所有名義の登録をなし、次いで、翌年の昭和五三年一二月一日被告名義で所有権保存登記を経由したものである。

このことから、被告地元では、種一と被告の間には五人の子供もあり、離婚後も、種一が被告の住居に出入りをなし、種一が家を建て建築現場によく顔を出しているところから、これは債務のがれの偽装離婚ではないかとの風評さえも立てられているほどである。而して、一方原告と種一との与信取引上の通知とか、不渡手形の書換の請求書面とか原告組合の債権についての催告状とかは、何れも甲第一号証の取引約定書記載の種一の住所(被告の現住所)へそれぞれ発送していたものであり、また原告組合谷田豊澄が、種一の右住所へ屡々催促の為訪づれており、種一不在の時にはその都度被告に面会して督促にきた趣旨を話していてその回数は、七、八回にも達してたのであるから、被告においては、種一が原告に対して相当の債務を負担していたことを充分認識していたものである。

被告は本件家屋は自己の資金で建築したと主張しているが、被告は離婚当時は銀行預金は一〇〇万円位しかなかつたこと。税務署への所得申告は金八五万円位(一年)の最低であつたこと、クリーニングの営業では一ヶ月約二〇万円の利益があつたが、生活費が金一〇万円位かかり、正味金一〇万円位がのこり、一年間で残る正味のかねは金一二〇万円位であつたのである。然るに本件家屋の工事請負代金額は金一、九〇〇万円となつていて解体費一二三万二千円を加えるとその合計額は金二、〇二三万二千円となり、これを昭和五二年四月四日から同年一二月二八日までの間に四回に亘つて支払つているが、被告の手持資金は前述の通りであるからこれを支払うことは不可能というべく、種一が倒産に際し「隠し財産」を秘匿していてこれによつて支払つた以外には到底考えられないところである。かかる事例は悪質な倒産者のよく用いる手段方法である。

(二)  被告の主張事実中、一七四番二、一七四番三の土地を、被告が建設省へ買上げられた価格(九六平方米・価格三、四五四、一一〇円、一平方米当り単価三五、九三八円)で算出すると、その価格が金九、八九二、三四〇円となることは争わないが、その他の事実には左記の通りの誤りがある。

1、一七四番二の土地については、根抵当権者を淡路信用金庫とした極度額金五五〇万円、債務者種一とした根抵当権の設定はあつたが、これについては共同担保として左記建物二棟も同時に根抵当権の目的となつていた。従つて、この根抵当権の目的不動産は右(一)の土地のみではなく二棟の建物もあつた。

共同担保物件

(1)、一七四番二の地上の家屋番号一七四番二〇の建物(所有名義種一)

(2)、一七四番二の地上の家屋番号五一二番の建物(所有名義吉田徳三郎)

右吉田徳三郎は種一の父で、同人は昭和五三年三月四日死亡し、種一と太田導子の両名において相続をしたものである。

而して、右根抵当権については、昭和五二年三月二四日解除を原因として抹消登記がなされているが、これについて、被告は極度額の金五五〇万円を弁済したと主張しているが、原告の調査の結果では、「債務者種一から金五、三六万五、四六五円を、昭和五二年三月一〇日右根抵当権者淡路信用金庫」へ支払つていることが判明した。

2、次に、右一七四番三の土地については、根抵当権者を兵庫県信用保証協会とした元本極度額一三〇万円(当初八〇万円であつたのを増額変更)、債務者種一とした根抵当権の設定はあつたところ、被告はこれについては1と同様昭和五二年三月二四日放棄を原因として抹消登記を受けており、これについて被告は極度額の一三〇万円を支払つたと主張しているが、右は虚構の事実で、原告の調査によると、右抹消には被告は聊かの支払をもしていない。

そうだとすると被告の前記主張は虚構の事実だということになる。即ち(一)の根抵当権本件土地以外に二棟の建物が共同担保となつており、債務者種一において、共同担保を含め全担保抹消の為に右金三、四五万四、一一〇円を支払つているものであるが、(二)の根抵当権の抹消については聊かの弁済もしていないものである。(恐らく根抵当権消滅の原因が既に発生していて、抹消登記のみがおくれていたのであろう)

以上の次第であるから、被告が本件不動産の純粋価格が金三、〇九二、三四〇円とした被告の主張は誤りである。

三  請求原因に対する答弁

1、請求原因(一)項の事実は認める。

2、同(二)の1の事実のうち、種一の業務が行詰つて倒産した事実は否認するが、その余の事実は認める。同(二)の2の事実のうち、種一は前記債権の追及を回避する目的をもつて被告と謀つた点は否認し、その余の事実は認める。

3、同(三)の事実は不知

4、同(四)の事実のうち、種一が建築確認を得た事実のみを認め、その余の事実は否認する。

5、同(五)の事実は否認する。

四  被告の主張

(一)  被告は種一と昭和二二年七月結婚したが、昭和三一年頃より種一名義でクリーニング業を開始した。

種一はクリーニング業を始めて間もなくよく遊ぶようになつて外泊が多くなり、昭和三七年頃から四―五日に一度位帰つていた。

昭和四九年以後は殆んど帰らず、外泊ばかりしており、種一は行先等について被告が詰問しても答えず全く不明であつた。従つてクリーニング業の主体は被告が行はざるを得なかつたのである。

(二)  一七四番二の土地は昭和三五年頃種一名義で購入したが、銀行から融資を得て購入したものであり、銀行への返済はクリーニング営業の利益から支払つた。

種一は昭和三五年以後はクリーニング営業を行わず、専ら被告がその主体であつたから右土地は被告の努力で購入したものである。

(三)  一七四番三の土地は昭和四三年頃種一名義で購入したが、前同様借入金(購入資金)の返済は被告が主体であつたクリーニング営業の利益から返済しており、被告の努力で購入したものである。

(四)  以上のように右二筆の土地に関する購入資金は被告が子供達と必死に頑張つてクリーニング業を行つてきた結果取得できたもので、種一はその借入金返済期間中クリーニング業に殆んど関係しておらず、従つて右土地の取得に対する寄与は皆無に等しく、右事実は被告と種一の離婚に際しての財産分与に当り大いに考慮さるべき事実である。

(五)  種一は昭和四九年頃から益々外泊がひどくなり二週間に一度位帰つてくるが、一日位居て再び外泊するという状態で、この間被告にも家族にも行先等は全く告げず被告とは事実上の離婚状態であつた。

種一はこの間保地照子と神戸方面で同居していた模様であり、昭和四九年初め頃、当時九才の「タカユキ」という子供までもうけていたのである。

種一はその行先、仕事等について被告には一切黙否しており、昭和四七年頃右保地の名前を知つた被告にも保地との関係を否認していたのである。

(六)  被告は事実上の離婚状態にあつた当時種一との離婚を希望していたが、昭和四九年初め頃種一と保地との間に子供まであることを知り離婚の決意をしたのである。

被告はその後再三種一に離婚の申出をしていたが、種一がこれに応じなかつたところ、遂に昭和五一年暮頃種一もやむなくこれに応じた結果、昭和五一年一二月二二日離婚が成立した。

(七)  被告は種一との離婚に当り一七四番二、一七四番三の土地を財産分与及び慰藉料として取得した。

種一は寿宝商事名義で不動産業、金融業を営んでいたので阪神間に不動産を所有し、又貸金債権もあり、淡路島に山林も所有しているとのことであつた。

淡路島にあつた山林は原告組合により競売に付され(当庁昭和五三年(ケ)第七号)時価約三〇〇万円程度のものである。阪神間の不動産、貸金債権の詳細は不明である。

(八)  被告が取得した土地のうち一七四番二は一七四番二、九四・五七平方米と一七四番一〇、三一平方米に分筆され、一七四番三は一七四番三、七七・〇七平方米と一七四番一一、六五平方米に分筆され、一七四番一〇、三一平方米と一七四番一一、六五平方米合計九六平方米は昭和五二年三月一日付で建設省へ譲渡された。

右建設省への譲渡代金は金三、四五四、一一〇円であるから一平方米当り金三五、九八〇円となる。

(九)  被告が種一との離婚に伴い取得した不動産価格を右建設省の買収価格に従つて算定すれば、

(一)  一七四番二 一二六・三八平方米 金四、五四万七、一五二円

(二)  一七四番三 一四八・五六平方米 金五、三四万五、一八八円

合計金九、八九万二、三四〇円となる。

然るに一七四番二の土地には種一を債務者とする金五五〇万円の抵当権が設定されており(甲第五号証の一)、更に一七四番三の土地には種一を債務者とする金一三〇万円の抵当権が設定(甲第六号証の一)されていたので、被告は右合計金六八〇万円を昭和五二年三月頃支払つて右各抵当権を抹消した。

従つて被告が取得した純価格は金三、〇九二、三四〇円にすぎない。

(一〇) 一方種一取得分は淡路島の山林だけで競売価格は金二、五七万七、〇〇〇円(乙第九号証)であり、他に原告組合に三―四〇〇万円の預金を有し、最終的には原告組合に種一は約一千万円位の弁済をしているから、離婚当時種一は金一千万円を持つていたと推定され、被告取得分をはるかに越える資産を保有した。

被告は財産分与及び慰藉料として昭和四〇年頃建築した右土地上の建物も取得したが、河川改修工事のため右建物は取りこわさざるを得ない運命にあつたから、右建物を被告の取得分に算入することは不当である。

(一一) 被告は種一との離婚後は、子供五人(但し二人は結婚ずみ)の面倒をみなければならず、結婚を控えてその出費は今後益々増大することが予想されていた。

従つて種一が取得した山林に比較して被告の取得分が仮に多少過大であつたとしても、財産の取得、維持に対する寄与の度合(種一は皆無)及び離婚後、子供達のために要する出費(すべて被告の負担である)等を考慮するとき右過大分は是認さるべきであると考えるが、右のとおり被告取得分が遥かに少いのであるから本件財産分与は詐害行為に当らない。

(一二) 被告には詐害の意思は全くなかつた。

被告は種一と昭和四九年頃以降は事実上の離婚状態にあり、時々帰つてくる種一に居所、仕事等を尋ねても全く答えないため、原告と種一の取引の事実すら知らなかつた。

種一は郵便局内に私書箱を設置し、時々帰つてきては私書箱の郵便物を持帰つていたゝめ、被告方に種一宛の郵便物は来なかつたのである。

昭和五三年夏頃、原告から種一及び吉田考宛に訴訟提起があつてはじめて原告との取引、及び種一の債務の存在を知つたのである。

被告は本件土地は被告自らが働き取得維持したもので、被告名義にすることは当然であるとの意識を持つており、原告に対する詐害の意思は全く無かつた。

(一三) 本件建物は昭和五二年四月、被告が訴外来田工務店に請負わせ建築し、建築設計、確認手続も被告が仲野佐敏に依頼したもので、これらの費用はすべて被告が負担しているから被告所有物であり詐害行為取消権の対象とはならない。本件建物は当初から被告所有建物として保存登記がなされており、原告主張のように種一から譲受けたものではない。但し建築確認書中、建築主氏名のみ種一名義になつているが、金融公庫から融資を受ける必要上(結果融資は受けなかつたが)種一名義を使用したにすぎず、建築請負契約時期、資金の負担者、建築完成の時期等を考慮するとき、被告所有建物であることを認定する障害となるものではない。

五  抗弁

仮りに、原告主張の種一と被告間において、一七四番二及び一七四番三、並びに本件家屋についてなされた代物弁済契約乃至譲渡契約が詐害行為に該当するとしても、原告は右各土地が被告に所有権移転がなされたのを昭和五二年一月頃知り、当時原告においては種一に対する債権を当然知つており、離婚すら偽装であると考えていたものであるから、右の日から二年を経過した昭和五四年二月一日には原告主張の詐害行為取消権は消滅した。よつて、被告は、本訴において右時効を援用する。

六  抗弁に対する認否

否認する。

原告が詐害の事実を確知した時期は、昭和四二年一二月末頃である。

証拠(省略)

理由

一  原告は、種一に対し、その主張のとおり、金一億二、四二八万三、九四〇円の手形元本債権を有すること、種一が被告と昭和二二年七月二五日婚姻し、昭和五一年一二月二二日協議離婚したこと、種一は同月二〇日当時本件土地を所有していたところ、右離婚の同月二二日、被告に対し本件土地について代物弁済を登記原因として所有権移転登記手続をしたことについては当事者間に争がない。

二  証人谷田豊澄の証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証、成立に争のない甲第三号証の一ないし五、第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七ないし第九号証、第一三号証の一、二、被告本人尋問結果とこれにより真正に成立したものと認められる乙号各証、証人中村茂治、同米津文男、同谷田豊澄の各証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、

(一)  種一は、前記のとおり被告と昭和二二年七月二五日婚姻し、昭和三一年より北淡町室津一七四番二でクリーニング業を始めていたが、昭和四九年頃からクリーニング業は被告に任かせ、自分は不動産業、金融業を始めるようになり、同年九月一七日、原告と信用組合取引契約を結び原告より手形貸付、手形割引等をうけていたが、右信用取引に当つては連帯保証人をつけたり、或は担保を提供する等していたこと、そして種一は更に有限会社寿宝商事或は富洋設備という会社を設立して右会社名義においても同様原告と信用組合取引契約を結び手形貸付手形割引等を受け事業を行つており、一時は盛大に事業を行つていたが、石油シヨツク等の影響による経済界の不況に伴い、種一の右事業も行き詰りを生じ、遂に昭和五一年一一月一〇日手形の不渡を出し、倒産するに至つたこと、そして種一の原告に対する債務は手形元本だけでも前記のとおり金一億二、四二八万円余に及んだこと、なお、右債務の一部については種一或は有限会社寿宝商事所有の担保不動産についても競売手続が現在進行中であること

(二)  被告は、種一と結婚以来同棲し、その間長女佳恵子(昭和二二年七月一一日生)、二女幸代(昭和二四年一〇月一五日生)、長男栄(昭和二五年一一月三〇日生)、二男考(昭和二七年一二月一一日生)、三女千恵子(昭和三一年八月五日生)をもうけたこと、そして長女、二女は既に他家に嫁しており、長男栄は独身で神戸に住んでおり、二男考及び三女千恵子は家にいて家業を手伝つていること、前記のとおり種一は昭和三一年頃からクリーニング業を始めたが、昭和三七年八月頃からよく遊ぶようになり、生活態度が乱れ、訴外保地照子と情交関係を生じ子供までこしらえ、家庭を顧みず、家業のクリーニングにも身を入れなくなつたので、その頃から被告は種一に代つてクリーニング業をするようになり一家を支えて来たところ、種一は前記のとおり、昭和四九年頃より不動産業、金融業を始め専らこれに従事していたが、被告は種一の右事業には全然関与することなく、また、右事業の内容も殆んど知らされなかつたこと、そして、種一は、前記のとおり、多額の負債をかかえて倒産し、債権者の債権取立の追及を受けるに及んで以前にも増して家に帰らなくなる日が多くなつたこと、被告は、前記のように種一の保地照子との不貞行為や、二人の間に子供まで作つていることに悩み予ねてより離婚のことを考えていたが、種一において多額の負債をかかえて倒産するに及んで、精神的苦痛だけではなく、経済的にも自己及び残された子供の将来が危やぶまれると考え離婚を決意したこと、そして種一と協議の結果、被告において家にいる前記二人の子供の面倒を見ることにし、これまで被告が右子供らとともにやつて来た家業であるクリーニング業を被告において続けてやつて行くことになり、その基盤となる本件土地を財産分与及び慰藉料として種一より被告に譲渡することになつたこと、そこで昭和五一年一二月二二日離婚届をすることに本件土地について右財産分与及び慰藉料の支払を原因とする所有権移転登記手続を司法書士に委任したところ、右登記手続においては同日受付代物弁済を登記原因とする本件土地の所有権移転登記手続がなされたこと、

(三)  本件土地のうち、一七四番二は昭和三五年頃、家業のクリーニング業の利益で買つたものであり、昭和五一年五月三一日所有権移転手続をしたものであり、一七四番三は昭和四三年六月頃、これも同じく家業のクリーニング業の利益で取得したものであり、何れも種一の不動産業とは関係なく取得したものであること、そして種一及び被告らが住んでいた元の家屋は、一七四番二の地上にあつたが、それは種一の父訴外吉田徳三郎の所有であり、種一及び被告ら家族はこの家屋で居住し、クリーニング業を行つていたが、室津川の河川改修のため、兵庫県より立退の話があり、右家屋より立退かなければならなくなつたので、離婚前の昭和五〇年頃より、種一及び被告らにおいて家屋新築の話をしていたが、本件離婚当時には立退は未だ実施されていなかつたこと、そして離婚後の昭和五二年一月頃より右立退が実施の運びとなり、これがため、別表(1)(2)(3)の経過のとおり、本件土地は分筆され、一部は中村茂治の土地と交換、一部は国へ売却し、結果、被告は分筆後の一七四番三と中村茂治との交換によつて取得した一七二番五の二つの土地を所有することになつたこと、そこで、被告は先づ、昭和五二年三月、訴外来田貞香と契約して前記古い家屋を取り毀し、次に、同年四月四日、同人と右両土地上に本件建物である住宅及びクリーニング店舗鉄筋二階建建物を請負代金一、九〇〇万円で請負契約したところ、同年一一月頃右建物は完成引渡をうけ、被告においては、約旨にもとづき、右代金を完済して本件建物の所有権を取得し、同年一二月一日被告は本件家屋の所有権保存登記手続をしたこと、種一は現在その所在は不明であること、なお、本件土地は種一の唯一の不動産ではなくその他に種一は原告との取引において担保に供した財産がありそれは幾何であるかは本件では不明なるも、右取引において金融機関である原告において相当と思料される程度のものが担保に供されていたことが思料され現在にそのうちの或るものについて競売手続が実施中であること。

以上の事実が認められる。なお成立に争のない甲第一二号証によれば、種一が本件家屋の建築主となつて建築確認申請書を提出しているのであるが、これはかかる事務にうとい被告に代つて種一が建築主となつたに過ぎず、本件家屋の建築請負契約及び請負代金の支払が被告においてなされている点より見るときこの書証の存在が被告の本件家屋の所有者であるとの認定の妨げとなるものではない。そして、証人谷田豊澄の証言中右事実に反する部分は軽々に措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

(四)  右事実によれば、種一と被告は既に結婚生活約二一年以上にも及んでいるが、種一には子供までなした女性関係があり、種一は家には殆んど居らず、家業のクリーニングは被告に任かせ切りで、自分は不動産業、金融業等を行つていたが多額の負債を抱えて倒産するに至り、被告においては、精神的にも経済的にもこれ以上婚姻生活を継続し難いものと考え離婚に踏み切つたものであり、右離婚にあたり、種一は本件土地を財産分与及び慰藉料の支払のため被告に与えることにして、種一は右家屋から出ることにしたことが認められるところである。

凡そ、財産分与は離婚の際における夫婦財産関係の清算であるとともに、離婚後における生活困窮者の生活保障たる性格を有するもので、消極財産の有無にかかわらず、現に存在する積極財産につき双方の協力の程度その他一切の事情を考慮して分与さるべきものであるから、たとえ本件の場合におけるが如く分与者たる種一に分与財産を上廻る多額の債務を負担しており、右の財産分与が債権者の共同担保を減少させる結果になるとしても、財産分与が前記の如き制度本来の性格に照らして不相当と認められるものでない限りこれをもつて債権者詐害の行為に当らないものと解すべきである。

ところで、前記認定によれば、本件土地はクリーニング店経営の利益から買つたものであり、本件土地取得についての被告の寄与は種一のそれに比してより大であることが認められること、本件離婚の原因は種一の不貞行為に基因する点が要因をなしていること、被告にとつては本件土地は従来生活の基礎となつて来たものであり、被告及び子供らはこれを生活の基礎とせねば今後の生活設計の見透しが立て難いこと、その他、結婚期間、被告の年令、本件土地は種一にとつて唯一の不動産ではないこと、その他諸般の事情を考慮するとき、本件土地を被告らの離婚に伴う財産分与及び慰藉料の支払のため本件土地の贈与がなされたことをもつて特に不当であるということができず、他に特別に不当と認めるに足る事情も認め難いところである。

三  そうすると、種一の本件土地の譲渡行為は詐害行為として取消の対象とならないものというべきであるから、右取消権にもとづいて右譲渡行為を取消し、更に、その後分筆された本件土地について、分筆後の一七四番三については所有権移転登記の抹消登記手続を求め、本件土地より分筆された一七四番二及び一七四番一二と交換され一七二番五については、主位的にその価格金三六〇万二、六七七円の支払を、予備的に同土地の種一に対する所有権移転登記手続を求め、本件土地より分筆され、その後国への売却された一七四番一〇、一七四番一一についてはその売却代金計金三四五万四、一一〇円の支払を求める本訴各請求はいずれも理由がなく失当というべきである。次に、前記認定によれば、本件家屋は建築の当初から被告に属し種一の所有に属したことはないのであるから、原告の詐害行為取消権にもとづく、本件家屋についての種一の被告に対する譲渡行為の取消及び種一に対する所有権移転手続を求める本訴請求はその前提を欠き失当というべきである。

四  よつて、原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙(一)

目録

(一) 兵庫県津名郡北淡町室津字橋詰一七四番三

宅地 七七・〇七平方米

(二) 同所一七二番五

宅地 一二八・九二平方米

(三) 同所一七二番地五、一七四番地三

家屋番号 一七二番五

鉄筋コンクリート造陸屋根二階建 居宅 店舗 倉庫

床面積 一階 九八・三五平方米

二階 八四・三五平方米

別紙(二)

手形判決による債権額表

原告 東淡信用組合

被告 吉田種一

<省略>

別表一

土地分筆経過明細表

<省略>

別表二

土地交換明細表

<省略>

別表三

土地売却明細表

<省略>

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