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神戸地方裁判所明石支部 昭和47年(ワ)71号 判決 1980年3月31日

原告 吉田繁治

被告 国

代理人 辻井治 蔵本正年 梶原周逸 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被告

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の有線放送業務と訴外株式会社大阪有線放送社(代表取締役宇野元忠こと干元忠)(以下「大阪有線」という。)の妨害行為

(一) 原告は、昭和三九年六月ころから姫路市、岡山市、倉敷市、富山市等において、日本電信電話公社との間に共架契約を結び、各電波監理局を通じて郵政大臣に対する届出、受理を経て有線放送の営業に従事していた。

(二) ところが、大阪有線は、昭和四二年二月に姫路市内、岡山市内を始めとして、同年四月には富山市内、昭和四四年六月には倉敷市内において、有線電気通信法(以下「通信法」という。)三条一項及び有線放送業務の運用の規正に関する法律(昭和四七年法律一一四号による改正後は、有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律)(以下「規正法」という。)三条所定の各届出をせず、有線電気通信設備令(以下「令」という。)九条の「架空電線は他人の設置した架空電線から六〇センチメートル以内の距離に接近して設置してはならない。」との規定に違反し、かつ、日本電信電話公社との間に共架契約を結ぶことなくその電柱に有線放送用電線を架設して原告の放送を妨害し、さらには、原告の有線放送用電線を切断したり、原告の顧客に対し、原告の営業はつぶれるとか、大阪有線は六か月間放送料を無料にするなどと宣伝して、原告の顧客を奪う行為に及んだ。

(三) 大阪有線のこれらの行為は、正式に届出をして有線放送をしている原告の権利(通信法三条、一一条、一二条、一三条などの規定からみて、原告は、その設置する有線電気通信設備に妨害を受けず、有線放送を適正、円滑に行うことを妨げられない権利を有する。)を侵害するものである。

2  郵政大臣らの権限、職務懈怠と被告の責任

(一) 郵政大臣は、(1)有線電気通信設備を設置した者に対し、その設備が通信法一一条の技術基準に適合しないため他人の設置する有線電気通信設備に妨害を与え、又は人体に危害を及ぼし、若しくは物件に損害を与えると認めるときは、その妨害、危害又は損傷の防止又は除去のため必要な限度においてその設備の使用の停止又は改造、修理その他の措置を命ずることができる(通信法一三条)権限を有し、また、(2)有線放送の業務を行う者が、規正法若しくは同法に基く命令又はこれらに基く処分に違反したときは、三箇月以内の期間を定めて、有線放送の業務の停止を命じ、又はその業務の運用を制限することができる(規正法八条)権限を有している。

これらの規定等によれば、郵政大臣及び有線電気通信設備を主管する郵政省係官らは、通信法三条一項、規正法三条の届出をせず、通信法一一条、令九条などに違反し、違法に他人の権利を侵害する者があるときは、右通信法一三条、規正法八条に基いてこれらを取り締り、その設備の使用の停止等又は業務の停止等の措置や告発をなすべき権利義務がある。

(二) 原告は、前記大阪有線の、原告の放送業務に対する妨害が継続したため、昭和四二年二月初旬ころから、中国、近畿、北陸の各電波管理局へ日参したり、電話したり、或いは文書を提出するなどして、大阪有線は通信設備及び業務開始の届出をしていないこと、その通信設備が技術基準に違反していることなどを訴えてこれが妨害の排除(もぐり業者の取締り、放送の中止、原状復帰の措置等)を求めたが当局は何らの措置をとらなかつた。

そこで、原告は、昭和四三年一二月二一日、郵政大臣河本敏夫に対し請願書を提出して行政当局の責任と指導の怠慢を指摘し、大阪有線の違法行為の取締り及び放送の停止等を訴え、さらに郵政大臣宛の請願内容(昭和四四年一月二一日付)、陳情書(昭和四五年二月一九日付)等の文書をもつて適切な行政指導、妨害防止、電線の撤去等を求めたが、これに対し郵政大臣らは何らの措置もとらなかつた。

(三) 郵政大臣及び有線電気通信設備を主管する郵政省係官は、前記のとおり有線電気通信設備の届出をせず、違法に他人の権利を侵害する者があればこれを取り締り、その設備の使用の停止、撤去或いは告発等の手続をなすべき権限を有し、その義務があるのに、右のとおり故意又は過失により違法に右義務を怠つたものであるから、被告は、これにより原告が被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害 <略>

4  よつて、原告は、被告に対し、前記第一の一記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

(認否)

1 請求原因1の(一)記載の事実のうち、原告が姫路市内、岡山市内、倉敷市内及び富山市内において通信法三条一項、規正法三条による届出書を提出し、これを受理されて有線放送事業を営んでいたこと、原告が姫路市内及び岡山市内の有線放送用電線を架設するにつき一時期に日本電信電話公社の下部機関である兵庫電気通信部及び岡山電気通信部の各部長との間で共架契約を結んだことは認める。原告主張の営業開始時期は知らない。なお、原告が岡山市内において前記届出書を受理されたのは昭和四〇年五月八日である。

2 同1の(二)記載の事実のうち、大阪有線が姫路市内、岡山市内、倉敷市内及び富山市内において有線放送事業を営んでいることは認める。大阪有線が原告主張の各時期に前記各営業を開始したことは知らない。その余の事実は否認する。ただし、大阪有線も前記各法律による届出をし、姫路市内分については昭和四二年五月一日、岡山市内分については昭和四三年九月二四日、富山市内分については昭和四二年四月四日それぞれ受理されているが、倉敷市内分については受理されていない。

3 同1の(三)記載の主張は争う。

4 同2の(一)記載の主張のうち、郵政大臣が原告主張の(1)、(2)の権限を有していることは認めるが、その義務を有することは争う。

5 同2の(二)記載の事実のうち、原告が郵政大臣らにあて昭和四三年一二月二一日以降三回にわたつて請願書等の書類を提出して大阪有線の架設している電線の撤去等を求めたことは認める。郵政大臣及びその下部機関が何らの措置をしなかつたことは否認する。

6 同2の(三)記載の主張は争う。

7 同3記載の事実のうち、郵政大臣及びその下部機関が原告主張の措置をとらなかつたためにその主張の損害が発生したことは否認する。原告主張の損害は、後記主張3のとおり、郵政大臣及びその下部機関の措置とは何ら因果関係がない。

原告主張の損害額については知らない。

(主張)

1 郵政大臣らが、原告主張の岡山市において通信法一三条及び規正法八条による権限を行使しなかつたことについては、次の理由により何らの違法も存しない。

そもそも、権限の不行使が積極的加害行為と等置され、評価されるためには、その権限を行使すべき義務の存在が前提とされなければならない。しかして、前記郵政大臣の権限の行使については、その条項の文言にも明らかなごとく、行使すべきか否か、また端的な権限行使以外の方法(例えば勧告、指導等のいわゆる行政指導)によるか否か、権限を行使するとして、いつ、どのような内容で行うか等々の判断が、第一次的に権限者たる郵政大臣に留保され、具体的状況との相関関係において裁量のうえ決せられるべきものである。

したがつて、権限の行使が義務的であるか否か、換言すれば、行使しないことが裁量権の逸脱或いは濫用となるか否かについても、自ら具体的諸事情のもとで判断されるべきことである。

(一) 通信法三条の届出がない場合、その故をもつて郵政大臣に同法一三条の措置命令を発する権限及び義務が発生するものではない。

(1) 右届出を必要としたのは、郵政大臣が届出書に記載された事項を検討し、その設計が同法一一条に規定する技術基準に適合しているかどうかを審査し、もし適合しないものであるときは、設計変更その他の必要な勧告をするなどの所要の行政指導を行い、もつて、技術基準に適合しない有線電気通信設備が設置されることを未然に防止するためである。したがつて、そのような行政指導の必要がないと認められる有線電気通信設備の設置または変更については、届出義務が免除されているのである(同法三条三項)。

他方、同法一三条が届出義務違反に対する是正措置として予定されたものでないことは、その文言から明白なところであり、両法条の間には一方が他方を前提とする関係はない。

(2) 同法三条の届出義務の履行の確保は、以下のようにしてなされると解すべきである。すなわち、右届出は郵政大臣に許可、認可等の行為を求めるものではないから、届出に対する許可、認可の行政処分はあり得ず、ただ、届出書の「受理」という行政行為が存するにすぎないこと、及び前記の届出を必要とした理由、さらには行政法規である同法の目的とするところ、すなわち、適正な届出の実現が第一に追及されるべきこと等からして、まず適切な行政指導が予定されており、さらに、この指導助言にも従わない悪質者に対してはじめて同法二六条一号の刑罰が発動されるものと解すべきである。

(3) 本件において、被告の担当係官は、同法の右趣旨にそつて大阪有線に対し、数度にわたり届出、技術基準その他について勧告、指導を行つたものであり、その結果、岡山市においても前記昭和四三年九月二四日適法に届出がなされるに至つた。

したがつて、この間に郵政大臣の権限行使につき裁量逸脱の誤りはない。なお、原告も岡山市における有線放送業務開始について、本件における大阪有線と同様の態様で届出行為を行い、届出先担当係官の指導勧告により二年後に適正な届出をなし、受理されたものである。

(二) 郵政大臣には、本件につき通信法一三条に定める命令を発すべき義務はなかつた。なぜなら、大阪有線の設備が同法一一条の技術基準に適合しないため、原告ら他人の設置する設備に妨害を与え、又は人体に危害を及ぼし、若しくは物件に損傷を与えるものではなかつたからである。

すなわち、大阪有線の現実に設備した通信線が原告らの既設の通信線と必ずしも六〇センチメートルの間隔を保つていなかつた点においては、同法一一条及び令九条に反するとしても、大阪有線の使用した通信線の材質から、近接する原告らの通信設備に妨害を与えるものではなかつた。

したがつて、同法一三条の命令を発する要件はいまだ存在せず、同旨の認定、判断に至つた郵政大臣が原告の要求にもかかわらず右命令を発しなかつたのも正当であつて、なんら裁量の逸脱はない。

なお、他人の設備の損壊行為が設置設備自体の有する有害性に着目した同法一三条にいう「妨害」に該当しないことは明らかであり、同法もそのような行為に対しては別途罰則を定めている(同法二一条参照)。

(三) 規正法三条の業務開始届と同法八条の業務停止命令ないし業務運用の制限について

(1) 規正法三条の届出がないことをもつて同法八条により業務停止を命じたり、その運用を制限することはできない。

すなわち、同法三条において届出が要求される趣旨は、一定の届出事項を通して開始される業務の実態を把握し、もつて同法一条の目的に反する業務の開始運用を未然に防止するとともに、目的に適合する業務が開始運用されるよう指導、勧告することにある。したがつて、同法三条の規制機能は、業務に関する形式的、手続的面において働いているといえる。

他方、同法八条は業務の停止、又はその運用を制限するという方法で同法一条の目的を確保しようとしているが、この方法はその性質上業務及びその運用の根本にかかわり、それだけにきわめて有効、直接的ではあるが、逆にこの措置をとられる者にとつては致命的な打撃となりうるものである。

同法八条のもたらす効果が右のごとくであるとすれば、この措置がとられる場合も同法二条の態様において行われる業務の性質等に鑑み、送信内容、態様等が同法一条の目的に反するといつたいわば実体面(例えば同法四条等)に違反している場合が予定されていると解すべきであり、手続的な違反の場合は法の要求するところに従わず、所管庁の指導、勧告等にも従わないことから、業務に関する実体面に対する規正を困難にし、そのまま放置すれば、同法一条の目的が到底確保され得ないといつた極端な場合が予定されていると解すべきである。

けだし、規正法は、有線ラジオ放送の業務の運用を規正することによつて公共の福祉を確保することを目的とするものではあるが、端的に規正それ自体を目的とするものではなく、究極的には有線ラジオ放送その他の有線電気通信の適正な「発展」による公共の福祉の増進に寄与すべく立法されていると解されるから、単なる手続的不備をもつて直ちに同法八条の措置をとるべきこととしたのでは、本末転倒の弊に陥るからである。

(2) ところで、本件においては、大阪有線は前記のとおり所管庁担当係官の指導勧告に従い、適正な届出をなすに至つたものであり、また、この間何ら同法の実体面を規正する規定に反するところはなかつた。

したがつて、郵政大臣において、大阪有線に対し、同法八条の措置をとるべき段階に未だ至つていないと判断し、右権限を行使しなかつたことには裁量権の逸脱ないし濫用はない。

(四) なお、大阪有線の行為について郵政大臣ないし所管担当係官が告発しなかつたことも、原告主張の違法性を基礎づけ、或いは、原告主張の損害発生原因を構成するものではない。すなわち、通信法及び規正法に各規定する罰則については、そのほとんどが告発は単なる捜査の端緒となるにすぎず、しかも固有権的告発権者の定めもないもの(例外は同法一三条二項及びその関連規定である一六条二項のみ)である。したがつて、本件大阪有線の行為に対する告発の可否が郵政大臣ないし所管担当係官の行為に係るという関係はなく、現に原告は告発行為を行つてその目的を達している。

2 原告主張の郵政大臣ないし所管担当係官の不作為と原告主張の損害との間には、何ら因果関係がない。

(一) 届出の有無と損害の因果関係

仮に、大阪有線の営業により原告の顧客の減少をきたしたとしても、それは自由競争という経済原則の結果であつて、原告主張のような被告側の怠慢の結果ではない。けだし、通信法や規正法によれば、前記のとおり有線電気通信設備の設置やラジオ放送業務を行うためには郵政大臣にその旨の届出をしなければならないとされているが、その趣旨は、特定の者に一定地域における独占的利益を享受させることを目的とするものではなく、要するに、有線電気通信とか、有線ラジオ業務の運用等に関する秩序を確立するにあるのであつて、誰でも法定の手続を経て届出さえすれば有線放送業務を営むことができるのである。したがつて、原告がその届出をしているからといつても一人原告のみが有線放送業務を独占的に経営する権利を得たことにはならず、他の同業者による競業状態は当然に予定されているところである。このような法制度上の観点からみると、大阪有線が仮に無届で有線放送業務を開始した直後、被告係官が直ちにその是正措置を講じたとしても、その結果は正規の届出がなされたうえでの競業状態が生じるだけのことになり、結果的には顧客減少という不利益は避けられないのである。これを要するに、原告の被る顧客減少という結果は、いずれにしても競業を予定している自由経済取引の当然の帰結であり、被告係官の態度如何とは何ら因果関係がない。

(二) 架空電線の空間保持と損害との因果関係

原告は、大阪有線が令九条に違反して六〇センチメートルの間隔を保持せずして電線を設置したとの事実を根拠にそれによつて損害を被つた旨主張している。しかし、仮にそのような事実があつたとしても、それによる原告側の減収は、前同様、競業という自由経済取引の結果であつて、間隔不保持という行為の結果ではない。けだし、令九条の趣旨は、架空電線を接近させるとシヨートしたり電流の誘導作用により雑音を生じたりして通信妨害となる場合があるのでこれを防止せんとするにあるのであつて、既設の架空電線の所有者に独占的利用権を認めたものではなく、同条は営業者の営業上の利益は全く考慮していないのである。したがつて、この間隔不保持による損害といえるものとしては、電線を接近させたことによつて発生した雑音による通信妨害が当てはまる(原告には、この意味での損害は全くない。)のであるが、原告主張の損害は、大阪有線が原告と同種の事業を営んだことによる競合の結果、自己の得意先を奪われたというにあるのであるから、仮に大阪有線が原告の架空電線から六〇センチメートル以上の距離を保持していたとしても、原告主張の損害は発生しうる。したがつて、令九条違反の有無は原告主張の損害と因果関係がない。

3 仮に、郵政大臣らが、原告主張の違反者を取り締らなかつたことにより、原告が損害を被つたとしても、次の理由により、被告はその損害を賠償すべき責任を負うものではない。

すなわち、郵政大臣は、有線電気通信設備相互間の妨害を防止し、かつ、これらの設備が人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないように監督し、妨害の防止等を命ずべき義務を有しているとしても、この義務は、有線電気通信に関する秩序を確立し、公共の福祉を増進させるという国家的目的のために認められた国に対する責務にほかならないのであつて、法令を遵守している有線電気通信設備の設置者の経済的利益を違反者から護ることを直接の目的として、かかる設置者に対する関係において負う義務ではない。換言すれば、違反者が徹底的に取り締られることによつて正規業者が利益を受けるにしても、右の利益は、郵政大臣の権限行使に伴う反射的利益にすぎないのであつて、直接これらの法令によつて保障された利益とは認められない。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1について

(一) 被告の担当係官が、岡山市において、大阪有線に対し、その主張の勧告、指導等の行政指導をした事実はない。

(二) 通信法一一条、一三条、二一条、令九条、規正法三条、八条等の趣旨にかんがみ、国はその権限の行使を恣意に委ねられているものではなく、また、その責任は単に国民一般に対する道義的或いは政治的責任ではない。

とりわけ、本件において、原告の設備と経営とが、大阪有線の不法な侵害のため著しく「危険な状態」におとしいれられ、このため原告が一〇〇回以上にわたり国に対し事実を指摘して通信法や規正法に定める権限の行使並びにこれらの趣旨に基く行政指導、告発等の措置を強く求め続けた状況のもとにおいて、国がこれらの権限の行使にでることによつて、原告の莫大な損害の発生を優に「防止することが可能」であり、また、原告において被告に対し右のような「作為を期待、信頼しうべき事情」にあつたのであるから、国は前記条項に基く行政指導、告発等の措置を講ずべき作為義務があつたのにかかわらず、これらの措置に出なかつたものであるから、被告は、右作為義務に違反したものであるといわなければならない。

また、一般の民事法理においても、たとえ徳義上の作為義務にすぎないような場合でさえ、「著しく」これに違反するときは公序良俗違反による法律上の義務違反となるのであつて、国民一般に対する政治的責任の場合も、右責任と法律的責任とは交錯しえないものではなく公序良俗、条理、健全な社会通念に照らし国に責任を負わせることが正義公平の観念に合致する場合には法律上の責任に転化するものである。

2  同主張2について

原告は、被告の前記作為義務違反により、前記損害を被つたものである。もし、郵政大臣らが大阪有線に対する取締りを適正に行い指導しておれば、原告は何らの損害を受けなかつたものである。被告は、大阪有線のやり方を一回も現地視察していないが故に大阪有線のやり方が如何に非道であるかが判らず、適正な自由競争論を展開するけれども、かかる大阪有線の法令違反の行為に対してまで取締行政管庁が自由競争の名のもとにこれを放置して傍観者的態度をとることは許されない。

3  同主張3について

(一) 通信法が事前届出制を採用し(三条、二六条)、技術基準(一一条)、妨害防止のための郵政大臣の措置権限(一三条)のような規定を設けたのは、有線電気通信に関する秩序を確立することによつて公共の福祉の増進に寄与しようとする見地から出たものであることはもちろんであるが、他面、同時に不当な競争により既設備が妨害を受け、既設備者の経営が害されることのないように不当な濫立を防止することが公共の福祉のために必要であるとの見地から、技術基準に適合する既設備者を不当な濫立による損害から守ろうとする意図をも有するものである。

けだし、有線電気通信は、その設置者たる私人に莫大な投資と経費の負担をさせるものであるとともにその設置は国にとつても有用な、保護されるべきものであり、また、社会の生産的、経済的、文化的生活においてその中枢神経を構成するものであり、近代的通信手段として重要かつ不可欠の効用を果し、非常事態またはそのおそれのある事態に郵政大臣は通信の確保の用にこれを用いることすら予定している(一五条)ものであつて、適正な監督制度の運用によつて保護されるべき既設置者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず、法によつて保護された法的利益である。

第三証拠関係 <略>

理由

一1  原告が、姫路市、岡山市、倉敷市、富山市において、通信法三条一項、規正法三条による届出書を提出し、これを受理されて有線放送事業を営んでいたこと、大阪有線が、姫路市、岡山市、倉敷市及び富山市において有線放送事業を営んでいること、原告が、郵政大臣らにあて、昭和四三年一二月二一日以降三回にわたつて請願書等の書面を提出して大阪有線の架設している電線の撤去等を求めたことは当事者間に争いがない。

2  右の事実に、<証拠略>を総合すれば、次のような事実が認められる。

(一)  原告は、昭和三九年ころから、岡山市をはじめ姫路市、倉敷市、富山市などで、全日本ミユージツク放送、全日本有線放送などの名称で有線放送業務(音楽放送)を始め、岡山市においては、昭和四〇年三月所轄庁である中国電波監理局(以下「監理局」という。)を通じ、郵政大臣に、通信法三条一項、規正法三条所定の届出書を提出し、右届出書はそのころ受理され、右放送業務を継続していた。

(二)  ところが、昭和四二年二月二六日ころ、大阪有線が岡山市において、前記通信法三条一項等の届出をすることなく有線電気通信設備の設置工事を開始し、電々公社や電力会社の電柱に無断で、かつ、既設の原告の架空電線と令九条で定められた六〇センチメートル以上の間隔をあけずに配線するなどして、その直後から有線放送業務(音楽放送)を始めるようになつた。

(三)  原告は、同月二七日ころ、監理局係官に対し、これらの事実及び大阪有線が原告の架空電線の一部を切断して配線をしていることなどを連絡するとともに、訴外香本優を通じて、できれば大阪有線の施工中の工事について停止命令を出してほしい旨要望したが、これに対し右係官は、強制措置をとることは事例もなく、検討を要する旨応答した。

(四)  同年三月一日、原告から監理局係官に対し、電話で、大阪有線を有線電気通信法違反、業務妨害罪で岡山東警察署に告訴したので、大阪有線の施設が不法施設であることの証明をもらえるかどうか、また、不法施設の設置をやめさせる方法について教示願いたい旨及び警察からの照会にはよろしくとの連絡があり、これに対し、係官は、無届であることの証明については検討すること、官公庁からの照会に対しては十分協力する旨答えた。

(五)  翌三月二日、岡山東警察署から監理局に対し、電話で、原告及びその弁護士から大阪有線の代表者宇野元忠を有線電気通信法違反として告訴してきたが、大阪有線は通信法三条等所定の届出をしているか否かの照会がなされ、これに対して監理局係官は右届出はなされていない旨回答した。

(六)  前同日、原告から監理局へ電話があり、違法施設の撤去仮処分を求める必要上、大阪有線の施設が無届施設であることの証明をしてもらいたい旨及び同社の架空電線が原告の設置している架空電線から六〇センチメートルの間隔を保持しておらず、令九条違反であるから、放送の停止、設備の撤去命令を出してほしい旨の申入れがなされた。これに対し、監理局係官は、他人についての私人からの証明書の発給については所管課で検討するが、公文書による照会であれば、届出の有無に関する事実は文書で回答する、しかし、原告のいう離隔が不足するから令九条に適合しないことを理由に直ちに撤去命令等の措置をとることは困難である旨応答した。

そして、翌三月三日、原告から監理局に大阪有線の前記届出の有無についての照会文書が提出され、これに対し、監理局は、文書で右届出がなされていない旨の回答をした。

(七)  他方、同月九日、大阪有線の南放送所長加藤陽一が監理局に赴き、岡山市において行う有線放送についての届出書を提出したが、右届出書は要件不備等を理由に後日返戻され、その際、監理局側は、共架する電柱については所定の離隔をもつて共架できるかどうか及びその他の設計の審査上必要があるため共架する電柱の所有者の承諾書又は内諾書の写しを添付することなどを指示、指導した。

次いで同月二〇日、大阪有線の代表者宇野元忠が監理局に届出書を持参してきたが、その際、係官は、事前に届出るべき旨、及び他人の設置した架空電線との間の離隔距離についての基準を守るよう指示、注意するとともに、事前届出を怠つたことにつき同人から始末書を提出させた。しかし、右の届出書も不備のため結局受理されるには至らなかつた。

(八)  同年七月三一日、原告の架電により、原告と監理局係官との間で種々のやりとりがなされ、係官から、大阪有線に対しては事前の届出及び他人の架空電線との離隔距離等について指導した旨の説明がなされたが、原告は、前同様の主張を繰り返して行政指導等により大阪有線の放送設備等をとりあげるよう求めた。これに対し、係官は、行政庁が指導により放送設備等をとりあげることはできず、これらの強制措置は法令に定めがないかぎりできないこと、届出なく放送しているということで放送設備等に直接の強制手段をとる法令の規定はないこと、設備についての妨害の事実(ただし、切断等の犯罪となる場合は別)があれば、行政上の強制措置をとり得るが、離隔距離については原告と大阪有線の言分に異るところもあり直ちに違法とはきめられないことなどを伝えた。

(九)  その後も、大阪有線からは、監理局に対し、前記届出書が再三にわたり提出され、監理局側は要件不備等を理由にその都度これを返戻するとともに前同様の行政指導を繰り返していたが、昭和四三年九月に至り、大阪有線の届出書(有線放送の設備の設置及び業務の開始届―通信法三条一項、規正法三条の各届出を兼ねたもの)は、各要件を具備したものとして、郵政大臣により受理された。

(十)  原告は、その前後も監理局に対し、再三、再四にわたり、前記のとおり大阪有線の設備が無届の不法設備であること、通信法一一条、令九条に違反すること、などのほか、大阪有線側が原告の架空電線を切断したとか原告の通信線にアースしたとか、物をまきつけて雑音を入れたとか、線に穴をあけて妨害したとかを理由に、監理局に対し前記強制措置の発動を求めたが、監理局側は、これらの事実を直接確認する方法をとることなく、通信法一一条、令九条違反の原告の主張については、大阪有線が設置した電線が弱電流電線であること、ビニール絶縁線の上にさらにポリエチレン被覆をし、そのうえにケーブルが施されているところから弛緩することが少なく、また、右電線中にはさらに音楽放送のための六回線の電線が入つているが、これら相互に誘導、妨害が生ずるおそれのないものであつたところから、令九条所定の離隔距離がなくとも、原告の既設の架空電線に直ちに妨害を与えるおそれはないものと判断して、通信法一三条の強制措置をとることは相当でないとし、また、原告の架空電線を切断するなど当該行為が犯罪を構成する場合については、同条の強制措置の発動は予定されていないとして、右の強制措置をとる必要を認めなかつた。

(十一)  そのため、原告は、昭和四三年一二月二六日、郵政大臣宛文書により、大阪有線が電々公社柱に違法に架設している電線を撤去させ、原告の権利を保護してほしい旨の請願をし、また、同四四年一月二四日には郵政大臣宛「請願内容」と題する補足資料を提出し、さらに、同四五年二月二一日にも、郵政大臣及び同事務次官宛同趣旨の請願をした。

しかし、郵政大臣らは、これらに対し、特に新たな行政措置をとらなかつた。

以上のような事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

二  そこで、原告主張の郵政大臣らの権限不行使(不作為)が、原告に対する不法行為としての違法性を有するか否かについて、以下順次検討する。

1  大阪有線が通信法三条一項、規正法三条の届出義務に違反していたのに、郵政大臣らが適切な行政指導をせず、また、通信法一三条、規正法八条の措置をとらなかつたことが違法であるとの主張について

(一)  通信法三条一項は、有線電気通信設備を設置しようとする者に対し、設置の工事の開始の日の二週間前までに、有線電気通信の方式の別、設備の設置の場所、設備の概要を記載した書面を添えて、その旨を郵政大臣に届け出なければならない旨定め、同法二六条一号は右違反に対する罰則を定めている。

また、規正法三条は、有線ラジオ放送の業務を行おうとする者は、郵政省令の定めるところにより、その旨の届出書を郵政大臣に提出しなければならない旨定め、同法一四条一号は右違反に対する罰則を定めている。

ところで、通信法は、有線電気通信に関し、その設備の面から、その設置及び使用を規律し、有線電気通信に関する秩序を確立することにより公共の福祉を増進すること目的とするもの(同法一条参照)であり、他方、規正法は、有線ラジオ放送の業務の運用面から、これを規正することにより同様に公共の福祉を確保することを目的とするもの(同法一条参照)であるが、右通信法三条、規正法三条等の規定から明らかなとおり、郵政大臣は、有線電気通信設備の設置、使用又は有線ラジオ放送業務の開始について許可ないし認可の権限を有するものではなく、単に届出の受理権限を有するにすぎないから、有線ラジオ放送は、通信法、規正法所定の届出をすれば、本来、誰でも自由にこれを行えるのが法の建前であると考えられる。

そして、これらの点から考えると、通信法三条一項、規正法三条が、それぞれ郵政大臣に対する右届出を要するものとした所以は、前者については、郵政大臣において前記届出書記載の事項を把握し、その設備等が同法一一条所定の技術基準に適合しているかどうかを検討し、これに適合しない場合には行政指導によりこれを是正し、もつて、技術基準に適合しない設備が設置されることを未然に防止することにあり、また、後者については、一定の事項(業務の種別、放送所の設置場所、放送区域、業務の運営の機構、番組の編集に関する計画など)を届け出させることにより、開始される業務の実態を把握し、公共の福祉に反する業務の開始、運用を未然に防止するとともに、これに適合する業務の開始、運用を指導、勧告することにその主眼があるものと考えられる。

(二)  ところで、通信法一三条は、「郵政大臣は、有線電気通信設備を設置した者に対し、その設備が第一一条の技術基準に適合しないため他人の設置する有線電気通信設備に妨害を与え、又は人体に危害を及ぼし、若しくは物件に損傷を与えると認めるときは、その妨害、危害又は損傷の防止又は除去のため必要な限度において、その設備の使用の停止又は改造、修理その他の措置を命ずることができる。」と規定している。しかし、右規定は、その文言からも明らかなとおり、設置された有線電気通信設備(このばあい同法三条一項の届出の有無を問わない)が、同法一一条の技術基準に適合せず、かつ、そのために、他人の設置する有線電気通信設備に妨害を与えるなど同条所定の要件を具備するときは郵政大臣において、その設備の使用の停止等を命ずることができるけれども、単に同法三条一項に違反することを理由に右の強制措置を講ずることは同条の予定していないところと認められる。そして、右の規定及び前記(一)の通信法の趣旨、目的等から考えると、郵政大臣及び監理局係官としては、届出前に有線電気通信設備を設置し、或いは設置しようとする者があるときは、これらの者に対し、まず、すみやかに所定の届出をなすよう指導、助言すべく、これらの行政指導にも応じない者に対しては前記罰則の発動を求めて告発手続をなし、さらには、設置された設備が同法一三条の要件を具備するものであるときは、同条所定の強制措置の発動を検討すべきであると解される。

また、規正法八条は、「郵政大臣は、有線ラジオ放送の業務を行う者が、この法律若しくはこの法律に基く命令又はこれらに基く処分に違反したときは、三箇月以内の期間を定めて有線ラジオ放送の業務の停止を命じ、又はその業務の運用を制限することができる。」と定めている。そして、右の規定は、その文言上からみる以上、同法三条違反の場合においても右措置をとりうるように解されるけれども、規正法の前記趣旨目的、同法三条の届出が必要とされる理由、右八条に基く措置は業務停止や運用制限という強力かつ直接的な効力を有するものであるところから、安易にこの措置がとられるときには弊害が大きいことなどを考えると、右措置をとりうるのは送信内容や送信の態様が同法一条の目的に反し、公共の福祉を阻害する場合に限られるというべきであつて、これを同法三条違反の場合に関していえば、有線ラジオ放送の業務を行う者が、郵政大臣や監理局係官の指導、助言等にかかわらず、これを無視して所定の届出をなさず、そのために、郵政大臣として右の送信内容や送信の態様の実体を把握することができず、かつ、これを放置していた場合には公共の福祉に反することが明らかなような場合に限られると解するのが相当である。したがつて、規正法の場合においても、同法三条の届出がなされる以前に有線ラジオ放送業務が開始されたことだけで、同法八条の措置をとることは、一般的には相当ではなく、この場合も前同様、郵政大臣らとしては、まず、所定の届出をなすべく指導、助言をするなどの行政指導をなすのが同法の趣旨にも合致するというべきである。

(三)  そして、前記一の認定事実によれば、大阪有線が通信法三条一項、規正法三条所定の各届出、受理前に、有線電気通信設備を設置し、有線放送(音楽放送)業務を開始したこと及び郵政大臣がこれらを理由に通信法一三条、規正法八条所定の強制措置をとらなかつたことは原告主張のとおりであるが、右のうち郵政大臣が通信法一三条の措置をとらなかつたことについては、すでに判示したところから明らかなとおりむしろ当然であつて何らの違法はなく、また、規正法八条の措置をとらなかつたことについても、前同認定事実から考えると、大阪有線が郵政大臣や監理局係官の指導、助言を無視して、所定の届出じたいを行わず、これがために郵政大臣としてその送信内容ないし態様の実態が把握できず、これを放置することは公共の福祉に反するというような事情があつたものとは認められないから、これをもつて違法であるということはできない。

さらに、右の認定事実によれば、監理局係官らは、大阪有線が昭和四二年三月最初の届出書を提出して以来同四三年九月右届出書が郵政大臣により受理されるまでの間、大阪有線の関係者らに対し、右各届出は本来事前になされるべきものであること、他人の設置した共架電線との離隔距離についての基準を守るべきこと、共架電柱の所有者の承諾書又は内諾書を提出することなどにつき行政指導をくり返すとともに、事前届出を怠つた点については始末書を徴するなどして行政上の指導及び措置をとつていたこと、また、大阪有線の右届出違反等については、すでに原告においてこれを警察に告訴していたので、監理局側も、原告の求めに応じ右届出の有無についての証明書を出したり、警察からの照会に応じたりしていたことが認められるのであつて、これらの事実から考えると、監理局係官が大阪有線に対してなすべき行政指導を怠つたものということはできず、また、右の事実関係のもとでは同係官が告発手続をとらなかつたことをもつて違法であるということもできない。

(四)  したがつて、原告の右主張は理由がない。

2  大阪有線の架空電線が通信法一一条、令九条に違反して、原告の既設の架空電線との間に六〇センチメートルの離隔がないのに、郵政大臣が通信法一三条の措置をとらなかつたことが違法であるとの主張について

(一)  前記1(二)の判示から明らかなとおり、郵政大臣は、通信法一三条により、有線電気通信設備を設置した者に対し、(イ)その設備が第一一条の技術基準に適合せず、(ロ)そのために、他人の設置する有線電気通信設備に妨害を与え、又は人体に危害を及ぼし、若しくは物件に損傷を与えると認めるときには、(ハ)設備の使用の停止等同条所定の強制措置を命ずることができるものとされているところ、前記一認定の事実によれば、大阪有線が岡山市において架空電線は原告の既設の架空電線との間に、通信法一一条、令九条が定める六〇センチメートルの間隔をあけていなかつたのに、郵政大臣は、右の強制措置を命じなかつたことが認められる。

(二)  そこで、郵政大臣が右の強制措置を命じなかつたことが違法であるかどうかについてみるのに、まず、同条は、その規定じたいからも明らかなとおり、右の強制措置をとることが合目的的であるか否かの判断を一定の範囲で郵政大臣の裁量に委ねているものと解される。ところで、前記一認定の事実から考えると、監理局係官らが大阪有線の設置した架空電線の状況とりわけ既設の原告の架空電線との距離関係、妨害の存否等の判断に際し、原告の再三の要請にかかわらず、現場に赴いて直接これを確認するなどの方法を講じなかつた点において不親切な嫌いは否定できないが、当時、有線放送業界は競争が激しく、この点についての原告と大阪有線側の言分にも差異があつたこと、郵政大臣が右の強制措置をとらなかつたのは、前記のとおり大阪有線設置の架空電線が音楽放送用の弱電流電線であり、右電線はビニール絶縁線の上にさらにポリエチレン被覆をし、その上にケーブルが施されているものを使用していたため、比較的弛緩度が少く、また、右の一束の電線中には音楽放送のための六回線の電線が入つていたがこれら相互間に誘導、妨害等が生ずるおそれもないものであつた(右のおそれがあればこれらを一束にまとめられない。)ところから、右電線の設置じたいにより原告の既設の架空電線に対する妨害ないし損傷を生ずるおそれはないと判断したことによるものであることが認められ、右の判断はそれなりの合理性を有していたものと考えられる。

そして、これらの点から考えると、大阪有線の架空電線が通信法一一条、令九条の技術基準に合致していなかつたとしても、郵政大臣がいまだ前記(一)(ロ)の要件を欠くものとして同法一三条の強制措置をとらなかつたことをもつて、郵政大臣に前記裁量権の範囲を逸脱した違法があつたものということはできない。

(三)  したがつて、原告の右主張も理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の郵政大臣らの権限不行使(不作為)は、いずれも原告に対する不法行為としての違法性を有するものとは認められず、原告の本訴請求はこの点においてすでに理由がない。

三  なお、ちなみに、原告主張の損害について附言する。原告の本訴請求は、郵政大臣らの前記権限不行使の結果、原告が岡山市において大阪有線に顧客を奪われ、その営業継続が不可能になつたことを前提として、原告が右営業を継続していたなら得られたであろう利益の金額の損害賠償を求めるものであるところ、本件全証拠によるも、原告主張の郵政大臣らの権限不行使と原告主張の右損害との間に相当因果関係のあることを認めることができない。したがつて、この点においても、原告の本訴請求は理由がない。

四  よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川端敬治)

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