大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所尼崎支部 昭和50年(ヨ)43号 判決 1981年1月30日

債権者 六麓荘町町内会

右代表者会長 山田六郎

債権者 六麓荘土地株式会社

右代表者代表取締役 山田六郎

右両名訴訟代理人弁護士 安田健介

同 沢村英雄

同 高野裕士

債務者 学校法人芦屋学園

右代表者理事長 福山重一

債務者 阪急バス株式会社

右代表者代表取締役 武井正範

主文

債権者らの本件申請をいずれも却下する。

訴訟費用は債権者らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  債務者らは自ら別紙目録記載の道路を乗車定員三〇名以上の大型自動車で通行してはならない。

2  債務者学校法人芦屋学園は、第三者をして前項の道路を乗車定員三〇名以上の大型自動車で通行させてはならない。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

(被保全権利)

1 債権者六麓荘町町内会(以下、債権者町内会という。)は、六麓荘町に居住する住民を構成員とし、総務部、会計部、道路部、交通部等の各部で組織する団体で、規約を制定し、多数決の原理が行なわれ、その構成員の変更にかかわらず団体が存続し、代表の方法、総会の運営、財産管理等団体としての主要な点が確立している法人格なき社団である。

2 別紙目録記載の道路(以下、本件道路という。)付近一帯はもと国有林であったが、申請外株式会社六麓荘が昭和三年に国から払下げを受けて所有権を取得し、宅地や本件道路等に造成した後、本件道路を含む分筆前の芦屋市六麓荘町一八五番の土地(以下地番のみをもって表示する。昭和四〇年八月一四日一八五番の土地が同番の一の本件道路と同番の二に分筆された。)が公衆用道路として登記された。同会社は昭和二五年五月二五日申請外関西興業株式会社に合併され、同会社は昭和三一年一二月二二日申請外オーエス映画劇場株式会社に順次合併された。

債権者町内会は、従前より本件道路を含む分筆前の一八五番の道路を維持管理していたが、昭和三九年五月九日オーエス映画劇場株式会社から本件道路を含む一八五番の道路を譲り受け、債権者町内会会員の総有としたが、債権者町内会が法人格を有しないために、債権者六麓荘土地株式会社(以下、債権者会社という。)を設立して、債権者会社にこれを信託的に譲渡し、所有権移転登記も経由したものであって、本件道路は債権者会社が所有する私道である。

債権者町内会は、本件道路にダンプカーが通行できないようにアーチを設置し、植樹、治安灯を設置し、道路掘さくの許可を与え、また、本件道路の地下に下水管を埋設してこれを維持管理する等、道路部を設けて本件道路を維持管理して占有している。

3 ところが、債務者学校法人芦屋学園(以下、債務者学園という。)は昭和四六年三月ころ、債務者阪急バス株式会社(以下、債務者会社という。)との間で、乗車定員三〇名以上の貸切大型バスを本件道路に運行させて生徒学生を輸送する契約を締結し、債務者会社はそのころから朝夕の登下校時に各三〇ないし四〇台の右大型バスを本件道路に運行させている。

なお、昭和四六年三月以前は、六麓荘町内を通過する一般乗合バス路線は、阪急芦屋川から日の出橋を経由して苦楽園に至る幹線路線と、右幹線路線から日の出橋で分れて北へ巡回し本件道路を運行する巡回路線の二種があったが、後者の運行は朝夕わずか数本であったので、債務者学園の生徒学生はほとんど全員別紙図面の日の出橋で下車し、そこから本件道路を徒歩で通行していた。

(保全の必要性)

4 騒音

六麓荘町内は大部分が第一種住宅専用地域(一部は第二種住宅専用地域)であり、良好な住宅環境が維持されなければならないところ、本件道路は急勾配であるうえ、大型バスが生徒学生を満載して朝夕集中的に走行するために、そのエンジン音による騒音は本件道路上で九〇ホン、室内において八五ホンという極めて大きいものであって、芦屋市における第一、二種住宅専用地域の生活騒音の規制基準である朝夕四五ホンを上回っている。

5 水道管等破裂の危険性

本件道路の地下に埋設されている水道管は地下〇・二ないし〇・三五メートルにあり、下水道管は地下〇・四メートルにあるところ、大型バスの通行による振動等のために、水道管、下水道管が現に破裂し、また右管及びガス管が破裂するおそれが緊迫している。

6 樹木枯損等

大型バスの通行に伴う排気ガスにより、本件道路端の樹木の枯損が急激に増加し、野鳥の飛来も減少し、従前の良好な生活環境が破壊されつつある。

7 なお、大型バスの通行が差止められても、債務者学園の生徒学生は徒歩約五分で日の出橋から債務者学園まで通学できるのであり、損害というべきものは皆無で、むしろこの程度の徒歩通学は望ましい位である。

8 よって、債権者会社は本件道路(私道)の所有権に基づき、債権者町内会はその占有権に基づいて、債務者らに対し申請の趣旨記載の仮処分命令を求める。

二  申請の理由に対する債務者らの認否

1  申請の理由1は認める。

2  同2のうち、本件道路は債権者町内会が維持管理して占有する私道であることは否認し、その余は認める。本件道路は後述のとおり芦屋市が維持管理している市道である。

3  同3のうち、昭和四六年一月ころ、債務者らの間で債権者ら主張の運送契約が締結され、そのころから朝夕登下校時に各三〇ないし四〇台の大型バスを本件道路に運行させていること、そのころまで、債権者ら主張の幹線路線と巡回路線があったことは認めるが、債務者学園の生徒学生がほとんど全員日の出橋で下車し、本件道路を徒歩で通行していたことは否認する。

4  同4は争う。

本件道路付近は大邸宅で住居が道路から離れているうえに、その戸数も少なく、大型バスの運行時間帯も登下校時に限定されており、騒音の程度も受忍限度内である。

5  同5は争う。

本件道路及び水道管の維持管理は芦屋市が行なっており、また、水道管は幹線道路のそれよりも深く埋設されて、芦屋市において適宜補修工事を行なっているので破裂の危険性はないし、下水道管は本件道路には埋設されておらず、ガス管は昭和四六年九月一四日地下一・二メートルに埋設し直したので破裂の危険性はない。

6  同6は争う。

7  同7は争う。

日の出橋近辺においては、債務者学園の生徒学生の交通事故が現に発生し、また発生の危険性の高いところであって、安全通学のためには債務者学園までのバス通学が不可欠である。また、債務者学園は昭和一二年以来バス通学によって生徒学生の安全教育を実施している。

三  債務者らの主張

1  道路法に基づく私権の制限

本件道路を含む分筆前の一八五番の土地は昭和三年四月二三日株式会社六麓荘によって公衆用道路として開設され、昭和七年三月一四日訴外六麓荘苦楽園自動車株式会社の乗合バス路線として認可されて乗合バスが運行し、昭和一二年五月六日「公衆用道路」として登記され、以来地方税法三四八条二項五号により固定資産税の免除を受けて公共の用に供されたのであるから、適法に「供用開始」行為がされ、公物たる道路として道路法所定の制限(旧道路法六条、道路法四条)が加えられた。

そして、昭和一三年精道村によって本件道路は村道として認定され、昭和一四年精道村に寄付(贈与)されたが、その旨の所有権移転登記手続を経ないままに、昭和一五年一一月一〇日市制施行により、芦屋市に本件道路の管理が移行された。同市長は、それまでに事実上一般交通の用に供されていたため、改めて「供用の開始」の公示の必要のない本件道路(道路法一八条二項但書)が市道に該当することを確認するために、昭和四九年七月一九日道路法八条により「路線の認定」を行なって公示し、更に同日同法一八条一項により「道路の区域の決定」をして公示したうえ、道路台帳に記載したものであって、本件道路は同法三条四号の市道である。したがって、債権者らは本件道路を構成する土地について、私権を行使することはできない。

そして、芦屋市は昭和一四年ころから道路管理者として、本件道路における自動車運送営業に関する運輸大臣、県知事への意見回答、報告、本件道路の管理、維持、修繕費用負担、道路管理者以外の者の行なう工事の承認、道路標識設置、通行禁止制限等、道路法に基づいて道路の保全をはかり、一般交通の用に供せしめ、公共の福祉の増進をはかっている。

2  通行権

本件道路を開設し、これを所有していた株式会社六麓荘は、その子会社である六麓荘苦楽園自動車株式会社をして、本件道路に乗合バスを運行させていたが、昭和七年六月ころ右会社の運輸権利の譲渡をうけ、昭和一一年一〇月六日債務者学園の前身である芦屋高等女学校が設置されるのと同時に、同女学校前に停留所を設置して生徒の輸送にあたった。

株式会社六麓荘は、昭和一四年三月二五日同会社の右自動車事業にかかるすべての権利を債務者会社の前身である訴外阪神合同バス株式会社に譲渡し、その際、同会社のために本件道路のバス運行権も設定された。

したがって、債務者学園は昭和一一年一〇月六日以降本件道路の通行権を有し、債務者会社は昭和一四年三月二五日以降、道路法、道路運送法に基づき監督官庁の認可をえて債務者学園の生徒等の輸送にあたり、本件道路にバスを運行するバス運行権を有する。

四  債務者らの主張に対する認否

1  債務者らの主張1のうち、本件道路につき、昭和四〇年七月一九日「路線の認定」及び「道路の区域の決定」が行なわれたことは認め、その余は争う。

道路法上の道路として成立するためには、道路法により定められた諸手続が必要であるが、本件道路については、権原の取得行為も、供用開始の公示もないのであるから、道路法上の道路(市道)ではない。

2  同主張の2は争う。

債権者らが本件道路を一般公衆に道路として開放していることの反射的効果として、債務者らが事実上通行を許されているにすぎないのであって、債務者らは通行権ないしバス運行権を有しない。

第三証拠《省略》

理由

第一債権者会社の申請について

一  債権者会社が所有権移転登記を経由して本件道路を所有していること、債務者学園が遅くとも昭和四六年三月ころまでには、債務者会社との間で、乗車定員三〇名以上の貸切大型バスを本件道路に運行させて生徒学生を輸送する契約を締結し、債務者会社がそのころから朝夕の登下校時に各三〇ないし四〇台の大型バスを本件道路に運行させていることは、当事者間に争いがない。

二  債務者らは、本件道路は私権の行使を制限された道路法上の道路(市道)であって債務者らにおいて自由に通行しうる旨主張するので、以下検討する。

本件道路につき、昭和四〇年七月一九日芦屋市長によって「路線の認定」及び「道路の区域の決定」がされ、右各公示がされたことは、当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が一応認められる。

1  本件道路を含む付近一帯はもと国有林であったが、昭和三年株式会社六麓荘が国から払下げを受けて宅地、道路等の造成工事を始めた。本件道路を含む分筆前の一八五番の土地は、同年四月二三日同会社によって公衆用道路として開設された。右道路は昭和七年三月一四日六麓荘苦楽園自動車株式会社の乗合バス路線として認可されて乗合バスが運行し、同月三日地目「道路」として登記され、そのころから固定資産税の免除をうけた。

昭和一三年ころ、株式会社六麓荘の宅地等諸施設の造成工事が完了したので、右会社は芦屋市の前身である精道村に対し、造成した右水道の諸施設と本件道路を含む六麓荘町の道路を買い受けるように申入れたが、道路について買受けを拒絶された。そこで、更に同会社は右道路を同村に対し無償で寄付(贈与)することを申入れ、寄付採納願を提出した。しかし、造成された六麓荘町の道路は、当時としては珍しく水道管、ガス管、電気線等、諸施設が地下に埋設され、かつ舗装されていたので、かかる道路を維持管理するには相当費用を要することが予測されたし、これに加えて同村は昭和一三年ころ阪神間を襲った暴風雨による災害復旧工事及び計画中の下水道工事等の施行に莫大な費用を要する財政的な事情等があり、これらのために、同村及び同村会議員の多数意見は右寄付採納について消極的な態度に終始し、同村議会に右の件について提案審議されるには至らなかった。

2  ところで、昭和一五年一一月一〇日市制が実施されて精道村は芦屋市になったが、遅くとも昭和三〇年以降には芦屋市において、本件道路を含む六麓荘町の道路を事実上維持管理するようになり、現在に至っている。

また、同市は右道路が同市の所有にかかる市道であると誤認して、昭和三一年八月一八五番の道路の一部(分筆後の一八五番の二)を分筆して廃道処分したうえ債務者学園にこれを無償で贈与することを同市議会で議決した。そして、昭和三五年ころ債務者学園に所有権移転登記手続をしようとして、初めて一八五番の道路の所有名義が株式会社六麓荘にあることに気づいた。

ところで、同市は昭和四〇年七月一九日同市の市道の路線番号を整理して体系化し、あるいは新たに市道に認定するために、「路線の廃止」並びに「路線の認定」の手続を行ない、同時に「道路の区域の決定」をした。本件道路についても、その一環として「路線の認定」及び「道路の区域の決定」をし、右各公示を行なった。

しかし、本件道路は新しく開設したものではなく、道路として既に使用されていたので、「供用開始」の公示は不要であると解釈して右公示は行なわなかった。

以上の事実が疎明され(る。)《証拠判断省略》

ところで、道路法に定める道路を開設するためには、原則として法律の定めるところにより「路線の指定」または「路線の認定」をし、道路管理者において「道路の区域の決定」をし、その土地のうえに所有権その他の「権原を取得」し、必要な工事を行なって道路としての形体を整え、「供用を開始」する諸手続が必要である。

ところで、本件道路については道路の造成工事が既に行なわれて道路としての形体を具備しており、「路線の認定」及び「道路の区域の決定」がされてはいるが、前記認定のとおり、芦屋市の前身である精道村は当時の所有者であった株式会社六麓荘から贈与を受けておらず、他に本件道路について所有権その他の権原の取得がなされたことの疎明はない。

したがって、適法な「権原の取得」がない以上、本件道路が道路法に定める道路として成立しないことは明らかである。

更に、道路法にいう「供用の開始」とは、道路を一般の通行の用に供する旨の行政主体の意思表示であって、これによって初めて道路は公物としての性質を具備し、道路法に定める道路になるものと解すべきである。したがって、右手続は同法一八条二項但書の場合を除き不可欠であるというべきであるが、本件道路については、右例外の場合に該当しないのに「供用の開始」の公示もされていない。

なお、債務者らは、本件道路は一般の交通の用に供され、公衆用道路として登記され、固定資産税の免除を受けているから、既に「供用の開始」がある旨主張するが、土地の所有者が所有権に基づいて一般の交通の用に供するにすぎない道路は、たとえ地目が道路として登記され、固定資産税の免除を受けていても、単なる私道にすぎないのであって、右の事実をもって私道が公物となったり、あるいは道路法にいう「供用の開始」があったといえないことはいうまでもない。

そうすると、本件道路については、右の各重要な手続を欠いているので、道路法に定める道路、すなわち芦屋市の市道と解することはできない。

よって、本件道路が市道であることを前提とする債務者らの前記主張は理由がない。

三  次に、債務者らは本件道路について通行権ないしバス運行権を有する旨主張するので、以下検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が疎明される。

昭和三年ころ、株式会社六麓荘が六麓荘町に宅地、道路等を造成した際、その交通機関を確保するため、昭和五年四月一四日右会社の子会社である六麓荘苦楽園自動車株式会社が発足し、昭和七年三月一四日阪急芦屋川駅より六麓荘町内を通り、苦楽園三笑橋に至る乗合バスの運行を開始した。同年六月二八日株式会社六麓荘が、監督官庁より右の乗合自動車運輸業譲渡許可を受けてこの路線を承継した。右会社は昭和一二年三月一〇日債務者学園の前身である芦屋高等女学校が開設されたのに伴い、通学路線として、日の出橋より分岐して女学校経由苦楽園三笑橋に至る山手線(本件道路の一部が含まれる。)の路線延長許可を受けて新設した。昭和一四年三月二五日阪神合同バス株式会社(債務者会社の前身)は監督官庁から乗合自動車事業譲渡を許可されて、株式会社六麓荘から右事業を承継した。そして、昭和一九年ころには六麓荘町の路線を休止したが、債務者会社は昭和二四年七月一〇日右路線を再開した。以後、昭和四五年一二月ころまで、若干の路線の変更はあるものの、本件道路の一部を債務者会社の一般乗合バスが運行したが、昭和四六年一月ころからは本件道路を運行する路線を廃止し、かわって、債務者学園の生徒学生を輸送するために、本件道路上を貸切バスが運行している。

以上の事実が疎明され(る。)《証拠判断省略》

しかし、右の道路運送法に基づく許認可は同法の立法趣旨に添って公益上の見地からなされる手続であって、右に認定した事実をもって、本件道路の所有者との間に本件道路の通行権ないし債務者らのいうバス運行権が設定されたということはできない。

また、仮に債務者ら主張のころ、当時の所有者である株式会社六麓荘と債務者学園、阪神合同バス株式会社との間で本件道路をバスで通行できる旨の契約が締結されたとしても、その後、本件道路は債権者会社に譲渡されているのであるから、債務者らは債権者会社に対し右通行権を主張することはできないものというべきである。

なお、債権者会社と債務者らとの間で直接本件道路の通行権ないしバス運行権の設定契約が締結されたことを疎明するに足る証拠はない。

よって、債務者らの通行権等を有する旨の主張も理由がない。

四  そこで、保全の必要性について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が疎明される。

1  本件道路近辺はほとんど第一種住宅専用地域であって大邸宅が多く、いわゆる山の手にある高級住宅街である。

本件道路を昭和四六年一月ころから運行する債務者会社のバスは定員七〇名、長さ一〇・七メートル、巾二・五メートル、高さ三・一メートルの大型バスである。右バスは平日の債務者学園の登校日には、生徒学生の登下校時にあわせ、平均して午前約三七回、午後約三二回運行しているが、特に、午前七時五〇分ころから午前八時四〇分ころまで、午後三時三〇分ころから午後四時ころまでの間にほとんど集中している。右時間帯におけるバス通過時には、本件道路近辺で騒音の瞬間値が九〇ホンを超え、近隣家屋の室内でも八五ホンとなることがあり、テレビの音がよく聞きとれないほどである。

しかし、本件道路を運行しているバスはいずれも運輸省令に基づく道路運送車両の騒音に関する保安基準に適合している。

2  本件道路の地下には、深さ約〇・三ないし〇・五メートルのところに水道管が埋設されているが、数年来、右水道管の毀損、接合部分からの漏水は年間一、二件、鉛管漏れは約二、三件程度にすぎず、大型車両、重量車両の交通量の多い他の地域の路線の埋設水道管(地下約〇・六メートル)の漏水件数と比較しても多いとは言えない。

また、かつて漏水により付近の住宅の石垣、塀等を破損したこともなく、今後もその蓋然性はない。

そして、他の工事等の際、既設の水道管が支障となったときは、ダクタイル鋳鉄管を使用して取替えたり、ポリエチレンタイプを使用する等、漏水の少ない材料を採用して地下深く埋設し直すように施工している。

下水道管についても、かつて毀損したり、破裂したことはない。

ガス管については、本件道路の地下約〇・三ないし〇・五メートルに埋設されていたが、昭和四七年ころ、新しい鋳鉄管に取替えたうえ地下約一・二メートルの深さに埋設し直され、地表はアスファルト舗装されている。本件道路に埋設されたガス管については、定期的にガス漏れの点検を行なっており、過去に自動車の通行に起因するガス爆発事故を起こしたことはない。

3  本件道路近辺の松桜等、樹木が若干枯損しており、野鳥の飛来も減少していることは否めないが、右現象は本件道路近辺のみならず、他の地域においても同様である。

以上の事実が疎明され(る。)《証拠判断省略》

そうすると、昭和四六年一月ころから現在に至るまで約九年余の間、本件道路に前記定員三〇名を超える大型バスが運行しているにもかかわらず、地下に埋設されている水道管、ガス管等の毀損による漏水、ガス漏れ事故もなく、また適宜右管取替え補修工事等が行なわれているのであるから、大型バスの運行によって、右各事故発生の危険が緊迫した状況にあるものと認めることはできない。のみならず、騒音についても、大型バスの通過時には瞬間的にかなりの程度に達することは認められるものの、その時間帯は朝夕わずか一時間程度に限られており、しかも断続的なものであるから、騒音による本件道路近隣への被害が緊迫しているものと認めることもできない。

更に、樹木の枯損等についても大型バスによる排気ガスとの因果関係が疎明されないのであるから、以上の点を総合すれば、本件については、今直ちに申請の趣旨記載の大型バスの通行を差止めなければならないほどの緊急性(保全の必要性)があるものと認めることはできない。

したがって、債権者会社の本件申請は理由がないものというべきである。

第二債権者町内会の申請について

債権者町内会は、本件道路を占有している旨主張するが、前記第一の二の2で認定したとおり、本件道路は芦屋市が事実上維持管理してきたものと認められ、債権者町内会がこれを完全に占有しているものと認めるに足る疎明はない。したがって、同債権者の申請はこの点において既に失当である。

なお、仮に同債権者が本件道路につき占有権を有するとしても、保全の必要性が認められないことは前記第一の四と同様であるから、いずれにせよ、債権者町内会の本件申請もまた理由がない。

第三結論

よって、債権者らの本件申請はいずれも失当であり、保証をもって疎明にかえることも相当でないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 坂本慶一 上原理子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例