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神戸地方裁判所尼崎支部 平成9年(わ)34号 決定 1997年4月09日

被告人 I・S(昭和52.11.8生)

主文

本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に移送する。

理由

本件公訴事実は、「被告人は、現金を強取しようと企て、Aと共謀の上、平成8年12月22日午前3時ころ、神戸市○○区○○町×丁目×番付近路上に駐車中の普通乗用自動車に乗車していたB(当43年)に対し、左手で同人の襟首付近をつかむとともに、抵抗して暴れる同人の頚部付近に右手に持ったカッターナイフを突き付けてその先端部分を押しつけるなどしながら、『本気なんや。抵抗せんかったら刺さへん。』などと申し向けた上、右Aが同車両の後部座席に、被告人が助手席にそれぞれ乗り込んで右Bの左腰部付近に右カッターナイフを突き付けるなどの暴行脅迫を加えて同人の反抗を抑圧し、同車両を同所から移動させ、同日午前3時過ぎころ、同市○○区○△町×丁目××番××号付近路上に至らせ、同所において、同人から同人所有にかかる現金2000円を強取し、次いで、同車両を同所から移動させ、同日午前4時ころ、同市○○区○□町×丁目○○公園北側路上に至らせ、同所において、同人に対し、『お前の家は分かっている。家族全員が静かな生活をしたかったら、早くお金を都合せえ。』などと申し向けて脅迫し、引き続き同人の反抗を抑圧しながら、同車両を同所から移動させ、同日午前4時30分ころ、同市△○区○○×丁目××番×号付近路上に至らせ、同所において、同人から同人所有にかかる現金15万円を強取したが、その際、前記暴行、及び頚部付近に右カッターナイフを突き付けられた同人が驚がくの余り同ナイフを左手でつかんだことにより、同人に対し、安静加療約10日間を要する左第3・4指及び左頚部切創の傷害を負わせたものである。」というのであって、右事実は当公判廷で取り調べた各証拠によって全て認められるところである。

そこで、以下、被告人の処遇について考えてみる。

少年は、いわゆる共稼ぎ夫婦の長男として出生し、小中学生時には目立った問題行動はなかったが、高校入学後の平成6年1月に父母が協議離婚し、母が家を出た後、高校の遅刻欠席を繰り返すなど生活が乱れ始め、平成7年2月には、出席日数が足りずに留年が確実となったため、高校を中退するに至り、他方家庭内でも継母との折り合いが悪く、父に不満を述べても聞き入れてもらえず、結局父の家を出て母とその内夫のもとで生活するようになった。

平成8年になると、被告人は、友人とともに夜遊びを繰り返し、一人暮らしを始めるようになった。被告人は電機会社に就職し、夜間はガソリンスタンドでアルバイトをすればこのような生活も成り立つとの見通しのもとにかかる生活を始めたのであったが、電機会社は就職直後に退職し、アルバイトも思うように収入を得られず、収入の多くを遊興費にあて、家賃や光熱費も払えない状況となった。そのような状況の下、被告人は、女友達と旅行に行く計画を立てたが、家賃等を支払うと到底遊興費までは捻出できず、他人から金員を奪取することでまかなおうと考えて本件に至ったものである。

以上の経過に照らせば、被告人は、自分で見通しを立てて自立的、計画的な行動をとることができず、年齢に比して社会認識が甘いといわざるを得ず、このことは被告人の生育歴とも密接に関連していると思われるのであるが、いずれにせよ、本件はこのような被告人の未熟さが端的に現れた、いわば少年に特徴的な態様の犯行であるということができる。そうすると、可能な限り、少年である被告人の可塑性を視野に入れた処遇を施すことが望ましいというべきであり、このことに、被告人は家庭裁判所への係属歴がなく、定職はなかったもののアルバイトは続けているなど、生活態度の乱れもそれほど大きなものとはいえないこと、本件反抗時には父母の監護が行き届かない状況にあったが、近時は特に父が被告人の監護に意欲をみせるなど、被告人を取り巻く環境も好転しつつあること、少年調査記録によれば被告人は素直な態度で礼儀も心得ていることが窺われること等を総合考慮し、さらに、本件において予想される最刑をも併せ考えるときは、いま直ちに被告人を保護不適と断じて刑事処分に付することは、必ずしも被告人の更生に資する所以ではなく、この際、保護処分による矯正教育を施すのが相当である。

よって、少年法55条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 寺田幸雄 裁判官 伊東武是 大島雅弘)

〔参考2〕処遇勧告書<省略>

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