大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所姫路支部 昭和38年(ワ)229号 判決 1964年8月13日

原告 福山通運株式会社

被告 神姫自動車株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟復代理人は「被告は原告に対し金六六万五、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、別紙訴状および準備書面記載のとおり述べた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決並に敗訴の場合に仮執行免脱の宣言を求め答弁として、別紙答弁書および準備書面記載のとおり述べた。

証拠<省略>

理由

原告が請求原因として陳述する事項のうち訴状の第一ないし第六項および第七項の(1) の事実は当事者間に争がない。

原告は本件事故につき原告会社の運転手訴外山本守之に過失があつたことを自認するとともに、被告バス運転手訴外李鐘煥および同車掌訴外小倉正子に運転上ないし旅客の安全保持上にも過失があり、しかも原告側の過失と被告側のそれとの割合は三と七とを下らないと主張するので、そこで本件事故の運転上の原因および被告側の過失の有無および原告側の過失との割合につき判断する。

成立につきいずれも争のない甲第一号証の一ないし九(いずれも福山簡易裁判所昭和三四年(い)第三七三号被告人山本守之の業務上過失傷害事件の記録より援用のもの)、同第二号証の一、二および乙第二ないし第四号証(いずれも神戸地方裁判所明石支部昭和三五年(ワ)第八号損害賠償請求事件の証人ないし本人尋問調書)、甲第三号証(広島県知事の本件事故貨物自動車についての証明書)、乙第一号証(前記損害賠償請求事件に関する神戸地方裁判所明石支部の判決書)を考察すると次のとおり認定せられる。

一、本件の現場である明石市西王子町一丁目二〇番地先の陸橋は、東方の神戸市方面から西方の姫路市方面に通ずる一級国道二号線を山陽電気鉄道株式会社の電車軌道と立体交叉させるために設けられたもので、全長が約二八〇メートル、中央部が高くそこから東西に向い下り坂になつており、道路の両側には高さ一メートル位の欄干があるが、幅員は六、〇五メートルないし六、一〇メートルに過ぎず、車輛の交通は頻繁で、路面はアスフアルト舖装であるが、本件事故当時かなり凹凸があつた。

二、本件の貨物自動車(以下トラツクという)および乗合自動車(以下バスという)は巾がいずれも二、四五メートル位あり、これがすれちがう場合陸橋上での道路幅員の残りは合計で僅かに一、一五メートルないし一、二メートルしかない。

三、当時一方においては訴外山本守之は右トラツクを運転して西方からこの陸橋に時速三〇キロメートル位の速度でさしかかり、その西端から少し東進した個所にさしわたし三〇センチメートルないし六〇センチメートル、深さ六、七センチメートル位の不規則な形の凹部があつたので、車を右へよせてこれをかわし、その直後前方七〇メートル位の陸橋頂上附近から手前へ下降してくる本件バスを発見したが、自己が車を次第に左へ寄せてゆけば、バスが左側通行を守るであろうことと相まつて、五、六秒後には無事にすれちがえるものと考え、時速二五キロメートル位で進行を続け、他方訴外李鐘煥は右バスを運転して東方から時速二五キロメートル位の速度で本件陸橋の左側を進行して来て頂上附近で七〇メートル前方に訴外山本守之が前記の如くトラツクを運転して来るのを認めたが、同人が被告のバスを避けるため次第に通行区分の左側へ避譲して進行するものと信じ、従つて無事にすれちがえるものと信じ、そのまま進行を続け、互の間が四、五メートル位にせまつたとき互に接触の危除を感じてそれぞれやや左方にハンドルをきりブレーキを踏んだが及ばず、本件両車接触の事故を生じた。

以上の事実が認められる。前記各証拠中右認定に反する部分はそれぞれ他の証拠に照らして採用できない。他に右認定を動かすに足る証拠はない。

してみれば、以上のように道幅が狭隘な道路においてこのような大きな自動車二台をすれちがわせようとする場合、右のような短時間のうちに相接近すれば、陸橋の欄干又は対向自動車若しくはこれに乗車している者等の間で接触、衝突等の事故が発生する危険が少くないから、運転者は安易に相手の避譲措置に期待することなく、極めて慎重な注意を用いて対向車の進路、速度、動向を注視するとともに、速かに自己の車輛を道路の左側に寄せるのは勿論、客観的に安全を確認しうる場合を除いて、いつでも停車できる程度に徐行をなし、もつて前示危険の発生を未然に防止する義務がある。従つて本件トラツクの運転者山本守之および本件バスの運転者李鐘煥にもこの前方注視義務および事故回避の義務に反する過失があるものといわなければならない。然しその過失の程度については李鐘煥は前示認定の如くその通行区分(左側通行)を守つていたのに反し、山本守之は前示凹部を避けて対向車の僅か七〇メートル前方で一旦中央ラインを大幅に越えて道路の中央部に出たのであるから、李鐘煥の一に対し山本は三と認めるを相当と思料する。従つてこの点に関する原告の主張は採用できない。

次に原告は被告運転者李鐘煥および車掌小倉正子に安全保持上の過失があると主張するので、この点につき考察する。

前示甲第一号証の一、二、八および乙第一、三、四号証の各記載によると、次の事実が認められる。

一、訴外上林勘一の乗車していたバスは左右両側および後方から各中央へ向つて一列に座るようにつくられたいわゆる三方シートで、右訴外人はそのうち進行方向の右側座席のほぼ中央辺(右側後車輪の上のあたりで、後部から三番目の窓のところ)に、右足をあぐら様にシートの上にのせ、身体を進行方向に向つてやや左に向けて座り、右肘をバスの窓枠にのせていた。

二、本件トラツクの車体の一部は右バスの上林勘一の座つていたところの窓とその次の(後部から二番目の)窓の間のたて枠の外側下端部外一、二ケ所と接触した。その際上林の右前はく部に本件トラツクの運転台とその後部荷台との間にある荷台にほろをかける場合の金具附近が接触して、その中央辺の外側が一五センチメートル位の不正形にえぐりとるように傷つけられた。

右のとおり認められる。

前示甲第一号証の五および七には右認定に反し、訴外上林勘一が窓から肘を出していた旨の記載があるが、これは信用できない。他に訴外上林勘一において、バスの窓枠に右腕を折つてのせ、その肘並に前はくおよび上はくの一部を窓から外へ水平又は下方に突き出していたことを認むべき証拠はない。

当時の上林の肘の状態が右認定の如くである以上バスの運転手の李鐘煥は固より、車掌の小倉正子において、特に上林に対し注意を与えなかつたことをもつてバス運行上の安全保持につき過失があつたものとはいえない。(従つて被告会社についてもこの点については責任はないものというべきである。)

そこで原告主張の求償権の成否について検討する。

本件のように双方の自動車の運転者の過失により発生した事故については、双方の運転者(本件ではトラツクの山本守之とバスの李鐘煥)とは民法七一九条第一項によつて共同不法行為者として連帯責任を負うべきは明らかである。而して弁論の全趣旨によれば、本件事故は原被告共自動車の保有者としてその運行によつて発生したものであるから、原被告共自動車損害賠償保障法第三条によつて訴外上林勘一の蒙つた損害につき賠償の責に任ずべく、両者の関係は前記民法の規定を類推して連帯債務であると解するを相当とする(大正三年一〇月二九日大判、民録二〇輯八三四頁参照)。

従つて両者の求償関係につき民法四四二条第一項の適用ありと解すべきところ、成立につき争のない乙第五号証によると、被告は昭和三四年七月二〇日に訴外上林勘一から本件損害賠償債務の免除を受けたことが認められるので、原告が大阪高等裁判所における裁判上の和解により昭和三八年二月二六日右訴外人に損害賠償金九五万円を支払つたこと(このことは前記の如く当事者間に争がない)により被告との共同の免責を得たものといえない。又原告は前記訴訟の控訴審係属中の昭和三七年九月八日被告に訴訟告知をしたことも前記の如く当事者間に争がないが、これ亦前記債務免除の後のことであるから、右訴訟告知をもつて被告に対抗し得ないものというべきである。

よつて原告の訴外上林勘一に対する損害賠償債務につき被告との共同の免責を得たることを事由とする本訴求償の訴は結局理由なきに帰するので、これを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

別紙 訴状

当事者の表示<省略>

請求の趣旨<省略>

請求の原因

一、原告は貨物自動車による貨物運送等の業を営む株式会社であり、被告は乗合自動車による旅客の運送等の業を営む株式会社である。

二、昭和三三年八月二九日午前七時五分頃、明石市西王子町一丁目二〇番地先明姫国道陸橋上において、神戸方面から同陸橋を西進する被告所有乗合自動車(兵二―あ〇九六〇号)と姫路方面から同陸橋を東進する原告所有の貨物自動車(広一―あ一三八二号)とが接触事故を起し、その結果、被告自動車の乗客訴外上林勘一(当時四四年)が右手前はく部開放性複雑骨折等の傷害を受けた。

三、右当時、被告の乗合自動車は被告の被用者たる訴外岩本和三こと李鐘煥が運転して被告の旅客運送業務に従事していたものであり、原告の貨物自動車は原告の被用者たる訴外山本守之が運転して原告の貨物運送業務に従事していたものである。

四、昭和三五年一月二六日、前記訴外上林勘一は原告に対し損害賠償請求の訴訟を提起し、神戸地方裁判所明石支部に係属した(同支部昭和三五年(ワ)第八号)。

その請求原因の要旨は、前記接触事故は訴外山本(原告被用者)の過失に基因するものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により原告に対し同訴外人の蒙つた治療費、得べかりし利益の喪失、精神的苦痛等の損害賠償として計金一、六四八、三一一円および遅延損害金の支払を求める、というのである。

これに対し、原告は、右接触事故は専ら本件被告の被用者たる訴外李および訴外上林自身の過失によるものであり原告側には過失がない、と主張して争つたが、同裁判所は、昭和三七年二月二二日、判決を言渡し、原告に同訴外人に対し金一一〇万円および昭和三七年一月一日以降完済にいたるまで年五分の遅延損害金の支払義務あることを認めてその支払を命じた。

その理由の要旨は、原告の被用者たる訴外山本に前方注視義務および事故回避義務に反する過失があるから訴外李にも過失があるにしても、原告は自動車損害賠償保障法三条による損害賠償義務を免れない、というのである。

五、原告は右判決を不満とし、昭和三七年三月七日、大阪高等裁判所に控訴を申し立てた(同裁判所昭和三七年(ネ)第二八三号)。

右控訴の係属中である昭和三七年九月八日、原告は、民事訴訟法第七六条に基き、被告に対する訴訟告知書を同裁判所に提出し、同書面はその頃被告に送達された。しかし、被告は右訴訟に参加しなかつた。

六、昭和三八年二月二六日、大阪高等裁判所において、原告は訴外上林勘一と前記訴訟につき裁判上の和解をなし、その和解条項に基き、同日、同訴外人に対し金九五万円を支払つた。

七、本件接触事故の態様および原因は次のとおりである。

(1)  本件の現場である陸橋は、東方の神戸市方面から西方の姫路市に通ずる一級国道二号線を山陽電気鉄道の電車軌道と立体交叉させるために設けられたもので、全長約二八〇メートル、中央部が高くそこから東西に向い下り坂になつており、道路の両側には高さ一メートル位の欄干があるが、幅員は六、〇五メートルないし六、一〇メートルに過ぎず、路面はアスフアルト舗装であるが、かなりの凹凸があつた。

(2)  前記日時分頃、訴外李は、被告所有の前記乗合自動車(以下神姫バスという)を運転して、東側から同陸橋を登り切り西側下り部分を下降し始めた際、約七〇メートル前方に、後記の如く道路中央の凹部をまたいで登つて来る原告所有の貨物自動車(以下福山通運トラツクという)を発見した。そのとき、神姫バスは道路中央線を約一メートル越え、すなわち道路中央からやや南(進行方向に向つて左)附近を時速二五キロメートル位のスピードで下降していた。このような場合、自動車運転者としては、すみやかに自車を道路左側に寄せて安全にすれ違えるだけの間隔を作るはもちろん、双方自動車の幅に比し幅員が甚だ狭い道路であるうえに、自車は坂を下つているのに対し相手車は坂を上つて来るのでありしかも相手車が道路中央寄りを進行していることを現認しているのであるから、衝突の危険を避けるため最徐行し、安全にすれ違えることを確認してから進行する義務があるのに、訴外李はこれを怠り、福山通運トラツクが徐行し北側へ避譲することを漫然期待したのか、アクセルを切つていわゆるエンジン、ブレーキによりやや減速し、且つハンドルを僅かに左へ切つたのみでそのまま約三〇メートル進行した過失により福山通運トラツクと衝突する寸前になつて危険を感じ、急停車の措置を取るとともに急激にハンドルを左へ切つて衝突を回避しようとしたが及ばず、自車の進行方向に向つて右側後車輪上部の窓附近の車体を福山通運トラツクの同右側前部のバツクミラーに衝突せしめた。

(3)  他方、訴外山本は、福山通運トラツクを運転して同時刻頃西側から本件陸橋に差しかかつたところ、陸橋へ入つて間もなくの道路中央北(進行方向に向つて左)寄りにすり鉢形の凹部があつたので、バウンドを避けるため一旦道路中央に出て右凹部を左右車輪の間にまたいで進行し、その後徐々に車を左へ寄せつつ時速二五キロメートル位のスピードで陸橋を上つているとき、約七〇メートル前方に、前記のとおり道路中央附近を下降して来る神姫バスを発見した。かかる場合自動車運転者としては、すみやかに自車を道路左側に寄せるだけでなく、双方自動車の幅に比し幅員が甚だ狭い道路であるうえ、対向車が道路中央寄りを進行していることを現認しているのであるから、衝突の危険を避けるため十分に徐行し、安全にすれ違えることを確認してから進行する義務があるのに、訴外山本は、自車を道路中央線より左側へ寄せただけで徐行の義務を怠り、時速約二〇キロメートルのスピードで進行し、神姫バスと衝突する直前になつて危険を感じ、急停車の措置を取るとともに更にハンドルを左へ切つて衝突を回避しようとしたが及ばず、自車の進行方向に向つて右側前部フエンダー上部のバツクミラーを神姫バスの前記車体部分に衝突せしめた。

(もつとも原告は、訴外山本の運行方法には過失はなかつたと考えているのであるが、前記神戸地方裁判所明石支部の判決および同訴外人にかかる業務上過失致傷被告事件が確定している事実を尊重し、右のとおり先行自白をするものである。)

(4)  本件神姫バスの乗客用座席は、左右および後部に「コ」の字形になつたベンチ式座席で、訴外上林勘一は、その右側座席(前記衝突部分内側)に座り、身体をやや右側、すなわち神姫バスの進行方向にねじるようにして、半開きになつた窓の窓枠に右腕を折つてのせ、その肘ならびに前はくおよび上はくの一部を窓から外へ水平または下方に突き出していた。当時、神姫バスには被告の被用者である訴外小倉正子が車掌として乗車していたが、一般旅客用乗合自動車の運転者および車掌としては、ことに本件陸橋のような狭隘で交通頻繁な道路を進行する場合には、すれ違いの際の接触事故を回避するため、旅客が身体の一部を車外に出していないかどうかに注意し、これを発見したときは直ちに制止するべき義務があるのに、訴外李および小倉はこの注意義務を怠り、従つて訴外上林が前記のように右腕の一部を窓外に出しているのを制止せず、よつて前記神姫バスと福山通運トラツクの衝突により、同人の右腕に前記のとおりの傷害を負わせた。

八、すなわち、訴外上林の前記傷害は、訴外李および同山本の各自動車運転上の過失ならびに訴外李および同小倉の旅客の安全保持上の過失の競合により発生したものであり、同人等は共同不法行為者として、訴外上林の蒙つた損害につき連帯して損害賠償義務を負うものである。

従つて被告は神姫バスの所有者並びに訴外李および小倉の使用者として、また原告は福山通運トラツクの所有者および訴外山本の使用者として、それぞれ自動車損害賠償保障法第三条および民法第七一五条により、右損害につき連帯して損害賠償をする義務がある。

九、原告は、前記のとおり訴外上林に対し金九五万円を単独で支払い被告のため共同の免責を得たことにより、被告に対しその負担部分につき求償権を取得した。しかして、その負担部分は、訴外李および同小倉の過失の程度と訴外山本の過失の程度との対比により決すべきところ、前二者の過失は七対三あるいはそれ以上の差で後者の過失よりも大である。

よつて原告は、被告に対し、前記九五万円の一〇分の七である金六六万五、〇〇〇円の求償および訴状送達の日の翌日から右完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

別紙 答弁書

当事者の表示<省略>

請求の趣旨に対する答弁<省略>

請求の原因に対する答弁

一、請求原因第一項はこれを認める。

二、同第二項はこれを認めるも接触事故を起したのは原告会社の車である。

三、同第三項はこれを認める。

四、同第四項はこれを争わない。

五、同第五項も亦、その通りであるが、被告側には何ら過失なき故をもつて右訴訟に参加をしなかつたものである。

六、同第六項はこれを認める。

七、同第七項中(1) はこれを争わない。同(2) 乃至(4) の過失の態様はこれを争う。

訴外上林勘一がその肘並に上はく及び上はくの一部を窓から外へ水平又は下方に突き出していたというが如きは事実をまげ、前記判決の事実の認定にも反するものである。右事故の発生原因は左の通りで被告側運転手に過失はなく、従つて被告に責任はない。

原告の運転手山本守之は原告会社の業務として同会社の大型貨物自動車広一あ一三八二号を時速約二五キロメートルにて運転して昭和三三年八月二九日午前七時五分頃兵庫県明石市西王子町一丁目二〇番地先明姫国道陸橋を東進中前方約七〇メートル右陸橋右側中央寄りを被告会社の乗合自動車が反対方向から進行して来るのを認め、これとすれちがいをするに際し陸橋の巾員は六メートル余で狭隘であり、右乗合自動車には多数の乗客もあるのでその動行に十分注意をし、出来る限り左側に寄るか又は一時停車して両車間の間隔を十分に保ち安全を確認し、且ついつにても急停車し得るよう徐行してすれちがいによる危害の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務あるに拘らずこれを怠り、依然同一速度で進行し、前記の如き予防措置をとらず、右乗合バスに近接してすれちがいをした過失により自己の運転する自動車の右うしろ写鏡を前記乗合バスに乗客中の上林勘一の肘に激突せしめ、よつて同人に対し加療一年以上を要する右前はく開放性複雑骨折等の傷害を負わしめたものである。

八、請求原因第八、九項はこれを否認する。

被告会社の運転者に過失がないので原告の請求は失当である。

又、仮に過失があるとしても被告がその十分の七を負担すべき理由はない。

別紙 準備書面

原告 福山通運株式会社

被告 神姫自動車株式会社

右当事者間の御庁昭和三八年(ワ)第二二九号求償請求事件について原告は、従来の主張を補充するため、次のとおり弁論を準備する。

第一本件接触の原因について

一、原告主張の日時、場所において、被告所有の本件乗合自動車(以下神姫バスという)と原告所有の本件貨物自動車(以下福山通運トラツクという)とが接触事故を起したことは、証拠上明白であり、被告も認めるところである。しかし、その接触がどのようにして生じたか、接触の部位および接触時の両車の位置関係等については、原被告提出の証拠が矛盾し、前訴の第一審判決(乙第一号証)も十分な事実認定をしていない。

ことに、接触直前の両自動車の運行状況および接触の態様については、関係者の供述が正面から対立する。

二、神姫バスの運転者李鐘煥の証言調書(乙二号証)、同車掌小倉正子の証言調書(乙三号証)、同乗客野口忠一の証言調書(乙四号証)は、神姫バス側供述としてほぼ一致する。すなわち、

「神姫バスはずつと道路南側を走つて来て、すれ違うときにはそれ以上南へ寄る余地がないほどであつた(李)福山通運トラツクは陸橋南側(李)ないし七分三分位南寄り(野口)を東進して来て、神姫バスの前方二〇米(李)ないし三〇米(野口)のところで北へハンドルを切り、すれ違おうとしたが及ばず、接触した」

というのである。

これを図示すれば、第一図のとおりとなる(但し、縮尺1/200。道幅および両自動車の車長、車幅は、甲一号証の一、同号証の八、同第三号証によつた)。

第一図<省略>

三、これに対し、福山通運トラツクの運転者山本守之の供述調書(甲一号証の五および六)、同人の証言調書(甲二号証の二)、同助手三島圭の供述調書(甲一号証の四)、同人の証言調書(甲二号証の一)は、福山通運側供述としてほぼ一致する。すなわち、

「福山通運トラツクは、陸橋の西端中央附近に凹部があつたので、一旦道路中央へ出てこれをまたいで通過したあと、除々に北へ寄せて東進し、すれ違う直前には完全に道路北側に入つていた。神姫バスは、中央線をまたぎ、右側車輪(進行方向に向つて、以下同じ)が約二尺ないし二尺五寸位中央線北側に出る程度の位置で除々に南へ寄りながら西進して来て、福山通運トラツクに接触しそうになつて急にさらに南へハンドルを切つたが及ばず、接触した」

というのである。

これを図示すれば、第二図のとおりとなる(但し、縮尺等は第一図と同じ)。

第二図<省略>

四、しかし、神姫バス側の供述が事実に反するものであることは、第一図を一見するだけで明らかであろう。

本件事故の際福山通運トラツクの右側前部フエンダー上に取り付けてあつたバツクミラー(甲第一号証添付の写真御参照)が神姫バス車体右側後部附近に触れてとばされたことは、当事者間に争いなく、証拠上も明白である。しかるに、もし、李、小倉、野口等の言うとおりであれば、第一図に見るとおり、そのような接触が生ずるはずがない。物理的に不可能なのである。

右の争い得ない事実、すなわち、福山通運トラツク右前端のバツクミラーが神姫バス車体右側後部に当つたという事実に基ずいて考えれば、本件接触直前の両車の運行状況および接触時の位置関係は、ほぼ前掲第二図のとおりであつたと考えるほかはない。

従つて、被告の被用者たる神姫バス運転者訴外李に訴状第七項(2) 記載の如き過失があつたことは明白であると信ずる。

第二訴外上林勘一の肘の態様について

一、訴外上林勘一は、本件接触事故の際、その右手肘ならびに前はくおよび上はくの一部を神姫バス窓から外へ下方に突き出していたものである。

被告は右事実を否認し、前訴第一審判決は、右訴外人の全体の姿勢がほぼ原告主張どおりであることを認めながら、肘の位置については、「半開きの窓の窓枠に右肘をのせて前はく部を立て、その手背部を窓ガラスの内側にあてていたもので、その前はく部の一部の外側が窓の外縁をややこえて外へ出ていた」に過ぎないとしている。

二、しかしながら、

(1)  訴外上林の受傷が福山通運トラツクの前記バツクミラーに衝突したために生じたものであることは、当事者間に争いがない。

(2)  しかも、その受傷部位は、右手前はく部中央附近(肘から手首の方へ約一二糎位のところ)であつて、このことは前訴当事者間で争いなく、前訴判決もその旨認定している。

(3)  しかるに、福山通運トラツクのバツクミラーの高さが地上一米六〇であること、訴外上林が肘を置いていた神姫バス窓の高さが地上一米七〇であることは、証拠上明白である(甲第一号証および同添付の写真御参照)。

(4)  また、右窓は「半開き」になつていたもので、このことは前訴判決の認定しているとおりである。

右の(1) ないし(4) の事実を綜合すると、訴外上林が、原告主張のように、その右手肘を外へ突き出していたことは明らかである。蓋し、もし突き出していなかつたとすれば、神姫バス窓、従つてその内側の肘よりも一〇糎低い前記バツクミラーが同人の前はく部に衝突するはずがないからである。ことに、前訴判決のように、訴外上林が窓枠に肘を乗せて前はくを立てていたものとすれば、受傷部位とバツクミラーとの間には地高二〇糎の差位があることになる。唯一の可能な解釈は、同訴外人がその右肘を折り、腕半分を窓から外へ、しかも下方に突き出していたと考えることである。

三、なお、刑事事件として本件を処理した検察庁がこの点について原告主張どおりの考え方をしていたことは、甲第一号証の七のとおりである。

四、右のように、訴外上林は本件陸橋のごとき狭隘で交通頻繁な道路を進行する自動車から腕を突き出すという危険な姿勢をしていたのであるから、これを発見せず、従つて注意しなかつた被告の被用者訴外李および同小倉には、訴状第七項(4) 記載の過失があつたことは明白である。

第三過失の軽重

一、以上により、本件接触に際し神姫バス側に過失のあつたことは否定し得ないところである。

被告自身も、その提出する乙第五号証に明らかなように、かつてはこの過失を自認していた。すなわち、被告は、本件につき自動車損害賠償責任保険に基づく保険給付を受けているのである。

右保険給付は、被告に訴外上林に対する損害賠償義務のあることを前提としているのであるから(自賠法第一一条)被告が自らその給付を受けて上林に交付したにせよ、上林が被害者請求をするのを容認したにせよ、被告が自己に上林に対する損害賠償義務のあること、すなわち本件事故に際し自己の被用者たる前記李および小倉に過失のあつたことを認めたものにほかならない。それとも被告は、自己に右保険給付を受ける権利がないのに、これをあるかの如く保険会社を欺いて、保険金を詐取したというのであろうか?

二、しかして、神姫バス側の過失と福山通運トラツク側の過失とを比較衡量すれば、前記李の自動車運転上の過失と同山本のそれとを比較するだけでも、前記接触の原因、態様からして、前者の方がはるかに大である。神姫バス側には、さらに李および小倉の旅客の安全保持上の過失が加わつているのであるから、結局神姫バス側の過失が七対三あるいはそれ以上の差で福山通運トラツク側過失よりも大であるとの原告主張は、十分に首肯していただけるものと信じる。

第四被告の抗弁について

一、(求釈明)

被告は、「訴外上林勘一との間に示談成立し、損害賠償債務につき免責を得た」と主張する。

しかし、原告は本訴において被告に対し求償を求めているのであつて、訴外上林の損害賠償請求権を行使しているものではない。

仮りに被告主張の免責があつたとしても、それがどのような免責なのか、その免責が如何なる理由で原告の求償権を消滅させることになるのか、被告の釈明を求める。

二、被告の右抗弁に対しては、被告の釈明を待つてさらに反論するが、さしあたり、その免責の抗弁がどのようなものであるにせよ、それは民事訴訟法第七八条、第七〇条のいわゆる参加的効力に妨げられて、原告に対し主張し得ないものであることを附言する。

別紙 準備書面

原告 福山通運株式会社

被告 神姫自動車株式会社

右当事者間の御庁昭和三八年(ワ)第二二九号求償金請求事件について原告の昭和三九年五月九日受付の準備書面に対し左の通り陳述する。

一、同準備書面第一の一、二、三、四は原告独自の立場から前訴の第一審判決を攻撃するものであり、殊に二、の第一図、三、の第二図の如きは原告が勝手に想定して作成したもので何ら価値あるものではない。

二、同第二、「上林勘一の肘の態様について」と題する一、二、三の如きも同様で前訴の判決の採用した証拠などを無視し、原告が単なる想定をしたに過ぎないもので、かかる主張はいずれもこれを否認する。

又、同第二の四の被告の被用者である運転手が乗客の姿勢について注意義務がある等ということは問題外である。

運転手は交通の安全を期するため、道路上の注意を怠つてはならないもので、うしろを振り返つて乗客にまで気を配るが如きは運転手としての注意義務を却つて怠ることになる。

又車掌小倉が注意しないことに過失があるというが、前記上林は車窓外に腕を出していたものでないことは前訴判決によるも明らかで原告の空想したような事実を発見することは不可能な筈である。

三、被告の被用者に過失のあつたことはこれを否認する。

生活困窮者である訴外上林に重大な傷害を与え、治療費、生活費にも事欠く状態に放置しておきながら保険金云々というが如きは誠に非人情な話であり、右保険金も上林が交付を受けたがため原告はその範囲に於て賠償を免れているものである。

四、準備書面第四の「被告の抗弁について」釈明を求められているので左にこれを釈明する。

(1)  被告にはその被用者に過失がないため損害賠償に応ずべき義務はないのであるが、原告が非人情にも保険金の交付取領手続をせざるのみか治療費までも支払わないので窮余保険金の交付を取けその際被告は前記上林に対し治療費、生活費、訴訟費用等を立替えてやつたものであるが、右上林も被告に過失のないことを認め且つ念のため右以外何らの請求を行わないことを誓約したものである。(乙第五号証)

(2)  原告は「被告に対し求償を求めているので訴外上林の損害賠償請求権を行使しているものではない」と主張しているが、もとより被告も原告がそのような請求権を行使していると主張抗弁したことはない。

被告は被告の被用者に過失はないが、仮にあるとしても免責を受けて居ると抗弁しているのである。

原告はその免責が何が故に求償権を消滅させることになるのかと釈明を求めているが、民法第四四二条によれば求債権を行使するためには

(イ) 共同の免責を得ること。

(ロ) 自己の出捐によること。

(ハ) 各自に負担部分あること。

が求償権行使の要件になつている。従つて被告が免責を得ている以上、被告の負担部分は消滅しているのであるから求償権行使の要件を欠くことになるので求償権は行使できないと主張するものである。

(3)  又、同条によれば「共同の免責を得ること」が求償権の行使の要件になつているが、既に免責により負担部分のない被告にとつて原告の出捐によつて共同の免責を得たということはあり得ないからこの点に於ても求償権の行使は出来ない。

(4)  前訴の判決乙(第一号証)の理由によるも被告会社の運転者の過失については何ら判断をしていないし、かえつて本件事故は原告の運転手の過失を否定し得るものでないとして原告側運転手の過失を前提として損害賠償を命じているもので、これによつてみても右損害賠償は原告運転手の過失に基き損害賠償を命じられたに過ぎないもので被告会社のために共同免責を得たというが如き性質のものではない。この点からしても求償権行使の要件を欠いているというべきである。

(5)  又、原告は

「免責の抗弁がどのようなものであるにせよ、民訴法第七八条、第七〇条の参加的効力に妨げられて原告に対し免責の抗弁はできない」と主張しているが被告は被告側に過失がなく、仮にあるとしても免責を得ている以上訴訟参加をする必要を認めないから参加しなかつたものである。

しかも前記上林は被告会社に対し過失あることを主張していたものでもなく、前訴判決も被告会社に過失あることを認定しているものでもない。

従つて右上林と原告間の損害賠償事件に被告会社が参加すべき理由も必要もないもので参加的効力云々ということは何を意味するのかかえつて解釈に苦しむ次第である。

尚前訴の第二審は判決をしていないのであるから第二審に於けるその参加的効力を云々すること自体が法律的な意味を有しないものである。

右陳述する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例