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神戸地方裁判所姫路支部 平成8年(わ)223号 判決 1996年10月22日

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成八年四月五日午後四時二五分ころ、肩書住居地のパチンコ甲野従業員寮一階被告人宅において、当時同棲していた内妻A子の子供であるB子(当時四歳)に対し、同人が一三歳未満の者であることを知りながら、同人の陰部を舐めたり、同人に自己の陰茎を舐めさせるなどし、もって、一三歳未満の女子に対してわいせつな行為をしたものである。

(証拠の標目)《略》

(事実認定についての説明)

被告人は、捜査段階から一貫して本件わいせつ行為をしたことはない、と供述しているので、以下に有罪を認定した理由を説明する。

一  争いのない事実

平成八年四月五日午後四時二五分ころ、パチンコ店の休憩時間に自宅に戻って仮眠していた被告人の布団にB子(当時四歳)が入ってきてしばらく被告人とB子が一緒にいたこと、その後午後四時五〇分ころ、被告人が出勤した後、B子の話から被告人のわいせつ行為の疑いを持った母親のA子が、被告人の勤務先のパチンコ店に電話してわいせつ行為をしたのではないかと難詰し事実を確認しようとしたところ、被告人は「今から帰る。」と言ったままなかなか戻らなかったため、A子は同日午後六時前ころ、B子を連れて被告人宅を出て親族宅などに身を寄せ、その後被告人の厳重処罰を希望して、五日後の四月一〇日にB子の供述状況をテープに録音し、同月一二日姫路警察署に被告人を告訴するとともに右テープを任意提出したことの各事実については、被告人も特に争っておらず、証拠上も明らかである。

二  そうするとA子がB子から被告人がわいせつ行為をしたらしいとの話を当日中に聞き知って、強い衝撃を受け、ただちに被告人に連絡するとともにB子を連れて家出したことは明らかであるから、A子がなんらかの動機で全く根拠のない事実をねつ造しているという疑いはなく、同女がB子から被告人の異常行動について本件当日に告白を受けた事実は動かし難い。

従って本件犯行の存否については、専らB子の母親に対する供述内容の信憑性にかかることとなるが、B子が幼小であり、実母と生活を共にしているため実母の影響を受けやすい点を考慮すると、一般的には、弁護人指摘のようにその信用性の検討には、慎重を要するといわざるを得ない。

そこでまずB子の供述能力について検討すると、当公判廷において取り調べた、A子が五日後にB子から聞き出す形式の問答を録音したテープ(平成八年押第七五号の符号1)及び兵庫県姫路児童相談所作成の前記書面によれば、B子の知的発達能力や発語能力に特に問題点は認められず、B子には簡単な事実に関する記憶力や供述能力は十分あると認められる。

次に録音されたB子の供述内容について検討すると、たしかに、終始A子が主導してB子から聞き出そうとしており、その意味でA子の被告人に対する強い反発がうかがえるし、強い誘導によってようやくB子が供述している部分が認められる。

しかしながら、その内容を子細に検討すると、被告人が判示行為に及んだとB子が供述している部分は、そのような誘導によってなされたものではなく、B子が具体的、かつ自発的に供述していると認められ、四歳の幼児が実母の影響下で被告人を罪に陥れるためにことさらに虚偽を述べているとは到底考えられない迫真性を有しており、高い信用性が認められる。

A子は、ほかの日にも同じような行為があったかと聞くなどして、他の日の事実との混同を避けるように聞いており、別件との混同も考えられない。

右のような録音テープの信用性に加え、B子が検察官に対しても同様の供述を継続している点を併せ考慮すると、判示事実は優に認定できるといわなければならない。

三  これに対して、被告人は一貫してB子に対して一切わいせつ行為をしたことはない、と供述するものの、それまで一緒に生活しトラブルもなかったB子がなぜ突然被告人に不利益な供述をするに至ったかについて全く想像もできない、というのであって、首肯できる部分がなく、被告人の右否認供述のみによっては、前記B子の供述内容の信用性を左右することはできない。

よって判示のとおり認定した次第である。

(法令の適用及び量刑の事情)

被告人の判示行為は、刑法一七六条後段に該当するので、所定刑期の範囲内で犯情を考慮すると、本件犯行は、内妻の連れ子に対するわいせつ行為であるが、その態様は悪質であり四歳の幼児の将来に対する悪影響は大きく、母親であるA子の被害感情が厳しいのも当然であって、犯情は悪いというほかはない。

もっとも本件犯行は、隣室に実母のA子がおり、物音が聞こえる状態でなされており、犯行時間もせいぜい約一〇ないし一五分程度と考えられ、また欺罔的手段のみが用いられ傷害等に至る危険性は少なかったと考えられること、被告人にはこれまで前科は全くないこと、約五か月間身柄を拘束されそれなりの事実上の制裁を受けたこと、否認を継続したものの、幼児の証人尋問という事態を避けたいという弁護人の説得を受け入れて、録音テープと被害者の供述調書の取調べに最終的に同意しており、一定の理性を示したこと等被告人のために酌むべき諸事情もあるのでこれらを総合したうえ、被告人を懲役一年六月(検察官の求刑・懲役二年)に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中九〇日を右刑に算入するとともに、同法二五条一項、二五条の二第一項前段を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 安原 浩)

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