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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1514号 判決 1989年11月15日

原告

上杉純平

ほか二名

被告

岡部雅利

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告上杉純平(以下「原告純平」という。)に対し、金四〇六七万六一〇〇円及び内金三七八五万六一〇〇円に対する昭和六一年四月四日から右支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告大森康照(以下「原告康照」という。)及び同大森美代子(以下「原告美代子」という。)に対し、各金一〇六万三三六六円及び内金九七万三三六六円に対する昭和六一年四月四日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

発生日時 昭和六一年四月一日午後一〇時一〇分ころ

発生場所 神戸市中央区小野柄通四丁目一番四号先の国道二号線西行車線上

被害者 上杉由起子(以下「由起子」という。)

事故の態様 前記道路を北から南に向かつて歩行横断中の被害者に、東から西に走行中の被告運転の普通乗用自動車(以下「加害車」という。)が衝突し、路上に転倒させたものである。

事故の結果 由起子は本件事故により脳挫傷(脳幹損傷)、頭部外傷、頭蓋骨骨折、くも膜下出血、左大腿骨骨折の傷害を受け、同日、西病院に入院したが、同月三日同病院において死亡するに至つた。

2  責任原因

被告は、前方注視義務違反の過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 由起子の損害 合計金九三二六万二一五四円

(1) 死亡に至るまでの傷害による入院費等 金八九万〇九三五円

(2) 死亡による損害 金九二三七万一二一九円

(a) 逸失利益 金八九一六万四八〇〇円

由起子は、「上杉摩耶」なる雅号で一〇数年来画家として活動し、生前、絵画教師として数人の弟子から一か月金三〇万円の授業料を得ていたほか、実父の原告康照の経営するクラブのママとして一か月金三〇万円の収入を得ており、右収入額から独身の成人の女性の生活費として相当である四〇パーセントを控除してもなお年間金四三二万円の収入があり、死亡時の年齢は二七歳であるから、本件事故に遭遇しなければ、平均余命の範囲内で満六七歳までの四〇年間就労が可能であつたと推定されるので、そのホフマン係数二〇・六四を乗じて中間利息を控除すると、逸失利益は金八九一六万四八〇〇円となる。

(b) 葬儀費用 金三二〇万六四一九円

(3) 相続

原告純平は、由起子の実子であるところ、由起子の死亡により同人の右損害賠償請求権の金額金九三二六万二一五四円を相続した。

(二) 原告らの慰謝料

原告純平は由起子の実子であり、同康照はその実父、同美代子はその実母であつて、いずれも由起子の死によつて筆舌に尽し難い精神的苦痛を被つたものであるところ、かかる原告らの苦痛に対する慰謝料としては、原告純平につき金一三〇〇万円、同康照につき金三〇〇万円、同美代子につき金三〇〇万円がそれぞれ相当である。

(三) 過失相殺

本件事故における由起子の過失割合は四割とするのが相当であり、原告らの損害賠償請求権の全額(原告純平について金一億〇六二六万二一五四円、同康照及び同美代子について各金三〇〇万円)から、四割を減額すると、原告純平について金六三七五万七二九二円(円未満切捨て)、同康照について金一八〇万円、同美代子について金一八〇万円となる。

(四) 損害のてん補

(1) 原告らは、本件事故により右の通り合計金二七八五万四四六〇円の支払いを受けた。

(a) 原告ら三名に対する保険金 合計金二二五二万五九七五円

(b) 被告による葬儀費用支払金 金二四九万七五五〇円

(c) 被告による治療費支払金 金八三万〇九三五円

(d) 被告よりの支払金 金二〇〇万円

(2) 右金額を、原告らの損害賠償請求権の各金額から、原告各自の損害賠償額に比例按分のうえ控除すると(因に原告純平につき九四パーセント、同康照及び同美代子につき各三パーセント)、原告らの残損害額は、原告純平について金三七五七万四一〇〇円、同康照につき金九六万四三六六円、同美代子につき金九六万四三六六円となる。

(五) 弁護士費用

(1) 着手金

(a) 原告純平につき金二八万二〇〇〇円

(b) 同康照につき金九〇〇〇円

(c) 同美代子につき金九〇〇〇円

(2) 報酬金

(a) 原告純平につき金二八二万円

(b) 同康照につき金九万円

(c) 同美代子につき金九万円

4  結論

よつて、被告に対し、原告純平は、金四〇六七万六一〇〇円及び前記3、(五)、(2)の(a)の弁護士報酬金二八二万円を控除した残金金三七八五万六一〇〇円に対する本件事故の発生の日の後である昭和六一年四月四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告康照及び同美代子は、各金一〇六万三三六六円及び前記3、(五)、(2)の(b)(c)の弁護士報酬各金九万円をそれぞれ控除した各残金九七万三三六六円に対する右同日から完済まで右同率の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)(1) 同3(一)の(1)の事実は、金八六万四六六〇円の限度で認め、その余は争う。

なお、右金八六万四六六〇円の内訳は、(イ) 治療費金八二万〇一六〇円、(ロ) 看護料金九六〇〇円、(ハ) 諸雑費文書料等金三四〇〇円、(ニ) 休業損害金一万一一〇〇円、(ホ) 慰謝料金二万〇四〇〇円である。

(2) 同3(一)の(2)の事実はいずれも争う。

原告ら主張にかかる由起子の就労、収入に関する請求内容は、過大かつ不合理なものであるから、本件においては、由起子の事故当時の年齢である二七歳の当該年齢別平均給与月額金一九万二八〇〇円を基礎に同人の逸失利益を積算すべきである。さらに、由起子は本件事故当時離婚し、子の親権者は上杉泰造であつたので、由起子には被扶養者がないものとして、生活費控除を五〇パーセントとすべきである。そこで、以上の数値に新ホフマン係数二一・六四三(就労可能年数四〇年)を乗じ、同人の逸失利益の事故当時における現価を算出すると、金二五〇三万六六二二円となる。

また、葬儀費用としては金七〇万円が相当である。

(3) 同3(一)の(3)の事実のうち、原告純平が由起子の実子であり、由起子の損害賠償請求権を相続したことは認める。

(二) 同3(二)の主張は争う。

原告らの慰謝料合計額は金一三〇〇万円を超えないものである。

(三) 同3(三)の主張は争う。

(四) 同3(四)の事実のうち、原告らが損害のてん補として総額金二七八五万四四六〇円の支払を受けたことは認めるが、その支払金の内訳及び原告らの間における控除の割合については争う。

原告らに支払われた右金二七八五万四四六〇円の内訳は次のとおりである。

(1) 自賠責保険より由起子の死亡に対し(逸失利益、葬儀費用、慰謝料)金二五〇〇万円

(2) 自賠責保険より同人の傷害に対し(原告ら主張の入院費等)金八五万四四六〇円

(3) 被告よりの支払金金二〇〇万円

なお、原告純平は、由起子の損害賠償請求権を相続するものであるのに対し、原告康照及び同美代子は固有の慰謝料請求権を有するのみであるから、損害のてん補による控除の按分比率は、各人の賠償請求額の割合によるのでなく、全体の相当慰謝料額の中でなされるべきである。

(五) 同3(五)の主張は争う。

三  過失相殺の抗弁

1  本件事故現場は、片側五車線、対向車線を含めると一〇車線の幹線道路であり、中央付近が植樹帯の設けられた分離帯で区切られているところ、被告は、事故当日の午後一〇時一〇分ころ、時速約五〇キロメートルで西行第三車線を走行中、おりから、本件事故現場の北側にあたる中央分離帯をこえて、急に西行車線内に入つてきた由起子を約一四・五メートル手前で発見したが、回避の間もなく同人に衝突したものである。ところで、右事故現場は横断禁止場所であり、その標識も設置されていたし、夜間であるのに加え現場近くの中央分離帯に設置された水銀灯が消えており、前方の見通しが困難な状況であつたうえ、由起子は、酒に酔つて歩くのがやつとという状態で、ふらつきながら中央分離帯の植え込み影から急に西行車線に入つてきたものであり、被告としては、夜間、この様な場所での歩行者の出現を予想することはほとんど不可能であつた。このように、由起子は、歩行者として通常果たすべき注意を全く払わない危険極まりない行動に及び、走行する車両に何らの注意も払うことなく、急に西行車線内に入つてきたものであつて、由起子には重大な過失がある。他方、被告は、このように広い車線上で、しかも横断歩道でもない場所に、歩行者が突然進入してくるなどということは、予見不可能あるいは極めて予見困難であつたから、被告の過失は軽微なものというべきである。

2  以上によれば、本件事故における由起子の過失割合は、八割とみるのが相当である。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

被告は、本件事故当時、前方不注視のまま時速六〇キロメートルで被告車を走行させていたものであるところ、たとえ由起子がどの位置に佇立していようとも、前方注視を尽しておれば、夜間であつても本件事故を回避することは極めて容易であり。時速六〇キロメートルの速度で由起子に気付いたのが一四メートル手前であれば、もはや本件事故を回避することは不可能であつた。被告が前方を注視しなかつた原因は、自己の運転進行している場所を把握できず、その位置を確知するべく左右の建物を「キヨロキヨロしながら」運転していたためであり、かかる状態のもとで、制限速度を二〇キロメートルも上廻る速度で走行させた過失は重大である。

このように、たとえ由起子にも過失相殺事由があつたとしても、被告の過失の程度は、これを上廻るものであるから、由起子の過失割合は、前述のとおり四割とみるのが相当である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記録を引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)及び2(責任原因)の各事実はいずれも当事者間に争いがないから、被告は、民法七〇九条、七一一条により、本件事故によつて原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで、原告らの被つた損害について判断する。

1  入院費等 金八六万四六六〇円

原告らが請求する由起子の死亡に至るまでの傷害による入院費等は、金八六万四六六〇円の限度で争いがないところ、右入院費等が原告ら主張の如く金八九万〇九三五円であつたことを認めるに足る証拠はない。

よつて、原告らが請求しうる由起子の死亡に至るまでの傷害による入院費等は、金八六万四六六〇円であり、その余の請求は失当である。

2  逸失利益 金三三二七万九三九三円

(一)  いずれも成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、乙第二八、二九号証、原告大森康照本人尋問の結果により成立を認めうる甲第七号証、原告大森康照本人尋問の結果を総合すると、由起子は、昭和三三年八月一九日生の女性で、本件事故当時満二七歳であつたが、一五歳ころから、水越松南画伯に師事して水墨画(南画)を嗜み、昭和五七年一〇月ころには神戸市内で個展を開くなどしていたこと、同人は、昭和五八年七月一日上杉泰造(以下「泰造」という。)と婚姻し、昭和六〇年八月二三日泰造と協議離婚をしたが、二週間程の別居ののち再び泰造と同棲生活を始め、かかる生活状態が本件事故当時まで続いていたこと、なお、同人は、本件事故当時、実父の原告康照が代表取締役をしている大東物産株式会社の経営するクラブ「祗園」において、ホステス(ママ的な仕事)として稼働していたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  原告らは、由起子の死亡後の逸失利益を算定するうえでその基礎とすべき同人の収入について、由起子が、生前絵画教師として数人の弟子達から一か月金三〇万円の授業料を得ていたほか、前記クラブのママとして一か月金三〇万円の収入を得ていた旨を主張しているところ、いずれも原告大森康照本人尋問の結果により成立を認めうる甲第三号証の一ないし一〇には、由起子が、昭和六〇年四月から昭和六一年三月までの間、少なくとも一〇名の弟子から、絵画教授料として少なくとも毎月合計金三〇万円を得ていたことを窺わせる記載があり、また右同様に成立を認めうる甲第四号証には、由起子が、前記「祗園」のホステスとして、昭和六一年一月から同年三月までの間毎月金三〇万円の給料を支給されていたことを窺わせる記載があり、さらに、原告大森康照は、「由起子が生前弟子に絵画を教えており、本件事故後、同人が遺した弟子のメモに基づいて、原告康照と泰造が手分けして、弟子達に甲第三号証の一ないし一〇を作成して貰つた」旨、また「由起子は、本件事故の一一か月前から「祗園」で稼働し、同人には毎月金三〇万円の給料を支給していた」旨を供述している。

しかしながら、前記(一)で認定のとおり、由起子と泰造は、昭和五八年七月から本件事故当日までの間、協議離婚直後の約二週間を除き、法律上または事実上の夫婦として同居生活を継続していたのであるから、由起子が絵画教師をしていたのであれば、泰造はかかる事実を当然承知していた筈であるところ、前掲乙第二九号証によると、泰造は、本件事故直後の昭和六一年四月一三日、司法警察員に対し、由起子が生前水墨画をやり、個展を開いたことがある旨を供述しておりながら、右同居生活期間中同人が弟子に絵画を教授していたとの事実については全く供述しておらず、かつ、由起子が「祗園」で稼働を始めたのは、昭和六一年三月初めころからである旨を供述し、また、前掲乙第二八号証によると、原告康照自身も、昭和六一年四月一三日、司法警察員に対し、昭和六一年三月初めころから、由起子に「祗園」をやらせていた旨泰造と符合する供述をしていることがそれぞれ認められるから、かかる事実に、前掲甲第三号証の一ないし一〇、同第四号証の形式、体裁をも併せ考えるならば、右甲第三号証の一ないし一〇、同第四号証の各記載内容、前記大森康照の供述はいずれもたやすく信用できず、他に、前記原告らの主張を認めるに足る的確な証拠はない。

(三)  しかして、前記(一)で認定のとおり、由起子がクラブホステスとして稼働していたことを考慮すると、他に由起子の将来の得べかりし利益について主張立証のない本件においては、同人は、経験則に照らし、二七歳から六七歳までの四〇年間平均して賃金センサス第一巻第一表集計の学歴計・産業計・企業規模計による女子労働者の二七歳平均賃金と同程度の収入を得ることができたものと推認するのが相当であり、右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、昭和六一年度における右平均賃金二五六万二八〇〇円を基礎とし、生活費を四〇パーセント控除し(前記(一)で認定の事実によると、由起子は、主婦に準ずるものとして扱うのが相当である。)、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると次のとおり金三三二七万九三九三円(円未満切捨て)となる。

(計算式)

二五六万二八〇〇円×〇・六×二一・六四二六=三三二七万九三九三円(円未満切捨て)

3  葬儀費用 金八〇万円

本件事故と相当因果関係のある損害と認められる由起子の葬儀費用は、金八〇万円をもつて相当と認める。

4  相続

由起子は右損害賠償請求権(合計金三四九四万四〇五三円)を有するところ、原告純平が由起子の実子であることは当事者間に争いがないから、原告純平は由起子の死亡により同人から右損害賠償請求権をすべて相続したものというべきである。

5  慰謝料

原告純平が由起子の実子であることは前記認定のとおりであり、右事実に、前掲甲第五号証の一ないし三、及び弁論の全趣旨によれば、原告康照と同美代子は、それぞれ由起子の実父、実母であること、原告純平は、昭和五九年四月二四日由起子と泰造との間の長男として出生したものであること、そして、原告らは、いずれも由起子の死によつて筆舌に尽し難い苦痛を被つたことが認められ、かかる事実のほか、前記2、(一)で認定の事実、由起子及び原告らの年齢その他本件に現われた諸般の事情を併せ考慮すると、由起子が死亡したことに対する原告ら固有の慰謝料は、原告純平につき金一二〇〇万円、原告康照につき金二〇〇万円、原告美代子につき金二〇〇万円と認めるのが相当である。

6  過失相殺

いずれも成立に争いのない乙第二号証、同四号証(後記信用しない部分を除く。)、同第一八号証ないし第二一号証、同第二五号証ないし第二七号証、同第三〇号証ないし第三二号証、同第四二号証(後記信用しない部分を除く。)、被告本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)を総合すると、本件事故現場は、東西に延びる国道二号線と幅員約五メートルの北行き一方通行の道路がほぼT字型に交差する交通整理の行われていない交差点の付近であり、国道二号線は、植込みが植栽された中央分離帯によつて東行き車線と西行き車線とに区分され、両車線とも幅員一七メートルの五車線の道路であつて、車両の交通量も多く(本件事故当日の午後一〇時五〇分から午後一一時四五分までの間における車両の通行量は一分間に約一六台である。)、同国道には道路標識により歩行者横断禁止の交通規制が行われていたこと、本件事故当時、本件衝突地点のすぐ南側には水銀灯が設置されて点灯されていたものの、本件事故現場付近にはそのほかに道路照明や建物の照明等はなく、中央分離帯上にも水銀灯が設置されているものの消灯されている関係で、本件事故現場付近の西行き五車線のうち、南側寄りの三車線は前記水銀灯の影響で若干は明るい状態であつたが、中央分離帯寄りの二車線はうす暗く、見通しは不良であつたこと、被告は、午後一〇時一〇分ころ、加害者助手席に女友達を同乗させ、時速約六〇キロメートルの速度で、国道二号線の西行き第三車線を三宮交差点方面に向けて進行していたが、地理不案内のため、事故の走行位置を把握することができず、見覚えのある建物でもないかと右遠方の建物の方ばかりを見て進行し、本件事故現場付近にさしかかつて、視線を前方に戻したところ、おりから加害者の前方を右から左(北から南)に横断歩行中の由起子を前方約一四・五メートルの位置にはじめて発見し、急制動の措置を講ずるとともに右に転把するも間にあわず、加害者左前部を由起子に衝突させたこと、一方由起子は、酒に酔い、左右にふらつきながら立つて歩くのがやつとという状態で、前記国道の東行き車線を中央分離帯沿いに東へ向つて歩いていたところ、やおら中央分離帯に上がつて、同分離帯上に植栽された樹木の間を通り、本件事故現場付近の西行き車線におりて、同車線上を北から南へ横断を開始したため、左方(東)から進行してきた加害者に気付かず、これと衝突したこと、以上の事実が認められ、前記乙第四号証、同第四二号証の各記載中及び被告本人の供述中、本件事故当時の加害者の速度が時速約五〇キロメートルであつたとの点は、前掲各証拠と対比してたやすく信用できず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

以上の認定事実によれば、被告は、普通乗用自動車を運転して本件事故現場付近を進行するにあたり、前方左右を注視し、進路の安全を確認すべき注意義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものというべきところ、由起子にも、夜間、歩行者横断禁止の交通規制が行われている幹線道路を、酒に酔い、ふらつきながら道路の安全を十分確認しないで、横断歩行をした過失があるというべきである。

そこで、右認定に基づいて、双方の過失を勘案すると、本件事故の発生についての過失割合は、被告の加害者側が三割、由起子及び原告らの被害者側が七割とするのが相当である。

そこで、原告らの前記損害賠償請求権の全額(原告純平については金四六九四万四〇五三円、原告康照について金二〇〇万円、原告美代子について金二〇〇万円)から、前記認定の過失割合に従い七割を減額すると、原告純平について金一四〇八万三二一五円(円未満切捨て)、原告康照について金六〇万円、原告美代子について金六〇万円となる。

7  損害のてん補 金二七八五万四四六〇円

原告らが、損害のてん補として合計金二七八五万四四六〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右金二七八五万四四六〇円の内訳は、(イ)自賠責保険より由起子の死亡に対し(逸失利益、葬儀費用、慰謝料)金二五〇〇万円、(ロ)自賠責保険より由起子の傷害に対し(同人の死亡までの入院費等)金八五万四四六〇円、(ハ)被告からの支払金二〇〇万円であることが認められる。

そして、成立に争いのない乙第四三号証及び弁論の全趣旨によると、自賠責保険(強制)の支払基準として、死亡による損害のうち遺族の慰謝料は、請求者が三名の場合二名分については、各金一〇〇万円を支払う運用となつていることが認められるから、原告康照及び原告美代子の各固有の慰謝料に対し、前記損害のてん補額金二七八五万四四六〇円のうち自賠責保険より金一〇〇万円づつがてん補され、その余はすべて原告の純平の損害にてん補されたものと認めるのが相当である。

したがつて、原告らの前記損害賠償請求権は、前記損害のてん補により、すべて消滅したものというべきである。

三  以上のとおりであつて、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

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