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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1168号 判決 1993年9月29日

原告

山本静夫

被告

豊浦康史

主文

一  被告は、原告に対し、金三七万九〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年九月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金九一九万一二二七円及びこれに対する昭和六二年九月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車と衝突した普通乗用自動車の運転者が、同衝突により人的・物的損害を被つたとして、同衝突相手の普通乗用自動車の所有者兼運転者に対し自賠法三条及び民法七〇九条に基づき、損害賠償の請求をした事件である。

一  争いのない事実

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

2  被告の本件責任原因中被告が被告車の保有者である事実(自賠法三条所定)。

3  原告の本件損害に対する自賠責保険金合計金一一六万一四八〇円(治療費金九四万六二八〇円・雑費金三万〇八〇〇円・文書料金八〇〇円・慰謝料金一八万三六〇〇円)の支払い。

二  争点

1  被告の本件責任原因中過失(民法七〇九条所定)の存否

2  原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過

(一) 原告の主張

(1) 原告は、本件事故により、胸部・股関節部・大腿部挫傷、頭部・左肩打撲、頭蓋骨骨折の各傷害を受けた。

(2) 原告は、本件受傷治療のため、次のとおり入通院した。

共立会病院 昭和六二年九月一八日から同年一一月三〇日まで入院(七四日間)

昭和六二年一二月から平成二年五月三一日まで通院(四五二日)

小野耳鼻咽喉 昭和六二年一一月から平成二年六月二〇日まで通院(二三七日)

加古川市民病院 昭和六二年一一月通院(四日)

(二) 被告の主張

原告の主張(1)の事実は全て否認。

本件事故は、出会頭に衝突した軽微な事故である。

したがつて、原告にその主張するような重大な傷害が発生するはずはない。

同主張(2)の事実は全て不知。

3  原告の本件損害の具体的内容

(一) 原告の主張

(1) 人的損害

治療費 金二〇二万六四二五円

入院雑費 金八万八八〇〇円

通院交通費 金二〇万七九〇〇円

休業損害 金四七一万六〇八二円

慰謝料 金一六〇万円

文書料 金八〇〇円

(2) 物的損害

自動車修理費 金一一万二七〇〇円

壺の代金 金八〇万円

(3) 弁護士費用 金八〇万円

(二) 被告の主張

原告主張の損害は全て争う。

3  過失相殺の成否

(一) 被告の主張

本件事故の状況は、次のとおりである。

即ち、被告車が、本件交差点の一時停止標識にしたがつて一時停止した後、時速約五キロメートルの速度で、同交差点内に東方から進入したところ、原告車が、時速約二五キロメートルの速度で、減速もせずに同交差点内に北方から進入して来たため、両車両が衝突したものである。

なお、右交差点北東側には、原告・被告双方の視界を妨げる駐車車両があつた。

本件事故の右状況から明らかなとおり、原告にも、本件交差点内の安全を確認して同交差点内に進入すべき注意義務があつたところ、原告は、同注意義務を怠り、漫然時速約二五キロメートルの速度のまま減速しないで、同交差点内に進入した過失により、本件事故を惹起した。

原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌すべきである。

(二) 原告の主張

被告の主張事実中被告主張の駐車車両があつたこと、原告車の本件事故当時の速度が時速約二五キロメートルであつたことは認めるが、その余の主張事実及び主張は全て争う。

原告車は、制限速度を遥かに下回る時速約二五キロメートルの速度で進行し、本件交差点内をほぼ通過し終わつた時、自車後部左側に被告車の衝突を受け、原告車の車体が左回りに回転する衝撃を受け、原告は、自車のハンドルに巻き込まれたものである。

第三争点に対する判断

一  被告の本件責任原因中過失(民法七〇九条所定)の存否

1  本件事故の発生は、当事者間に争いがない。

2  証拠(乙一の2ないし7、原告本人、弁論の全趣旨。)によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、南北道路(幅員七・四メートル。車道歩道の区別なし。)と東西道路(東側道路の幅員六メートル。車道歩道の区別なし。西側道路の車道幅員五メートル。南側に路側帯あり幅員一メートル。)とがほぼ十字型に交差する交差点(以下本件交差点という。)のほぼ中央部である。

右交差点は、市街地に位置するが、交通は閑散であり、同交差点を構成する右各道路は、いずれも平坦なアスフアルト舗装路である。

右交差点付近の最高速度は、時速四〇キロメートルであり、同交差点の東側入口付近には、一時停止の標識が設置されている。

右交差点の南北道路を南進する車両の運転者、同東西道路を西進する車両の運転者のいずれにとつても、同交差点に進入する際の見通しは、前後関係良好、左右関係不良である。

しかも、右交差点の北東角には、本件事故当時、車両が一台駐車していた。

なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。

(二) 被告は、本件事故直前、被告車を時速約二五キロメートルの速度で運転し本件交差点東西道路を西進して同交差点東側入口付近に至つた。

被告は、右場所付近に設置された前記一時停止の標識にしたがい、同場所付近で自車を一時停車させた後、自車を再発進させたが、同人は、その際、自車右前方(左右は、当該車両の運転席に着座して前方を見た姿勢を基準とする。以下同じ。)の見通しは元々不良であるうえ前記駐車車両一台があつたため同見通しが増々不良になつていたにもかかわらず、自車右前方の安全を十分確認しなかつた。

そして、同人は、自車を時速約五キロメートルの速度で右交差点内に進入させ始め約三・三メートル前進した地点付近に至つた時、自車右前方約一一・三メートルの地点付近に、右交差点南北道路を南進して来る原告車を認めた。

しかし、同人は、原告車の速度の方が速いので被告車の直前を通過できるものと判断してそのまま自車を進行させ、約一・二メートル前進した時、原告車が自車右前方約五・四メートルに接近しているのを認め、衝突の危険を感じ、とつさに自車にブレーキを掛けたが間に合わず、約三・三メートル前進した地点付近で、自車の左前部を原告車の左後部側面に衝突させ、本件事故が発生した。

なお、原告車の本件事故発生時における速度が時速約二五キロメートルであつたことは、後記のとおり当事者間に争いがない。

3  当事者間に争いのない右各事実及び右認定各事実を総合すると、本件事故は、被告における自車右前方に対する安全確認不十分の過失によつて惹起されたと認めるのが相当である。

よつて、被告には、民法七〇九条に則り、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

二  原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過

1  原告の本件受傷の存否

(一) 原告は、同人において、本件事故により、胸部・股関節部・大腿部挫傷、頭部・左肩打撲、頭蓋骨骨折の各傷害を受けた旨主張し、同主張事実にそう証拠(甲一、三、証人平野正行、原告本人。)もあり、同証拠によれば、同主張事実は、肯認され得るかの如くである。

(二) しかしながら、証拠(乙一の3、4、鑑定人永野耐造の鑑定結果、弁論の全趣旨。)によれば、次の各事実及び意見が認められる。

(1) 原告車・被告車の本件事故による損傷状況

原告車

リア左フエンダー及びリアバンパー左端凹損・損傷の深さ約一〇センチメートル

被告車

フロントバンパーの左側凹損・損傷の深さ最大箇所で五センチメートル

(2) 自動車工学的検討

(a) 原告車に加わつた加速度、同重心の回りの回転、同加速度の合成等の力学的解析の結果、次のとおり推定される。

イ 被告車が原告車に加えた横方向の衝撃加速度は、一・〇三G。

ロ 被告車と原告車の車体間の摩擦力による車両後方への減速度は、〇・五二G。

ハ 原告車のタイヤの横滑りの減速度の最大値は、〇・六六~〇・八六G。

ニ 原告車の重心の回りの角速度は、一二・八rad/s以下。

ホ 右結果による原告車前輪の位置での横方向の加速度は、マイナス一・五一G以下。

ヘ 原告車の後輪の位置での横方向の加速度は、一・七七G以下。

ト 原告車の重心の横方向の加速度と回転による横方向の加速度と横滑りの摩擦力による減速度を加えると、同前輪の横方向の加速度は、ゼロ。

チ 原告車後輪の横方向の加速度は、二・一四G以下。

リ 原告車運転席の横方向の加速度は、一・一九G以下。

ヌ 被告車との摩擦による縦方向の加速度と合成すると、原告車運転席に加わつた衝撃加速度は、最大値で一・三G以下(平均値で〇・七G程度)。

(b) 右各結果から、原告車左後部側面に本件事故当時作用した衝撃加速度は、平均約〇・七G、最大一・三Gと推定される。

即ち、原告車に右事故当時作用した外力は、自動車の急制動時における衝撃とほぼ同程度のものと判断される。

(2) 医学的検討

(a) 原告車が本件事故当時受けた作用外力の大きさは、前記のとおりであるところ、同作用外力の大きさ及び同事故の前記認定の態様からして、仮に、原告の頸椎等に加齢的変化があつたとしても、同人の身体上に、頭蓋骨骨折あるいは頸椎捻挫その他の身体部位に受傷の可能性はなく、同人に入通院の必要はなかつたと判断される。

(b) もつとも、前記1(一)掲記の各証拠(文書及び証人平野正行)によれば、被告主張の医療機関における担当医師が被告主張の各傷病名で同人に対する治療に当たつていることが認められるのであり、本件についての右結論は、同医師の本件治療行為と矛盾するかの如くである。

しかしながら、このような現象は、次のとおりの交通事故受傷者に対する現在の医療事情に基づくというべきである。

即ち、医師は、交通事故損傷の特殊性のため、右事故によつて受傷した患者の自覚症状を否定し去るだけの根拠を持たないこともあり、右事故後は患者の自覚症状のみであつても患者の生命や健康のため万一の手落ちがあつてはならないとの観点から、患者の訴えにかなり大きな比重を置き加療している。このような場合、患者の訴えが仮に誇大であつても、その訴えが強い場合、担当医師は、むげにこれを放置して置けず、治療を続けねばならないのである。

このような現在の医療事情からすると、本件において被告の治療に当たつた医師も、その例に漏れなかつたと推認できる。

右観点からすれば、右医師の本件治療行為の存在も、本件についての右結論と特に矛盾するものでない。

ただし、本件においては、医師の診療録記載等にやや不備が存在する。

(三) 右(二)において認定した各事実及び意見に照らす時、原告の前記主張事実は、前記(一)掲記の各証拠の存在にもかかわらず、未だこれを肯認し難い。

むしろ、右認定の各事実および意見を総合すると、客観的にみて、原告に本件事故と相当因果関係に立つ受傷は存在しないというのが相当である。

三  原告の本件損害の存否

1  人的損害

右認定説示に基づくと、被告の本件事故に基づく各受傷の事実が肯認できない以上、被告の本件損害中所謂人的損害に関する主張は、その余の主張につき判断するまでもなく、右認定説示のとおり本件受傷の存在の点で既に全て理由がないことに帰する。

2  物的損害

(一) 原告車修理費(請求 金一一万二七〇〇円) 金七万円

(1) 原告車が本件事故によつて損傷したこと、同損傷の部位程度は、前記認定のとおりである。

(2)(a) 原告は、右車両損傷の修理費として金一一万二七〇〇円を主張し、同主張事実にそう証拠(甲五)もあり、同証拠によれば、同主張事実は、これを肯認し得るかの如くである。

(b) しかしながら、他の証拠(乙一の3)によれば、原告車の本件損傷については約五万円相当と推認されていることが認められるし、これに前記認定にかかる原告車の損傷状況を合わせ考えると、右主張金額全部を本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下本件損害という。)と認めることはできない。

右認定に照らすと、本件損害としての原告車修理費は、金七万円と認めるのが相当である。

(二) 壺の代金(請求 金八〇万円) 金四〇万円

(1) 証拠(甲四、原告本人。)によれば、原告は、本件事故当時、古物商を営んでいたこと、同人は、同事故時、原告車に古物の壺四個を乗せていたこと、同壺全部が、同事故により破損したことが認められる。

(2)(a) 原告は、右破損した壼四個の代金として合計金八〇万円を主張しているところ、同主張事実にそう証拠(甲四)もある。

(b) しかしながら、右認定各事実、特に、原告主張の本件壺が全部古物であることに鑑みるならば、右金八〇万円全額を本件損害と認めることはできない。

むしろ、右認定各事実に基づくと、本件傷害としての右壺の代金は最大限にみて合計金四〇万円と認めるのが相当である。

(三) 原告の本件損害(物的損害)の合計額 金四七万円

四  過失相殺の成否

1  本件事故の発生は、当事者間に争いがなく、同事故現場付近の客観的状況、交通規制の内容、原告車・被告車からする同事故現場付近の見通し、被告車の同事故発生までの動向、被告の本件過失の存在及びその内容等は、前記認定のとおりである。

更に、被告の本件過失相殺に関する主張事実中原告車の右事故当時の速度が時速約二五キロメートルであつたことは、当事者間に争いがない。

2(一)  証拠(乙一の4、7、原告本人、弁論の全趣旨。)によると、次の各事実が認められる。

原告は、本件事故直前、原告車を時速約二五キロメートルの速度で運転し本件交差点南北道路を南進し同交差点北側付近に至つた。

同人は、その際、自車左前方に同交差点内に進入して来る被告車を認めたが、同車両が原告車の方を先に通過させてくれるものと考え、従前どうりの速度のまま同交差点内に進入し、同交差点中心部付近まで進行した時、自車左後部側面に被告車の左前部が衝突して、本件事故が発生した。

(二)  右認定各事実を総合すると、本件事故の発生には、原告の、自車を減速して前方の安全を確認して本件交差点内に進入すべき注意義務違反の過失も寄与しているものと認めるのが相当である。

したがつて、原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当であるところ、同斟酌する原告の同過失割合は、前記認定の本件事実関係に基づき、全体に対して三〇パーセントと認めるのが相当である。

(三)  右認定に基づき、原告の前記認定にかかる損害金四七万円を右過失割合で、所謂過失相殺すると、その後において原告が被告に請求できる本件損害は、金三二万九〇〇〇円となる。

五  弁護士費用(請求 金八〇万円) 金五万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は金五万円と認めるのが相当である。

第四結論

以上の全認定説示に基づき、原告は、被告に対し、本件損害合計金三七万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故日であることが当事者間に争いのない昭和六二年九月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。

よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は、理由がないから、これを棄却する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六二年九月一八日午前九時四〇分頃

二 場所 加古川市西神吉町岸四四八番地の五先路上

(信号機が設置されていない交差点内)

三 加害(被告)車 被告運転の普通乗用自動車

四 被害(原告)車 原告運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 原告車が、北方から南方に向け本件交差点内に進入したところ、被告者が、東方から西方に向け同交差点内に進入したため、同交差点の中心部付近で、原告車の左後部側面と被告車の左前部とが衝突した。

以上

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