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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1076号 判決 1993年3月29日

原告

関輝子

鶴岡伊織

寺本真寿美

德田三枝

浜田真木子

日垣みち代

右原告ら訴訟代理人弁護士

松重君予

小林廣夫

被告

増田繁徳

増田芳子

右被告ら訴訟代理人弁護士

山本諫

小越芳保

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担する。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、連帯して、原告関輝子(以下「原告関」という。)に対し九六万二〇〇〇円、原告鶴岡伊織(以下「原告鶴岡」という。)に対し一〇四万三七八〇円、原告寺本真寿美(以下「原告寺本」という。)に対し八八万七七八〇円、原告德田三枝(以下「原告德田」という。)に対し五五万〇二八〇円、原告浜田真木子(以下「原告浜田」という。)に対し二九万三六八〇円及び原告日垣みち代(以下「原告日垣」という。)に対し八六万九四四〇円並びにこれらに対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、神戸市内にあるトリミングスクール(犬の美容学校)に入学した原告らが、同校の行った指導等は不十分で債務の本旨にそった履行がなされなかったと主張して、同校を経営する被告らに対して損害の賠償を求めた事案である。

一争いのない事実

1 被告増田繁徳(以下「被告繁徳」という。)は、「ジャパン・トリミング・スクール」(以下「JTS」という。)の名称で、日本国内数か所においてペット・トリマー養成所(学校教育法八二条の二に規定する専修学校でも、同法八三条に規定する各種学校でもない。)を経営(被告増田芳子(以下「被告芳子」という。)が共同経営者であるか否かについては、後記第三の争点に対する判断の一において論じる。)しており、神戸市中央区元町通二丁目九番一号元町プラザビル七階において同スクール神戸校を開校している。

2  原告らは、それぞれJTS神戸校の「高等本科」(一二か月制)に入学(原告らの入学年月日は、原告関が昭和六一年一二月一日、原告鶴岡、同寺本及び同日垣が昭和六二年四月一日、原告德田が昭和六三年一月一日、原告浜田が同年四月一日である。)し、原告関及び同寺本は、右高等本科修了後、さらに、同校の「専門科」に入学した(原告関の入学年月日は昭和六二年一二月一日、原告寺本のそれは昭和六三年五月一日である。以下、原告らが高等本科及び専門科に入学するに際して原告らと被告らとの間で締結された契約を併せて「本件契約」という。)。

3  原告らは、右各入学契約に基づき、JTS神戸校に入学金及び月謝を支払った。

二争点

本件の争点は、①被告芳子がJTSの共同経営者であるか否か、②本件契約によって被告らが負担する債務の内容はどのようなものか、③被告らの原告らに対する指導が右②の債務の本旨にそったものかどうか、④原告らが被った損害の内容及びその価額、である。

第三争点に対する判断

一被告芳子がJTSの経営者であるかどうか

1  原告らは、被告芳子も被告繁徳と共同してJTSの経営をしていると主張する。

2  証拠によれば、被告芳子のJTSとの関係について、次の各事実が認められる。

(一) 被告芳子は、被告繁徳の母であり、JTSの理事として校長である被告繁徳や指導スタッフとともに海外のペット業界の見学に出掛けるなどJTSに相当深く関与しているほか、JTSの生徒の指導についても、生徒の提出したレポートのテストの採点をしたり、生徒に対して講義をしたりしている。(<書証番号略>、証人鴨田和子の証言、被告増田繁徳本人尋問の結果)

(二) 被告芳子は、JTSの案内書において、校長である被告繁徳よりも上の欄に、「理事長」として、挨拶とともに写真入りで紹介されており、また、入学願書の宛名や生徒の身分証明書の発行人代表者の欄にも「理事長増田芳子」と記載されている。

3  以上の事実を総合すれば、被告芳子は、JTSの運営について相当重要な役割を担っており、かつ、案内書ばかりか入学願書の受領書、身分証明書などの重要な書類にも名前を連ねているのであるから、単なる従業員や名義だけの理事ではなく、被告繁徳と共同してJTSを経営しているものと推認することができ、この推認を妨げるに足りる証拠はない。

二被告らが本件契約に基づいて負担する債務について

1  原告ら及び被告らは、被告らが本件契約に基づいて負担する債務の内容について、それぞれ次のように主張する。

(一) 原告ら

被告らは、JTS「高等本科」への入学契約に基づいて、原告らに対し、プロ・ペット・トリマーに必要な一般技術とペット美容理論を習得させる債務を負担し、さらに、同校「専門科」への入学契約に基づいて、原告関及び同寺本に対し、より高度の専門技術を習得させる役務を提供する債務を負担した。

具体的には、被告らは、①全犬種のトリミング技術を習得させるために、②生徒各自が十分に技術を習得できるだけの練習犬を確保して、③公認の資格を取得した教師が実技を指導し、④テキストに基づいて系統だった授業をするという債務を負っている。

(二) 被告ら

被告らが本件契約によって負担する債務は、今日の犬界で期待されるトリマー養成機関に必要なカリキュラムによってトリマー養成を行うことである。

自動車教習所や大学に入学しても入学者等に対して運転免許や医師資格を取得する技術・方法を習得させることまでを約束したわけではないのと同様に、本件契約によっても、原告らが主張する理論と技術を習得させる義務まで負うことになるわけではない。

2  そこで、本件契約によって被告らが負担することになった債務の内容について検討すると、トリマー養成業界の状況、原告らのJTS入学の経緯等について、次の各事実が認められる。

(一) トリマーは、ペットトリーマー、グルーマーなどとも呼ばれ、主に長毛種の犬の毛の手入れ(シャンプー及びブラッシング)をし、各犬種の標準仕様に合わせて毛をカットしたり、抜いたり、刈り込んだりして美しい形に仕上げる作業をする犬の美容師のことをいう。トリマーには、犬の毛の手入れに関する技術のほか、各種の犬の標準仕様を知り、手入れしようとする犬の長所を生かし、欠点を補うことができる知識、判断力、技術を備え、さらには、病気の有無の判断、応急手当の方法、繁殖などについての豊富な知識が必要である。

トリマーについては、資格、技術の基準に関する法律的な定めはなく、公的資格の認定制度もないが、各種の民間の協会や養成機関において技術の習得の目安としてライセンスを発行しているところもある。(<書証番号略>)

(二) ペットトリミングの技術を習得するには、ペットショップや専業の犬の美容院などに見習いとして就職したり、養成機関に入学したりして技術を習得する方法もあるが、養成機関で一定の技術を習得した後にペットショップなどに見習いとして就職して習得する方法が一般的である。養成機関を選ぶ際には、場所、就業機関、費用、カリキュラムの内容、設備、教授陣などについての学校案内の記載や、学校の歴史、就職率、就職の斡旋の有無、業界での評判などが参考になる。養成機関での指導については、短期のものもあるが、二年間である程度の技術が習得でき、どの犬種についても毛の手入れが一通りこなすことができるようなカリキュラムになっているものが多い。

養成機関修了後は、技術次第でトリマーとして独立したり、ペットショップ、ペット美容院、動物病院、ブリーダーなどに就職できるようになるが、最初は見習い待遇されることもしばしばある。(<書証番号略>)

(三) JTSは、入学案内において、「ペットの総合美容学校」と自称するトリマー養成機関であり、本件で問題になっている神戸校のほか、全国に東京校、横浜校、福岡校、北九州校などのチェーン校がある。JTSの神戸校は、昭和五九年ころに開校された。(<書証番号略>、被告増田繁徳本人尋問の結果)

(四) JTSは、職業別電話帳や雑誌「愛犬の友」などに広告を掲載するなどして生徒の募集をしており、同校の入学を希望する者に対しては、同校の創立と歩み、本学の教育法、本学の特色と特典、コースとクラスの仕組みと進級図、授業の内容、卒業後の進路、校長のプロフィールなどを記載した案内書及び各コース別に週日数、全期間、必要学費、授業時間などを記載した入学願書などを配付していた。なお、雑誌の出版会社などは、このような広告を掲載する基準について、トラブルが発生した場合には原因の如何を問わず掲載を拒絶することにしている。

右案内書においては、JTSの教育法として「個人指導、速成指導、個性指導、テクニカル指導などの方法で本人の持つ長所を十分にいかし、短所をも個性として再生させる教育法」を掲げ、公認トリマーの肩書がついた指導スタッフが紹介され、「国際間で通用する美容書とスタンダード書を使用してわかりやすく説明していきます。」と記載したうえ、テキストらしい四冊の本と多数の本を陳列した本棚の写真が掲載されていた。また、「美容師のライセンスが取得でき」、「卒業者および卒業見込者で美容技術と美容知識の優秀さを認定された者には協会より公認トリマー免許状が授与され」、卒業後の進路として、「フリーの美容師として自宅での仕事。ペットショップに美容師としての勤務。」などが紹介されていた。(<書証番号略>、証人鴨田和子及び同土屋正の各証言、原告関輝子本人尋問の結果)

(五) 右案内書には、JTSが設けているクラスとして、通信科、アマチュア科、速成科、高等本科、専門科、研究科、アドバイザー科、師範科、審査員科、美容大学科、美容大学院科が列挙され、高等本科のコースとクラスの説明として、「プロトリマーになるためのクラスです。」、「一年間でプロトリマーに必要な一般的美容技術と美容理論を身に着けます。」と、同じく専門科について「実力を付ける為のエスカレートクラスです。」「基礎本科、速成科で勉強した技術と理論の復習と仕上げおよび専門技術の習得。」と、それぞれ記載されていた。

また、JTSの教務チーフである鴨田和子(以下「鴨田」という。)は、神戸校の高等本科に入学を希望する者に対して、口頭で、「一年間でプロの資格が取れる。」、「一年間で十分各犬種のトリミングができる授業内容である。」、「高等本科で全犬種のカットができる。」、「学校の犬で練習できる。」、「ほぼ一年やれば、十分自分でやっていけるだけのものは習得できます。お店に勤めたりとか、自分でお店をすることもできます。」、「一年間修了した人がどんどん自宅や店舗で活躍している。」などと説明していたが、他方で、「先の段階もあるのでプロトリマーになるんだったらそれを受けたらよい。」、「プードルを中心にするが、プードルが一番難しいから、それができれば他の種類の犬も十分できる。」とも説明していた。

JTS神戸校の入学手続については、入学申込者に入学願書を提出させ、その際に、鴨田が、簡単なスクールの特徴と証するパンフレット、懲戒事項などを定めた学則、単位取得表・授業日数カルテ、入学初期のソフトスケジュール、教科書、実習衣、鞄代、美容道具、日本プードルクラブの入会申込書を交付してこれに関連する事項を口頭で説明していた。(<書証番号略>、証人鴨田和子の証言、原告関輝子本人尋問の結果)

3 以上の事実によれば、本件契約は、犬のトリミング技術などの習得のための教育・指導の役務という事務を目的とした準委任契約と解することができる。しかし、JTSでは、前記教育目的を実現するため、物的人的施設を用いて教師及び生徒から構成される組織体として、継続的に役務の提供を行うものであるから、学校教育法が適用されるかどうかはともかくとして、いわゆる「学校」教育として集団的に教育が行われているということができる。ただ、本件契約においては、高等本科、専門科のいずれも通常の四月入学だけでなく随時入学も認められていることから、個別的な教育契約と見る余地があるようにもみえないではないが、前記認定事実によれば、入学時期によって教育内容に若干の調整が必要になることはあっても、基本的には、同一クラスの生徒に対して同一内容の指導を集団的に行うことを予定していることが明らかであるから、本件契約は、個別的教育契約ではなく学校教育契約と解するのが相当である。

それゆえ、JTSにおける教育は、一定の体系・編成に従い定型的に行われることになり、教師らが、JTSの学則その他の諸規則の定めるところの教育過程に従って、生徒に対し、教育指導の役務を提供し、それに必要な範囲で教育施設を利用に供する義務を負うことになる。なお、このように、本件契約は学校教育契約というべき附合契約であるから、そこにおける教育内容を規定する根拠となる学則その他の規則は、予め入学案内などによって入学希望者に周知させていたものに限られるわけではなく、また、入学の説明において、入学希望者毎に異なった説明をしたとしても、その説明どおりの契約が成立するわけでもない。

前述のとおり、本件契約の本質は、仕事の完成という結果を目的とする請負契約ではなく、役務そのものの提供を目的とする準委任契約であるから、ペット美容の技術、理論の習得という結果を実現する義務までを負担するものではなく、また、現実的にも、それらを習得できるかどうかは、生徒の適性や努力など教師の指導以外の要素が重要であるから、被告らが原告らにそれらを習得させる義務までを負担すると解することは相当でない。

4 したがって、本件契約によって被告らが負担する義務は、原告らの主張するような原告らにプロトリマーに必要な美容技術、理論などを習得させる義務ではなく、JTSの学則その他の規則によって定まるトリマー養成に必要なカリキュラムに従って原告らを指導する義務であると解すべきである。

三被告らのした指導内容等について

1  原告らは、被告らの指導内容は不十分なもので債務不履行に該当すると主張し、被告らは、JTSがそのカリキュラムに従って原告らに対してトリマーの養成を指導していたのであるから債務不履行はないと主張する。

2  ところで、前述のとおり、被告らが本件契約に基づいて負担する債務は、JTSの学則その他の規則によって定まるトリマー養成に必要なカリキュラムに従って原告らを指導する債務であるが、その学校がどのような教師によって、どのような指導課程に基づいて指導するか、また、担当した教師がその指導課程をどのようなやり方で消化するかは、それぞれ学校、教師の裁量に委ねられていると解するのが相当である。したがって、トリマーの養成機関として必要不可欠な指導をしなかったり、標準的な他の養成機関と比べてその指導内容が著しく劣っているなど、JTSがその委ねられた裁量の範囲を逸脱している場合には、その指導は債務の本旨に従ったものということはできず、債務不履行になるというべきである。

そこで、被告らが原告らに対してした指導内容等について検討すると、JTS神戸校における設備、指導者、指導内容などについて、次の各事実が認められる。

(一) JTS神戸校の設備の状況等について

JTS神戸校は、広さ約二〇坪のビルの一室を教室としており、教室内の設備として、グルーミングテーブル一四台、椅子三〇脚、教務カウンター、黒板、ショーケース、大型フロアドライヤー一台、ハンドドライヤー三台、入浴台一台、犬用ペットマンション、世話用サークルなどを備えている。

JTS神戸校では、高等本科、専門科、研究科などの複数のクラスをこの一室で賄っており、同時に複数のクラスの生徒が在室することもあったが、その際には、机の並べ方や座る場所などを工夫して対処していた。また、神戸校では生徒数を二五人と想定して、現実にもその程度の生徒が在籍していたこともあったが、その場合にも、全員が同時に入室することは可能であった。

しかし、教室の電気容量が少ないために、生徒がドライヤーを一斉に使用するとブレイカーが切れるような状態にあり、書籍については、少なくとも、生徒が利用しやすいような状態で設置しているということはなかった。(証人鴨田和子の証言、原告関輝子及び被告増田繁徳の各本人尋問の結果)

(二) 指導者の状況について

被告繁徳は、原則として一人の教師について二五人の生徒を担当させることにしていたところ、神戸校では生徒数を二五人と想定していた。そのため、同校においては、一人の教師が全ての生徒を指導するのが原則になっており、複数のクラスの授業が実施される場合にも、一人の教師が指導に当たっていた。

JTSにおいては、被告繁徳が指導に必要な知識技術を備えていると判断した者が生徒の指導に当たっていたところ、原告関がJTS神戸校に入学した昭和六一年一二月一日ころ、同校には、教務チーフの鴨田のほか、インストラクターの竹中康子、インターンの小林たみこが在職しており、竹中が実技の指導に当たっていた。昭和六二年一〇月に竹中康子が退職し、一か月くらい後にアシスタントの小林ひとみが神戸校に着任したが、着任までの間は、鴨田と小林たみこが生徒の指導に当たった。小林ひとみは、着任してから一か月くらい後にインストラクターに昇格したが、昭和六三年二月末に退職し、同年四月にインストラクターの久我めぐみが着任した。しかし、久我は暫くして退職し、その後は、鴨田が生徒の指導に当たっていた。鴨田は、当初事務職員としてJTSに勤務し、その合間に被告繁徳らの指導を受けて、生徒の指導もするようになっていたが、主に知識面についての指導に当たっており、実技については、犬の毛を梳いたり、爪を切ったり、耳を掃除したりするなどの指導はするが、カットの指導はしていなかった。これらのインストラクターの交替は必ずしも円滑に行われたわけではなく、少なからず混乱を伴っていた。なお、JTSでは、生徒を指導する者をインストラクター、それを補助する者をアシスタント、JTSの在校生でインストラクターの手伝いをする者をインターンと呼んでいた。また、案内書において「公認ライセンス」と呼んでいるのは、被告繁徳個人が主催しているオール・ジャパン・トリマー・ライセンス協会が認定している資格のことである。(<書証番号略>、証人鴨田和子の証言、原告関輝子及び被告増田繁徳各本人尋問の結果)

(三) 生徒が扱う犬の種類及び頭数について

JTSでは、高等本科の生徒に対し、最低五、六犬種について実習をさせることにしているが、被告繁徳が主にプードルを中心に扱ってきた経緯や、プードルのトリミングが最も難しくプードルについての指導を受ければ他の種類の犬についても応用が利くという方針の下に、生徒に対してプードルを中心に実技の指導をしている。また、専門科においても、実技指導の中心がプードルであるということは右と同様であった。

原告ら在籍当時、JTSの神戸校には、生徒の実技指導に用いるために、五、六頭のモデル犬が飼育されていた。また、JTS神戸校に客が持ち込む犬も実技の対象になるが、原告ら在籍当時、犬を同校に持ち込む客はめったにいなかった。

JTSの高等本科においては、生徒一人で一頭の犬を仕上げるということはなく、五人の生徒が一頭の犬を取り扱うという状況であり、このことは、専門科においても同様であった。

これに対し、原告らのJTS神戸校在籍当時、同じく神戸市内に開設されていた他のトリミングスクールでは、生徒一人に対し一頭の犬を与えて実技指導をし、二か月しか経過していない生徒も一人で一頭の犬を仕上げることができるようになっており、同校に転学した原告德田も短期間のうちに二六犬種、一五〇頭以上の犬を実際に実技で取り扱った。しかし、同校は原告德田の在籍中に倒産し、同原告は、途中で大阪のトリミングスクールに転校し、そこで課程を修了した。(<書証番号略>、証人鴨田和子の証言、原告関輝子、同德田三枝及び被告増田繁徳各本人尋問の結果)

(四) JTS神戸校における指導内容について

(1) JTSにおいては、被告らや教授らが会議をした上、時代に応じてクラス毎に系統立てた教育方針や教育内容を決定し、各校に対しては、教師を東京に集めて講習をしたり、資料の送付、電話連絡、被告繁徳や教授らが各校に出向くなどして、全国的に統一的な指導を図っている。(証人鴨田和子の証言、被告増田繁徳本人尋問の結果)

(2) 各クラスにおいては、その養成期間を三か月ほどの期間に区切って初期段階、中期段階、終期段階などと履修の段階が区分され、それぞれの段階毎に履修すべき内容を定めたカリキュラムが作成され、それに基づいて生徒毎に作成される日数カルテの裏面に履修すべき項目が印刷されている。そして、教師は、生徒の履修の度にカルテ裏面の履修項目欄にその旨を記載し、その記載によってその生徒の履修状況を確認しながら、カリキュラムに従った指導をしている。しかし、JTSにおいては、四月だけでなくその他の時期にも随時入学することを認めていることから、生徒の入学時期によりあるいは生徒の特質などによってカリキュラムどおりに指導することが困難な場合もあり、このような場合には、教育上融通できる範囲内で、それぞれの段階内において履修内容を前後させたりすることもあった。(<書証番号略>、被告増田繁徳本人尋問の結果)

(3) JTS神戸校においては、生徒に配付されたテキストはプードルに関する本一冊であり、高等本科入学後二、三か月の生徒などに対して、テープを聞かせたり、黒板や原告らの入学以前から使われていたと思われる古い模造紙に記載された文字をノートに書き写させて、それらの基礎的な項目の知識を身につけさせていた。JTSは、生徒に対し、必要に応じて履修した項目についてのレポートやデッサンなどを提出させ、被告繁徳が採点していた。

ちなみに、前述の神戸市内に開設された他のトリミングスクールにおいては、全犬種の特徴が記載されたテキスト、難しいカット方法の説明書、獣医学本がテキストとして生徒に配付されていた。(<書証番号略>、証人鴨田和子の証言、原告関輝子及び同德田三枝各本人尋問の結果)

(4) 被告繁徳は、JTSの高等本科において指導することになっている「一般的美容技術と美容理論」にいう「一般的」というのは高度なものではなく基礎的なものであるという前提の下で、指導に当たっていた。そこで、JTSにおいては、高等本科における美容技術について、「一般」美容技術として、爪を切ったり、紙に書かれた爪の絵にマニキュアを塗ったり、毛を洗ったり、梳いたりすることを中心に指導し、犬の毛のカットについては、シザーリングという鋏の使い方の練習を中心に指導し、実際に生きている犬の毛をカットする際は、一頭の犬を数人の生徒で組になって共同でするように指導していた。

このことは、基礎本科等で勉強した技術と理論の復習と仕上げ及び専門技術の習得を目的とする専門科においても基本的に同様で、高等本科におけるよりもカットの指導の割合を増やし、それ以前に指導を受けた技術について繰り返し復習させたり、少し高度な技術を教えるという指導をした。

(5) 原告関の高等本科における単位取得表には、同人は、プードルのほかチャウチャウ、マルチーズをはじめ合計一五種の犬と二種の猫を取り扱い、そのうちマルチーズ、ビションについてはカットもしたこと、ラッピング、ベージング、シザーリング、デッサン、リボン、フェイスメイク、ペディキュア、クリッピングなど、JTSが用意したほとんどすべての項目の履修を終えたことなどが記載されている。同様に、原告関の専門科における単位取得表にも、同人が専門科のほとんどすべての項目の履修を終えたことが記載されている。(<書証番号略>、原告関輝子本人尋問の結果)

3 以上の事実を総合すると、被告らは、高等本科と専門科のいずれについても、被告らがトリマーをするに当たって必要不可欠と判断したプードルを中心とした基礎的な技術、知識などについての指導課程を作成しており、その内容も特段不合理なものということはできず、被告繁徳及び同被告が適切と認めた教師が右指導課程に従って原告らを指導し、その予定された項目のほとんどを消化したと認め又は推認することができる。

4 原告らは、①全犬種のトリミング技術を習得させるとの説明であったのに、プードルのトリミング技術しか教授していないため、全犬種に対する技術的対応ができない、②生徒各自が十分に技術を習得できるだけの練習犬をJTS側で確保するとの説明であったが、生徒五人に一匹程度の割合でしか練習犬を用意しなかったため、各生徒が自前で練習犬を用意しない限り、プロトリマーとしての技術を習得し得ない状態であった、③公認の資格を取得した教師が実技を指導するとの説明であったが、公認資格取得者ではないJTSの在校生が原告らに実技指導し、昭和六二年一一月以降実技指導担当者が転々と交替し統一のとれた適切な技術指導をせず、昭和六三年五月以降は、何ら技術を習得していない教務担当者しかいなかったので実質上実技の指導を全くしなかった、④テキストに基づき系統だって授業をするとの説明だったが、そのようなテキストはなく、系統立てたカリキュラムはなく、その日その日の場当たり的な授業しかしなかった、⑤物的設備を具備しておらず、物的設備の面からもプロ技術の取得は不可能であった、などと主張する。

確かに、前記認定事実によれば、JTS神戸校においては、主にプードルのトリミング技術を指導しており、犬の頭数についても一人に一頭の犬が用意されておらず、テキストや設備も十分に用意されているわけではなく、指導する教師も公認の資格などを取得しておらないばかりか原告ら在籍中に転々と交替するなどし、ある程度の混乱が生じたことは否定できない。また、JTSの指導課程は、それほど厳格なものではなく、内容的にも、それを履修すれば、直ちにプロのトリマーとしてやっていける技術、知識が身につくようなものでないことも否定できない。

しかし、前記認定事実によれば、JTSの高等本科及び専門科における指導方針としては、最も難しくこれができれば他の犬種についても応用が効くプードルを中心に、しかも爪切りやベージングなどの基礎的な技術について指導するということであり、また、トリマーの養成を受けているにすぎない者が一人で一頭の犬を扱うのには困難が伴うであろうことは容易に推測されるから、実際に取り扱う犬種が少なかったり、高度なテキストや誰もが満足するような設備や犬の頭数を用意していなかったからといって、指導課程に従った指導がされてないということはできない。また、教師についても、被告繁徳が指導の能力があると認めた者が原告らを指導しているのであるから、その者がJTSで何を主な仕事としているのかは必ずしも本質的な問題ではなく、教師の交替についても、JTSの指導は一年間にわたって予定されているのであるから、交替時に多少の混乱があったとしても通年で指導課程が修了すればよく、現に原告関は高等本科においても専門科においても、その履修項目のほとんどを履修しているのであるから、原告らがJTS神戸校在籍中に同校の教師が原告らの指導ができないような状況にあったということはできない。

JTSの高等本科及び専門科の指導課程の内容そのものについても、その内容は被告らの裁量によって定めるものであるところ、前記認定事実によれば、この業界においては二年間の養成で見習いとして働くことができる程度のものが多いことからすると、高等本科の一年間及びそれに続く専門科においてJTSがたてた指導課程が、右裁量の範囲を逸脱しているということはできない。また、指導内容と授業料とはある程度の関連が認められるところ、原告らがJTS神戸校在籍当時神戸にあった他のトリミングスクールにおいては、その配付したテキストや指導内容がJTS神戸校よりも程度が高いものであったと認められるが、他方で、授業料はJTSより少し高いばかりか、それにもかかわらず倒産に至ったというのであるから、それと比較して、JTSの指導課程の決定に裁量の範囲の逸脱があるということはできない。さらに、JTS神戸校は、昭和五九年から開校しており、原告らが本件訴訟を提起する以前には、募集広告を雑誌に掲載することが認められていたことから窺えるように、特段の問題もなく指導を続けてきたのであることからしても、JTSの高等本科及び専門科の指導課程が不当であり、裁量の範囲の逸脱があったということはできない。

以上のとおり、被告らが本件契約に基づいて原告らに対してしたトリマー養成のための指導は、前記被告らが負担する債務の本旨に従ったものということができるから、未だもって被告らに本件契約の債務不履行があったものと解することはできない。

第四結論

以上のとおりであって、被告らに債務不履行が存することを前提とする原告らの本訴各請求は、その前提が認められない以上、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官北川和郎 裁判官吉野孝義は差し支えにつき署名捺印することができない。裁判長裁判官辻忠雄)

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