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神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)26号 判決 1991年5月21日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五九年一二月一日付でした労働者災害補償保険法による遺族補償給付の不支給処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告

(請求原因)

1 小林健二(以下「健二」という。)は、バナナの熟成加工・販売を業とするケーフルーツ商事株式会社(以下「ケーフルーツ商事」という。)の代表取締役であり、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に特別加入していた。

2 健二は、昭和五九年八月二五日午後三時頃から同四時頃まで、三木市末広三丁目二番四号所在のケーフルーツ商事内のバナナ保存室でバナナの搬入作業をした後の午後四時四五分頃、同所所在の自宅において体調の不調を訴え、即時、久野病院に入院したが、翌二七日午後七時四一分、くも膜下出血により死亡した。(以下「本件災害」という。)

3 健二の妻である原告は、被告に対して、同年九月七日、遺族補償給付請求をしたが、被告は、同年一二月一日付で、健二の死亡は業務上の事由によるものではないとして、遺族補償給付不支給処分(以下「本件処分」という。)をした。

4 原告は、本件処分を不服として兵庫県労働災害補償保険審査官に審査請求をしたが、昭和六〇年四月三〇日付で棄却され、更に労働保険審査会に再審査の請求をしたが、昭和六二年三月二五日付で棄却された。

5 本件災害は、業務に起因するものであるから、被告のした本件処分は違法である。

(主張・違法事由)

1 健二の業務

(一) 配達業務

健二は、毎日午前五時三〇分頃に起床し、バナナ加工室からバナナ(箱入り)を出し、それを同六時三〇分頃から同七時頃までに三木市内の小売店へ配達し、その後、同八時三〇分頃から正午頃までの間に小野市、西脇市、社市等の小売店へ配達していた。

(二) 熟成加工業務

(1) 搬入作業

バナナは運送業者のトラックでケーフルーツ商事の作業場に運送されてくるが、バナナの一箱の重量は、フィリピン産バナナが一三、四キログラム、台湾産バナナが一六、七キログラムである。そして、昭和五九年当時における入荷日一日の平均入荷量は約一三〇箱で、三、四日毎に最少七〇箱位、最大二六〇箱位が入荷していた。

ケーフルーツ商事は、加工室として陸室二室、地下室四室あり、保存は陸室の一室を使い、加工は主として地下室を使用していた。健二は、トラックで作業場に到着したバナナを手作業によりそろばんと呼ばれる運搬用器具(以下「そろばん」という。)に乗せて、すぐに加工しない分は保存室の入口に、加工する分は加工室の入口に運ぶ。保存室はあらかじめ摂氏一三度(以下、温度は摂氏の表示である。)に冷やしてあるが、健二は、加工しない分を保存室に入れ、室内に一箱ずつ積み上げる。また、加工室は地下にあるので、健二は、加工する分をホイストを利用して加工室に運ぶが、この場合ホイストに一〇ないし一二箱を手作業で乗せてホイストを下に移動させロープで加工室に降ろしたうえで、タラップを伝って下に降り、降ろしたバナナ箱を抱え上げて加工室内に積み上げ、再度タラップで上に上がって同じ作業を繰り返す。加工室への搬入作業は一〇回程度であり、積み上げられた箱の高さは1.6メートル程になる。

(2) 熟成加工作業

加工室に搬入されたバナナは、二三ないし二六度の室温で一昼夜(約二四、五時間)加熱され、その後、室温を一六ないし一八度に下げて夏は四、五日間、冬は五、六日間、加工室内で色づけされる。色づけの際には加工室内にエチレンガスを注入し、またバナナが乾かないように水を撒くなどして温度管理及びバナナの状態を監視する必要がある。

加工中のバナナは呼吸をしているので、加工室内は酸欠状態となり加工室内での労働は身体にかなりの危険を伴う。

なお、保存室に入れられたバナナは適宜保存室から出して右の要領で加工する。

(3) 搬出作業

健二は、註文に応じて加工の終了したバナナを直ちに搬出するが、搬出は加工室からホイストを利用して外に出し、手作業で三木市内の分とそれ以外の分に分けて配達用の二台の車両に積み込む。

2 健二の疲労

(一) 肉体的疲労について

健二は、毎日午前五時三〇分に起床して加工室からバナナを搬出し、同六時三〇分から同七時までの間に三木市内の小売店へ配達をし、同八時三〇分頃から正午頃まで小野市、西脇市、社市、加西市等の小売店へ配達していたが、小売店での荷降ろし作業、車の運転を殆ど一人で行い、走行距離は一〇〇キロメートルにも及ぶものであった。健二は、その後、原告の経営する喫茶店で昼食をとった後その店の手伝いをし、午後一時三〇分ないし同二時頃以降は加工室内での作業に従事していた。バナナの入荷は、ほぼ三日に一度の割合であり、また入荷がない日には保存室のバナナを加工室に入れるのでバナナの熟成加工作業は深夜にまで及び、一年三六五日休むことが許されない状況であった。殊に、夏期には保存室を一三度に保つためにそれ以下の冷風を送り込まなければならないところ、健二は、三〇度を超える外気と保存室の冷風に曝されながらバナナの商品価値が落ちないように手作業で保存室にバナナを搬入しなければならなかった。また、健二は、地下加工室の入口でホイストにバナナを手作業で積んでこれを降ろし、タラップで約2.5メートル下の加工室に降りて加工室内にバナナを積み上げ、再度タラップで地上に上がる作業の繰り返しは相当苛酷なものであった。更に、健二は、バナナの加工中は室温の管理やバナナの状態を監視する必要があったため朝まで熟睡できる日はなかった。そして、健二は、一人でこの作業に従事してきた。

(二) 精神的疲労について

バナナの加工は、バナナの商品価値を高めるため温度管理等をしなければならない緊張を要する作業である。このことに加えてケーフルーツ商事は業績が赤字続きで営業状態が悪化し、雇用労働者がなく健二がすべての業務に従事していたことから、健二は、かなりの精神的重圧を受けていた。

3 健二の昭和五九年八月の作業量及び作業環境等

昭和五九年八月の入荷日は二五日までに五日で特に多くはないが、入荷日一日当たりの入荷量は平均を上回っていた。バナナ加工業では、バナナの加工量は四月から七月までが多く、八月中頃は入荷量、註文とも増加して、夏期の作業環境の一番厳しいときに作業量が多くなり、労働負荷が大きくなる。

昭和五九年八月は、一五日、二一日及び二二日の三日間を除いて最高気温は三〇度を越え、盆前の一週間はのきなみ三二度以上を記録し、一六日から二〇日までも三二、三度と暑さが続き、二三日は三〇度、二四日は31.7度、二五日は30.9度であった。健二は、このような高温下で上半身裸ではちまきを巻いて前述のような苛酷な作業をし、極度に疲労が蓄積していた。

4 健二の昭和五九年八月二五日の労働状況

(一) 健二は、当日午前五時三〇分頃から同六時三〇分ころまでは加工室よりバナナ約六〇箱を搬出し、三木市内の小売店に約二〇箱を配達し、次いで同七時頃から小野市、社市、西脇市、加西市方面の小売店に約四〇箱を四時間程かけて配達した。

(二) 健二は、昼食後、喫茶店の手伝いをした後、午後一時三〇分過ぎから入荷したバナナ一七〇箱のうち約七〇箱を保存室に、約一〇〇箱を地下の加工室に約二時間三〇分かけて搬入した。ホイストに乗せて地下へ降ろす作業については長男竜也が手伝い、健二が地下室にいて竜也がホイストで降ろしたバナナを下で受取り、これを地下加工室内にれんが積みにする作業をした。当日の外気温は三〇度であり、保存室の温度は一三度であったことから、かなりの温度差があり、肉体的に苛酷な重労働であった。

5 健二の健康状態

健二は、昭和四一、二年の夏頃、作業中に頻脈発作を起こしてその治療をした経歴があった。更に、昭和四五年頃にはWPW症候群、高血圧症、心室中隔欠損の診断を受け、一時期降圧剤を服用し、その後、右薬剤の服用を中止したが、服用中止後も頻脈発作が続いていた。本件発病前には慢性疲労の症状を訴えるようになり、発病二日前には頭痛を訴えていた。

6 本件災害の発生

健二は、当日、搬入作業の終了した午後四時二〇分過ぎ頃、風呂に入るため事務所の二階に上がり、風呂場へ向かったが、引き返し頭が痛いと言ってうずくまり、後頭部を押さえて転げ回った。原告は、長女・敦子から連絡を受けて帰宅すると、健二は、「首の後部が痛い、手足がしびれる」と訴え、意識はあったものの横臥した姿勢で舌を押さえて嘔吐していた。原告は、直ちに救急車を手配して午後五時三〇分頃に健二を久野病院に入院させたが、健二は、翌二六日午後七時四一分、くも膜下出血により死亡した。

7 業務との因果関係

健二は、1ないし4の状況下で反復継続して苛酷な労働に従事し、疲労が蓄積していた。四月から八月にかけてはバナナ加工作業の繁忙期であり、八月中旬過ぎは、バナナ加工のピークの時期であったうえ、発病一か月前は夏期の作業ということで作業者にとって労働負荷が最大に達するときである。健二は、このような継続的な激務に加えて発病直前には保存室の室温と外気温との間に大きな差のあった劣悪な作業環境の中で働いたことから高血圧症が増悪して死亡の結果が発生したのであり、健二の死亡は業務に起因している。ちなみに、くも膜下出血の原因は、動脈瘤の形成とその破裂によるものが一番多いとされており、その原因としては高血圧、急激な気温の変化や身体のストレスが指摘されている。

8 したがって、本件処分は違法であるからその取消を求める。

二  被告

(認否)

1 請求原因1ないし4の事実は認める。

2 原告の主張1(一)の事実は認め、同1(二)の事実中ケーフルーツ商事には陸室二室と地下室四室あって、陸室が保存室に、地下室が主として加工室に使用されていたこと、バナナの加工については、バナナがほぼ一昼夜加熱され、その後、冷却されること、バナナの加工にエチレンガスが使用されること、バナナの保存は一三度の室温で行われること、バナナの入荷は三日に一回程度であること、バナナの入荷、加工、保存、出荷は段ボール箱入りのまま行われることは認め、その余は不知、同2の事実のうち、健二が午前中配達業務に従事し、正午過ぎに喫茶店の手伝いをし、その後、加工業務に従事したことは認めるが、その余の事実は否認、3の事実は否認、4の事実は認め(ただし、苛酷な労働であったことは争う。)、同5のうち健二が昭和四五年頃高血圧症の治療を受けた事実を認め、同6の事実は認め、同7の事実は否認する。

(主張)

1 業務起因性について

ケーフルーツ商事の社屋の一階には事務室及び二室の加工室があり、また地下にも四室の加工室がある。各加工室には温度計を備え、温度表示装置で各室の温度が一覧でき、サーモスタットで一定温度に保つようになっており、通常地下室で加工し、地上室で保管している。なお、社屋二階は居住部分になっている。そして、健二の通常の仕事内容は、季節によって変化はあるものの概ね一定である。すなわち、

(一) 健二は、午前中は原告の主張1(一)のとおり配達業務を行い、正午過ぎに原告経営の喫茶店を手伝い、その後、バナナの搬入加工作業(温度調節及び加工状況の管理)をし、午後五時頃から右喫茶店の手伝いをしていた。

(二) 発病当日、健二は、午後一時三〇分頃から入荷バナナを長男・竜也に手伝わせて加工室へ搬入し、午後四時頃までに加工作業が終了した。そして、二階の居室に上がり、居間を通って風呂場へ行ったが、「首が痛い」と言って引き返し、身体の不調を訴えて、久野病院へ入院し、翌二七日午後七時四一分くも膜下出血で死亡した。

(三) 発病当日、健二は、加工室で作業をしていたのであり、外気温との温度差は他の室と大差がなく、八月二四日、二五日の作業内容、作業量は日常のそれと比較して過重なものではなく、二五日は長男が手伝った分だけ作業量は軽減されている。また、バナナの入荷は八月二二日は一〇〇箱、二五日は一七〇箱であり、特に業務量が増加したということがなく、健二には、発病前一週間以内に異常な事態が発生したことも、精神的にも、肉体的にも過重な負荷を負ったこともない。

したがって、健二の死亡は業務に起因したものではない。

2 労災保険法の適用範囲について

(一) 特別加入制度は、業務実態、災害発生の状況からみて、中小事業主等についても労働者に準じて労災保険により保護すべきであることから制定されたものである。したがって、特別加入者の業務上の疾病については、一般労働者の行う業務に準じた業務の範囲に限られる。

(二) 労働省労働基準局長の定める特別加入者に対する業務遂行性の認定基準は以下のとおりである。

(1) 特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間(休憩時間を含む)内において、特別加入の申請に係る事業のためにする行為(当該行為が事業主の立場において行う事業主本来の事業を除く)及びこれに直接付帯する行為(生理的行為、反射的行為、準備、後始末行為、必要行為及び緊急業務行為)を行う場合

(2) 労働者の時間外労働に応じて就業する場合

(3) 就業時間(時間外労働を含む)に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者のみで行う場合等

(三) 健二が特別加入申請した業務内容は、午前八時から午後五時までのバナナの熟成加工作業、運送作業に従事することであり、右以外の時間に行った作業は労災保険の対象外である。

(四) 健二の午前八時から午後五時までの業務量は平均的業務であり、精神的、肉体的疲労は考えられない。

三  原告の反論

1  被告は、健二が特別加入申請時に申請書に記載した業務内容が午前八時から午後五時までのバナナの熟成加工作業、運送作業に従事することであったことを理由に右時間帯に行った業務以外の労働は労災保険の対象範囲外であると主張するところ、健二が右時間帯に行ったバナナの搬入、熟成の業務は非常に過重なものであって、健二に肉体的、精神的負荷を負わせたことはいうまでもなく、更に早朝のバナナの搬出、配達は、健二が行っていた事業の範囲内の業務であり、申請書の記載如何にかかわらず、労災保険が適用されるべきである。

2  労災保険の特別加入制度は、損害賠償における加害者の立場にある使用者への補償を認める制度であり、加入者の労働災害からの生活危険に対する保障をめざす社会保障的原理に基づくものである。特別加入制度は、労災保険上の一制度であっても損害賠償的解釈が入り込む余地はなく、一般労災に関する業務上の概念はそのまま適用できず、申請書に記載された業務と合理的関連性のある災害であれば業務上の災害と認定されるべきである。

3  特別加入時に申請した業務内容を厳格に解するとしても、早朝の搬出、配達は申請書に記載したバナナの熟成加工作業、運送作業そのものであり、また、早朝の就業は労働者の時間外労働に応じて就労する場合、すなわち早出残業に該当する。

4  健二の死亡は、早朝の配達による疲労のみによって発生したものではなく、主としてバナナの搬入、加工という重労働による精神的、肉体的疲労の蓄積の上に早朝の配達による疲労が重なってくも膜下出血を発症させたものであり、健二の死亡は業務によるものであることが明らかである。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  バナナの加工は加熱したのち冷却する方法によるもので、その際、エチレンガスが使用されること、バナナの保存が一三度の室温で行われること、バナナの入荷は三日に一度程度であること、健二の死亡当時の労働状況は原告の主張4の通りであること(労働が過重であったかどうかは除く)、健二が昭和五一年頃高血圧症の治療を受けたことがあることは当事者間に争いがなく、右事実に、<書証番号略>、被写体が本件現場であることに争いがなく弁論の全趣旨により原告代理人古殿宣敬が昭和六三年五月二七日に撮影した写真であると認められる<書証番号略>、証人大崎信一郎の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、次の事実が認められる。

1  健二の日常の業務について

(一)  健二は、兵庫県三木市末広二丁目所在の両親の自宅に地下室四室を設けて昭和四〇年頃からバナナの加工業を始め、昭和四五年頃にケーフルーツ商事を設立し、会社経営(代表取締役は健二)として右業務を継続したが、その後、作業所を現在の末広三丁目に移して加工室として地上二室、地下四室を構えて営業するようになった。そして、その経営には一時、従業員四、五名を使用していたが、昭和五七年頃からは健二一人ですべての業務を賄うようになった。なお、ケーフルーツ商事の営業内容は、バナナの加工と加工したバナナの販売である。

(二)  バナナの加工工程は次のとおりである。

バナナは段ボール箱入りで入荷するが、健二は、入荷したバナナ(フィリピン産は一箱約一三キログラム、台湾産は一箱一六キログラム)を一旦配送車から降ろしたうえで、必要に応じて保存する分と加工する分を仕分け、保存する分は地上の保存室(地上の加工室の一室を保存室として専用していた。)に、加工する分は地下の加工室に搬入する。保存室へはそろばん(上に乗せた物が移動し易いようにした盤状のもの)を用いて搬入し、保存室内に手作業で一箱ずつ積み上げていく。地下加工室へは入口までそろばんで運んだ後、そこに備え付けてあるホイストに手作業で一〇箱程を乗せて約2.5メートル下の床に降ろし、タラップを降りてその箱を抱えて室内に積み上げ、再びタラップで上に上がって同じ作業を繰り返して全部を収納する。なお、健二はバナナ箱に萬遍なく熱がゆき渡るように、また、バナナに傷がつかないように配慮しながら箱を一〇ないし一五センチメートル位の隙間をあけて1.6メートル位の高さにれんが積みにしていた。

その後、加工中のバナナについては、自動制御装置を利用して加工室の温室を二三ないし二六度に保ち、そこヘエチレンガスを注入して約二五時間加熱した後バナナの色づけのために温室を一六ないし一八度に保ち、夏期は四、五日間、冬期は五、六日間、バナナが乾燥しないように一日に数度水を撒きながらそのままの状態で保存する。加工したバナナの商品価値は二日程度なので、出荷の状況を見定めて温度調節をする必要があった。一方保存室のバナナは室温が一三度に保たれている保存室に保管されるが、保存できる期間が一〇日程度であるから、註文に応じてバナナを保存室から加工室に移し、右の加工手順に従って加工する。

(三)  健二は、毎日午前中に商品となったバナナを加工室から搬出し、トラックに積み込んで三木市、小野市、西脇市、加西市等の小売店に配達し、午後は主としてバナナの加工作業に当たった。

そのほか、健二は、原告の経営する喫茶店の手伝いもした。

2  健二の仕事量について

(一)  健二は、毎朝午前五時三〇分頃に起床し、前日の註文に応じて加工室からバナナを搬出し、三木市内への分とそれ以外への分に分けて二台のトラックに積み込み、午前六時三〇分頃から三木市内の小売店に配達し、それが終わった同八時三〇分頃から正午頃までの間に小野市、西脇市、加西市等の小売店に配達した。なお、健二は、配達量が多くなる土曜日には知人に配達の手助を受けていた。健二は、配達終了後、原告の経営する喫茶店で昼食をとり、同店が忙しくなる正午からの約一時間三〇分位の間、同店を手伝い、引き続いてバナナの加工業務に従事し、その後喫茶店の後片付け等を手伝った。

(二)  バナナの昭和五九年一月から八月までの入荷量は、別紙(一)記載のとおりで、ほぼ三、四日に一回の割合で入荷し、四月後半から五月前半にかけては一回につき二〇〇箱を越すこともあったが一〇〇箱程度が多く、三回に一回の割合で一七〇箱程度の入荷があり、六月頃から一回につき一五〇箱を越えることが多かった。

(三)  健二は、バナナの入荷量に合わせて加工作業にはいるが、バナナの入荷は三、四日に一度の割合であるから、適宜、保存室のバナナを加工室に搬入し、加工工程に差異をつけて加工室を使用していたので、毎日、熟成加工作業、搬出入作業があり、それが終わるのは午後五時から同七時頃までの間であった。

また、バナナの熟成作業は温度調節、水打ち等の作業が重要であるから右の時間以降も加工室に出入りし、深夜であっても異常があれば対処する必要があった。

(四)  以上のように、年中休むことなく、午前五時から就寝する午後一〇時頃までバナナの加工業務等に従事し、一日の仕事量は長時間に及んでいた。

3  健二の昭和五九年八月二五日の労働状況等について

(一)  健二は、当日午前五時三〇分頃に起床し、同六時三〇分頃までに地下加工室から配達用のバナナ約六〇箱を搬出して車に積み込み、同七時頃までの間に三木市内の小売店に約二〇箱を、続いて、約四時間かけて小野市、社市、西脇市、加西市等の小売店に約四〇箱を配達した。

(二)  健二は、昼食後、原告の経営する喫茶店を約一時間手伝い、午後一時三〇分頃から午後四時頃までに当日入荷したバナナ一七〇箱のうち約七〇箱を保存室に、うち約一〇〇箱を地下の加工室に搬入した。そして、加工室に搬入した際には長男・竜也が加工室入口でホイストに積み込む作業を手伝い、健二は、地下加工室内の作業をした。

当時の保存室の室温は一三度、外気温は三〇度であり、前数日の気温も同程度で平年並であった。

4  発症時の状況について

健二は、バナナの搬入作業を終了して、午後四時三〇分傾、作業場二階の居間に入ってきて風呂場の方に向かったが、引き返してきて「首が痛い」と言って首を押さえ、うずくまって激しい苦痛を訴えた。原告は、その場にいた長女・敦子からの電話連絡によって帰宅し、救急車の手配をして同五時三〇分頃、健二を神戸市西区神出町広谷所在の久野病院に入院させたが、健二は、翌二六日午後七時四一分くも膜下出血により死亡した。

5  健二の健康状態について

(一)  既往症

健二は、昭和四一、二年頃、頻脈発作を起こし医療機関による治療を受け、昭和四五年頃、高血圧症、WPW症候群、心室中隔欠損症と診断されて降圧剤の投薬治療を受けたが、薬剤の影響により仕事が捗らないとしてその治療を中断した。

なお、久野病院のカルテに既往症として境界域糖尿病及び高脂血症の記載があるが治療を受けたこともなく、具体的な点は明らかでない。

(二)  日常の健康管理

健二は、身長一六五センチメートル、体重八〇キログラムの体格で、毎日酒一合あるいはビール中瓶一、二本を飲み、たばこは一日二〇本程度を吸い、食物はてんぷら等の油物、塩気のある物を好んだ。健康管理については、健康であることを理由に診察等を受けたことがなく、高血圧症であったが食事に関して特別注意を払うことなく、日常の生活を送っていた。発症前は朝たばこを吸わないと目が覚めないといい、頭痛を訴えていた。

(三)  以上の事実に基づき、健二の死亡が労災保険法一二条の八第二項の援用する労働基準法七九条、八〇条所定の「業務上死亡した場合」に該当するか否かにつき検討する。

(1) 業務上の死亡といえるためには、被災者の死亡と業務との間には相当因果関係の存在することが必要であるところ、右相当因果関係があるといえるためには、当該業務がその死亡の最有力原因であることまでは要しないが、少なくとも相当有力な原因であることが必要である。そして、被災者の死亡原因が疾病に基づく場合には、右疾病と業務との間の相当因果関係が必要であるところ、その死亡原因が基礎疾病に基づく場合であっても、業務の遂行が基礎疾病を急激に増悪させて死亡時期を早める等、それが基礎疾病と共働原因となって死亡原因となった疾病を招いたと認められる場合には、業務と死亡との間にはなお相当因果関係が存するものと解するのが相当である。

(2)Ⅰ 健二は、労災保険の特別加入者であるところ、<書証番号略>によれば、健二が昭和五二年四月に兵庫県労働基準局長に提出した特別加入申請書の業務の内容欄には「午前八時から午後五時まで、バナナの熟成加工作業に従事、運送等にも従事する。」と記載のあることが認められる。

Ⅱ ところで、労災保険は、労働者の労働災害に対する保護を目的とするものであり、本来、労働者以外の者(中小企業主等)の労働災害については保護の対象外であるが、これらの者の中には、事業の実態、災害の状況等からみて労働者に準じて労災保険により保護することがふさわしい者が存在することに鑑み、昭和四〇年の改正により特別加入制度が導入された。したがって、この制度の趣旨からすると、特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲は労働者の行う業務に準じた業務の範囲であり、特別加入者のすべての業務に対して保護を与えることにはならない。

そして、特別加入者については、労働者と異なり、労働契約、労働協約等により労働内容が特定されておらず、業務の範囲が明確にならないことから、特別加入申請書記載の業務内容を一つの判断材料とするほか労働省労働基準監督局長が定める基準によって行うこととし(労災保険法三一条、同規則四条の二六)、現行の中小企業主等の特別加入の業務災害の認定基準(業務遂行性の判断基準)は別紙(二)のとおりである。

本件における健二の業務についても、従業員としての業務といえる業務の範囲において労災保険の適用があると解するのが相当である。

Ⅲ 健二の日常行っていた業務の内容及び健二が特別加入申請に際して申請書に記載した業務内容は、先に認定したとおりであり、その間に大きな隔たりがある。

ところで、証人大崎信一郎の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、大崎信一郎はバナナ加工の会社に昭和六一年まで勤務していたが、その当時の勤務時間は夏期が午前五時頃から午後三時頃までで、冬期は午前六時頃からであったこと、ケーフルーツ商事において従業員を雇用していた頃の、従業員の勤務時間は通常は午前七時頃から午後三時頃までで、バナナの入荷したときは午後五時頃まで勤務することがあったことが認められるので、バナナ加工業における労働者の勤務形態は、一応早朝から午後三時頃までとみられる。

そこで、健二が日常行っていた業務内容、特別加入申請書の記載内容、バナナの加工業における従業員の勤務形態を考慮すると、健二の従事した業務のうち早朝の配達業務から午後三時頃までのバナナの熟成加工作業、搬入作業までを基準とし、これに通常認められる超過勤務を加えた程度の業務を労災保険の適用範囲と認めるのが相当である。

三  <書証番号略>及び同証人の証言によると、くも膜下出血の多くは、先天的もしくは後天的に形成された脳動脈瘤が破裂してくも膜下腔に出血することによって引き起こされる症状であり、その誘因として種々論じられているもののそのメカニズムは必ずしも明かとはいえないが、発症直前の精神的、肉体的な過重負荷が血圧を上昇させ、動脈瘤破裂を招来する場合のあることが認められる。

そこで、健二の身体的状況及び発症直前に業務に関し過重な精神的肉体的負荷があったかどうかについてみることとする。

1  前記認定によれば、健二は、昭和四五年頃、高血圧症の診断を受け、一時期降圧剤の服用により血圧の降下を図ったが、降圧剤の服用は仕事に影響するということでこれを止め、その後、治療も健康診断も受けることなく、塩分の摂取等も気にせず日常生活において血圧について留意したことがないのであるから、高血圧症が持続していたものとみられる。

2  前記認定の(二)(1)(健二の日常業務)、(2)(健二の仕事量)、(3)(健二の昭和五九年八月二五日当時の労働状況等)によると、午前中の配達作業はトラックへのバナナの積み込みは手作業で行われたがそれ以外は小売店に配達し順次降ろしていくもので、数量(平均すると一日五〇箱位)及び所要時間からしてさほど無理な仕事とはみられないし、午後のバナナの搬入作業は、そろばん、ホイストを利用するほか手作業でされていたことから、健二にはかなりの肉体的負担のあったことは否定できないが、入荷分については三、四日に一度でその作業が二、三時間で終わるものであり、保存室から加工室へのバナナの搬入は量も少なく、作業内容はこれと大差がなく、熟成加工作業は大きな肉体的負荷を与えるような性質のものではないこと、健二は、長期間、午前中は加工室から註文を受けたバナナを搬出して車に積み、これを三木市、西脇市、加西市、小野市等の小売店へ配達し、正午頃からの一時間ないし一時間三〇分は原告の経営する喫茶店を手伝い、午後はバナナの搬入、熟成加工作業に当たり、夕方から右喫茶店の手伝いをする生活をしてきたものであり、七、八月の夏期の暑さを考慮しても健二のくも膜下出血発症当時及び直前において特に異なった業務をしたとはみられないこと、昭和五九年一月から八月までのバナナの入荷日及び入荷量は別紙(一)のとおりであって、四月が一三四〇箱(一〇回)、五月が一五八〇箱(一一回)、六月が一三四〇箱(一〇回)、七月が一二四〇箱(九回)、八月(二五日まで)六九〇箱(五回)で、四、五月頃は二〇〇箱を越す日もあったが六月以降は多くても一五〇ないし一七〇箱と安定し、八月はかなり減少したこと、健二のくも膜下出血発症当日の健二の仕事は通常の仕事と特に異なることはなく(むしろ、竜也の手助けによって軽減されている。)、また、日中の気温も平年並の三〇度程度であり、それ以前においても異常気象による気温の上昇があったとはみられない。

以上の事実関係からすると、健二のくも膜下出血発症前の数か月以内に、健二に右症状の発症に結びつくような業務による甚だしい精神的、肉体的負荷が加わったものとは認められない。

3  原告は、継続的な精神的、肉体的疲労がくも膜下出血を発症させる原因となる趣旨の主張をし、そのように理解する考えもないではないが、それを認めるに足りる十分な資料はないうえ、健二に極度の精神的、肉体的疲労が生じていたとしても、前記認定事実によれば、通常の業務の範囲を越えた特別加入による労災保険の適用対象外の過剰な仕事に従事したことによる負担が大きいものといえる。

4  そうすると、健二の死亡とその業務との間に相当因果関係があると認めることができない。

四  以上のとおりであるから、健二の死亡を業務上の死亡と認定しなかった被告の本件処分には違法な点はなく、その処分の取消を求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官長谷喜仁 裁判官廣田民生 裁判官横山巌は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官長谷喜仁)

別紙(一) バナナの入荷状況<省略>

別紙(二) 中小事業主等の特別加入者の業務災害の認定基準<省略>

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