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神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)15号 判決 1987年4月20日

兵庫県西宮市小松北町一丁目五番二三号

原告

竹松勇

右訴訟代理人弁護士

高橋敬

右同

筧宗憲

兵庫県西宮市江上町三番三五号

被告

西宮税務署長

衣川恭二

右指定代理人

中本敏嗣

右同

玉井勝洋

右同

山本正明

右同

山口忠芳

右同

鈴木慶昭

右同

岡田淑子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当時者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五七年三月九日付けでなした原告の昭和五三年分、同五四年分、同五五年分の各所得税の総所得金額をそれぞれ五一一万五九五円、五三八万四五六六円、八五〇万四六六〇円とした更正処分のうち一七五万円、一八五万円、一九〇万円を超える部分及び各過少申告加算税を二万五〇〇〇円、二万七二〇〇円、七万〇四〇〇円とした賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は塗装工事業を営むいわゆる白色申告者であるが、法定申告期限までに、被告に対し、昭和五三年分、同五四年分、同五五年分(以下「係争各年分」という。)の各所得税総所得金額を別表一(一)欄のとおり確定申告したところ、被告は昭和五七年三月九日付けで同表(三)欄の金額に更正する処分及び同表(五)欄の過少申告加算税を課する賦課決定処分を行つた。

申告所得による各算出税額は同表(四)欄の金額、更正所得金額による各算出税額は同表(四)欄の金額である。

2  原告はこれらの処分を不服として被告に対し、昭和五七年三月三一日異議申立をしたところ、被告は同年六月一七日付けでそれぞれ異議申立棄却の決定をした。

3  原告は更にこれを不服として大阪国税不服審判所長に対し、昭和五七年七月一二日審査請求をしたが、昭和五八年三月四日付けで右請求棄却の裁決がなされ、右裁決は同月六日原告に送達された。

4  しかし、原告の本件係争各年分の総所得及び納付すべき税額はそれぞれ別表一(一)及び(二)欄のとおりであり、本件各更正処分のうち、原告の自認する右総所得金額及び納付すべき金額を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定した違法なものであり、また本件各更正処分を前提としてなされた本件過少申告加算税の各賦課決定も違法であるので、その取消を求めるため前記請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。

なお、本件係争各年分の「申告・更正等の経過」は別表二のとおりである。

三  被告の主張

1  本件課税処分の経緯について

(一) 原告は西宮市小松北町一丁目五番二三号(前記肩書地)において塗装工事業を営んでいる。

(二) 被告は原告の本件係争各年分の所得税調査のため、次のとおり、職員を昭和五六年八月一九日以降数回にわたつて原告宅に臨場させたが原告の協力を得られなかつた。

すなわち、

(1) 被告部下職員である佐々木国税調査官(以下「佐々木係官」という。)ほか一名は、昭和五六年八月一九日以降再三にわたり原告の所得税調査のため原告宅に臨場し、原告に対し係争各年分の事業所得金額の計算の基礎となるべき帳簿書類等の提示及び事業内容の説明を求めたが、原告は終始これに応ぜず調査に全く協力しなかつた。

(2) 昭和五六年九月一六日被告部下職員である坂根上席国税調査官(以下「坂根係官」という。)及び佐々木係官は、原告宅へ臨場した。

右両名は、身分証明書を提示のうえ、所得税調査に来た旨原告に告げたところ、原告は、折から居合せた数名の民商事務局員ら(以下「第三者ら」という。)と一緒になつて取り囲み、「佐々木係官一人なら調査に応じるが坂根係官と二人の調査には応じられない」旨繰り返して調査に応ぜず右両名が原告宅に上がるのを拒否した。そこで、右両名は、原告に対して本日の調査は右両名で行うので調査に応じるよう説得すると共に第三者らの立会い排除方を要請したが原告は右説得及び要請を無視してこれには応ぜず、そのうちに、原告は居宅に入り込み、居宅前には第三者らのみとなつたので右両名は原告に対して玄関まで出て来て調査に応じて欲しい旨備付けのインターホーンを通じて要請したが、原告は何らの応答をせず、結局これも徒労に終わつた。

(3) 昭和五六年一〇月八日坂根及び佐々木両係官が調査のため原告宅に臨場したところ、原告は、調査に応じるような態度を見せ右両名を原告宅に招き入れた。しかしながら右両名が原告宅に入ると十数名の第三者らが右両名を待ち受けていた。そこで、右両名は原告に対し前回同様第三者らの立会い排除方を要請したが、原告はこれに応じないばかりか、かえつて第三者らと共にテープレコーダーをセットしたり、カメラを持ち出し写真を写したりした上、更に「調査は一人で行え」「何で勝手に反面調査した」「立会いは法律で認められているんじや、阿呆かお前ら」などと口々に右両名を罵倒する有様であつた。

そこで、右両名は、このような状態では調査を続行することは到底不可能であると判断し、退席せんとしたところ、第三者らが「今日は日を空けて待つていたのに帰るとは何事や」と言いながら、肘を坂根係官の首に押し当てたり、こぶしで佐々木係官のあごを殴るなどの乱暴をしながら退席を阻まんとしたが、右両名は原告宅から退去した。

(三) 以上のとおり、被告職員の調査には何ら違法なところはない。むしろ、被告は右状態では本件係争各年分の原告の事業所得の全額を原告の協力を得て実額計算により算定することは不可能であると判断し、やむを得ず原告の取引先等の調査を行ない、それによつて得た資料等に基づいて推計により本件係争各年分の原告の所得金額を算定し、本件各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたものである。

したがつて、推計課税をなす要件が全く存在せず本件更正処分が違法であるとの原告の主張は全く理由がない。

2  本件係争各年分の売上金額について

(一) 被告は本件所得税調査として取引銀行である阪神相互銀行鳴尾支店の原告本人名義、原告の妻竹松信子名義及び原告の長男竹松正彦名義の各普通預金口座をそれぞれ調査したところ、多数の振込、取立入金及び現金入金が確認できた。

(二) そして、振込、取立入金についてその支払者を調査したところ、右支払者は、いずれも原告の取引先であり、原告の売上代金の入金であることが判明した。そこで、右により判明した取引先を反面調査をするなどして売上金額を把握したが、その明細は、別表三ないし五の各(1)取引先明細記載のとおりである。

(三) このように、阪神相互銀行鳴尾支店の右各口座は、専ら取引先からの入金がなされる等売上代金の入金手段として用いられており、かつ、原告には本件事業収入以外の収入もないことから、右各口座の右(二)以外の現金入金も、原告が売上代金を預け入れたものと認められる。原告の右各口座への現金入金状況は、別表三ないし五の各(2)預金口座への現金入金額記載のとおりである。

(四) したがつて、原告の本件係争各年分の売上金額は、前記(二)の反面調査等により把握した取引先別売上金額と前記(三)の売上代金の現金入金額との合計額(別表三ないし五の各(3))。

3  本件課税処分の適法性について

(一) 原告の係争各年分の事業所得は、次表の「被告主張額」欄に記載のとおりであるから、被告が右の各事業所得金額の範囲内で行つた本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも適法である。

<省略>

(二) 原告の係争各年分の事業所得金額の算定方法は、次のとおりである。

(1) 昭和五三年分

(イ) 売上金額 一九九三万八九八〇円

(ロ) 算出所得金額 七三〇万九六三〇円

算出所得金額は、右(イ)の売上金額に同業者の算出所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に対する割合)の平均率(以下「同業者平均所得率」という。)三六・六六パーセント(別表六)を乗じて算出した。

(売上金額) (同業者平均所得率)

1993万8980円×36.66パーセント=730万9630円

(ハ) 特別経費 〇

(ニ) 事業所得金額((ロ)-(ハ))七三〇万九六三〇円

(2) 昭和五四年分

(イ) 売上金額 一九七〇万六四三七円

(ロ) 算出所得金額 七三一万五〇二九円

算出所得金額は、右(イ)の売上金額に同業者平均所得率三七・一二パーセント(別表七)を乗じて算定した。

(売上金額) (同業者平均所得率)

1970万6437円×37.12パーセント=731万5029円

(ハ) 特別経費 〇

(ニ) 事業所得金額((ロ)-(ハ))七三一万五〇二九円

(3) 昭和五五年分

(イ) 売上金額 二九四五万七三二〇円

(ロ) 算出所得金額 九九〇万九四四二円

算出所得金額は、右(イ)の売上金額に同業者平均所得率三三・六四パーセント(別表八)を乗じて算定した。

(売上金額) (同業者平均所得率)

2945万7320円×33.64パーセント=990万9442円

(ハ) 特別経費 〇

(ニ) 事業専従者控除額 四〇万円

事業専従者控除額は、原告の昭和五五年分の所得税の確定申告書に記載された金額である。

事業所得金額((ロ)-(ハ)-(ニ)) 九五〇万九四四二円

4  推計の合理性について

被告が、原告の係争各年分の所得金額を算定するに当たり用いた同業者の選定の経緯及びその推計が合理的であることについては、以下に述べるとおりである。

(一) 原告の事業内容は塗装工事業であるので、被告は原告の所轄税務署である西宮税務署管内で青色申告書により所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件係争各年分(三年分)を通じて、次のすべての条件に該当する者六名を抽出選定した。

(1) 塗装工事業を営んでいること

(2) 右(1)以外の事業を兼業していないこと

(3) 本件係争間(三年間)を通じて継続して事業を営んでいること

(4) 西宮市内に事業所を有していること

(5) 年間の売上金額が一〇〇〇万円から四五〇〇万円までの範囲内であること

なお、右売上金額の範囲は被告主張の原告の売上金額を基準として、上限を昭和五五年分の売上金額二九四五万七三二〇円の約一五〇パーセント、下限を昭和五四年分の売上金額一九七〇万六四三七円の約五〇パーセントとしたものである。

(6) 不服申立又は訴訟係属中でないこと

(二) 右の基準によつて抽出選定された同業者の平均所得率を用いて原告の本件係争各年分の所得金額を推計したことは合理的である。

(三) 被告がした同業者平均所得率により推計した原告の所得が合理的なものであつて決して過大なものでないことは、次の点よりも明らかである。

(1) 原告は、別表九のとおり、本件係争各年及びその前後にかけて多数の不動産を取得し、しかもそのころ短期間のうちにその代金を現金で支払つている。

(2) また、原告の生活費、必要経費等必要資金の面から検討しても、原告の事業所得金額は、別表一〇のとおり、少なくとも昭和五三年分五七〇万三〇八〇円、昭和五四年分一〇三〇万三八六一円、昭和五五年分一三四〇万五四六七円(いずれも別表一〇の「原告の生計費等必要資金の計算」の<7>の金額と<6>(1)の金額との差額)以上となる筈で、被告が更正した前記事業所得金額を上回るものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1「課税処分の経緯について」のうち、(一)及び(ニ)中被告職員二名が昭和五六年九月一六日及び一〇月八日に原告宅に税務調査に訪れたことは認めるが、その余は否認する。

この点については、後期原告の反論1「被告による本件更正処分の経過」で主張するとおりである。

2  同2「本件係争各年分の売上金額について」のうち、(一)は不知、(二)の別表三の(1)取引先明細中1、3、5ないし13、19ないし23、26ないし28、30、別表四の(1)同明細中1ないし3、6、8ないし16、20ないし26、28、30ないし34、別表五の(1)同明細中1ないし6、9、11、12、14、16ないし22、25は認めその余は否認し、(三)及び(四)は否認する。

訴外竹松信子の預金が原告の事業収入であるという根拠は全くない。訴外竹松信子の預金口座は日常の生計のための口座(原告から同信子が生活費を受け取りその場で支払等に使われた残金が入金されることが多い)であり、必要に応じて現金の出入がなされているが、これを営業上の売上金の出入とする根拠はない。また、原告の口座については別表三ないし五の各(1)の取引先別明細に記載された取引先以外の取引先からの入金は有り得ないので、右取引先以外からの売上金があるとするのは失当である。被告の主張では取引先からの現金入金が二重、三重に計上されることになる。

3  同3「本件課税処分の適法性について」及び同4「推計の合理性について」はいずれも争う。原告は被告主張のとおり不動産を取得したが、これは原告の本件係争各年分の事業所得によるものではない。また、被告は原告の所得推計の正当性を裏付けるものとして不動産取得費までも生活費等必要資金に積み上げるという不当な手法を弄している。

五  原告の反論

1  被告による本件更正処分の経過

(一) 被告は昭和五六年八月原告に対し、「原告が税務調査の対象者になつた。担当職員は佐々木某である。」旨通知した。原告と被告の話合いの結果、佐々木某は同年九月一六日に原告宅を訪れることになつたので、原告は自らの加盟する中小商工業者の団体の職員に同席してもらつて同日の被告の調査に臨んだ。同日午後原告宅に被告職員二名が訪れ、「調査にきた。上がらせてくれ。」といつたので、原告は「佐々木さんが一人で調査にこられると聞いていた。」と応対したところ、右二名は「二人で上がらせてもらう。これは上司の命令だ。」と問答無用の居丈高な態度をとつたので、原告宅に来ていた者達もその物言いに抗議したが、右二名はなおも原告宅に上がりこもうとした。そのやりとりのなかで、原告宅に来ていた者達の一人が「あくまでも強制的に住居内に立ち入るというなら、令状を持つているのか。」と被告職員に訊ねる場面もあつた。うち被告職員二名は原告宅の表に出て、大声で「西宮税務署の佐々木と坂根です。所得税の調査に来ました。」「竹松さん出て来て下さい。所得税の調査に来ました。」とわめき出した。しかも右二名はそれを約三〇分にわたつて数十回繰り返した。このため近所の人は何事かと表に出て来たり、原告宅の向の社宅の住人も不審に思つてか、皆窓を開けて様子を窺つていた。原告は近隣の人達に税務調査の対象とされていることばかりか、何か問題でも起こしたのではないかと衆目を集めるところとなり、いたたまれない程恥ずかしい思いをさせられ、半月程表を歩くことも憚りたい気持にさせられた。

(二) 次に被告職員二名が原告宅を訪れたのは同年一〇月八日である。原告が右二名を原告宅に上げたところ、右二名は「原告の他に同席者がいるのはけしからん」と言い出し、結局、原告に対してなんの発問もせず、二〇分程で席を蹴つて帰つてしまつた。その後被告は推計課税により原告に対して更正処分をした。

(三) 右のとおりの経過であり、被告が職員二名を原告宅に差し向けたのは税務調査を平穏妥当に行なおうという意図からではなく原告に対して圧力を加えること及び推計課税の口実を作るためであり、被告の本件推計課税はその必要性、理由を全く欠くものである。

2  売上について

(一) 原告はきわめて勤勉な自営業者であり、休日もとらず、目いつぱい、利と売上の額のかさが低い仕事をこなしているところである。しかし、その余の世事、人との応対などは全くく不得手であり、塗装作業以外記帳などにも、全く手がまわらないため、現在に至るも、正確な収支については、正確な帳簿が完備しているわけでない。

そこで、本件処分がなされ、その不服審査での心理の際原告は被告が原告の売上として主張した

昭和五三年分 一五四九万四〇八〇円

昭和五四年分 一五二八万四〇三七円

昭和五五年分 二五三〇万四五二〇円

を前提として、手持ちの資料、記憶をもとにして、西宮民主商工会所属の会員の協力を得て、収支の試算をなして、原告の申告の正当性を明らかにし、本件訴訟においては、証拠調が終了した本年七月九日の口頭弁論期日において、当事者間で争いのない、原告の売上は、

昭和五三年分 九一一万一八八〇円

昭和五四年分 一〇三五万八四八七円

昭和五五年分 一二八一万〇〇六〇円

にすぎない。

(二) 銀行口座への現金入金について

被告は、国税不服審判所においては、原告の収入は別表三ないし五各(1)取引先明細記録のとおりであるとしながら、本件訴訟に至ると、預金通帳の現金入金なるものをすべて収入として主張している。これは、家計と営業が混同している自営業者に対して存在しないものを存在しないと主張、立証することをせまるものであり、さらに、取引先からの現金収入を二重に収入として計上させようというものであり、いずれも失当である。

竹松信子は、原告の妻であるところ、同人は家計をまかされて、原告から受け取つた生活費をその額、当座の必要性の有無により、出し入れをしていたのである。ただ、原告から生活費として取引先から受け取つた有価証券等は、そのまま取り立てていた。また、原告の取引先から、工事代金(売上)を現金で受け取つたものを、原告の預金口座に入れたり、原告の妻に生活費として直接手渡すかいずれかにしていた。

なお、原告が妻に生活費として渡す現金は、原告の預金口座から引き出したものがほとんどであるが、前述のとおり取引先からの現金を渡す場合もある。

3  同業者率について

被告は同業者率(同業者平均所得率)を使用して、不当な更正処分を合理化しようとしているが、後述のとおり、全くの手前味噌であり、創作であることが明らかである。

(一) 原告が建築塗装を業とするものであることは当事者間に争いがなく、被告が同業者として選定したものの条件については被告の主張4「推計の合理性について」のとおりである。

ところで、神戸地方裁判所昭和五六年(行ウ)第三二号事件(以下「別件」という。」において兵庫税務署長が本件と同じく塗装工事業者の同業者を定めるため採用した比準同業者の選定基準を本件におけるそれとの間で比較すると、次のとおりである。

<省略>

右のとおり、事業者の範囲が別件の分の方が広い(宝塚市を含む)こと、昭和五三年以外は重複しないこと、売上額の巾が、別件の分の方が狭いという以外は全く同じである。しかも宝塚市が塗装業者にとり西宮市と条件が違うことは考えられず、売上の巾が狭いのはより近似している証拠とされている。

ところが、被告が算出する所得率は、

昭和五三年 三六・六六パーセント

昭和五四年 三七・一二パーセント

昭和五五年 三三・六四パーセント

と算出されている。

それに対して、別件の場合の所得率は、

昭和五一年 二一・三三パーセント(経費率七八・六七パーセント)

昭和五二年 二四・六七パーセント(〃七五・三六パーセント)

昭和五三年 二二・八八パーセント(〃七七・一二パーセント)

にすぎないのである。

全く条件を同じくする同業者間において、別件の場合に比べ、被告の提示するものが、一・五倍もの所得率を算定すること自体被告の提示する同業者率なるものがその根拠資料をも開示することなく、いかに手前勝手な創作によりはじき出されているのか、優に認定できるものといわなければならない。

被告からは、別件の場合とは売上の巾が違うからという弁解が出されるかも知れない。

ところで、別件で兵庫税務署長の行なつた補足説明によると別件で前述の同業者率の要件の(1)ないし(6)を充たすものが

昭和五一年 一八件

昭和五二年 二〇件

昭和五三年 二二件

にすぎない。

次に、

昭和五一年で売上が八六〇万をこえるものは九件

昭和五二年で売上が一一二〇万をこえるものは一二件

昭和五三年で売上が一一七〇万をこえるものは一四件

にすぎない。

このように、別件は、兵庫税務署長の主張によれば、昭和五二年五三年では九件が同業者なのでそれぞれの下限の金額をこえた全業者の六〇パーセントをこえる業者の所得率であることを意味しており、例えば昭和五三年において、上限が四〇〇〇万円であるとしても突如所得率が、一・五倍にはねあがる事情はとうてい考えられないのである。

さらに追及すると、被告の提示する同業者の売上金額は、別件の売上金額に全六件中五件は含まれ、はずれる一件についても、二〇万円程度の差であり、実際は、全く同じ売上金額の業者を対象にしていることが明らかなのである。

(二) 右のとおり、被告主張の同業者率は極めて恣意的なものであつて全く合理性を有しないことが明らかである。

よつて、本件で被告主張の同業者率によつて原告の本件係争各年分の所得を算出することは許されない。

4  原告の経費について

(一) 原告の主な経費は、雇人費、外注費であり、それは次のとおりである。

昭和五三年 給料 (竹松重雄) 二五一万円

外注費 大下塗装 四八〇万円

昭和五四年 給料 (竹松重雄) 二六三万円

外注費 村田塗装 四二一万八六三九円

山田塗装 二一万円

小森工芸社 一〇万円

江崎塗装 二二万円

昭和五五年外注費   長沢塗装店 二一八万八〇〇〇円

中西塗装店 七〇九万八二〇〇円

長崎塗装店 五七一万五八二〇円

村田塗装店 九〇万円

佐藤勝俊 一〇万円

黒木塗装店 七四万円

江崎塗装店 五六万円

山田塗装店 二五万三〇〇〇円

(二) 次に、その余の経費は次のとおりである。

(1) 仕入金額

昭和五三年 二五五万七五〇〇円

昭和五四年 二一二万〇四八五円

昭和五五年 三一五万六六〇〇円

(2) 通信交通費

昭和五三年 一八万六〇〇〇円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 〃 円

(3) 交際接待費

昭和五三年 二二二万円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 一三八万円

(4) 自動車保険料

昭和五三年 六万円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 〃 円

(5) 消耗品費

昭和五三年 八三万二九三三円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 〃 円

(6) 減価償却費

昭和五三年 一七万八三〇〇円

昭和五四年 三五万五三六〇円

昭和五五年 五五万一九三七円

(7) 公租公課

昭和五三年 一九万一五〇〇円

昭和五四年 九万一五〇〇円

昭和五五年 二六万一五〇〇円

(8) 修繕費

昭和五三年 六万円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 〃 円

(9) 地代

昭和五三年 八万四〇〇〇円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 四万二〇〇〇円

(10) 雑費

昭和五三年 六万円

昭和五四年 〃 円

昭和五五年 〃 円

(11) 広告宣伝費

昭和五五年 五万円

六  被告の再反論

原告は本件と別件とでは昭和五三年度分の同一の同業者の所得率が異なることから本件の同業者率には合理性も信用性もないと主張するが、右両者間には選定条件の相違による同業者の違い(別件での同業者の全部が本件に含まれているわけではない)と同業者所得率算定方法の違いにより同業者率に相違が生じたものであり、両者は比較対照しうるものではない。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告は本件各更正処分のうち、各年分の所得金額が原告の確定申告に係る金額を超える部分は被告の過大認定であつて違法であり、したがつて、本件各更正処分を前提としてされた本件過少申告加算税の各賦課決定も違法であると主張するので、この点について検討する。

1  推計の必要性について

被告は原告の本件係争各年分の総所得額を推計により算出し、これに基づいて本件各更正処分の適法性を主張し、原告はこの点を不合理として強く争つているところであるが、およそ所得課税は可能な限り所得の実額によるべきであるから、所得の推計による課税は、納税者が信頼できる帳簿等を備えておらず、課税庁の調査に対しても非協力的な態度をとるなどのため、課税庁において所得の実額を把握できないときにはじめて許容されるものといわなければならない。

これを本件についてみるに、原告本人尋問の結果(後記惜信しない部分を除く)及び同結果によつて成立を認める甲第一二号証、証人佐々木正次及び同伊藤和貴(後記惜信しない部分を除く)の各証言によれば、次の事実が認定でき、証人伊藤和貴の証言及び原告本人尋問の結果中同認定に反する供述部分はにわかに惜信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は昭和五六年八月一九日原告の本件係争各年分の所得税調査のため職員二名を原告宅に臨場させたが、多忙を理由に原告の調査協力を得られなかつた。

(二)  被告職員は同月二四日及び九月一日にも調査のため原告宅に臨場したが、原告はいずれも不在であつた。

(三)  被告職員二名は更に同月二四日調査のため原告宅に臨場したが、多忙を理由に原告の調査協力を得られなかつた。

(四)  被告職員二名は予め約束していた同月一六日午後一時半ころ原告宅に臨場し、原告に所得税調査に来た旨を告げたところ、原告は、原告宅で一緒に待機していた民商事務局員らと共に「係官一人なら調査に応ずるが二人の調査には応じられない」などと繰り返して調査には全く応じなかつたので、右職員二名は原告に対し、調査は二名で行なうので調査に応ずるようにと繰り返し説得したが原告の協力が得られないまま、結局、右職員二名は帰署した。

(五)  被告職員二名は同年一〇月八日調査のために原告宅に臨場したところ、原告は被告職員二名を原告宅に入れたが、原告宅には民商事務局員ら一〇数名が待機していたので、被告職員は同職員らの退席を求めたが原告はこれに応ぜず、結局、被告職員は調査をすることができなかつた。

そして右認定事実によると、原告は西宮税務署の調査担当職員に対して正当な事由もなく本件係争各年分の帳簿書類及び原始記録の提示をしなかつたし、また被告職員の調査についても原告の協力もしなかつたのであるから、原告の所得金額の実額を把握するための資料が提供されなかつたことは明らかである。

そこで、被告は原告の取引先等の反面調査をし、それによつて把握した資料を基礎に本件係争各年分の所得金額を推計により算定したのであつてなんら違法なところはないといわなければならない。

なお、原告は本件訴訟において本件係争年分の必要経費額を主張するが、そのうち外注費の一部の領収書等(甲第四、第五号証、第九ないし第一一号証、甲第六及び第八号証の各一、二、甲第七号証の一ないし八)しか提出せず、その他の経費については原告の主張に副う証拠としては原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により原告とその家族、同人らと取引のあつた者の記憶に基づいて作成されたものであることが認められる甲第一二号証、原告本人尋問の結果があるだけであり、これらの記載内容又は供述内容が正確なものとして惜信できるか否か疑わしいのみならず、他にこれらの正確性を裏付けるに足る確証もないので、結局、これらのみでは直ちに領収書等で裏付けされた外注費の一部以外の経費の存在を認めることはできない。

そうすると、原告の外注費の一部についてはその金額を認定しうるとしても、原告の本件係争各年分の売上原価及び一般経費全体について実額を把握するに足りる資料の存しない本件においては、なお、推計課税の必要性を否定できないものといわざるをえない。

2  所定の算定

(一)  売上金額について

(1) 原告の塗装工事業による本件係争各年分の売上金額のうち、昭和五三年分については別表三の(1)取引先別明細中1、3、5ないし13、19ないし23、26ないし28、30、昭和五四年分については別表四の(1)同明細中1ないし3、6、8ないし16、20ないし26、28、30ないし34、昭和五五年分については別表五の(1)同明細中1ないし6、9、11、12、14、16ないし22、25は当事者間に争いがない。

次に、官署作成部分についてはその趣旨及び方式により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定され、その余の部分については弁論の全趣旨によりひ成立が認められる乙第二〇号証の三〇、五一、六二、六三、六五、弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第二〇号証の一、三、四、六、八ないし一三、二〇、二二、二四、二五、二九、三三、三四、四一、四四、証人佐々木正次及び同西野但の各証言によれば、原告の本件係争各年分の塗装工事業収入は右当事者間に争いのない取引先以外からの収入も存在し、具体的に取引先名が判明したものとして昭和五三年分のそれは別表三の(1)取引先別明細の2、4、14ないし18、24、25、29、同五四年分のそれは別表四の(1)同明細の4、5(ただし、金額は九五万六〇〇〇円)、7、17、18(ただし、金額は五〇万六〇五〇円)、19、27、29、同五五年分のそれは別表五の(1)同明細の7、8、10、13、15、23、24の各取引、金額であることが認められる。

(2) いずれも弁論の全趣旨により成立を認める乙第一一ないし第一七号証、証人西野但の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は集金してきた金を妻に生活費として渡していること、原告の取引銀行である阪神相互銀行鳴尾支店の原告、原告の妻竹松信子、原告の長男竹松正彦の各名義の普通預金口座があるがそのうち原告及び竹松信子名義の口座はいずれも原告の塗装工事業取引の入金等のために利用され、右(1)の各取引による代金は他店券による入金として右各口座に振込まれていること、右各普通預金口座の現金による出入金(ただし原告名義の口座については出金のみ)の状況は別表一一ないし一三記載のとおりであること、別表三ないし五の各(2)預金口座への現金入金額記載の入金は、別表一一ないし一三記載の入金の一部(即ちその口座から光熱費、電話料等の振替がなされ終始僅かな残高しかないことにより家計のために使用されていると推認される口座(竹松信子名義三四二番)の入金や、同人のそのほかの口座の現金による入金で同人自身が直接現金を持参していたもの及び昭和五四年一月三一日の九万六〇〇〇円の入金その他原告の子供ら名義の口座への小口の入金を除外したものであることが認められる。

右認定の事実、特に別表一一ないし一三に記載の入金及び出金の日付及び金額の多寡などの状況によると、原告の口座からの出金が家族名義の口座に預け替えられたことはないものと推認でき、このことに加えて、原告の家族名義の各預金口座の一回当たりの入金額の大きいこと、月ごと入金額合計が大きいこと、同じ日に各口座に多額が分散されたり、各年末に入金が集中していることなどからすると、別表三ないし五の各(2)預金口座への現金入金記載の入金は、前示(1)の各取引による入金とは異なる原告の事業収入の入金である疑いが強いといわなければならない。

また原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第四号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし八、第八号証の一、二、第九号証、第一一号証、成立に争いのない乙第八号証、前示乙第一一ないし第一七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一八号証の一と一一、乙第二〇号証の一ないし三と九、一〇と一六によると、別表一四記載のとおり、毎月の原告の支払金額及び妻名義の預金口座への入金額の合計額から、毎月の預金引出額と小切手、手形等を支払に充てた金額及び原告が郵便局から引き出したと主張する金額の合計額を控除した残額が赤字となる月があることが認められ、しかも原告は本人尋問の際取引のある郵便局名を明らかにしないなどのことを総合すると、原告には前示(1)の各取引以外にも取引が存在し、これによる収入額から右の赤字を補填したことが窺われる。

(3) これらの事実を総合すると、別表三ないし五の各(2)預金口座への現金入金額記載の入金は、本件係争年度における前示(1)記載の各取引以外の原告の塗装工事業取引による収入の入金であり、他の原告又は家族の口座の預金が預け替えられた入金とか、本件係争年分以外の収入による入金とか、原告の塗装工事業以外からの収入による資金とかを含むものではなく、したがつて原告の本件係争年分の塗装工事業による収入金額としては、前示(1)記載の取引金額のほかに、別表三ないし五の各(2)預金口座への現金入金額記載の金額があると推認するのが相当である。

原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(4) 以上によれば、原告の塗装工事業による収入金額は、別表三ないし五記載のとおり昭和五三年分が一九九三万八九八〇円、同五四年分が一九二一万二五三七円、同五五年分が二九四五万七三二〇円となる。

(二)  必要経費について

(1) 推計の合理化について

被告は、原告の所得を算出するについて、右売上金額に同業者六名の昭和五三年分ないし昭和五五年分の平均所得率を乗じるという推計方法を主張する。

推計には合理性がなければならないが、このためには経験則として採用する推計方式自体に合理性があり、かつ推計の基礎とした事実の選択が本件事案にとつて適切であることを必要とするものといわざるをえない。

これを本件についてみるに、証人西野但の証言及び同証言によつて成立を認める乙第五第六号証によると、本件において被告が主張する同業者の平均所得率は、大阪国税局長が一般通達(大局直訟一一五七号)に基づき西宮税務署長に調査を依頼し、これを受けた同署長が本件係争各年分毎に原告の所轄税務署である西宮税務署管内において、青色申告書により所得税の確定申告書を提出している者のうち、<1>塗装工業を営んでいること、<2>塗装工事業以外の事業を兼業していないこと、<3>本件係争の三年間を通じて継続して事業を営んでいること、<4>西宮市内に事業所を有していること、<5>年間の売上金額が一〇〇〇万円から四五〇〇万円(この金額は被告主張の原告の売上金額を基準として、上限を昭和五五年分の売上金額二九四五万七三二〇円の約一五パーセント、下限を同五四年分の売上金額一九七〇万六四三七円の約五〇パーセントの範囲のものである。)であること、<6>不服申立又は訴訟係属中でないこと、のすべてに該当する同業者を抽出選定し(右基準に合致する者は全部で六名であつた)、右同業者の各年分の確定申告に係る売上金額、売上原価額(差引原価、給料賃金、外注費)、一般経費額(青色申告決算書記載の経費から外注費、給料賃金及び特別経費、即ち利子割引料、地代家賃、建物減価償却費、貸倒金等を控除した金額)及び算出所得金額を調査した結果を報告し、この結果に基づいて大阪国税局長が算出したものであり、右該当者については納税者の秘密保持の見地からその住所・氏名を特に秘しているが、各同業者の売上金額、売上原価額(差引原価、給料賃金、外注費)、一般経費額、算出所得金額及び算出所得率は、別表六ないし八のとおりであることが認められ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、原告の本件各係争年分の所得の算出につき右同業者所得率によることの合理性につき検討するに、右事実によれば、被告は原告と右同業者との間における業態・立地条件の同一性、営業規模の類似性について一応の考慮を払つて前記同業者の選定基準を無作為かつ機械的に決定したものであり、その一方右基準に該当する同業者の一部を故意に排除した事情もなく、また、青色申告者はその営業に関する帳簿書類を備付け、事業所得に関する取引を正確に記帳するものであるから、右同業者の収入金額等も正確に算出されたものというべく、これを基礎にして他の同業者の所得金額を推計することは合理性があり、結局右のような選定基準により前記のとおりの比準同業者を選定したことは、右同業者の中に近似値としての推計を不合理ならしめる程度に特殊な事情の認められない限り、合理性があるといわなければならない。

そこで次に、前記条件の下に抽出された六業者について推計の対比資料としての合理性を失わしめる特殊事情が存在するかについてみるに、右別表六ないし八によると、昭和五三年分においては、売上金額が最高で二二〇九万四〇五〇円、最低で一三二〇万二六〇〇円で原告の前記売上金一九九三万八九八〇円の一一一パーセントから六六パーセントであること、昭和五四年分については、売上金額が最高二四七九万一一二〇円、最低で一五〇四万三六〇〇円で原告の前記売上金一九二一万二五三七円の一二九パーセントから七八パーセントであること、昭和五五年分については、売上金が最高二三八三万一七五〇円、最低で一一四九万五八〇〇円で昭和五三年分、昭和五四年分の売上金額とは大差はないけれども、原告の売上金額が前記のとおり二九四五万七三二〇円と約一〇〇〇万円伸びたために原告の同売上金額と対比するとその八一パーセントから三九パーセントに留まつている(本件係争の三年分を通じての同業者を抽出しているためにある年度においては売上金額にある程度の変動と偏差が生じることもある)ことが窺われる。

しかし、右六業者の本件係争の三年分を通じて売上金額をみた場合には、偏差も比較的少なく類似性があり、原告のそれとも類似性があるものということができる。

また、右抽出された六業者の所得率についてみると、昭和五三年分においては二二・五五パーセントから五四・七九パーセント、昭和五四年分においては二八・三六パーセントから四九・二三パーセント、昭和五五年分においては二〇・三四パーセントから四七・五四パーセントとなり、同業者所得率に偏差のあることは否定できない(同業者間に偏差のあることはむしろ当然のことであつて、むしろその偏差が所得推計の対比資料として相当の範囲内にあるか否かが問題である)が、これを平均所得率でみると、昭和五三年分が三六・六六パーセント、昭和五四年分が三七・一二パーセント、昭和五五年分が三三・六四パーセントとなり、平均所得率自体は経験則上も不当な係数とはいえないことが窺える。

してみると、右のとおりの同業者の所得率の偏差は、これをもつて類型的かつ平均的方法により近似値としての原告の所得を推計する基礎資料とすることが許容される範囲内のものということができる。

(2) ところで、原告は兵庫税務署長が別件で主張する昭和五三年分の西宮税務署管内における塗装業者の平均所得率は二二・八八パーセントであるが、他方、被告が別件と殆んど同業者を同じくしながらも本件で主張する昭和五三年分の同業者平均所得率は三六・六六パーセントと別件の一・五倍以上にもなつており、被告の主張する同業者所得率は恣意的で合理性がない旨主張する。

そこで検討するに、いずれも成立に争いのない甲第一ないし三号証、証人西野但の証言及び弁論の全趣旨によれば、兵庫税務署長は別件では昭和五三年の西宮税務署管内における塗装業者の売上原価、標準経費、給料賃金、外注費、専従者給与の合計額の平均同業者率として七七・一二パーセントを主張している(したがつて、他に標準外経費がなければ同業者の平均所得率は二二・八八パーセントとなる)こと、また右売上原価等の同業者率は西宮税務署管内において、<1>青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、<2>塗装工事業を営んでいること、<3>塗装工事業以外の事業を兼業していないこと、<4>年間を通じて継続して事業を営んでいること、<5>西宮市及び宝塚市内に事業所を有していること、<6>年間の売上金額が一一七〇万円から二一八〇万円であること、<7>不服申立又は訴訟係属中でないこと、の七条件のすべてを充たす者一四名を抽出して算定したものであること、本件と別件の昭和五三年分の同業者のうち五名が同一であり、その余は相違していることが認められる。

そして右事実及び前示の各事実によると、本件と別件で昭和五三年分の同業者率の数値に相違があるのは、抽出基準の差異による同業者数の差異、推計される費目の内容の差異(別件では売上原価、標準経費、給料賃金、外注費、専従者給与の合計額。本件では差引原価、給料賃金、外注費、一般経費の合計額。)、原告特有の経費として計上される費目の差異(本件では利子割引料、地代家賃、建物原価償却費、貸倒金等)などによるものであることが窺える。

そこで更に検討を進めるのに、右昭和五三年分の同業者の抽出基準については、本件と別件との間にいずれがより合理的であるかは、その事実に則して具体的に検討しない限りにわかに決し難いものがあると考えられる。また推計される費目の差異のうち専従者給与の点は後に述べるとして、その余の費目の差異についても、本件と別件との間にいずれがより合理的であるかは、右と同様にたやすく決し難いものがあると考えられる。

次に専従者の点であるが、前示乙第五、第六号証、成立につき争いがない甲第一、第二号証、弁論の全趣旨によると、昭和五三年分の別件と本件の同業者所得率を各比準同業者につき対比すると、Aは一致し、C、D、E、Fは、次に示すとおり、いずれも本件の方が高くなつているところ、その主たる原因は、本件においては、次に示す売上金額を基礎として次に示す専従者給与を経費から除外し別件ではこれ(ただしCについては四九二万円)を経費に含めていることにあることが認められる。

(同業者率)

本件 別件(単位はパーセント)

C 五四・七九 三五・九三

D 三二・二七 二五・五二

E 三五・九七 三一・〇一

F 三三・〇二 二二・二三

(売上金額)

C 一三二〇万二六〇〇円

D 一四九六万三三〇〇円

E 一四五一万三五九〇円

F 一三八一万四〇〇〇円

(本件で経費から除外された専従者給与)

C 二四九万円

D 九六万円

E 七二万円

F 一四九万円

ところで、右比準同業者は、青色申告者であり、所得税法五七条により専従者給与を必要経費に算入できる特典を与えられているのに対し、原告は白色申告者であつて、昭和五三年、五四年分については専従者があつたことを認めるに足りる証拠もなく、また成立に争いのない乙第一、第二号証によると、原告は右各年分の確定申告書に同条五項所定の事項の記載をしなかつたことが認められるから、右各年分については専従者給与を必要経費に算入できない。してみると、原告の所得金額の推計については、本件のように、専従者給与を必要経費に算入しないで算出した同業者平均所得率を売上金額に乗じ、その結果から専従者給与を控除して所得金額を算定する方法は、別件のように専従者給与を必要経費に算入して売上原価等の同業者率を算定する方法に比べ、より合理的であるといわねばならない。これに対し原告についても右比準同業者と同様に専従者給与を必要経費に算入した結果の同業者率を採用するべきであるとの見解は、白色申告者に比べ大幅に専従者給与の損金算入を認められた青色申告者の特典を無視し白色申告者を不当に有利に扱う結果を導き、青色申告制度の否定にも繋る不合理を認めるものであつて到底採用できない。

(3) 以上のとおり、本件において被告が所得推計の同業者の平均所得率を算出するために設定した同業者抽出基準、その抽出作業及び同業者の平均所得率を所得推計の資料とすることには合理性が認められる一方、抽出された同業者の中には所得推計の資料として相当でないとする特殊事情もみられないし、その数も本件係争各年を通じて六名と同業者の個別性を平準化するに相当なものと認められるので、右同業者の平均所得率によつて原告の本件係争各年分の所得を推計することには合理性があるというべきである。

(三)  以上により、前記認定の原告の本件係争各年分の収入金額に右各同業者率を乗ずると、原告の所得金額は昭和五三年分が七三〇万九六三〇円、同五四年分が七一三万一六九三円、同五五年分が九九〇万九四四二円となることが認められる。

(四)  特別経費について

成立に争いのない乙第三号証によれば、特別経費として控除されるべきものは昭和五五年度の事業専従者控除額四〇万円であることが認められる。

(五)  所得金額について

そこで、本件係争各年分の算出所得金額から特別経費の額を控除すると、原告の所得金額は昭和五三年分が七三〇万九六三〇円、同五四年分が七一三万一六九三円、同五五年分が九五〇万九四四二円となる。

3  以上の次第で、原告の本件係争各年分の所得はいずれも本件各更正処分における認定額を超えるから、その範囲内でなされた本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に違法はない。

三  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 小林一好 裁判官傳田喜久は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 野田殷稔)

別表一

<省略>

別表二

申告・更生等の経過

<省略>

別表三

昭和53年分の売上金額の明細

(1) 取引先別明細

<省略>

(2) 預金口座への現金入金額

<省略>

(3) ((1)+(2)) 19,938,980円

別表四

昭和54年分の売上金額の明細

(1) 取引先別明細

<省略>

(2) 預金口座への現金入金額

<省略>

(3) ((1)+(2)) 19,706,437円

別表五

昭和55年分の売上金額の明細

(1) 取引先別明細

<省略>

(2) 預金口座への現金入金額

<省略>

(3) ((1)+(2)) 29,457,320円

別表六

同業者算出所得率一覧表

(昭和53年分)

<省略>

別表七

同業者算出所得率一覧表

(昭和54年分)

<省略>

別表八

同業者算出所得率一覧表

(昭和55年分)

<省略>

別表九

原告の所得税申告等の状況及び不動産取得状況

<省略>

別表一〇

原告の生計費等必要資金の計算

<省略>

別表一一

阪神相互銀行鳴尾支店における現金出入金表(昭和53年分)

<省略>

別表一二

阪神相互銀行鳴尾支店における現金出入金表(昭和54年分)

<省略>

別表一三

阪神相互銀行鳴尾支店における現金出入金表(昭和55年分)

<省略>

別表一四

書証等の支払金額に対する支払賃金の状況(月別分)

(注)「手形等を支払いに充てたもの」欄は、前から支払先・(受取先)・金額である。

<省略>

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