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神戸地方裁判所 昭和49年(わ)522号 判決 1975年2月12日

主文

被告人を懲役五月および罰金八万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四九年二月中旬ころ、神戸市兵庫区羽坂通三丁目七の三寿マンシヨン三〇三号室自宅において、岸本はるみ(当二五年)に対する電話連絡でもつて、同女との間に、同女をして被告人の指定するホテル、旅館で被告人の指定する不特定の男客を相手とし、対償を受けて性交させて、その対償を被告人と同女との間で、被告人が四割、同女が六割の割合で分配取得する等を約し、

第二、同年七月一五日ころの午後九時三〇分ころ、前記自宅において、大隈規和子に対する電話連絡でもつて、同女との間に、同女をして被告人の指定するホテル、旅館で被告人の指定する不特定の男客を相手として、対償を受けて性交させてその対償を同女との間で被告人がほぼ四割、同女が六割の割合で分割取得する等を約し、

もつて、それぞれ人に売春させることを内容とする契約をしたものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「被告人は本件につき、いずれも売春の周旋をしたにすぎず、現に売春の対償の分配取得はしておらず、電話代名下に周旋手数料を一回につき一、〇〇〇円売春婦から取得したにすぎないから、売春防止法一〇条にいう売春契約とはいえない。また、右売春契約が成立するためには、婦女に売春をさせる何らかの心理的強制力がともなうものでなければならないところ、本件についてはいずれも心理的強制力は存しない。婦女に心理的強制力が及んでいないかぎり、婦女には保護されるべき法益はなく、このような場合に被告人を処罰するのは憲法一四条の法の下の平等に反する。」と主張する。

まず、売春契約の成立には婦女に何らかの心理的強制力がともなわなければならないとの主張については、売春防止法一〇条にいう「売春をさせる」というのは、必ずしも常に強制力を有する意義に解しなければならない文言上の必然性はなく、強制力を有する場合は同法七条の適用が考慮されるべきである(昭和四一年一〇月二日最高裁判所決定集二〇・八・八九一参照)。そして、右にいう売春契約がなされた場合、直接又は間接に婦女をして売春せざるをえない結果になり、婦女の個人自由の伸長を阻害し、ひいては社会の善良の風俗を乱すことになることは必然であり、ここに人に売春をさせることを内容とする契約をした者を処罰する根拠がある。したがつて、売春防止法一〇条が憲法一四条に違反する規定であるとの主張は理由がない。

次に各売春契約の成立についてみるに、まず岸本はるみとの売春契約の成否を検討すると、同人の司法警察職員および検察官に対する各供述調書ならびに右件に関する前記被告人の司法警察職員に対する供述調書によれば、判示第一の岸本はるみとの売春契約の成立は十分認められる。ところで同人の当公判における証言によれば同人は遊び(浮気)のつもりで被告人に男客を紹介してくれるよう依頼しただけであると主張し、被告人も第一回公判廷において右岸本はるみとの売春契約の成立を認めたが、その後の公判廷において右供述を翻がえしている。しかしながら、岸本はるみが被告人に対して右証言のごとく男客を紹介してくれと依頼したにすぎないというのが真実であるとしても、その意味が遊びのつもりであつたとは到底信用できない。けだし、岸本はるみはかつて被告人に雇われていたことのある売春婦であつて、かつ常識的にみても、右言動が文字通りの意味とは解せられないからである。加うるに、売春の対償の分配についても明示の約束はなくとも当時の相場で岸本はるみが六割、被告人が四割との暗黙の了解があつたことは右証言にもあるとおりであり、被告人の取得分である四割がたんに周旋手数料でないことは、他の証拠に照して明らかである。そうすると、岸本はるみと被告人との間に売春契約が成立したことは明らかであつて、同女の右証言および被告人の弁解は信用できない。

もつとも、被告人は岸本はるみに男客をつけることによつて得たものは実質的には電話手数料だけであるが、これは被告人が同女につけた男客がたまたま他の抱主からの依頼に応じてつけた男客であり、被告人自身の男客でなかつた結果にすぎず、このことは前記売春契約の成立を妨げるものではない。

大隈規和子との売春契約の成否を検討すると、同人の司法警察職員および検察官に対する各供述調書ならびに右件に関する被告人の前記司法警察職員および検察官に対する各供述調書によれば、判示第二の大隈規和子との売春契約の成立は十分認められる。ところで同人の当公判廷における証言によれば、同女が被告人に雇われて売春婦として働くという話し合いはしていないと弁解しているが、藤本郁夫の検察官に対する供述調書(謄本)によれば、同人が被告人に対して大隈規和子の雇主になつてくれるよう依頼した趣旨が明らかであり、そうすると、同女も被告人の示す売春の方法、売春の対償の分配等を納得して結局被告人の許で売春婦として稼働することを承諾したものといわざるをえず、同女の右証言は信用できない。

(法令の適用)

判示所為   いずれも売春防止法一〇条一項、一五条(併科)

併合罪加重  刑法四五条前段の併合罪として懲役刑につき、四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により合算する。

労役場留置  同法一八条

訴訟費用負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

よつて、主文のとおり判決する。

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