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神戸地方裁判所 昭和44年(行ウ)37号 判決 1973年6月29日

神戸市灘区赤坂通一丁目一の一九

原告

中西均

右訴訟代理人弁護士

金光邦三

飯沼信明

金光邦三訴訟復代理人弁護士

岡田一三

樫永征二

同市長田区大道通一丁目三七

被告

長田税務署長

坂上竜二

右指定代理人

検事 竹原俊一

法務事務官 中島揚一

同 前垣恒夫

同 山田太郎

大蔵事務官 中西一郎

同 樋口正

同 村上睦郎

右当事者間の所得更正決定額変更等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

「被告が原告に対し昭和四一年七月三〇日付でなした昭和三九年分所得税について所得金額を三七、四四七、四八一円とした更正のうち所得金額二三、〇一九、一〇一円を超える部分並びに税額を四五三、八五〇円とした過少申告加算税の賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  原告は昭和三九年分所得税について、次のとおり、確定申告をした。

所得金額

営業所得 なし

配当所得 六三一、二八〇円

給与所得 一七、一三五、〇〇〇円

譲渡所得 五、〇九九、三〇七円

計 二二、八六五、五八七円

二  ところが、被告は昭和四一年七月三〇日付で、次のとおり所得金額の更正(以下、本件更正という)をし、かつ、過少申告加算税の賦課決定(以下、本件賦課といい、本件更正と合せて、本件更正等という)をした。

(一) 所得金額

営業所得 一九、五二七、六八七円

配当所得 六三一、二八〇円(申告額と同じ)

給与所得 一七、二八八、五一四円

譲渡所得 なし

計 三七、四四七、四八一円

(二) 過少申告加算税 四五三、八五〇円

三  原告は給与所得の更正はこれを認めるが、営業所得の更正は不服であつた。

すなわち、原告は昭和三九年にその所有にかかる神戸市長田区房王寺町六丁目二番の一山林三、〇九二坪(以下、本件山林、宅地造成後、本件造成地という)を宅地造成したうえ、その一部を譲渡したところ、被告は右譲渡による所得は営業所得に当るとして本件更正等をしたが、原告は営業として本件造成地を譲渡したものではない。

四  そこで、原告は昭和四一年八月三一日被告に対し異議申立をしたところ、同年九月三〇日付で棄却され、同年一〇月三一日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四四年六月五日付で、「本件造成地の譲渡による所得は譲渡所得であつて、営業所得には該当しないが、譲渡所得は、いわゆる、短期譲渡所得に該当し、その金額は二一、〇二五、〇〇九円となり、これに配当所得六三一、二八〇円、給与所得一七、二八八、五一四円を合算すると、総所得金額は三八、九四四、八〇三円となり、本件更正を上廻るから審査請求を棄却する。」旨の裁決を受けた。

五  しかしながら、原告は本件造成地を取得後三年経過後に譲渡したもので当該譲渡による所得は、いわゆる、長期譲渡所得に該当し、その所得は九、一五一、九六九円であり、これに配当所得及び給与所得を合算すると、所得金額は二七、〇七一、七六三円となるから、所得金額を過大に認定した本件更正等は違法である。

六  よつて、原告は被告に対し、本件更正のうち所得金額二三、〇一九、一〇一円を超える部分並びに本件賦課の取消を求める。

(請求の原因に対する答弁)

請求の原因一ないし四の事実は認める。

同五の事実は争う。

(被告の主張)

一  原告は昭和三七年三月三一日訴外山田定治(白悦酒造山田合名会社代表社員、以下、山田という)から本件山林を代金一〇、八二二、〇〇〇円で買受け、同日代金を完済して所有権を取得し、宅地造成したうえ、昭和三九年中に本件造成地のうち、一、三五五・四五坪を譲渡したから、右譲渡は取得後三年以内になされた短期譲渡(昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法『以下、旧所得税法という』第九条第一項第八号イ)に該当し、その所得は一九、七七八、〇五九円であり、これに配当所得及び給与所得を合算すると、総所得金額は三七、六九七、八五三円となるから、本件更正等には何らの違法もない。

(一) 譲渡所得金額の計算内訳

(1) 譲渡収入金額 五二、三四五、〇〇〇円

(2) 譲渡資産の取得価額及び譲渡に関する経費 三二、四一六、九四一円

(3) 譲渡所得金額 一九、九二八、〇五九円

(4) 特別控除 一五〇、〇〇〇円

(5) 課税譲渡所得金額 一九、七七八、〇五九円

(二) 譲渡収入金額の内訳

譲受人 譲渡資産の所在地 護渡日昭和年月日 譲渡収入金額

(1) 三原郡町村会 長田区房王寺町六丁目二番の一〇 三九、二、七 五、一四五、〇〇〇円

(2) 三友企業株式会社 同所同番の一三

〃 一五 〃 三、三〇 二二、〇〇〇、〇〇〇

(3) 株式会社 森長組 〃 一六 〃 七、二五 五、二〇〇、〇〇〇

(4) 甲陽運輸株式会社 〃 二〇 〃 〃 九 一七、〇〇〇、〇〇〇

(5) 松谷実 〃 二二 三九、九、一五 一、四〇〇、〇〇〇

(6) 渋谷廉平 〃 二三 〃 九、二四 一、六〇〇、〇〇〇

計 五二、三四五、〇〇〇

(三) 譲渡資産の取得価額の計算内訳

(1) 昭和三九年中に譲渡した資産の取得価額は、土地代金として支払われた一〇、八二二、〇〇〇円にその取得に要した登記費用等三九一、五〇〇円を加えた一一、二一三、五〇〇円に、取得資産の総面積(三、〇九二坪)中に占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積(一、三五五・四五坪)の割合を乗じて得た四、九一四、八六一円である。

算式

<省略>

(2) 昭和三九年中に譲渡した資産の造成費は、原告申立による造成費七三、七一〇、五〇四円に、造成した土地の面積(三、六三二・九三坪)のうちに占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積(一、三五五・四五坪)の割合を乗じて得た二七、五〇二、〇八〇円である。

算式

<省略>

(注) 本件山林 3,092坪

うち未造成面積 106.07坪

差引本件造成面積 2,985.93坪

2番の3(中西商店取得分) 647坪

合計造成面積 3,632,93坪

(3) したがつて、昭和三九年中に譲渡した資産の取得価額の合計金額は三二、四一六、九四一円である。

二(一)  原告は本件山林の取得価額は一〇、八二二、〇〇〇円であるとして譲渡所得の計算をした所得税の確定申告をしているが、仮に右申告が事実に反するものであつたとしても、原告は所得税の確定申告書の記載内容が資産の譲渡益の計算において圧縮された額による取得価額であることを十分知悉していたことが明らかであるから、更正の請求によらないで、錯誤の主張をすることは許されない。

(二)  仮に原告が本件山林を山田から譲受けた際の代価が総額一八、五五二、〇〇〇円(坪当り六、〇〇〇円)であつたとしても、原告は本件山林の取得価額は一〇、八二二、〇〇〇円であるとして譲渡所得の計算をした所得税の確定申告をし、一方、本件山林の譲渡人である山田は本件山林の売買価額は一〇、八二二、〇〇〇円である旨の昭和三七年分得税の修正申告をしたので、被告は右譲渡価額を正当として是認し、山田の所得税に対すあ更正期間五年(昭和四三年三月一五日まで)を徒過したところ、原告は昭和四四年九月三〇日に本訴を提起し、初めて原告の申告にかかる本件山林の取得価額が事実に反する旨の主張をするものであるが、原告は、山田が不当に譲渡所得税の軽減を図ることに積極的に協力する目的で、代金を圧縮した売買契約をし、圧縮した金額を真実の売買代金として課税庁に不実の申立をし、課税庁をして右申立を真実であると誤信させたものであり、右のような行為をすれば、自己が三原郡町村会外五名に対する譲渡代金との差額に対応する譲渡益の課税を受ける恐れのあることを十分認識していたものであるから、原告が本訴において右申立に反する事実を主張することは、信義誠実の原則ないし禁反言の法理上許されない。

なお、原告は昭和四〇年三月一五日、三原郡町村会に対する本件造成地の譲渡は昭和三九年分である旨記載した確定申告書を提出し、その後、更正の請求もしないまま放置し、国税の更正決定等の期間を経過した現在に至つて確定申告書に記載した事項に反する事実を主張することは、前記法理上、許されない。

(被告の主張に対する原告の答弁及び反論)

一  本件山林及び同所同番の二畑一、〇二一坪(以下、二番の二という)、同所同番の三山林六四七坪(以下、二番の三という)は、従前、小高い一つの山を形成し、山田が所有していたものであるところ、昭和三五年に、原告が本件山林を代金一八、五五二、〇〇〇円、訴外合資会社中西商店(無限責任社員・原告、以下、中西商店という)が二番の二を代金六、一二六、〇〇〇円、二番の三を代金三、八八二、〇〇〇円、いずれも、坪当り六、〇〇〇円でそれぞれ買受け、右各代金は昭和三六年七月五日以前一括して支払われたが、表面上は坪当り三、五〇〇円、本件山林は一〇、八二二、〇〇〇円で売買したことにされた。

そして、原告は本件山林を宅地造成したうえ、昭和三九年中に、そのうち、一、二七〇・六六坪を代金合計四七、二〇〇、〇〇〇円で譲渡したものであつて、被告主張の三原郡町村会に対する本件造成地の譲渡は昭和三八年中になされたものである。

(一) 譲渡収入金額

譲受人 譲渡収入金額

(1) 三友企業株式会社 二二、〇〇〇、〇〇〇円

(2) 株式会社 森長組 五、二〇〇、〇〇〇

(3) 甲陽運輸株式会社 一七、〇〇〇、〇〇〇

(4) 松谷実 一、四〇〇、〇〇〇

(5) 渋谷廉平 一、六〇〇、〇〇〇

計 四七、二〇〇、〇〇〇

(二) 譲渡資産の取得価額

(1) 昭和三九年中に譲渡した資産の取得価額は、土地代金として支払われた一八、五五二、〇〇〇円にその取得に要した登記費用等三九一、五〇〇円を加えた一八、九四三、五〇〇円に、取得資産の総面積(三、〇九二坪)中に占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積り一、二七〇・六六坪)の割合を乗じて得た七、七三九、五六九円である。

算式

<省略>

(2) 昭和三九年中に譲渡した資産の造成費は、造成費七三、七一〇、五〇四円に、造成した土地の面積(三、六三二・九三坪)のうちに占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積(一、二七〇・六六坪)の割合を乗じて得た二一、〇〇七、四九三円である。

算式

<省略>

(3) したがつて、昭和三九年中に譲渡した資産の取得価額の合計金額は二八、七四七、〇六二円である。

(三) 譲渡所得金額の計算

(1) 譲渡収入金額 四七、二〇〇、〇〇〇円

(2) 譲渡資産の取得価額及び譲渡に関する経費 二八、七四七、〇六二円

(3) 譲渡所得金額 一八、四五三、九三八円((1)から(2)を控除)

(4) 特別控除 一五〇、〇〇〇円

(5) 課税譲渡所得金額 九、一五一、九六九円((3)から(4)を控除し、長期譲渡所得のため、二分の一にする。)

仮に原告の本件山林の取得日が昭和三五年中でなく昭和三六年七を五日以前であつたとしても、前記(一)譲受人(2)ないし(5)に対する譲渡は、取得日から三年以上経過しているので、右譲渡による所得は長期譲渡所得となるものである。

二  土地の売買においては、売主の力が大であつて、買主は売主の代金圧縮の要求に応じない限り土地を取得し得ないこともある、山田は本件山林の譲渡所得の申告を怠り、昭和四二年に至り右譲渡所得を加えて昭和三七年分所得税の修正申告をしているが、その際、税務署は裏金の授受について十分な調査もしないまま、右申告をそのまま容れ修正して課税している、また、原告は自ら本件更正等に対する不服申立をし、有利な決定を得るために必要な主張・資料の提出を尽くし得なかつた等の事情からして、原告が本訴において本件山林の真実の取得価額を主張することは当然であつて、右主張は信義則に違反し又は禁反言の法理に抵触するものではない。

第三証拠

(原告)

1  甲第一ないし第一二号証。

2  証人山田定治、原告本人。

3  乙第五号証の一、二、第七号証の成立は知らない、その余の乙号各証の成立は認める。

(被告)

1 乙第一ないし第四号証、第五第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一ないし四、第九ないし第一四号証。

2 証人高橋洋三。

3 甲第四ないし第七号証の成立は知らない、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

第一  原告が昭和三九年分所得税について、営業所得なし、配当所得六三一、二八〇円、給与所得一七、一三五、〇〇〇円譲渡所得五、〇九九、三〇七円、所得金額計二二、八六五、五八七円として確定申告をしたところ、被告が昭和四一年七月三〇日付で、営業所得一九、五二七、六八七円、配当所得六三一、二八〇円(申告額と同じ)、給与所得一七、二八八、五一四円、譲渡所得なし、所得金額計三七、四四七、四八一円とする本件更正をし、かつ、過少申告加算税四五三、八五〇円の本件賦課をしたこと、原告が本件造成地の譲渡による所得を営業所得とした本件更正等を不服として昭和四一年八月三一日被告に対し異議申立をしたところ、同年九月三〇日付で棄却され、同年一〇月三一日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四四年六月五日付で、「本件造成地の譲渡による所得は譲渡所得であつて、営業所得には該当しないが、右譲渡所得は、いわゆる、短期譲渡所得に該当し、その金額は二一、〇二五、〇〇九円となり、これに配当所得六三一、二八〇円、給与所得一七、二八八、五一四円を合算すると、総所得金額は三八、九四四、八〇三円となり、本件更正を上廻るから、審査請求を棄却する。」旨の裁決を受けたことは当事者間に争いがない。

第二  そこで、本件更正等が違法であるかどうかの点について判断する。

一  所得金額のうち、配当所得が六三一、二八〇円、給与所得が一七、二八八、五一四円であることは当事者間に争いがないので、譲渡所得について検討する。

(一)  譲渡収入金額について

原告が本件造成地の譲渡代金として、昭和三九年中に、譲受人(1)三友企業株式会社から二二、〇〇〇、〇〇〇円、(2)株式会社森長組から五、二〇〇、〇〇〇円、(3)甲陽運輸株式会社から一七、〇〇〇、〇〇〇円、(4)松谷実から一、四〇〇、〇〇〇円、(5)渋谷廉平から一、六〇〇、〇〇〇円計四七、二〇〇、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第三号証、乙第三、第四号証、第三者の作成にかかり弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第四号証、証人高橋洋三の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二、証人高橋洋三の証言、原告本人の供述(一部)並びに弁論の全趣旨によると、三原郡町村会は昭和三八年八月五日昭和三九年度に神戸市内に三原寮を建設する計画を決定し、右敷地として中西商店所有の土地一〇〇坪の買収を交渉中、中西商店が右土地を他に売却してしまう恐れがあつたので、同年一二月一六日取り敢えず手付金として金一、〇〇〇、〇〇〇円ないし金一、五〇〇、〇〇〇円の交付を決定し、同月二三日中西商店に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円を交付したところ、右敷地予定地は昭和三九年一月一四日実測の結果、原告所有地分一四七坪、中西商店所有地分二八・三八坪計一七五・三八坪であることが判明したので、原告からその所有地を代金五、一四五、〇〇〇円(坪当り三五、〇〇〇円)、中西商店からその所有地を代金九九三、三〇〇円(坪当り三五、〇〇〇円)合計六、一三八、三〇〇円で買受けることとなり、同年二月七日手付金一、〇〇〇、〇〇〇円を差引いた残金五、一三八、三〇〇円を支払い、右同日原告所有地(本件造成地、本件山林から分筆された同所同番の一〇)について同日付売買を原因とする所有権移転登記を受けたこと、並びに原告は昭和四〇年三月、昭和三九年二月七日三原郡町村会に対し本件造成地を譲渡した旨を記載した昭和三九年分所得税の確定申告書を提出したことが認められ、原告本人の供述のうち、右認定に副わない部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、本件造成地のような造成分譲地は、実測前、面積が不明であるため、通例、実測後分譲契約が締結されるものであるから、特別の事情の認められない本件においては、三原郡町村会から昭和三八年一二月二三日に中西商店に交付された金一、〇〇〇、〇〇〇円は、中西商店及びその無限責任社員である原告個人に差入れられたものと解したとしても、中西商店及び原告と三原郡町村会との間の造成地の分譲予約の手付金であつて、原告と三原郡町村会との間の本件造成地の分譲契約は土地実測の昭和三九年一月一四日から代金支払の同年二月七日までの間に締結されたものと推認するのが相当である。

したがつて、譲渡収入金額は、前記当事者間に争いのない計四七、二〇〇、〇〇〇円に二原郡町村会に対する譲渡代金五、一四五、〇〇〇円を合算した五二、三四五、〇〇〇円であることが計数上明らかである。

(二)  前記譲渡資産(本件造成地)の取得価額について。

前記乙第四号証、成立に争いのない乙第一第二号証、第六号証の一、二、第九ないし第一一号証、第一三第一四号証、証人高橋洋三の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人山田定治(一部)、同高橋洋三の各証言に原告本人の供述(一部)並びに弁論の全趣旨によると、

(1) 原告は昭和三五年頃訴外中山重庫に対し神戸市長田区房王寺町六丁目二番の土地の買付斡旋を依頼し手付金として二、〇〇〇、〇〇〇円を交付したが、所有者・山田が売渡を承諾しないばかりか、中山が手付金を使い込んでしまう等右買付は失敗に終つたので、昭和三六年四月頃改めて訴外松本仙太郎を通じて山田と親しい訴外駒田参次に対し右土地の買付斡旋を依頼して交渉を進めた結果、同年六月末頃山田から中西商店名義で二番の二、二番の三計一、六六八坪を代金坪当り二、〇〇〇円合計三、三三六、〇〇〇円で買受けることとなり、同年七月五日右代金を支払つたところ、山田は即日右金員を神戸銀行本店営業部に通知預金として入金し、同年八月二六日右各土地について中西商店に対し同月九日売買を原因として所有権移転登記を経由した。

(2) 次で、原告は昭和三七年三月末頃山田から本件山林を代金坪当り三、五〇〇円合計一〇、八二二、〇〇〇円で買受けることとなり、同月三一日右代金を支払つたところ、山田は即日右金員を神戸銀行新開地支店に定期預金として入金し、同年五月一六日本件山林について原告に対し同年三月三一日売買を原因として所有権移転登記を経由した。

(3) 原告は昭和四〇年三月本件造成地の登記費用等を含む取得価額は坪当り三、六二六円である旨を記載した昭和三九年分所得税の確定申告書を提出し、一方、山田は昭和四二年二月九日、中西商店に対する二番の二及び二番の三の譲渡価額は三、三三六、〇〇〇円である旨を記載した昭和三六年分所得税の修正申告書並びに原告に対する本件山林の譲渡価額は一〇、八二二、〇〇〇円である旨を記載した昭和三七年分所得税の修正申告書を提出した。

との事実が認められ、証人山田定治の証言並びに原告本人の供述のうち、右認定に副わない部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、原告は昭和三七年三月末頃山田から本件山林を代金坪当り三、五〇〇円合計一〇、八二二、〇〇〇円で買受けたものと認めるのが相当である。

そして、本件山林の取得に要した登記費用等が三九一、五〇〇円であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八ないし第一一号証、乙第三、第一二号証によると、原告が昭和三九年中に譲渡した本件造成地の面積は、(1)三原郡町村会一四七坪(二番の一〇)、(2)三友企業株式会社六二九坪(二番の一三((三六九坪))と二番の一五((二六〇坪)))、(3)株式会社森長組一二九坪(二番の一六)、(4)甲陽運輸株式会社三五五坪(二番の二〇)、(5)松谷実五三坪(二番の二二)、(6)渋谷廉平四三坪(二番の二三)、計一、三五六坪であることが明らかであるから、譲渡資産の取得価額は、右買受代金一〇、八二二、〇〇〇円に登記費用等三九一、五〇〇円を加算した一一、二一三、五〇〇円に、取得資産の総面積(三、〇九二坪)中に占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積(一、三五六坪)の割合を乗じて得た四、九一七、六九二円であり、また、本件山林を含む三、六三二・九三坪の造成費が七三、七一〇、五〇四円であることは当事者間に争いがないから、譲渡資産の造成費は右金額に三、六三二・九三坪のうち占める昭和三九年中に譲渡した土地の面積一、三五六坪の割合を乗じて得た二七、五一二、六二五円であり、したがつて、昭和三九年中に譲渡した資産の取得価額の合計金額は三二、四三〇、三一七円であることが計数上明らかである。

(三)  ところで、本件造成地の前記各譲渡は、前述のように、いずれも、昭和三九年中に、したがつて、本件山林取得(昭和三七年三月末頃)後三年以内になされたものであるから、右譲渡による所得は旧所得税法第九条第一項第八号イに規定する、いわゆる、短期譲渡所得に該当するものであるといわなければならない。

したがつて、譲渡所得は、前記譲渡収入金額五二、三四五、〇〇〇円から右譲渡資産の取得価額合計三二、四三〇、三一七円及び特別控除一五〇、〇〇〇円(旧所得税法第九条第一項)を差引いた一九、七六四、六八三円であることが計数上明らかである。

二  そうすると、所得金額は、右譲渡所得一九、七六四、六八三円に前記当事者間に争いのない配当所得六三一、二八〇円及び給与所得一七、二八八、五一四円を合算した三七、六八四、四七七円となり、本件更正による所得金額三七、四四七、四八一円を上廻ることとなる。

三  してみると、本件更正等は相当であつて、本件更正等には違法はないといわなければならない。

第三  以上の次第で、本件更正等は他にこれを取消すべき瑕疵も認められないから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 神保修蔵 裁判官 笹村将文)

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