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神戸地方裁判所 昭和44年(ワ)1482号 判決 1973年6月25日

原告 今津邦次郎

右訴訟代理人弁護士 小倉勲

被告 上原正道

参加人 玉置磨

右被告および引受参加人訴訟代理人弁護士 土井平一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  引受参加人は、原告に対し別紙目録(一)記載の建物を収去して同目録(二)記載の土地を明渡し、かつ昭和四五年九月一日から右土地明渡ずみに至るまで一か月五〇〇円の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し別紙目録(一)記載の建物から退去して同目録(二)記載の土地を明渡し、かつ四、〇〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告および引受参加人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告および引受参加人の答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙目録記載(二)の土地(以下本件土地という)を所有している。

2  原告は、かねて、引受参加人に本件土地を賃料一か月五〇〇円の約定で賃貸し、その引渡をし、引受参加人は、本件土地上に別紙目録記載(一)の建物(以下本件建物という)を所有していた。

3  引受参加人は、昭和四四年三月頃、本件建物を被告に譲渡し、その敷地である本件土地を被告に使用させた。

4  そこで、原告は、引受参加人に対し、土地賃借権の譲渡を理由に、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は昭和四四年一一月二六日引受参加人に到達した。

5  昭和四五年八月三一日、本件建物は、被告から引受参加人に所有権の譲渡がなされた。

6  被告は、本件建物を占有して、その敷地である本件土地を占有している。

7  よって、原告は、引受参加人に対し賃貸借契約の終了を理由として、本件建物の収去および本件土地の明渡し、ならびに、前記土地賃貸借契約解除後で建物所有権の譲渡を受けた翌日である昭和四五年九月一日から右明渡ずみに至るまでの一か月五〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを、また、被告に対し本件土地所有権に基づき本件建物の退去および本件土地の明渡し、ならびに、前記のとおり本件建物の所有権を有していた期間で、土地賃貸借契約解除後である昭和四四年一二月一〇日から昭和四五年八月九日まで、一か月五〇〇円の割合による賃料相当額の損害金八か月分合計四、〇〇〇円の支払いを各求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実および請求原因5および6の事実は認める。

三  抗弁

1  (賃借権の譲渡等にあたらない)

被告は、引受参加人との間に金銭消費貸借契約を結び、その債権を担保する趣旨で、本件土地の賃借権の譲渡または土地の転貸につき、土地の賃貸人である原告の承諾を得られない時は、引受参加人において、買戻す旨の特約付きで本件建物の所有権を引受参加人から譲り受けた。右のような事情のある場合には、建物の所有権を移転しても、土地賃借権の譲渡、または土地の転貸にあたらないと解すべきである。

2  (賃借権譲渡等自由の特約の存在)

引受参加人は、昭和二八年五月一〇日本件土地の前所有者であった後藤寅吉と本件土地賃貸借契約の合意をした際、権利金一万五、〇〇〇円を支払い、地上建物の譲渡および本件土地賃借権の譲渡又は本件土地の転貸を自由になしうる旨約定した。そして、その後、原告が本件土地の所有権を取得し、貸主たる地位を取得したものである。

3  (信頼関係の破壊がない)

前記のとおり、引受参加人から被告への本件建物の所有権譲渡は買戻しの特約つきであり、登記名義は一旦被告名義に移転したが、これは、債権担保の趣旨であり、右のような特約が存在するものであり、しかも、本件は原告の承諾を得られないので右特約に基づき昭和四五年八月三一日、引受参加人は、本件建物を被告から買戻し、登記名義も移転した。よって、右のような場合には、本件土地の賃貸借関係における信頼関係を破壊しない特別の事情がある場合に該当するものというべきである。

4  被告は、前記のとおり原告から適法に本件土地を賃借している引受参加人から本件建物を賃借して、これを占有しているものである。

四  抗弁に対する認否

全部否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一、請求原因1ないし3の各事実および請求原因5および6の事実については当事者間に争いがない。

二、抗弁1について

本件建物所有権の譲渡が、本件土地賃借権の譲渡とならないかどうかについて判断する。

本件建物の所有権が引受参加人から被告に移転した事実は当事者間に争いがない。ところで賃借地上の建物を第三者に移転するばあいには、特別の事情が存しないかぎり、その敷地の賃借権は、建物の所有権とともに第三者に移転すると解すべきである。しかし、民法六一二条にいう賃借権の譲渡または賃借物の転貸とは、不信義性の類型としての譲渡または転貸をいうものであるから、土地賃借人が、その所有する建物の所有権を他に移転した場合であっても、右移転が、実質的に第三者の債権を担保する目的をもってなされたものであって、終局的確定的に所有権を移転する趣旨のものではなく、買戻権がなお土地賃借人である建物譲渡人に留保されており、また、土地の使用状況が所有権移転の前後を通じて変更のない場合には、右建物の敷地について、民法六一二条の解除に値する行為としての譲渡または転貸はなされなかったものであって、買戻期間が経過して建物所有権が終局的確定的に債権者である第三者に移転した場合等に始めて譲渡または転貸があったものと解するのが相当である。

これを本件について見るに、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。

引受参加人は、昭和四三年五月頃、本件建物を被告に賃貸し、被告がこれに居住していた。引受参加人は、その頃、鉄工所を経営していたが、その経営不振のため、不渡手形を出し、その支払等に苦慮していた。昭和四四年三月五日、引受参加人は、右手形金の支払その他営業資金とするため、被告から、八〇万円を借受け、これにかねて建物賃貸の際受領していた敷金六五万円をも加え、債務額を一五〇万円とし、これを担保する趣旨をもって、右債務の弁済ができないときは、右弁済に代えて本件建物所有権を移転することとし、かつ、二年内に右元利金を弁済して買戻すことができること、および、土地賃借権の譲渡について土地賃貸人である原告の承諾を得られない時は本件建物を買戻さなければならないことを約した。当時本件建物は未登記であったので、不動産登記簿上は、昭和四四年四月一五日、被告に所有権保存登記をなした。その後、被告および引受参加人は、原告と土地賃借権の譲渡について承諾を得るため接渉を重ねたが、原告は承諾を拒否し、同年一一月二六日到達の書面で、本件土地賃貸借契約の解除をした。引受参加人は、右のとおり原告の承諾を得られなかったので、被告との約定により本件建物を買戻すこととし、他から金員を借受け、被告からの借受金元本八〇万円に利息五万円を加えて八五万円として、買戻期間内である昭和四五年八月三一日、被告に弁済し、(敷金六五万円は弁済期未到来)本件建物の所有権を取戻し、同年九月一一日、所有権移転登記手続をなした。被告の本件建物の占有は、被告が引受参加人に金員を貸与したことによりその債権を確保するためにしたものではなく、すでに金員貸与の前に敷金六五万円、賃料一か月一万円との約定で居住のため賃借したことによるものであって、右建物を占有することによる土地の使用状況は前記引受参加人から被告へ所有権を移転した前後を通じて変更はなかった。

ほかに右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定の事実によると、引受参加人が本件建物を被告に移転したのは、八〇万円を借受けたことから、被告の債権を担保する目的をもってなされたものであって、その際に終局的確定的に所有権を移転する趣旨でなされたものでなく、買戻権が引受参加人に留保されていたものである。また、本件建物の占有者は引受参加人ではなく債権者たる被告であって、債務者たる建物所有者が自ら建物を占有する場合とは異るけれども、従前から本件建物を賃借居住していた被告が、債権者となった後も引続き居住を継続したにすぎず、土地の使用状況に変更がないばかりか、もともと建物を占有することによって土地を占有するのは建物占有の反射的ないしは付随的効果であって、建物を所有することによって土地を占有する場合と異るものであることを考えると、建物の占有は土地の使用状況を考えるにあまり大きな意味をもつものではない。

本件のような場合には、民法六一二条にいう賃借権の譲渡または転貸はなされなかったものと解するのが相当である。抗弁は理由がある。

三、抗弁3について、

なお、賃借権の譲渡または賃借物の転貸があっても、賃貸借契約の当事者間の信頼関係が破壊される程度の背信行為が認められない特別の事情がある場合には解除権は発生しないと解するのが相当であるが、以上の認定事実を総合してみれば、引受参加人の行為が本件土地賃借権の譲渡または本件土地の転貸となるとしても、賃貸人である原告に対する背信行為であるとは認めるに足らない特別の事情がある場合にあたると解することができる。従って原告に解除権が発生したということができないから、原告の前記解除の意思表示はその効果を発生しなかったものというべきである。抗弁は理由がある。

四、被告に対する請求について

原告の引受参加人に対する本件賃貸借契約解除の効果が発生しないのであるから、引受参加人の賃借権は消滅しない。被告が右賃借権に基づいて引受参加人との関係で本件建物を占有している以上、本件土地に対する占有も適法であるというべきである。

五、よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下郡山信夫)

<以下省略>

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