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神戸地方裁判所 昭和41年(ワ)797号 判決 1969年6月03日

原告

市川和佐子

被告

近畿通信建設株式会社

主文

被告は原告に対し金二三八万三三五四円及び内金一五五万三四八〇円に対する昭和三九年一二月一五日以降、内金五七万九八七四円に対する昭和四四年一月一日以降各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告にその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一は原告の、その余は被告の各負担とする。

この判決は主文一項につき仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

(原告)

「被告は原告に対し金五六四万〇三三一円及び内金四五〇万九三〇〇円に対する昭和三九年一二月一五日より、内金六三万一〇三一円に対する昭和四四年一月一日より各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行宣言

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  交通事故の発生

原告は被告会社の従業員であつたところ、昭和三九年一二月一四日午後三時頃社用のため被告会社の運転手訴外鶴原龍之の運転する被告会社保有の普通貨物自動車(大四ら三一九号、以下本件加害自動車という)の助手席に同乗し、神戸市兵庫区荒田町四丁目一三番地先道路を西進中、本件加害自動車と訴外小寺憲吾の操縦する自動車とが衝突し、その衝撃のため原告は頭部及び頸部損傷等の傷害を受けた。

(二)  被告の責任

本件事故は、右に述べたとおり被告会社がその保有する本件加害自動車を自己のため運行の用に供していた際その運行によつて原告に傷害を与えたものであるから、被告会社は右傷害により原告の受けた全損害を賠償する義務がある。

(三)  原告の受けた損害

(1) 診療費・入院諸雑費等計三五万六八三一円

内訳は別紙第一目録記載のとおりである。

(2) 通院交通費計二四万四二〇〇円

原告は、前記傷害の診療を受けるため神戸大学附属病院、神戸労災病院、新須磨病院等に通院し、事故日から昭和四三年八月末日までの間にその交通費として右の金額を支出した。

(3) 喪失利益 三〇〇万九三〇〇円

原告は、大正一三年五月生れの女子で、本件負傷前は極めて健康で被告会社に雇われ年間手取り二〇万二〇円(平均日給五四八円)の収入を得ていた。そして一度結婚生活に失敗しているため一生涯職業につき自活する考であつた。しかるに本件負傷とこれに伴う右上肢不随意運動、右下肢不全麻痺等の後遺症のため、神戸大学附属病院において身体障害者福祉法別表第五級に該当すると認定され、神戸市から身体障害者手帳の交付を受けている。かように原告は右後遺症のため生涯就業の途を断たれ、事故日から就労可能と考えられる向う二三年間前記割合による得べかりし賃金収入を喪いその総額は四六〇万四六〇円となるところ、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し事故日に一時払を受けるものとしてその現価を求めると金三〇〇万九三〇〇円となる。

(4) 慰藉料 一五〇万円

原告は、前記傷害のため事故後昭和四二年一月一三日まで神戸大学附属病院、神戸労災病院、新須磨病院等にて通院治療を受け、同年一月一四日より同年六月一日まで新須磨病院にて、同年八月二四日より同年一二月二〇日まで同病院及び神戸大学附属病院にて各入院治療を受け、同年六月二日より同年八月二三日まで及び同年一二月二一日以後現在に至るまで右両病院にて通院治療を受けたほか、歯科医師、柔道整復師等の治療をも受けた。しかるに前記の後遺症は全治せず、さらに頭痛、めまい、吐気等のいわゆるむち打症状が取れず肉体的精神的に言語につくせない苦痛を受けたので、その慰藉料は一五〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用 五三万円

被告会社は、本件事故に対する賠償責任を否定し原告の賠償請求に応じないので、原告は財団法人法律扶助協会兵庫県支部を通じて神戸弁護士会員中嶋徹に本件の請求訴訟を委任し、同協会から着手金三万円の立替払を受け、謝金として認容額の二割以内を支払う契約をした。よつて右弁護士費用として金五三万円の賠償を求める。

(四)  よつて、被告に対し以上の損害額合計五六四万〇三三一円及び内金四五〇万九三〇〇円(喪失利益と慰藉料)に対する昭和三九年一二月一五日(事故の翌日)より、内金六三万一〇三一円(その余の損害)に対する昭和四四年一月一日より各支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告の答弁及び抗弁

(一)  答弁

原告主張の請求原因(一)の事実は、受傷の事実を除き認める。原告受傷の事実及びその程度は争う。同(二)の運行供用の事実は認めるが賠償責任は否認する。同(三)の損害額はすべて争う。ことに原告は本件事故による傷害のため全労働能力を喪失したとして向う二三年間の喪失利益を主張しているが、原告は神戸西労働基準監督所長より傷害は昭和四一年一二月三一日をもつて治瘉し、労災保険による後遺症の障害等級は一二級(喪失率一四%)と認定されている。

(二)  抗弁

(1) 仮に、原告が本件事故によりその主張の損害を受けたとしても本件加害自動車の運転手鶴原龍之には運転上の過失がなく、自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたのであるから、被告会社には賠償責任がない。すなわち運転手鶴原は、本件加害自動車の助手席に原告を同乗させ時速約四〇粁の速度で西進し本件事故現場付近に差しかかつた際、折柄進路前方の左側道路上に頭を北に向け停車中の訴外小寺憲吾運転の乗用自動車が進路上に出るべく二、三〇糎北へ進むのを約一〇米手前で発見したので、衝突の危険をさけるため急制動の措置をとつたところ、折悪しく道路右側で洗車中の自動車があり路面一体がぬれていたため本件加害自動車がスリツプをして左斜め前方へ滑走し、右小寺の自動車に軽く衝突したものである。ところで訴外小寺は、自車を道路上へ出して方向転換をしようとする際、当該道路東方に対する交通の安全を確認しないまま、本件加害自動車に先行して西進していたタクシーが通過した直後漫然と発進しようとして自車を二、三〇糎前進させたため、訴外鶴原は衝突の危険を感じ急制動の措置をとつたのであるから、右措置は極めて当然の措置であつて同人には運転操作上何らの過失がない。むしろ訴外小寺の右のような過失により発生した事故である。

(2) 原告は本件傷害による休業補償として、別紙第二目録記載のとおり、被告会社及び労働者災害補償保険機関並びに健康保険機関より合計三六五、九九二円の支給を受けているから、原告の損害から控除すべきである。

三、被告の抗弁に対する原告の認否

被告会社及び労災並びに健康保険より被告主張の各支給を受けたことは認める。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、本件事故の発生

原告主張の日時場所において、訴外鶴原龍之の運転する本件加害自動車の助手席に原告が同乗して走行中、右自動車と訴外小寺憲吾操縦の乗用自動車とが衝突したことは当事者間に争がない。

二、原告の負傷

〔証拠略〕を綜合すれば、訴外鶴原は左前方路上に北向きに駐車し東方へ向け出発しようとしている訴外小寺の自動車が進路の前方へ出てくるものと感じその手前約一〇米のところで急制動の処置をとつたところ、路面が流水でぬれていたためスリツプして斜左へ前進し、本件加害自動車の左前部が右小寺の自動車の右前部に衝突したこと、本件加害自動車の助手席に同乗していた原告は右急制動による反動と衝突による衝撃のため前頭部を車体で打ち、さらに頸部に過屈伸の作用を受け、頭部及び頸部損傷の傷害を受けたことが認められ、他に反証はない。

三、被告の賠償責任

原告の同乗していた本件の加害自動車が被告の保有車であり、本件の事故は被告の被用者である訴外鶴原龍之が右自動車を運転し同じく被用者である原告を同乗させて被告の用務のため運行中に発生したものであることは当事者間に争いがないので、被告は自動車損害賠償保障法第三条本文により本件加害自動車の運行によつて原告に与えた損害を賠償すべき責任があるものと推定すべきところ、被告は運転者鶴原の無過失を主張するので判断する。

〔証拠略〕を総合すれば、本件の事故現場は、幅員九・三〇米の舗装された車道とその西側に幅員四米の非舗装の人道が設けられた東西の道路であるが、事故時には南側車道上に数台の自動車が西向に駐車されており、衝突場所の北側には頭を東に向け駐車して洗車中の自動車があつて洗い水が附近に流れ路面がぬれていたこと、訴外小寺憲吾は普通乗用自動車を操縦し右洗車中の自動車のやや斜め前方にあたる車道南側に頭を北東に向けて停車し、西進車の通過を待つて東進すべく待機していたため車道幅が狭められ、同人の自動車の先端と洗車中の自動車との間隔はおよそ四米位となつていたこと、訴外鶴原は本件加害自動車を運転し時速約四〇粁の速度で先行自動車との間に約一〇米の間隔をおいて西進し本件事故現場に差しかかつたのであるが、右小寺の自動車の手前(東方)約一〇米の地点に至つたとき右小寺が自動車を発進させようとしたと軽信し急停車の処置をとつたところ、舗装路面が水でぬれていたため車輪が滑走して把手の自由を失い、車体が左斜め前方へ進行しその左前部が右小寺車の右前部に衝突したこと、の各事実が認められ前掲証拠中右認定に反する部分及び原告の本人尋問結果中右認定にそわない部分は採用しがたい。ところで訴外鶴原としては右のように狭められた道路で、しかも待機中の自動車の前方を通過しようとするに際しては、予め減速徐行し警笛を鳴らして待機車に前方通過の合図をするなど事故の発生を未然に防止するために必要な措置をとるべき注意義務があるのに、同人はこれらの措置をとることなく漫然同一速力で通過しようとしたものであることが認められるので、同訴外人の無過失を主張する被告の抗弁は採用しがたく、他に右抗弁を認めるに足りる証拠はない。

四、原告の受けた損害

(一)  診療費、入院諸経費等

〔証拠略〕を合わせ考察すると、原告は本件事故による傷害のため神戸大学附属病院にて診療を受け治療費の一部負担金(健保外)及び文書料として計四、四四〇円を支払い(〔証拠略〕)、同じく新須磨病院にて診療を受け治療費の一部負担金及び文書料として計四、二一七円を支払い(〔証拠略〕)、同じく佐野病院にて診察を受け初診料一〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、同じく溝口整骨院にて診察を受け金二〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、同じく神戸労災病院にて診療を受け計九〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、同じく鍼灸師仙木舛一の治療を受け金六〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、視力低下による矯正のため神戸医大病院の処方により眼鏡を購入し金五、三〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、受傷の当初柔道整復師溝口広文の診察を受け金二〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、中尾外科にて診察を受け金二〇〇円を支払い(〔証拠略〕)、中院クリニツク(医師中院利彦)にて診察を受け金一〇〇円を支払つた(〔証拠略〕)ことが認められ、以上の各支出(合計一六、二五七円)は本件事故の結果原告の受けた損害というべきである。

さらに〔証拠略〕を合わせると、原告は本件事故により頸椎むち打障害、変形性頸椎症の傷害を受け、右側上肢及び下肢の運動不全麻痺、頑固な頭痛、全身倦怠感、脳波異常、精神不安定等の症状が現われ、事故後昭和四二年一月一三日まで、長田市民病院、神戸大学附属病院、神戸労災病院、新須磨病院等にて通院治療を受け、同年一月一四日より同年六月一日まで新須磨病院にて、同年八月二四日より同年一二月二〇日まで神戸大学附属病院(同病院で頸椎固定手術を受けた)及び新須磨病院にて入院治療を受け、以後も引続き通院治療を受けたのであるが、自宅療養中薬品購入費として別紙第一目録29のとおり金二、三三七円を支出し、入院中頸部のけん引用具代として同目録14のとおり金四、〇〇〇円を支出し、同じく入院中同目録15ないし22の物品を購入したことが認められる。しかしながら同目録28及び30の経費についてはその支出を認むべき証拠がなく、同12の歯科治療費については本件事故との相当因果関係を認むべき証拠がない。ところで入院中使用した寝具、着衣、石けん等の類は入院しなくても日常生活上必要とされる消耗品であるから傷害による損害とみるのは相当でないが、他面入院の場合、手術の場合にはそれにともなう諸雑費を必要とすることは経験則上明らかというべきであるから、原告は前記入院中少くとも一日一〇〇円の割合による諸雑費を必要としその額は計二万五六〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。そうすると原告は本件の受傷により診療費、薬代、入院諸雑費として合計四万八一九四円を要し同額の損害を受けたものというべきである。

(二)  付添婦雇入費

原告の受けた傷害の部位程度及びその治療経過は前に判断したとおりである。そして〔証拠略〕によれば、原告は自宅療養中の昭和四〇年三月一〇日より同年七月二〇日まで、昭和四一年三月一〇日より昭和四二年一月一四日まで、同年六月一日より同年八月二四日まで及び神戸大学附属病院入院中の同年九月二二日より同年一〇月一一日まで付添人を必要とし(もつとも自宅療養中の分は独身女性である原告が病状により自炊生活をすることができなかつた期間家政婦として雇い入れたものと推認される)訴外桝田まつに一日五〇〇円の割合による計二六万一〇〇〇円を、訴外木村かつ子に対し紹介手数料を含め計二万六四八〇円を各支払い同額の損害を受けたことが認められ、右損害は原告が本件事故により受けた損害と推認すべく、他に反証はない。

(三)  通院交通費

〔証拠略〕によれば、原告は前記のとおり通院及び入院による治療を受けその通院及び入退院時において交通費を要したのであるが、前記のような上下肢の運動不全麻痺、頑固な頭痛、全身倦怠等のためタクシーの使用を必要とし、昭和三九年一二月一四日より昭和四三年八月三一日までの間に(その内昭和四二年八月二四日までは神戸市長田区六番町三丁目の住居より、同年一二月二八日以後は肩書の住居より通院し)合計二四万四二〇〇円の交通費を支出し同額の損害を受けたことが認められ、他に反証はない。

(四)  喪失利益

〔証拠略〕を綜合すれば、原告は本件事故時までは被告会社に事務員として勤務し平均日額五四八円の賃金収入を得ていたところ、事故後数日間は出勤したが日を追うて頭痛めまい等の神経症状が著るしくなつたため長田市民病院に通院しながら自宅で療養し、昭和四〇年二月までは同病院にて、同年三月以後は前認定のとおり神戸大学附属病院、神戸労災病院、新須磨病院等にて治療を受けたが前認定のような後遺症状が取れず、昭和四三年五月六日神戸大学附属病院神経科習田敬一医師により身体障害者福祉法別表五級にあたる障害と診断され神戸市より身体障害者手帳の交付を受けたこと、原告は本件口頭弁論終結の日である昭和四四年四月八日現在なお右の後遺症状が全治しないため勤務を休みその間被告会社より賃金の支払を受けていないこと(もつともその間に被告会社より休業補償として計二万〇一六六円の支給を受けた)、しかしながら被告会社はいまだ原告を解雇しておらず原告の意思と労働能力の如何により就業が可能であること、以上の事実が認められる。ところで〔証拠略〕によれば神戸西労働基準監督署長は原告の前記傷害に対し昭和四一年一二月三一日をもつて治癒と認定し、その後遺障害につき労働基準法別表第一身体障害等級一二級の一二及び一四級の九に該当すると認め労災保険法所定の障害補償給付をしたことが認められる。しかしながら右にいう治癒とは症状が固定し医学的理学的療法を施すもそれ以上の治療効果が期待できない段階(従つて医療給付を打切るべき段階)に至つたことをいうのであつて身体の損傷、不調等が傷害前の状態に回復したことを意味するものではないから、労働能力の回復とは別問題である。また後遺障害に対するいわゆる打切補償も労災保険法の定める枠内においてその後遺障害に対する物質的精神的損害を補償するものであつて、実体上発生した全損害がそれにより全部填補されるものではない。そしていわゆるむち打症状は頸部の過屈伸による軟部組織の損傷、神経損傷等により発生する複雑多岐な症状であつて、局部のX線写真や化学的検査により他覚的にその原因を把握することの困難な疾患であることは医学上知られた事実であるが、右乙第四号証にある医師(神戸労災病院)前之園三郎の意見書によればX線による機能的撮影によると原告の第四、第五頸椎間において頸椎の不安定症状とみられる椎体の軽度のズレが認められ、これは頸椎外傷時の椎間軟骨の損傷を示唆するものであると説かれており、また原告が昭和四二年九月頃神戸大学附属病院整形外科において頸椎固定術を受けたことは前に判断したとおりである。また〔証拠略〕によれば原告の該症状に対する主訴は他覚的所見を認め得ない心因性のものが多いとされている。しかしながら、いわゆるむち打症状なるものは患者の気質、性質等よりくる心的要素が多分に反映し、その症状をより多様化し、難治化するものであることは臨床医の説くところであり、頭痛、めまい等の症状はもともと他覚的検査の困難な分野であるから特段の事情のない限り他覚的所見が認められないからといつてその症状の存在を否定し詐病視するのは相当でない。原告の前記後遺症状は原告の気質等心的要素が加つているとはいえ、本件事故による頸部損傷の結果であると推断すべく他に反証はない。

ところで原告は、前記後遺症のため全労働能力を喪失し向う二三年間前記給与額相当の得べかりし利益を失い同額の損害を受けたと主張するけれども、〔証拠略〕を総合すれば、原告の右症状は漸次軽快に向つていることが推認されるので全治不能の疾患であるとはたやすく認めがたく、前記甲第六第七号証は右の判断を覆えすに足りず、他に全治不能の障害と認むべき証拠はない。右の事実及び原告がいまだ被告会社より解雇されていないこと、その他本件に現れた全証拠を合わせ考えると原告が右傷害のため労働収入を失うべき期間は事故日より満五年(昭和四四年一二月一三日まで)と推認するを相当とし、それ以後もなお就労不能の状態にあると推断するに足りる証拠はない。そうすると原告が本件事故により受け、または受くべきものと認められる喪失利益の損害は、事故日から向う五年間一日金五四八円の割合による合計金一〇〇万〇一〇〇円というべきである。

(五)  損益相殺及び中間利息の控除

原告が被告会社及び労災保険並びに健康保険機関より別紙第二目録記載の各金額(合計三六万五九九二円)の支給を受けたことは当事者間に争いがない。そして労働者災害補償保険法及び健康保険法によれば「賠償の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合に保険給付をしたときはその給付の価額の限度で、賠償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する」旨定められており、右にいう第三者とは行為者のみならずその行為につき重畳的に賠償責任を負うべき者をも含むものと解されるので、政府及び保険組合は右補償の限度において原告が被告に対して有する右の損害賠償請求権を取得し、これを行使することができるのであるから、右の給付額を原告の有する前記喪失利益の損害補償に充当するのが相当である。そうすると原告の右喪失利益の損害額は金六三万四一〇八円となる。

ところで原告は、右の喪失利益に対し事故の翌日より年五分の割合による遅延損害金を求めるので、五年間にわたつて失うべき右損害額(計算を簡便にするために益金を控除した残額を基礎とする)に対し年毎のホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して事故時に一時払を受ける金額に換算すると金五五万三四八〇円となる。

(六)  慰藉料

原告が本件事故により受けた傷害の部位程度(後遺症を含む)、その治療経過及び治療日数は前に認定したとおりである。原告は右のような後遺症状と長期の療養(その内通算二五六日間入院し頸椎固定の手術も受けた)により肉体的精神的に多大の苦痛を受けたことが推認されるところ、右苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円と認める。

(七)  弁護士費用

原告が被告に対して、本件負傷事故による損害の賠償を求めるため弁護士に委任して本訴を提起したことは、被告の抗争内容に照らし相当と認められるので、原告が右弁護士に支払うべき手数料、報酬金の内の相当額は本件事故により原告の受けた損害として被告においてこれを賠償すべきものというべきところ、右弁護士費用の相当額は本件事案の内容 賠償認容額並びに〔証拠略〕に照らし金二五万円(手数料三万円、報酬二二万円)と認める。

四、結び

よつて、被告は原告に対し、原告の受けた以上の損害額合計二三八万三三五四円及び内金一五五万三四八〇円に対する昭和三九年一二月一五日以降、内金五七万九八七四円に対する昭和四四年一月一日以降各支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものと認め、原告の本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求は失当と認め棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎)

〔別紙〕 第一目録(諸経費)

<省略>

第二目録

<省略>

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