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神戸地方裁判所 平成9年(行ウ)19号 判決 1998年12月16日

神戸市中央区元町通三丁目一六番八号

原告

宮園貴江

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

石丸鐡太郎

堺充廣

堀岩夫

神戸市中央区中山手二丁目二番二〇号

被告

神戸税務署長 望月明

右指定代理人

関述之

長田義博

辰由肇

光本茂

福田雅史

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の平成四年分所得税について、被告が平成六年七月六日付けでした更正(平成六年一一月七日付け異議決定による一部取消後のもの)のうち、納付すべき税額一一万五〇〇〇円を超える部分及び平成六年七月六日付けでした過少申告加算税賦課決定(平成六年一一月七日付け異議決定による一部取消後のもの)を取り消す。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が、売却した土地及び建物は譲渡するまで居住の用に供していたものであるから、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例及び居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用を認めるべきであるとして、更正及び過少申告加算税賦課決定の各取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実等(以下証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

1  原告は、平成四年一二月九日、湯通堂紀子(以下「湯通堂」という。)に対し、その所有する別紙目録記載一ないし四の各土地(以下「本件土地」という。)を四〇〇〇万円で、同目録記載五の建物(以下「本件建物」という。また、本件土地と本件建物を併せて「本件譲渡物件」という。)の持分二分の一を二五〇万円で売却した。

なお、原告が本件譲渡物件を取得したのは、右目録記載一及び四の各土地については昭和四九年(乙三、六)、同二及び三の各土地については昭和六一年(乙四、五)、本件建物については昭和五一年(乙二)であった。また、本件土地は、本件建物の敷地の用に供されていた。

2  原告は、平成四年分の所得税について、別表1のとおり、平成五年三月一〇日、被告に対し、本件譲渡物件の譲渡について租税特別措置法(平成七年法律第五五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)一項の適用があるものとして、分離課税の長期譲渡所得金額を〇円、納付すべき税額を七万七〇〇〇円とする確定申告をし、同年九月二〇日、被告に対し、措置法三一条の三(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)一項及び同法三五条一項の特別控除等(以下、これらの規定を併せて「本件特別控除等」という。)の適用があるものとして、分離課税の長期譲渡所得金額を三八万二一三円、納付すべき税額を一一万五〇〇〇円とする旨の修正申告をした。

3  被告は、原告に対し、平成六年七月六日付けで、本件特別控除等の適用はないものとして、別表1のとおり、分離課税の長期譲渡所得金額を二九三八万二一三円、納付すべき税額を八八九万一〇〇〇円とする更正(以下、「本件更正」という。)及び税額を一二八万九〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定」という。)をした。

4  原告は、平成六年八月八日、被告に対し、本件更正及び本件過少申告加算税賦課決定につき異議申立てをしたところ、被告は、別表1のとおり、同年一一月七日付けで、分離課税の長期譲渡所得金額を二九三〇万一五六七円、納付すべき税額を八八六万七三〇〇円、過少申告加算税を一二八万六〇〇〇円とする異議決定をした。

5  原告は、平成六年一二月二日、国税不服審判所長に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、同所長は平成九年三月一八日付けで審査請求棄却の裁決をした。

三  争点及び当事者の主張

本件建物が、昭和六四年一月一日以降、原告の居住の用に供されていたか(本件特別控除等の適用の有無)。

(被告)

1 措置法三五条一項及び同法三一条の三第二項にいう「居住の用に供している家屋」とは、単に、当該家屋の所有者が事実的支配を及ぼしているだけでは足りず、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいい、生活の本拠としていたかどうかは、その者及び社会通念上その者と同居することが通常である配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、当該家屋の構造及び設備の状況その他諸般の事情を総合勘案して判定すべきものである。

2 次の(一)ないし(三)の各事実から推認すれば、昭和六四年(平成元年)一月から本件譲渡物件が譲渡されるまでの間は、本件譲渡物件が原告の居住の用に供されていなかったことは明らかである。仮に、居住の用に供されていたとしても、「主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」(措置法施行令二三条一項及び二〇条の三第二項)には当たらない。

(一) 本件建物における平成元年一月から平成四年一二月までの電気、ガス及び水道の使用量は、別表2のとおりであり、そのいずれもが、皆無に等しいかごく少量のものである。ガス使用量及び電気使用量だけをみても、到底居住の用に供したといえる量ではない。

(二) 本件建物には、電話の設置がなく、NHKの受信料の支払いもないうえ、原告は、本件建物の属する大地自治会に未加入であり、町内会費も支払わず、町内会から脱退していた。

(三) 原告及び原告の夫である宮園藤雄(以下「藤雄」という。)は、本件譲渡物件を譲渡した平成四年一二月九日において、本件建物以外に自己の居住用として利用できる建物を二軒(別表3の順号2及び3の建物)所有していた。

別表3の順号2の建物(以下「会社建物」という。)の一階ないし三階は原告経営の有限会社に賃貸されていたが、賃貸されていない四階及び五階部分には居住に必要な設備が備え付けられており、原告は右建物で居住していた。また、原告及び藤雄は、法人税の確定申告書、所得税の確定申告書及び社会保険関係の届出等において、原告や藤雄の住所地を会社建物の所在地として記載していた。

これらのことからすると、原告は、会社建物を生活の本拠としていたということができる。

3 結論

以上のとおりであり、原告の本件譲渡物件の譲渡による所得に措置法三五条一項及び三一条の三第一項を適用する余地はない。

(原告)

1 原告は、美容業及びエステティックサロンの経営等を業務とする「有限会社すみれ」の代表者であり、また、原告自身が美容師でもある。

原告は、その日々の会社事業経営に忙殺され、本件建物に帰宅する労力と時間を惜しみ、会社建物の宿直室で寝泊まりすることがあったが、それはあくまで仮のものであり、居住という観点からは生活の本拠といい得るものではなかった。そして、原告は、本件建物には休日や仕事に疲れたときなどのほか、定期的に帰宅して生活していたものである。

2 措置法三五条一項及び同法三一条の三第二項に規定する「住居の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く)をいうとされる。そして、これに該当するかどうかは、<1>その者及び配偶者等の日常生活の状況<2>その家屋への入居目的<3>その家屋の構造及び設備の状況<4>その他の事情を総合して判断される。

(一) 本件譲渡物件の譲渡時における、原告と藤雄の所有建物は、三件(別表3の順号1ないし3)あったが、本件建物以外に居住用とみなされる家屋はない。

(1) 会社建物(順号2の建物)について

原告の経営する会社の本店所在地である会社建物は、事業用の店舗及び事務所であり、六畳強程度の宿直室はあるものの、設備、規模及び構造上のいずれの観点からも居住用の財産でないことは明らかである。

(2) 順号3の建物について

順号3の建物(以下「夢野店建物」という。)は、店舗及び寮であり、これも設備、規模及び構造上、また使用の実態のいずれの観点からも原告の居住用の財産でないことは明らかである。

(3) 本件建物(順号1の建物)について

原告はかねて、店舗と住居を同じくする家屋(別表3の順号4の建物。以下「旧店舗建物」という。)に住み、その家屋の一階を美容室の店舗とし、その二階を住居としていた。その後、業務を拡張するために、夢野店建物を店舗として購入し、その後の昭和四九年六月に本件土地を購入し、昭和五一年六月に「純住宅」として本件建物を建てたものである。

(二) 原告は、一生住むつもりで本件建物を新築購入して入居し、以来一貫して生活の本拠として居住してきており、本件建物を売却したのは、仕事との兼ね合いから職場に近いところに住居を構えたいという希望を持つようになったからにすぎない。

(三) 本件建物の隣に、原告の妹で本件譲渡物件の買主である湯通堂が住んでいる別の家屋があり、その家屋と本件建物とはそれぞれの裏口が面していて雨降りの日でも殆ど雨に晒されることなく行き来が出来る位置関係にあった。湯通堂は、男児を抱え生活上の必要もあって、また自分自身も美容師であったことから、原告の美容院の事業を手伝っていた。そして、原告及び湯通堂の母親が九州から出て来て、湯通堂の前記家屋に湯通堂と同居しつつ、その男児の食事等の世話をしていていたが、原告が本件建物に帰宅して居住していた折には食事はその母親が用意し、原告は湯通堂の家屋で母親や湯通堂とともに食事をすることが習慣化していた。湯通堂の家で一緒に食事をする、風呂をもらうという習慣は、母親が里(鹿児島県)に完全に帰った以降も続いていた。

原告が本件建物内でガスや電気等の光熱費や水道をあまり使用しなかったのは、以上のような事情によるもので、原告及び藤雄は本件建物を居住用の家屋として使用していた。

(四) 原告は、住民票を本件建物の所在地に置いていたのであるし、その本籍地をも本件建物の所在地に置いていた。これは、原告が、本件建物をその生活の本拠地とする意思を有していたことを物語るものである。

また、原告及び藤雄宛の郵便物で、主として美容室の業務関係以外の個人的なものはそのほとんどが本件建物の方に配達されていた。

3 結論

原告は、居住用財産として本件譲渡物件を購入して以来、原告の居住用財産としては、また、生活の本拠としていた物件と目すべき財産としては、設備、規模及び構造上のいずれの観点からも、本件譲渡物件以外には存在しなかった。

したがって、本件譲渡物件の譲渡については、本件特別控除等が認められるべきである。

第三当裁判所の判断

一1  措置法三五条一項の規定の趣旨は、居住用財産を譲渡した場合には代替の居住用財産を取得するがい然性が高いこと及び通常の居住用財産であれば右の特別控除額の範囲内で取得できるものとの配慮から、特に所得税の負担を軽減し、居住用財産の取得を容易にすることにあるものと解される。そして、施行令二三条一項の規定は、措置法三五条一項の趣旨に照らし、右のような特別控除はその主たる居住用財産の譲渡にのみ認めれば足りるものとして、同法三五条一項の特例の濫用を防ぐ趣旨であると解される。

このような右特別控除制度に関する規定の内容及びその趣旨に照らすと、措置法三五条一項にいう「居住の用に供している家屋」とは、単に、当該家屋の所有者が事実的支配を及ぼしているだけでは足りず、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいい、生活の本拠としていたかどうかは、その者及び社会通念上その者と同居することが通常である配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、当該家屋の構造及び設備の状況その他諸般の事情を総合勘案して判定すべきものである。

2  また、措置法三一条の三第一項の規定は、長年住み馴れた居住用財産の譲渡に対する特別の配慮として、所有期間一〇年を超える居住用家屋及びその敷地を譲渡した場合には、その税負担を軽減するとの趣旨で創設されたものであり、同第二項にいう「居住の用に供している家屋」についても、同法三五条一項にいう「居住の用に供している家屋」と同様に解すべきである。

二1  そこで本件につき検討するに、争いのない事実等、証拠(甲一、検甲一の1・2、乙一、八ないし一三、証人湯通堂、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件建物における平成元年一月から平成四年一二月までの電気、ガス及び水道の使用量は、別表2のとおり零若しくは著しく少量で、ガスについては、平成元年七月三一日に開栓されたが翌月五日に閉栓されており、全く使用されていない。

(二) 本件建物には電話が設置されておらず、NHKの受信料の支払いもなされていなかった。また、原告は、本件建物の属する大池自治会に未加入であり、自治会費を支払ってもいなかった。

(三) 本件建物の隣には原告の妹である湯通堂の家があり、原告の母は、湯通堂の家に居住していたが、昭和六一年ないし六二年ころに鹿児島に引っ越した。そのころまでは原告も本件建物に寝泊まりしていた。

(四) 兵庫税務署に所属する国税調査官が、本件建物の利用状況につき、平成五年一一月一七日及び平成六年五月二五日に近隣住民等から聴き取り調査をしたところ、右住民等は、<1>昭和六一年ころから夜に灯りがついてなかったようであり、話し声もほとんど聞こえなくなった、<2>平成元年ころから町内会の会費も払わず、町内会からも脱退していたので回覧板も回していない、<3>おばあさん(原告の母)が九州に帰ってからは、人が住んでいなかったように思う、<4>人が住んでいなかったように見えていたなどと話した。

(五) 平成四年一二月に原告が引越をした際、本件建物から運び出された荷物の送り先は、神戸市兵庫区湊川町六丁目にある倉庫であり、運送された家財の量は、一般家庭が引越をするものと比べて少量であり、単身生活者が引越をする程度であった。また、本件建物から食器類等の生活用具は運び出されていない。

(六)(1) 原告及びその夫藤雄は右の当時居住用建物として本件建物のほか、夢野店建物及び会社建物を所有していたが、夢野店建物は店舗及び従業員寮として使用されていた。

(2) 会社建物の一階部分及び二階部分は会社に貸し付けられ、三階部分についても会社が営業に使用していた。会社建物に係る固定資産税の課税標準は、所有者の申し出に基づき課税庁が確認を行い、その一階部分及び二階部分は事業用として、三階部分ないし五階部分は居住用として区分されている。

(3) 会社建物のうち、一階部分ないし三階部分には会社の事業に係る設備がある。四階部分の床面積は五六・五二平方メートルで、約二三・二六平方メートル(約七・〇坪)のリビングがあり、水洗トイレが設置されており、リビングに隣接して襖で仕切られた約一八・〇平方メートル(約五・四坪)の和室(一〇畳)と押入がある。さらに、平成四年一月増築以前の会社建物の五階部分の総面積は二二・〇一平方メートルで、約六・七平方メートル(約二・〇坪)の物干場と約三・三平方メートル(約一・〇坪)の浴室及び約二・二平方メートル(約〇・七坪)の水洗トイレがあった。

(七)(1) 原告は、原告が経営する有限会社の商業登記簿の役員に関する事項欄には、原告の住所として昭和六一年以降会社建物の所在地を記載しているが、一方湯通堂は、東大池の自宅の住所を記載している。

(2) 原告は、原告が経営する有限会社の法人税の確定申告書(昭和六三年五月一日ないし平成六年二月二八日までの各事業年度分)及び同申告書に添付された出資著名簿に、原告及び藤雄の住所地として会社建物の所在地を記載し、社会保険関係の届出に係る住所地についても、会社建物の所在地を届け出ている。

(3) また、原告は、所得税の確定申告書(昭和六三年ないし平成五年までの各年分)の住所欄に会社建物の所在地を記載している。

(八)(1) <1>原告及び藤雄は、昭和五一年五月二一日、本件建物の所在地を住所地として住民登録したが、<2>昭和五七年一一月二六日、同人らは、旧店舗建物の所在地に住民登録を移し、<3>昭和五九年六月二九日から平成元年六月二二日までは、会社建物の所在地に住民登録を移した。<4>ただし、藤雄は昭和六二年一一月一八日から昭和六二年一二月七日の間は本件建物の所在地に住民登録をしている。<5>その後の平成元年六月二三日、原告及び藤雄は、再び本件建物の所在地に住民登録を移し、<6>本件譲渡物件譲渡後の平成五年一月八日、夢野店建物の所在地を住所とする住民登録をした。<7>その後、原告は、再び、平成七年八月二四日に会社建物の所在地に住民登録を移した。

また、原告は、右のように住民登録を移した理由について、合理的な説明をしていない。

(2) 原告は、平成七年九月一二日、神戸市中央区元町三丁目一六番地一三外五筆の土地上に共同住宅兼店舗(以下「本店建物」という。)を藤雄及び原告の娘とともに新築して、同所において有限会社の新店舗を開業したが、現在、同所の共同住宅部分に居住している。

原告は、平成九年四月七日、住所地を夢野店建物所在地から本店建物所在地へ変更したとして所得税の納税地の異動届出書を神戸税務署へ提出した。

なお、原告は、右本店建物の居住部分において、電気、ガス及び水道の契約を済ませている。

2(一)  右認定事実に基づき検討するに、本件建物について<1>電気、ガス及び水道が不便用又は使用量が極めて少ないこと、<2>電話は設置されておらず、NHK受信料の支払いもされていないこと、<3>自治会にも加入しておらず、近隣住民からも本件建物に住んでいないと思われていたこと、<4>引越の際の荷物の種類、量及び送り先にかんがみると、本件建物には日常生活に必要なものが備わっていたのか疑わしいこと、<5>会社建物は設備的にも居住可能であり、原告自身が週に五、六日は右建物で過ごしていたことを認めている(原告本人)こと、<6>公の書類に、住所として、本件建物所在地ではなく、会社建物所在地を記載していること、<7>住民票は本件建物所在地に登録していた時期もあったが、特に合理的理由も窺われないのに頻繁に移しており、原告は必ずしも生活の本拠を住民票の登録地と考えていたわけではないと推認できることなどからすると、昭和六四年一月一日以降において、原告の日常生活の主たる拠点が本件建物にあり、右建物が居住の用に供されていたとは到底認められず、右建物は昭和六四年一月一日以降においては居住用財産ではなかったと認めるのが相当である。

(二)  原告は、電気、ガス及び水道の使用量が少なかったのは、食事、風呂及び洗濯等は湯通堂の家で済ませていたからである旨主張し、湯通堂や原告本人もこれに沿う証言ないし供述をしているが、たとえ原告及び藤雄が、本件建物で毎日夜寝るだけのような生活をしていたとしても、想定される電灯や洗面水の使用等を考えれば、前記認定のように、相当長期間、ガスを閉栓し、電気及び水道の使用量も極めて少ないということはまず考えられないところであり、電気、ガス及び水道等を使用しない生活は通常人の生活として極めて異常なものであるといわざるを得ないから、右証言ないし供述は信用することができない。

また、原告は、会社建物は設備、規模及び構造上居住用財産とはなり得ないので、本件建物が居住用財産である旨主張しているが、原告は、藤雄は会社建物に居住していること及び週に五、六日は原告自身も右建物で寝泊まりしていた旨供述しているなどに徴すると、右原告の主張は採用することができない。

3  以上のとおり、本件建物は、昭和六四年一月一日以降においては、原告の居住の用に供されていたものではないと認められ、本件譲渡物件の譲渡所得につき、本件特別控除等の適用はない。

三  結論

1  以上述べたとおり、本件譲渡物件の譲渡所得について本件特別控除等の適用はないところ、原告の平成四年度の所得金額のうち、別表1の(1)(総所得金額五四〇万九六三七円)及び(3)(所得控除額一〇七万六六二五円)は当事者間に争いがない。また、(2)<1>(収入金額四二五〇万円)についても当事者間に争いがなく、同<2>(取得費)及び<3>(譲渡費用)は弁論の全趣旨から同表異議決定欄記載のとおり(<2>が一二一七万八四三三円、<3>が二万円)であると認められ、措置法三一条一項及び同条四項の規定により特別控除額(同<4>)は一〇〇万円であるから、分離課税の長期譲渡所得金額(同<5>)は、同表記載のとおりの計算により二九三〇万一五六七円となる。そして、これを前提として所得税法八九条、措置法三一条一項により税額を計算し(同表の(8)、九三五万六九〇〇円)、当事者間に争いのない源泉徴収税額(同表の(9)、三五万五〇〇〇円)及び予定納税額(同表の(11)、一三万四六〇〇円)を控除すると、納付すべき税額(同表の(12))は八八六万七三〇〇円となる。

2  さらに弁論の全趣旨によれば、右税額を前提として、国税通則法六五条一項及び同条二項の規定により過少申告加算税を計算すると、一二八万六〇〇〇円となる。

3  したがって、右と同一内容の本件更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも一部取消後のもの)はいずれも適法である。

4  よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)

(別紙)

目録

一 所在 神戸市北区東大池一丁目

地番 四二四三番一七

地目 宅地

地積 三〇・九四平方メートル

二 所在 神戸市北区東大池一丁目

地番 四二四三番三六

地目 山林

地積 四八平方メートル

三 所在 神戸市北区東大池一丁目

地番 四二四三番四二

地目 山林

地積 三四平方メートル

四 所在 神戸市北区東大池一丁目

地番 四二四六番一二

地目 宅地

地積 一〇一・〇七平方メートル

五 所在 神戸市北区東大池一丁目四二四六番地一二、同所四二四三番地一七

家屋番号 四二四六番一二

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 五〇・五一平方メートル

二階 三三・一二平方メートル

(但し、原告の持分は二分の一)

別表1

原告の平成4年分の所得税の課税の経緯及びその内容

<省略>

別表2

本件譲渡建物における水道光熱使用量

<省略>

<省略>

別表3

原告及び原告の夫藤雄の所有建物一欄表

<省略>

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