大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2019号 判決 1998年12月09日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告甲野花子に対し金一二八九万五七八三円、原告甲野一郎に対し金一四七六万一七六一円及び右各金員に対する平成四年二月一日から各支払い済みに至るまで年五パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告らに委任されて相続税申告手続をなした税理士である被告が、原告甲野花子に対し、<1>相続税の暫定納付をする義務がないにもかかわらず暫定納付させ、納税のための借入金利息相当額(一二八九万五七八三円)の損害を与えた、<2>仮に暫定納付する義務があったとしても、延納手続をとらなかったため、納税のための借入利息総額と延納手続を取った場合に負担しなければならない利息の差額相当額(一二〇三万九八七円を下らない。)の損害を与えた、原告一郎に対し、<3>被相続人名義の借入金の処理につき、より有利な生前贈与があったとしての申告をなさなかったため、三一八二万五四〇〇円の損害を与えた、<4>遺産分割協議成立前に適切な説明をしなかったために配偶者の税額軽減の枠を使い切れず、一四七六方一七六一円の損害を与えたとして、原告らが、被告に対し、それぞれその損害(<3>についてはうち一四七六万一七六一円)及び遅延損害金の賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠を掲げた部分以外は、当事者間に争いがない。)

1 相続

平成二年二月一〇日、甲野太郎(以下「故太郎」という。)が死亡した。その相続人は、妻の原告甲野花子(以下「原告花子」という。)、長女の訴外丙川春子、二女の同丁原夏子、三女の同戊田秋子(以下「秋子」という。)、四女の同甲田冬子(以下「冬子」という。)及び長男の原告一郎(以下「原告一郎」という。)の六名であった。

2 相続税申告手続等の委任

被告は、税理士であるが、原告らは被告に対し、故太郎を被相続人とする相続税申告手続及び同修正申告手続等を依頼し、被告は、これを承諾した。

3 相続税の申告及び納付

(一) 被告は、平成二年八月八日、須磨税務署長に対して、故太郎に関する相続税につき、原告花子については納付すべき税額を一億二一九一万六八〇〇円、原告一郎については納付すべき税額を二四三八万三三〇〇円として、各申告手続をし、同月一〇日までに各納付手続を行い、原告らは右金員を納付した。

(二) 右相続税申告手続は、相続人間における遺産分割が未了のため、遺産分割完了の時点で修正申告等をする前提で、各人の法定相続分に応じて申告したものである。

4 遺産分割

平成四年一月一三日、神戸家庭裁判所において、原告らを含む相続人間に、遺産分割協議の調停が成立した。

5 原告花子についての更正の請求、更正処分及び還付

(一) 被告は、平成四年一月三一日、須磨税務署長に対し、原告花子について、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法(平成四年法律第一六号による改正前のもの。以下「法」という。)一九条の二第一項。以下「配偶者の税額軽減」あるいは単に「税額軽減」という。)の適用により、納付すべき税額を〇円として、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

(二) 配偶者の税額軽減について

被相続人の配偶者には、相続税の税額軽減が認められているので、法定相続分又は八〇〇〇万円の範囲内の遺産の取得であれば、相続税の納付の義務はない。右配偶者の税額軽減が受けられるのは遺産分割などにより配偶者が実際に取得したものに限られ、その遺産分割などによる遺産の取得期限は原則として相続税申告期限までとされている。しかし、申告期限内に遺産分割などによる遺産取得が確定しない場合でも、申告期限後三年以内ならば当然に、また、申告期限後三年を超える場合でも税額署長の承認を得れば、遺産取得が確定した時点で税額軽減の適用を受けることができる。

(三) 須磨税務署長は、平成四年二月五日付けで、右更正の請求のとおりに減額更正処分を行い、納付されていた相続税を原告花子に還付した。

6 原告一郎についての修正申告及び納付

(一) 被告は、平成四年一月三一日、須磨税務署長に対し、原告一郎について、納付すべき税額を一億一三六七万七二〇〇円として、修正申告(以下「本件修正申告」という。また、本件更正の請求と併せて「本件修正申告等」ということもある。)をし、当初納付額との差額分八九二九万三九〇〇円についての追納の手続を行い、原告一郎は右金員を追納した。

(二) 本件修正申告において、被告は、当初の申告で相続債務として計上していた故太郎名義の第一勧業銀行新町支店からの借入金一億四二万二〇〇〇円(以下「本件借入金」という。)を、二七九九万円に減額修正してこれを行った。

(三) また、本件修正申告等において、原告花子の課税価格を相続人各人の課税価格の合計で除したあん分割合は〇・四五一一七八となった。

7 原告一郎による更正の請求及びそれに対する須磨税務署長の通知

(一) 原告一郎は、平成四年一月三一日付けの相続税の修正申告は重大な錯誤に基づくものであったとして、須磨税務署長に対し、平成六年三月二五日付けで、納付すべき税額を八一八五万一八五三円とする旨の更正の請求を行った。

(二) これに対して須磨税務署長は、右更正の請求は国税通則法二三条一項に規定する請求期間を経過してなされたものであり、不適法であるとして、原告一郎に対し、平成六年四月二八日付けで更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。

8 以上の課税の経緯は別表のとおりである。

三  争点

(原告花子の申告について)

1 申告期限までに遺産分割が終了していない財産につき、配偶者の税額軽減の適用が受けられる可能性がある場合、配偶者に右軽減の範囲内で相続税の(暫定)納付の義務があるか。また、右義務がないのに納付させたことが委任契約上の義務違反となるか。

2 被告が、原告花子の相続税の納付につき、延納手続をとらなかったことが委任契約上の義務違反となるか。

(原告一郎の申告について)

3 被告が、本件修正申告において、本件借入金に関する処理につき、生前贈与ではなく債務減額で処理した点が委任契約上の義務違反となるか。

4 被告が、遺産分割協議成立前に、原告一郎に対し、原告花子の取得分が五〇パーセント以上となる遺産分割をするべきとの説明をしなかったことが委任契約上の義務違反となるか。

四  争点に関する当事者の主張

1 争点1について

(原告花子の主張)

(一)(1) 法一九条の二第一項は、配偶者の暫定納付義務そのものを定めたわけではなく、一般的な納付義務(法三三条一項)の存在を前提として、特に配偶者について(納付すべき額が無い場合も含めて)納付すべき税額の算出方法を定めているにすぎない。

(2) 法一九条の二第二項は、未分割の財産は、同一項二号ロの課税価格の計算の基礎とされる財産に含まれないと規定しているが、同二項ただし書は、「三年以内に分割された場合はこの限りではない。」と規定するので、結局同一項二号ロの課税価格の基礎となる財産に含まれることになる。

(3) 未分割の遺産につき、配偶者は税額軽減の適用を受ける余地はなく、必ず一旦(暫定)納付しなければならない(遡って適用を受けられるのにすぎない)とすれば、「純粋に徴税手続上の便宜」という観点を別とすれば、将来配偶者の税額軽減の適用を受けられる可能性がある場合は、その範囲内では暫定納付の義務はないことを前提とする相続税法施行規則一条の三第三項三号は全く意味をなさないことになる。

(二) 他の条文との関係

(1) 法五五条によれば、未分割の遺産については、法定相続分の割合で「取得したものとして」その課税価格を計算(して申告納税)することになっているが、この条文はいわば相続税申告納税手続において、遺産の全部又は一部が申告期限までに未分割であっても分割がなされたと同様の取扱いがなされるべきことを定めたものとみられるから、法一九条の二の適用の関係でも「取得した(分割された)ものとして」取り扱われるべきである。

(2) 法三三条(申告納付義務)は、申告により納付すべき税額がある場合にこの税額について納付義務が発生することを規定したものであり、申告の段階で、前項で述べたように配偶者の税額軽減の適用がある場合には、右軽減の範囲内で、納付の義務はない。

(3) 法三二条六号(更正請求の特則)は一見すると未分割財産について配偶者の税額軽減の適用がないこと(暫定納付義務があること)を裏側から規定しているようであるが、必ずしも暫定納付義務を定めたものでもなければ、これを前提とするものでもない。「その時前において同項(一項)の規定を適用して計算した相続税額と異なることになった……」とあるのは、むしろ全部若しくは一部の未分割の場合も配偶者の税額軽減の適用ありとの前提に立つものと考えるべきである。

(三) 解釈の実質的妥当性

民法上定められた配偶者の法定相続分は配偶者の当然の権利であり、その範囲では無税が基本となっているのだから、全部未分割であって法定相続分に従って申告する場合には配偶者に税額軽減が適用されて納付額がゼロとなるのはむしろ当然のことである。

もし、未分割の場合に配偶者が税額軽減を受けることなく、一旦納付しなければならないとすると、配偶者の相続権は事実上相当の制約を受けることになることは避けられない。

(四) 税理士たる被告は、税務申告手続の専門家として、相続税申告事務を目的とする本件委任契約上、法律上許容される範囲内で委任者(原告ら)の利益を図り、損害を避けるべき一般的な注意義務を負っていた。にもかかわらず、被告は、原告らに対し、原告花子の相続税について一旦納期限までに全額を納付することが必要であると指示し、若しくはその旨誤信させて、その結果納期限までに相続税を納付させたもので、右義務に違反した。

(被告の主張)

(一)(1) 申告納税方式による国税の期限内申告書を提出した者は、当該申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に相当する国税をその法定納期限までに納付しなければならないとされており(国税通則法三五条一項)、相続税の期限内申告の法定納期限は申告期限までとされている(法三三条)。

(2) そして、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者がある場合に、財産を取得したすべての者の相続税の課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除を超え、かつ、法一五条から一九条まで及び一九条の三から二一条までの規定を適用して税額を計算したときに納付すべき相続税額がある場合には、その者は申告期限までに申告書を提出しなければならないとされている(法二七条一項)。

すなわち、相続又は遺贈により財産を取得した者で、その取得した財産につき法一九条の二第一項の規定(配偶者の税額軽減)がないものとして計算した場合に納付すべき相続税額のある者は申告義務を負うのであって、その提出した申告書に記載された相続税額(配偶者の税額軽減の適用がある場合には、その適用後のもの)に基づいて具体的な納税義務が確定し、申告期限までに当該相続税を納付すべき義務を負うこととなるのである。

(3) また、更正の請求は、このようにして自ら確定させた納付すべき税額につき、これを減少させる更正処分を請求する手続であるが、右手続がなされる場合においても、納付すべき税額は、右請求に基づく更正処分がなされて初めて減少するのであり、将来更正の請求がなされることが予定されているからといって、当初自ら確定させた納付すべき税額につき納付義務を免れるものではない。

(二) なお、原告らは、遺産が全部未分割であって法定相続分に従って申告する場合には、配偶者に税額軽減が適用された結果、納付額がゼロとなるのはむしろ当然のことであり、もし、未分割の場合に配偶者が税額軽減の適用を受けることなくいったん全額を納付しなければならないとすると、この配偶者は納税のための資金調達に窮して、事実上不本意な内容の分割協議を強要されることになり、配偶者の相続権は相当の制約を受けることになることは避けられない旨主張する。

しかし、配偶者の税額軽減の適用対象を原則として申告期限までに分割された財産に限定する趣旨は、配偶者ができるだけ多くの遺産を円滑かつ速やかに取得できるようにすることにあるのであって、原告らの右主張は、本末転倒の主張であるといわざるを得ない。

2 争点2について

(原告花子の主張)

(一) 原告花子の相続税一億二一九一万六八〇〇円については、遺産分割が完了すれば、配偶者の税額軽減の適用を受けて還付される性格のものであるから、これを納めないで済ますことの出来る延納の有利さは明白である。

そして、以下のとおり、被告は、延納手続を取ることが可能であるにもかかわらず、原告に十分な説明をせずに延納手続を取らなかったのであるから、暫定納付に伴う右のような損害の発生を防止するために延納手続を取るべき委任契約上の義務に違反した。

(二) 被告が専門家の義務としてなすべき指示(説明)をなしたとはいえない。被告は原告ら(主として一郎)に対して、当初申告の前からしきりに、「(延納のための)書類が大変であるので延納はやりたくない」等、延納手続を取らない方向で原告らを説得していた。さらに、被告は、原告らに対して、延納手続を取るためには担保が必要であるが、相続財産は未分割であるため担保にならないとだけ説明し、相続財産でない共有持分や相続財産でない財産については担保とすることができる旨説明せず、あたかも延納は不可能であり、努力は無駄であるかのごとく印象づけるようにし、担保に供することのできる財産を有するかについても尋ねなかった。そのため、原告らは、やむなく延納を断念した。

(三) 延納手続のための担保について

(1) 延納手続を取るためには担保が必要となるが、右延納のための担保は、相続財産である必要はなく、他人のものでもよい。また、土地共有持分であっても差し支えない。

(2) 平成二年八月当時、原告ら、冬子、甲野株式会社は、別紙1「物件目録」記載の土地建物を所有していたが、これらの物件は相続税延納のため自由に担保として差し入れることが可能であった。これらの土地建物以外にも、愛媛県の土地、甲野株式会社東京支店の土地建物、ゴルフ会員権等が担保として使用することが可能であった。これらの物件の当時の時価(相続税評価額)は別紙1「相続税評価額の計算」記載のとおり合計四億一九〇〇万円以上である。したがって、これらの物件は十分に原告花子の相続税一億二一九一万円余りの担保となり得たものである。

(四) 損害

(1) 原告花子が、可能な延納手続(最悪でも、期間一〇年、利率六・〇パーセント)を取ったとすれば、当初納税期限平成二年八月一〇日の一年後までに、元金(本税)の一〇分の一(一二一九万一六八五円)及び同日までの利子税(七三一万五〇一一円、本税の六パーセント)合計一九五〇万六六九六円を納税しなければならない。これは、税額還付(平成四年二月末日までに還付された)に至るまで、納税状態が継続されることになり、その期間は月単位の利息計算上最大でも七か月(平成二年八月より平成四年二月)である。

(2) 納税部分を銀行借入(年率七・六パーセント)により賄ったとすれば、最大で七か月間の利息八六万四七九六円(一九五〇万六六九六円×〇・〇七六×七か月÷一二か月)は、延納手続を取ったとしても、原告花子の負担となる部分の最高額である。

(3) よって、延納手続を取らなかったことによる損害は、原告花子の納付した相続税一億二一九一万六八五〇円の納税のための借入金の利息総額一二八九万五七八三円から、延納手続を取った場合に負担すべき右利息(最大)八六万四七九六円を差し引いた一二〇三万九八七円を下らない。

(被告の主張)

(一) 被告の説明

被告は本件相続税申告に先立つ平成二年七月二四日、原告一郎に対してファックス通信をもって延納手続について注意を促し、「申請のためにいろいろと書類をととのえる必要があるが、依頼があれば用意するので早急に連絡を願いたい」旨申し入れた。

原告らは母子であり、本件相続税に関しても被告との間の連絡、打ち合わせは原告一郎が行っていたことでもあり、同人に対する連絡で済ませたことが原告花子に対する連絡を等閑にしたと判断すべき事情は何もない。

(二) 延納に至らなかった理由

(1) 延納に至らなかったのは担保物件の用意ができなかったからである。担保物件の用意ができないとして延納を断念したのは原告一郎なのであって、別紙1「物件目録」記載の物件のうち1及び4については故太郎の持分が四分の二、同5については同じく一〇分の三となっており、これらは相続財産として秋子にも持分があり、甲野株式会社の株式についても同様であった。その他の物件についても相続税の申告書の相続税がかかる財産の明細書記載の資産についてはいずれも秋子にも持分があり、同女が原告らのためにこれらの物件、資産を担保に供する見込みは全くなかった。

なお、原告一郎は愛媛県西宇和郡八幡の土地などがあることを主張するが、これについては、被告は担保物件としてこれらのものがあることの説明は受けていない。

(2) 延納条件については、未分割財産は担保として不適当とされ、共有物の担保提供については、原則は不可だが、共有者全員がその持分の全部を担保提供するときに限り認められるとされている。

3 争点3について

(原告一郎の主張)

(一) 被告の義務

被告は、税理士として、委任事務遂行中に、具体的方法として法律上許容される複数の選択肢がある場合には、原則として依頼者にとって最も利益の(最善の)ものを選ばなければならない。あえて、最善の方法を採用せず、次善、三善の方法を採用する場合には、最善の方法を採用しないことにより「不利益を受ける」ことについて、委任者(原告ら)本人の真正な承諾が必要であり、その前提として委任者が正しく判断出来るように、各方法の可否、得失について適切な説明がなされなければならない。

被告は本件修正申告に当たって、原告花子の利益のため、配偶者の相続税軽減の特典を最大限に活用し、法定相続分(五〇パーセント)の枠(以下「配偶者税額軽減枠」という。)を使い切るか、若しくは、この枠を使い切れない場合は、それ自体原告らにとって不利益なものであるから、使い切れないことについて、合理的な説明をなしてこれに基づき、原告らの真正な承諾を得なければならなかった。

(二) 被告のなした修正申告

「故太郎の借入残額が、同人の共有持分の割合と比べて過大である」との税務署からの指摘があったため、平成四年一月三一日、被告は、故太郎の第一勧業銀行新町支店に対する借入金一億四二万二〇〇〇円を二七九九万円に減額修正する(七二四三万二〇〇〇円の実資産増となる)修正申告をした。

(三) 生前贈与との申告が可能かつ有利であったこと

(1) 右七二四三万二〇〇〇円は、故太郎が、自己の借入金を以って、原告花子及び冬子の借入金の返済に充当したもの、すなわち生前贈与(相続開始前三年以内の贈与)であった部分であるとして修正申告することは税務上充分に可能であった。

なお、その場合、原告花子と冬子に対する右生前贈与額は、財源を第一勧業銀行からの右借入金のうち七二四三万二〇〇〇円の他、原告一郎からの借入金一三一〇万六〇〇〇円とする合計八五五三万八〇〇〇円として申告することが可能であった。

(2) 右のように修正申告を訂正しても、マイナス資産たる債務を増加させた分だけ生前贈与額が増加するので、実遺産(課税)価格の総額に変更はなく相続税の総額についても変更はない。しかし、原告花子については、配偶者の税額軽減の適用により、軽減額が増加することになる。すなわち、被告の行った修正申告では、原告花子の配偶者の税額軽減の対象たる遺産は全体の〇・四五一一七八にすぎず、限度たる法定相続分二分の一(〇・五)との差〇・〇四八八二二の部分(遺産三九六七万五三九三円に相当)が活用されていなかったが、生前贈与として申告しておれば、この部分が活用されて原告花子の税額軽減部分は一四七六万一七六一円につき増加していたはずである。

(四) 説明義務を尽くしていないこと

被告は、本件修正申告手続にあたり、債務減額の方法ばかりでなく、生前贈与の方法も可能であり、かつ、生前贈与の方法によることにより、配偶者の税額軽減枠を完全に活用でき、原告らにとって利益であったのであるから、生前贈与の方法により、修正申告をなすべき、若しくは、生前贈与の方法を取らない場合はその理由を説明してその承諾を得るべき注意義務を負っていたところ、不注意により生前贈与の方法に想到せず、かつ、生前贈与の方法をとらないことの説明もしないまま、債務減額の方法により同手続を行って、右注意義務に違反した。

(五) 損害

本件修正申告では、原告花子の配偶者税額軽減枠が充分に活用されず、その軽減の対象遺産は全体の〇・四五一一七八にしかならず、限度たる法定相続分の二分の一(〇・五)との差〇・〇四八八二二の部分(遺産三九六七万五三九三円に相当)が活用されなかったが、被告が、生前贈与の考え方に基づいて申告していれば、この部分が活用されて原告花子の税額軽減部分は一四七六万一七六一円(三九六七万五三九三円に、相続取得額に対する相続税の割合〇・三七二〇六三三八七を乗じたもの。)につき増加し、反面、原告一郎の相続税は、同額につき減少していたものであり、原告一郎は、本来納付する必要のなかった同額の相続税を納付させられたことになる。

(被告の主張)

(一) 債務減額の方法を取った経緯等

(1) 本件修正申告については、須磨税務署担当者からの呼出しを受け、被告は原告花子及び冬子とともに平成三年一二月一六日、出頭した。一郎にも同行を求めたが同人は欠席した。税務署側からの指摘の要旨は、<1>計上した債務額が過大であること、<2>故太郎の不動産持分を増加することによって是正可能であるというものであった。

そこで被告は、二、三日後に原告一郎方に出向き、文書を手渡して税務署からの指導内容について説明し、同人の了承の下に債務額減少の修正案を作成し、平成四年一月一三日税務署に出頭して右修正案について説明し、了解を得た。なお、その日は本件家事調停成立の日である。

(2) 一郎が右のとおり本件修正案による修正申告をすることに同意した理由としては、会社の資金繰りがひっ迫しており、既納税額の還付を一日も早く受ける火急の必要があったことによるものである。

(3) 原告ら主張の枠を使い切らなかったのは、上記の事情、理由に基づくもので、原告一郎の同意もあったのであるから、被告にはこの点について、責めを負ういわれはない。

また、そもそも配偶者税額軽減枠の使用問題について原告一郎が損害賠償を求める根拠はない。制度の趣旨が配偶者に対する優遇を目的とするものであり、その余の相続人に関するものではないからである。

(二) 生前贈与の方法を取れなかった理由

贈与の事実がないのにこれありとしてする申告が正当とされる理由は何もない。また、原告らと秋子は強度の対立、不信の関係にあり、相続人全員間でこの点に関する協力を得る見込みもなかった。このような状況の下で実態に沿わない恣意的な「枠」の乱用を強行してみても到底通用するはずもなく、秋子等に対する照会などの結果、税務当局との間において事を構えるだけに終ったはずである。

(三) 生前贈与が有利とはいえないこと

(1) 生前贈与の方法を採用する場合には、受贈者に贈与税が課税されることになる。生前贈与の額は、原告花子につき六〇七八万二〇〇〇円、冬子につき二四七五万六〇〇〇円であるとされているが、原告らの主張に基づき、当時の原告花子及び冬子に課税されたであろう贈与税を法二一条の二、二一条の五及び二一条の七に従って計算すると、別紙2のとおり、原告花子には三七四三万二四〇〇円の贈与税並びにこれに係る無申告加算税及び延滞税が課税されることになり、冬子には一二七五万六四〇〇円の贈与税並びにこれに係る無申告加算税及び延滞税が課税されることになる。

(2) このように、贈与税の課税を考慮すると、原告らが主張する生前贈与の方法を採用した場合には、債務減額の方法を採用した場合に比べて、原告ら相続人の税負担が大きくなるのである。

(3) したがって、むしろ、税負担という観点からは、債務減額の方法は生前贈与の方法と比較して、原告らにとってより有利な方法であって、本件において、原告らは利益を受けこそすれ、何らの損害も被っていないのである。よって、生前贈与の方法を採用しなかったことによって、原告一郎が本来支払う必要のない相続税を納付しなければならないという損害を被った旨の原告の主張は、その前提を欠くものであるといわざるを得ない。

4 争点4について

(原告一郎の主張)

(一) 前述のとおり、被告には、本件修正申告に当たって、原告花子の配偶者の税額軽減の特典を最大限に活用しなければならない注意義務があった。そして、配偶者税額軽減枠の消化については、遺産分割前に原告ら間の遺産の分け方を調整し、原告花子の取得分を五〇パーセント以上にすることによって右枠を消化するのが本来の姿である。よって、被告は、前もって(遅くとも遺産分割協議が成立する前に)、原告らに対して、右軽減枠を使い切るためにはどのような内容の遺産分割でなければならないかを説明し、原告らが遺産分割を実行するに当たり、税務上原告らに無用の損失を生じさせないようにすべきであった。しかし、被告は、このような説明をなさず、そのため、原告一郎は、配偶者税額軽減枠を消化させることができず、本来納付する必要の無かった一四七六万一七六一円の相続税を納付させられた。

(二) なお、相続税申告手続を受任した税理士は、自分が遺産分割手続に直接関与しない場合でも、依頼者に対し、遺産分割の方法が相続税申告手続に及ぼす影響(分割内容と税務上の得失)について説明し、依頼者のために(少なくとも損害を生じさせないように)適切な処置を講じなければならない。被告は、必要ならば、分割手続について原告又はその代理人弁護士から、必要な情報を入手できたのであり、知らなかったというのは怠慢である。また、そもそも、納税額が二億円を超える相続にあっては、分割方法によって税務上の取扱いが大きく左右されるものであり、代理人弁護士と税理士は相互に連絡を取り合い、不充分な点を補充しつつ、業務を進めるのが通常の姿である。

(被告の主張)

(一) 当初申告に際して、被告は、配偶者税額軽減枠問題について、原告一郎に対して十分に説明し、その取扱いをしているのであるから、この問題は一郎の念頭にはあったことである。

(二) 本件遺産分割調停では本件原告らと相手方である秋子の双方に代理人弁護士が選任され、被告はこの件について関与する機会は全く与えられていなかった。また、意見を求められたこともなく、双方弁護士が家庭裁判所で進める手続に被告が口出しをする余地もなかった。調停による合意内容を被告が知ったのは調停が成立したあとのことである。

(三) そもそも配偶者税額軽減枠の使用問題について原告一郎が損害賠償を求める根拠はない。制度の趣旨が配偶者に対する優遇を目的とするものであり、その余の相続人に関するものではないからである。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1 現行の相続税制は、相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額並びに法定相続人の数及びその法定相続分という客観的な数値によって納付すべき相続税の総額を決定し、右相続税の総額を、それぞれ財産を取得した者に対し実際に取得した財産の額に応じて分配するという遺産取得課税方式をとっている(法一五ないし一七条)。

なお、相続税の申告書を提出する場合等において、遺産の全部又は一部が未分割の場合、右財産については、相続人等が法定相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして課税価格を計算し、その後遺産の分割があり、相続人等がその分割によって実際に取得した財産に係る課税価格が当初の課税価格と異なることとなった場合には、分割により実際に取得した財産に係る課税価格によって期限後申告書若しくは修正申告書の提出、又は更正の請求ができるとされている(法五五条、三〇ないし三二条、三五条)。

2 しかし配偶者については、同一世代間の財産移転であること、配偶者は被相続人の財産形成に寄与していること、被相続人の死亡後の生存配偶者の生活を保障する必要があること等を考慮して、配偶者に係る相続税の課税価格が、課税価格の合計額に対する配偶者の法定相続分相当額以下であるか、又は八〇〇〇万円以下である場合には、その配偶者の納付すべき相続税額はないとして、配偶者の税額軽減が図られている(法一九条の二第一項)。

3 右配偶者の税額軽減は、遺産分割について相続人間に争いがあり、相続税の申告期限までに遺産の全部又は一部が分割されていない場合であっても、その財産について申告期限後三年以内(やむを得ない事由がある場合において、税務署長の承認を受けたときは、分割できることになった日の翌日から四月以内)に分割が行われた場合には、その分割によって配偶者が取得した財産についても適用される(法一九条の二第二項ただし書)

4 一方申告納税方式による国税の期限内申告書を提出した者は、当該申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に相当する国税をその法定納期限までに納付しなければならない(国税通則法三五条一項)とされており、相続税の期限内申告の法定納期限は申告期限までである(法三三条)。

5 これらの規定によると、申告期限までに遺産分割が終了していない場合の処理の概要は、以下のとおりとなる。

申告期限までに遺産分割が終了していない場合、右未分割財産は各相続人等が法定相続分に従って取得したものとして課税価格を計算して相続税の申告書を提出することになる(法五五条)。その際、配偶者の税額軽減の適用に関しては、右未分割財産は法一九条一項二号ロの課税価格の計算の基礎とされる財産に含まれないものとして相続税額が計算される(法一九条の二第二項)。そして、申告書を提出した者は、申告書に記載された金額を国に納付しなければならない(国税通則法三五条一項、法三三条)。その後、遺産分割があった場合には、修正申告や更正の請求をなし得る(法三二条)。

6 他に、申告期限までに遺産分割が終了していない財産につき、配偶者に対する税額軽減の適用が受けられる可能性がある場合に、配偶者に右軽減の範囲内で相続税の(暫定)納付義務を否定する規定はない。

また、右の場合に配偶者の右納付義務が否定されるとする原告の主張は、立法論としてはともかく、法律の解釈としては、独自の見解であって採用することができない。

7 よって、申告期限までに遺産分割が終了していない財産につき、配偶者に対する税務軽減の適用が受けられる可能性がある場合でも、右配偶者には相続税の納付義務があるというべきである。したがって、暫定納付の義務がないにも関わらず相続税を暫定納付させたことが債務不履行に当たるとする原告の主張は理由がない。

二  争点2について

1 争いのない事実、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告らは、故太郎が社長をしていた甲野株式会社の顧問税理士を被告に委任していたこともあり、故太郎の相続に関する相続税申告手続を被告に依頼した。右の当事者には原告一郎、原告花子及び冬子が含まれたが、被告との接触(報告、説明等)は主に原告一郎が他の者を代表して行っていた。

被告は、平成二年七月二四日、原告一郎に対し、原告花子の相続税の延納について説明するファックスを送った。右ファックスには、概ね次の内容の記載があった。

・延納申請をすることは出来る。

・条件

1 担保を提供すること(但し、相続財産は未分割であるため担保に使用不能)。

2 法定申告期限までに相続税申告書、延納申請書、担保に関する書類を提出すること。

3 延納期間 最高二〇年

4 利子 不動産等の場合 年四・八パーセント

その他の場合 年六・〇パーセント

・申請のためにいろいろと書類をととのえる必要があるが、依頼があれば用意するので早急に連絡を願う。

・なお、相続税申告書は同月二八日(土)に持参する予定。

被告は、同月二五日、二六日及び二八日に、本件相続税の申告書の件で、原告一郎に会い、延納手続の説明もした。

(二) 本件申告当時、抵当権等の設定のない原告らあるいは甲野株式会社所有の不動産としては、別紙1「物件目録」記載の物件があった。右各不動産の相続税評価額の概算は、おおむね別紙1「相続税評価額の計算」のとおりである。

(三) 課税実務においては、共有者全員がその持分の全部を担保提供する場合以外は、共有財産の持分は延納の担保としては不適格であるとされている。

2(一) 右認定事実に基づき検討するに、被告は、原告一郎に対し、延納手続について一応の説明はしている。しかるに、それに対し、原告らが被告に対し、延納手続を取るよう求めたことを認めるべき証拠はない。

(二) ところで、延納が許可されるためには、納期限までに金銭で納付することが困難であることが必要とされるところ(法三八条一項)、原告一郎が被告に対し、担保物件について積極的に質問などをしたことを窺わせる証拠はなく、原告花子は申告期限の約一か月前から相続税支払いのための借入れを準備し、平成二年八月九日に二億円も借り受けることができたことなどからすれば、そもそも原告らに、納期限までに金銭で納付することが困難な事由があったのかは疑わしい。

(三) 原告は、被告が、延納手続をやりたくないなどと言っていた旨主張し、それに沿う証拠として、甲八及び原告一郎の供述があるが、被告が原告一郎に送ったファックスには延納の依頼があれば用意する旨明記されていること、税理士にとって延納手続を取ることが非常に手間がかかることであるとは考えられないこと、原告一郎は反対尋問においては被告からの延納手続の説明につきあいまいな供述をしていること等からすると、前記証拠の内容はにわかに信じることが出来ない。

(四) また、原告主張の延納の担保については、別紙1「物件目録」記載1、4及び5の物件については共有持分であり、故太郎の相続人の一人である秋子の協力を得られない状況であって、前記課税実務に照らすと不適格であるといわざるをえないし、同記載2及び3の物件については、甲野株式会社所有のものであり、原告花子の延納の担保に供することが出来ることが確実であったことを認めるに足る証拠はない。また、株式や愛媛県の土地については、価額等の主張はなく、それを認めるに足る証拠もない。

3 以上を総合すると、延納手続を取らなかったことが債務不履行に当たる旨の原告の主張は理由がない。

三  争点3について

1 争いのない事実、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、原告花子、原告一郎及び冬子らから相続税申告手続等の委任を受け、同人らのために、平成二年八月八日、相続税の申告手続をした。右の申告書では、故太郎名義の第一勧業銀行新町支店からの借入金一億四二万二〇〇〇円について、全額ビル建築資金のための借入金としていた。

(二) 平成三年一二月一六日ころ、須磨税務署において、被告、原告花子及び冬子は、右借入れが故太郎の右ビルに係る共有持分等からみて過大ではないかとの指摘を受けた。この趣旨は、右借入金の中に、実質的には他人に帰属すべき債務が計上されたり、生前贈与分が含まれているのではないかというものであった。

(三) 被告は、故太郎から、生前に、右ビルについては各人の所得や資産の処理で賄うと聞いていたことから、右借入金一億四二万二〇〇〇円のうち七二四三万二〇〇〇円については、実質的な帰属という観点から、故太郎以外の者に帰属する借入金であると判断し、申告書に記載した債務からこれを減額し、原告一郎の了解の下に本件修正申告等をした。なお、原告一郎が本件修正申告に同意したのは、会社の資金繰りがひっ迫しており、原告花子についての既納税額の還付を早く受ける必要があったことも一因となっていた。

2 右認定事実に基づき検討するに、被告は、原告一郎のみならず原告花子及び冬子からも相続税申告手続の委任を受けたのであり、原告一郎のみならず原告花子及び冬子らの利益も図らなければならない。

ところで、原告の主張する生前贈与として処理する申告が税務署に認められた場合、本件修正申告等は税務署の指摘によりなされたものであることにかんがみれば、原告花子及び冬子に贈与税が課された可能性が高い。その場合の税額を法二一条の二、二一条の五及び二一条の七に従って計算すると、別紙2のとおり、原告花子については三七四三万二四〇〇円、冬子については一二七五万六四〇〇円となる。さらに、各々これに係る無申告加算税及び延滞税が課税されることになる。

このように、贈与税の課税を考慮すると、原告らの主張する生前贈与の方法を採用した場合、原告ら及び冬子の全体としての税負担は、債務減額の方法を採用した場合に比べてかえって大きくなる。

よって、仮に生前贈与の方法を採用できたとしても、原告らにとって、右方法は被告が採用した債務減額の方法に比べて有利であるとはいえない。また、被告は、故太郎の生前の言動に従って債務減額の方法をとり、原告一郎の了解の下に債務減額として処理したもので、被告が生前贈与の方法を採用しなかったことにつき注意義務の違反があるということはできない。

3 したがって、被告が生前贈与ではなく債務減額として処理したことが債務不履行に当たるとする原告の主張には理由がない。

四  争点4について

1 争いのない事実、《証拠略》によれば、本件遺産分割調停手続においては、申立人原告ら及び冬子と相手方秋子の双方に代理人として弁護士が選任され、被告は右調停に全く関与しなかったこと、右調停は平成四年一月一三日成立したが、被告は平成三年秋ころ、原告ら側から秋子に代償金を支払って分割するとの話を聞いたのみで、遺産分割の内容や税務上の問題について原告らから意見を求められたこともなかったこと、また、被告は右調停成立後に合意内容を知ったにすぎないことが認められる。

2 原告らは、本件遺産分割協議成立前に、被告は原告らに対し、配偶者税額軽減枠を使い切るための遺産分割の内容を説明し、税務上原告らに無用の損失を生じさせないようにする義務があった旨主張する。

前記認定事実によれば、本件遺産分割調停では原告らに弁護士が選任されており、被告は右調停に全く関与せず、その内容に口出しする状況にはなく、また遺産分割の内容や税務上の問題について原告らから特に意見を求められていないというのであり、これらの事実を総合すれば、被告が配偶者税額軽減枠を使い切るための説明をしなかったからといって、これが債務不履行になるとはいえない。

この点につき、原告らは、弁護士が選任されていても、被告と右弁護士は相互に連絡を取り合って業務を進めるべきである旨主張する。たしかに、原告主張のような業務の進め方が望ましいことは否定できないが、遺産分割調停は、申立人及び相手方を含む相続人全員が合意しなければ成立しないものであり、特に相続人間で争われてきた場合の遺産分割については、相続税額の負担のみが考慮されるわけではなく、諸々の要素が考慮されて協議が成立することが多いものであることからするならば、被告が原告らに配偶者税額軽減枠を使い切るための説明をしていたとしても、右枠の活用が十分なされた内容の協議が成立したことが確実とはいえない。

3 したがって、被告が遺産分割協議成立前に、原告らに対し、配偶者税額軽減枠を使い切るための説明をしなかったことが債務不履行に当たるとする原告の主張には理由がない。

五  結論

以上のとおりであり、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹 貴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例